毎日同じ缶コーヒーを買うお客さん
僕は至って普通のフリーター。
現在は、給料がちょっとお高めである深夜のコンビニバイトに励んでいる。
……まあ田舎だから、人があまり来ない理由もある。
あまり人と接触したくないから。
その僕が、あるお客さんの事が気になった話。
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それは、今のバイトを始めて2日目からの事。
日付が変わった頃に、一人の女性が来店する。
その女性は、一本の缶コーヒーを買っていった。
その時は、別になんとも思わなかった。
……まあ、それからというもの。
僕が居る時はほぼ同じ時間で、同じ缶コーヒーを買っていく。
で、一緒に仕事をやる事がある先輩にその女性の事を聞いた。
「ああ、あの人ね。毎日来ているよ。話はしたことないがなぁ」
「……そうっすか」
「気になるんか、あの人」
先輩に図星を言われる。
「まあ、ちょっと」
「だとしたら、一言話しかけてみたらどう?何かしら反応あるかもよ」
……先輩の言う通り、なんかもしれない。
ここは当たって砕けろ精神で、話しかけてみよう。
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そして、今。
またあの女性のお客さんが、来た。
缶コーヒーを取り出し、レジへ来た。
「……あ、あの」
レジの対応をしながら、僕は話しかける。
「は……い、何でしょう」
ちょっと困惑気味だったが、その女性は返す。
「いつもこの時間帯で、同じ缶コーヒーを買うのがちょっと気になったんです。……あ、いやその、変に思ってるとかではなくて」
そう僕が言うと、女性の表情が和らいだ。
「……あ、あー、そうなんですね。私、仕事で毎日遅くなるんです。帰り道のコンビニがここしか無いので、コーヒーを買って飲むんですよ」
どうやら、深夜までの仕事をしているみたいだ。
「その、ツラくないんですかね。毎日こんな時間まで仕事なんて」
「……まあ、だいぶ慣れましたよ。もう数十年もやってますからね。」
「へえ……」
「よっぽど、コンビニの深夜業務が大変だと思いますよ。頑張ってくださいね」
そう女性が言うと、缶コーヒーを持って去っていく。
「ありがとうございましたー」
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その日の仕事が終わって、家に帰る。
ふと携帯から地元のネットニュースを見ると、一昨日近所で事故があって、車に乗っていた女性が亡くなったそうなんだが―――
その女性は、缶コーヒーを買っていくあのお客さんだった。