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わたしの職は未確定  作者: 間宮冬弥
9/9

別れ、新たなる世界へ

 ◆


「むにゃむにゃ……師匠ぉ〜だめですよ……そこは……」

「何の夢みてんのよ」

「いいじゃないですか。きっと平和で幸せそうな夢ですよ」

「イスに縛り付けておいてどの口が言ってんの?」

「いやぁ〜それはそれで」

 ミストさんの指摘の通り、ミリアちゃんはイスに座っているが縄でぐるぐる巻きにされて縛り付けてある。


「あのままじゃミリアちゃんが逃げ出しかねなかったから……苦肉の策ってやつですよ。罪悪感だって感じてましたからね」

「苦肉の策ねぇ……ミナミは非道じゃなくて鬼畜だったわ」

「なに言ってんですか。ミストさんだってノリノリで巻いてたじゃないですか」

「あたしだって罪悪感を感じてたよ。ビンビンに」


 わたしの作戦はドンピシャで成功だった。


 ただ……かなり無理矢理感は激強だけど……


「……罪悪感もそうですけど……すこしやりすぎだったかな?」

 イスに縛り付けようって提案したのは……実はわたしなんだよね……だってあのままじゃミリアちゃん絶対にごはん食べなさそうだったからなぁ……


「……まぁ、イスに縛りあげて挙げ句は無理矢理、口にごはん突っ込んだからね……」

「やっぱり……そうですよね……」

「ミリア、最期の方は泣いてたからね。泣きながら咀嚼してたからね」

「あはは……」

「泣きわめく子供を縛り上げて、無理矢理に口をこじ開けてごはんを流し込む……完全に悪役よ。あたしたち」

「あはは……」

 もう、乾いた笑いしかでないよ。


 端からから見たらわたしたち……完全な悪人。いや極悪人だよ。あの行為は……ミリアちゃん完全にわたしたちを怖がってたからね。目が恐怖で染まってたからね。


「ほっぺを鷲掴みにして口を開かせてた時のミナミは顔ったら、あれは笑顔の鬼よ、鬼」

「笑顔の鬼って……ちょっとショックです」

「あたしも手伝ったとはいえ……引いたもん。あたし」

 あの時のドン引きの顔は忘れないよミストさん……ショックだったんだぞ!


「ううっ……でも変に真顔や怒った顔するとミリアちゃん怖がるかなって」

「いやいや、イスに縛り付けた時点でもうアウトよ」

「あはは……」


 チラッと周りを見てみる。本来なら食事を楽しむための食堂だけど……誰も食事などをとっておらず、わたしとミストさんを奇異の目で見ている。


 ううっ……視線が痛い。


「と、とりあえずミリアも寝たし、縄はずさない?」

「そ、そうですね。これ以上悪人にはなりたくないですからね」


 そそくさと、ミストちゃんとわたしで縄を苦戦しながらほどいていく。


「ミストさん。これちょっときつく縛りすぎじゃないですか?」

「なに言ってんの? それあんたが縛った所よ」

「マジで!? こんなにきつく縛った覚えないんだけどなぁ……」

「う〜ん結び目がキツい! もうナイフで切った方が早いかも?」

「でも、ミリアちゃんにナイフが当たったら危ないですよ?」

「大丈夫だよ。あたしのナイフさばきを信じなさい」


 そう言うとミストさんはナイフを手にとって、ミリアちゃんを中心にゆっくりとグルっと回る。


「……なにやってるんですか?」

「結び目の確認。うん、よし」


 結び目の確認をし終えたのか、ひとりで納得してナイフを振り上げる。


「だ、大丈夫なんですよね?」

「大丈夫だって。いい加減信じなさいよっと!」


 わたしの返事をまたずにナイフを振り下ろす。


 しかも、1回だけじゃなく数回。


 すると、ミリアちゃんを縛っていた縄がスルりと床に落ちる。


 縄を見てみると、縄がバラバラになっていた。

 落ちた縄をよく見ると数カ所切られたような後がある。


「ミストさん……すごいですね」

「まあね。これくらいは朝飯前って感じ?」

 さっそうと用が済んだナイフを鞘にしまう。


「これからどうしますか?」

 わたしとミストさんはイスに座り直して今後の事を決める会議を始めようとする。


「う〜ん……とりあえず、ごはんを食べながら話すってのはどう?」

「そうですね。わたしお腹ペコです」

「じゃあ、行きますか」

 と、イスから立ち上がろうとした時。


「メシか? お前等のんきなもんだな」


 と、後方から怒りに満ちた野太い声が聞こえてきた


「どうしよう、ミ、ミストさん……わたし後ろ振り向けないです……」

「奇遇ね……あたしも同じ事を思ってた所よ」

 わたしとミストさんは立ちかけた身体を震えながらゆっくりとイスにおろす。


 この声の主は、ミリアちゃんのお師匠さんのブライルさん。正面の一点見つめで緊張と恐怖が身体を一瞬で支配した。


「あはは、その……あの、ミリアさんはお師匠さま思いで、とてもいい子でしゅて……そのぉ……」

 振り向かずに答えた。恐怖? 緊張? どっちかわからないけどまったく口が回らない。


「朝のご、ごはんを食べてなかったようでしゅので……その……ご一緒に食事をと思いましてぇ」

 なぜか敬語で話す。たぶん敬語以外で話したらわたしとミストさんは介護室で目を覚ます可能性大!


「なぁひとと話すときは、目みて話せって習わなかったか?」

 


「あはは、こ、こんにちは……今日はお日柄もよく」

「ブ、ブライルさんも……朝のおメシですか」

 ミストさん! おメシってなんですか!? そこは『お食事』でしょ!


「イスに縛り上げておいてか? 言うなぁ、ミナミぃミストぉ」

 ふ、震えが止まらない! むしろどんどん震えが大きくなるよ!


 チラッとミストさんをみた。


 ぶるぶると震え、顔面蒼白だった。


 あ、終わったよ。これ。


「要は人の弟子を人さらいのようにさらって、イスに縛り上げ拷問のようにメシを無理矢理食わせたあげく、自分たちはのんきにメシを食おうとしてるんだな。お前等ふたりは」

 なんでそうなるのぉ! と心で叫びながらもおおかた合っているので『そ、そんな事はないですよ』と震える口を開いた。


「冗談だ。悪ぃな。ミリアのためにやってくれたんだろ? あいつ何日も寝ず食わずで仕事をしてたからな」


 ミリアちゃんを見たブライルさんとても穏やかな顔をしていた。


「あの……なんで……工房から追い出したんですか?」

 恐る恐るなんでミリアちゃんを追い出したか聞いてみた。答えてくれるかわからないけど……


「お前等と同じだよ。無理矢理にでも休ませないとミリアが壊れちまうだろ?」

「……」


 なにも答えられなかった。それはミストさんも同じだった。


「気持ちよさそうに寝やがって。帰るぞミリア」

 ブライルさんは片手でひょいっとミリアちゃんを持ち上げて肩に担いだ。


「腕……大丈夫ですか?」

「あ、心配すんな。ミリアぐらい持ったところで屁でもねぇよ」

「そうですか……あ、あの……す、すいませんでした」

 わたしは立ち上がってひとつ頭をさげる。それを見たミストさんも倣うように同じくたって頭を下げた。


「気にするんな。お前等のやったことは正しい。あやまるな胸をはれ。それに謝るくらいなら最初からすんな」


 ブライルさんは、その言葉を残してミリアちゃんを担ぎ去っていった。


「器の大きい人だね。ブライルさんって」

「お頭領の弟だからね。そりゃ大きいわよ」

「うん」

「さて、恐怖も去った事だしごはんたべよっか」


 そして、わたしたちは改めて、食事を採るために席を立った。


 ◆


 その夜


「盗賊の『メモリ』か」

 ベッドの上で寝ころんで手に入れた『盗賊のメモリ』を見ている。


「ここでの目的は果たしたし……そろそろ……」


 汚れていたメモリはキレイにふき取った。


「頃合い? 潮時? そんな感じかな」


 ひとつ胸に決めて、眠りについたのだった。


 ◆


「おはようミナミ」

「あ、おはようミストさん」

 朝の食堂。ミストさんがいないか見に来たけど、ちょうど飲み物を飲んでいたミストさんを見つけた。


「ミナミも朝ご飯?」

「ううん。ミストさんを探してたんだ」

「あたしを」

「うん。ちょっと伝えないといけないことがあってね」

「伝えたいこと?」

「うん」

「なに?」


 軽く深呼吸をして、ミストさんの目を見て告げる。


「わたし昨日、ひとりで考えた事があるんだ」

「なによ、もったいぶって?」

「……三日後にバハラタを出ます」

「……えっ? 出る?」

「うん。ここを出ます」

「出てどこに行くの? ミナミの故郷には帰れないんじゃないの?」

「故郷には帰れないけど……今住んでいる所に帰るよ。待っている人がいるからね」

「そう……なんだ……」

 その顔は悲しそうに見えて……なんだか怒っているようにも見えた。


 ◆


「えっ!? ホントに!」

 ミリアちゃんが信じられないような声で叫んだ。


「うん。ホント」

 昨日と打って変わって、工房にいるミリアちゃんはとてもニコニコしている。いつものミリアちゃんに戻っていた。きっとあの後にブライルさんといろいろと、いい方向で何かあったのかもしれない。


「三日後に帰っちゃうんだ……寂しくなるね」

「ごめんね。ここはすごくいい所だけど……いつまでもいるわけには行かないからね」

「そっか〜ミストにはもう言ったの?」

「うん、朝一番にね」

「寂しがってたでしょ? ふたり仲良かったから」

「うん……何というか寂しいというか、怒ってたというか……」

「怒ってた? なんで?」

「わかんない」


 ミリアちゃんはいつまでも『なんで?』って聞いてたけど……わたしにもわかんないんだよね……


 その後、ミリアちゃんと一緒にいたブライルさんに帰ることを告げた。


 ケガした腕は順調に回復に向かっているらしい。それでも半年ぐらいかかるって言っていた。


 ブライルさんは『次に会うときは腕も治っているから何でも作ってやるぞ』って言ってくれた。でも……『次に会う』って事はあるのかな……?


 ◆


「ベルーナさん。こんにちは。あ、掃除中ですか?」


 ベルーナさんに挨拶をしようと思ってきたけど掃除中だったか……


 掃除……掃除か。


「おや、ミナミじゃないか?」

「あ、すみません、掃除中ですけど少しいいですか?」

「いいよ。なんだい」

「その……掃除道具を借りたいんですが?」

「掃除道具? かまわないよ」

「ありがとうございます」

「厨房に入って左の扉の中に入ってるから好きなのを持っていきな」

「はい。じゃあお借りします」


 扉を開けた先は小さな部屋。その中にはホウキやチリトリ。ぞうきん。白い液体の入った瓶やデッキブラシ、水切りブラシなどが置いてあった。


「ホウキとチリトリとぞうきんっと」


 三点セットを持ってベルーナさんの元に戻る。


「ありがとうございました。お借りします」

「あいよ〜」

「ベルーナさん」

「ん? なんだい」

「わたし、三日後にここを出ます。短い間でしたけどお世話なりました」

 頭を下げてわたしはベルーナさんに告げる。


「ずいぶん急だね。これは寂しくなるね。ミストには言ったのかい?」

「はい。朝一番に」

「あ〜もしかして朝のあのときに?」

「はい。あの時に言いました」

「寂しがってただろ? ふたり仲良かったから」

「はい……まぁ……なんというか……怒ってたというか」

「怒ってた? そりゃまたなんでだい?」

「なんででしょう……?」


 最後はミリアちゃんと同じやりとりをしてその場を後にした。


 ◆


「さて、お頭領さんにも言わないとね」

 掃除道具をもったまま、お頭さんの部屋? の前にいた……


「……ここって部屋って言うよりか……テントって感じだけど……あ、いやテントだなこれは……」


 わたしの住んでいた世界で言うところのテント。テントのまんまのテントが目の前にある。


 ……おかしらさんはソロキャンが趣味なのかな?


 なんて思いつつ、テントのカーテンの前に立つ。


「あの〜おかしらさん。いらっしゃいますか?」


 と、テントの中にいるであろう、おかしらさんに声をかける。


「お、ミナミか? なんか用か?」

「あ、おかしらさん。よかったいてくれて……あれ? お客さんですか?」


 わたしは中にいたひとを見つけ、ひとつ頭を下げた。


 男性のそのひとは、端正な顔立ちで清潔なキレイな服装。バハラタではかなり浮いている感じの服装だ。


 ……なんか、どこかで見た気がするなぁ……あのひと


「もしあれなら、時間を改めますけど?」

「いや大丈夫だ。もう用はすんだからな」


 そう言って、おかしらさんと一緒にいた男性は立ち上がりこちらに向かって歩いてきた。


「ケガは大丈夫かい?」

「えっ? その……あの……」

 さっぱりわからない。あの、どちら様ですか? あなたは? 


「? ああ、この格好でわからなかったかな? ほら、この前あの鉄球体との戦いの時にあいつと一緒にいたんだがな」

「あの時……あ、ああああああああああ〜〜〜〜〜!」


 思い出した! 


「イケメンさん!」

「いけめん?」

「あ、いや、こっちの事です」

「そ、そうか。あの時は助けてくれてありがとう。それと俺のせいでケガをさせてすまなかった」

「あ、いえ、あなたのせいではありませんよ」

「そう言ってくれると助かる。では、俺はこれで」

「あ、はい。それではえっと……」

「エクスハルトだ」

「はい。それではエクスハルトさん」


 その男性は颯爽とテントを出て行ってしまった。


 あ、あのひとにも言っておけばよかったな。しまったなぁ〜


「おう、それでどうした? なんか用事か?」

「あ、はい……あのですね……わたし三日後にここをでます」


 切り出すとおかしらさんは『そうか』と一言だけ答えてくれた。


「ミストのやつ寂しがってただろ? お前ら仲良かったからな」


 そして、最後にもうお決まりっぽくなってしまったけど、ミストさんの事が話に出てくる。


 この言葉にもすでに決まっている言葉ができてしまった


「怒ってる? なんでだ」


 そしてわたしは、またもお決まりの『なんででしょうね』と返したのだった。



 ◆



「よし、こんなところか」


 なんだかんだで三日がたった。


 今日、わたしはここを出るんだ……


 一ヶ月を過ごしたこの部屋ともお別れか……まぁ、後半はほとんど医務室だったけど……


「ほんと、短い間だったけど……いざ出るとなると名残惜しいな……」


 最初に来たときは、どうしょうと思ったけど、住んでみると意外と快適だった。

 トイレとお風呂があったら完璧だったけど……高望みか。


「……ミストさんとは結局、会えなかったなぁ」


 最後の三日間。ミストさんとは会えなかった。探したんだけどどこかに行っているみたいでアジトにはいなかった。


「……行くか」


 最後に忘れ物がないかカバンの中を確かめる。


 そして、


 カバンを持ってわたしは出入り口に立ち、振り返る。


「ありがとうございました!」

 頭を深々と下げて、住ませてもらった部屋に最後の挨拶をしたのだった。


 ◆


「ミナミぃ……色々とごめんね」

 最後の最後でミリアちゃんが謝ってきた。たぶん、ブライルさんの事だろうな。


「いいって、気にしないで。わたしもその、ミリアちゃんを縛り上げたりしてごめん」

「ううん、いいよ。私も気にしてないから」

「ホントにごめん。それとありがとう」

 アジトの出入り口にはバハラタのみんなが集まってくれていた。


 目の前にいるミストさんはもちろん。おやかたさんやブライルさん、ベルーナさんや

エクスハルトさんも来てくれていた。


「いいって……その、それよりミストさんは……」

 ただひとつ。この場にミストさんだけがいなかった……


「……ごめん、私も探したんだけど……」

「そっか……」

 これは、本格的に嫌われたかな……


「あ、ミナミ。お別れに……これ受け取って」

「えっ、いいの?」

「もちろんだよ」

「ありがとう。すごくうれしい!」

 ミリアちゃんから受け取ったのは小さな水晶玉と6枚の小さな紙だった。


「あれ……これって」

「うん、だぶんミナミが今、思ってる事だと思う」

「じゃあ、小さいけどこれってあの『星晶石』なの!」

「うん、ミナミなんだか興味持ってたし。小さくてごめんだけど」

「ううん、そんなことない、ありがとう!」

 手のひらサイズの星晶石。それとさらに小さいサイズのエネルギーを転送・充填させるためのシール。これはうれしいかも!


「出力はだいぶ落ちるけど……この前見せてもらった『光る薄い板』ならなんなく動くと思うよ」

「光る……薄い板? ああ」


 スマホの事か。


 その後、ベルーナさんからは道中で食べるお弁当をもらって……そして……


「じゃあ、そろそろ……」

 わたしは、名残惜しそうに口に出して肩掛けカバンを背負(しょ)い直す


「うん、また……会えるよね」

「もちろん! 会えるよ」

 ミリアちゃんと抱き合って最後の別れを終えた。


「じゃあな。気をつけろよ」

「はい。ありがとうございます」

 おやかたさんと握手をかわす。


 その握手を皮切りにこの場にいる全員と、握手や抱き合ったりしてお別れを済まし……


「じゃあ……その、ありがとうございました!」


 最後に頭を下げ、大きな声でお別れの言葉を叫んで……踵を返してアジトを出た。


 結局、最後の最後まで……ミストさんはこなかった……



 ◆



「いったな……」

「いっちゃったね……」

 ミナミの最後を見送ったミリアとブラムス。


「いいのか? 嬢ちゃん行っちまったぞ?」

「お頭領? 誰かいるんですか?」

「今だったら間に合うぞ。なに怒ってんだか知らんが、後悔だけはするなよ」

「えっ、誰? 誰かいるんですか!?」

「俺やブライル、エクスハルトやミリアがいる。ミナミと行ってこい! こっちの事は気にするな!」


「でも……お頭領!」

「えっ!? ミストぉ!? そこにいたの?」

 叫んだのは大きな樹の上にいたミストだった。


「お前はどうしたいんだ?」

「えっ……」

「お前はどうしたいんだ。ミナミと一緒に行きたいのか? 行きたくないのか?」

「あたしは……」

「さっきも言ったがな、後悔だけするな」

「でも……」

「あ〜もう! 行きたいんでしょ! でもでもって、ミストは優柔不断だな! 行きたかったら行きなよ!」

「ミリア……いいの?」

「いいもなにも、こんな事言っている間もミナミはどんどん遠ざかっていくんだよ! ミスト! 自分の心に従ってさっさと行って仲直りしてこい! そんでミナミと一緒にいつか帰ってこい!」

「ミリア……」

「行ってこいミスト!」

「……お頭領……いままでありがとうございました!」


 ミストは跳び降りて泣き出しそうな顔でブラムスに思いっきり頭をさげて、ミナミの後を追う


「ミスト! ちょっと待って!」

 駆け出すミストを呼び止めたのはベルーナだった。


「ほら、これ! 適当に支度しておいたよ」

「あ、ありがとうございます!」

 ミストは受け取ったのは旅支度がしてあった布の袋だった。


「中に食べ物も入ってるから、ミナミとお食べ!」

「ありがとうございます! じゃあ行ってきます!」


 今度こそミストはミナミを追いかけて、バハラタを出た。


「あんたの予想が大当たりだったね」

 ベルーナはブラムスの隣に来て言葉を漏らす。


「あいつは拾ってきたときからああだったからな、何かを大事な事で悩んでいるときはいつも樹の上にいる。背中を押してもらいがっていやがる。心は決まっているのに身体が動かないんだよ」

「めんどくさい性格だね。まぁミリアが言ったことはあながち間違ってないんだね」

「ああ、あいつら仲がいいからな。ミナミも含めて」

「そうだね」


「ミストぉおおぉぉおおおぉぉお〜〜〜〜〜 ミナミぃぃいいぃいぃいぃいいぃい〜〜〜〜おみあげ楽しみにしてるからねぇええぇえええぇええぇ〜〜〜〜!」

 遠ざかっていくミストを見届けて、大きな声で叫ぶミリアだった。




 ◆



「う〜ん……」

 悩んでいる。


「どうしたもんかなぁ〜〜〜〜」

 悩んでいる。わたしは。


「帰る方法が……さっぱりわからん!」

 考えてもさっぱりわからない。


 そもそも、この『盗賊の世界』からどうやってあの神殿に帰るんだろう?

 ルーラカーテン? なんとかの扉だっけ? あれも来たときに消えちゃったし。


「はぁ〜神父さんに戻る方法を聞いておけばよかったぁ」

 とぼとぼと森をなんの目的もなく、歩いていくわたし。


「あ……」

 この石って


「ミストさんと一緒に座ったおっきい石だ」

 最近のことのはずなのに……なんだが懐かしい。


「ここで、ドライバーを盗まれかけたっけ」

 なんだかんだでここもいい思い出になってる


「最後に……会っておきたかったな」

 ミストさん……何に怒ってるかわからなかったけど、わたしが悪かったらちゃんと謝っておきたかったな……


「ひとりか……」

 どうしよう……寂しさがこみ上げてきた。


 木々の間から見える空を見上げて、寂しさをかみしめちゃっていた。



 ◆



「……よし、行こう」

 ここでぼぉ〜〜っと座ってるワケには行かないし……


 数10分、寂しさと思い出に浸っていた重い腰を上げる。


「とりあえず、最初のところに戻ろう」

 決意をあらたに、わたしは最初にきた場所へと戻る事にする。


「確か……こっちだっけ……?」

 どうしよう幸先不安だ……


「ミナミぃいいぃいぃいぃいぃいいいいぃぃぃい〜〜〜〜〜〜!」

「えっ……?」

 この声って……


 聞こえてきた聞き覚えのある声。わたしはこの声を知っている。


「ミナミぃいいぃいぃいぃいぃいい〜〜〜〜待ってぇええぇええ〜〜〜!」


 わたしはこの声の主を知っている。忘れもしない。むしろ今一番聞きたかった声。


 今、とても会いたい人がいる。それがこの瞬間、木々を飛び移りながらこっちに向かって来ている。


「ミナミ!」

 その声と顔。わたしはうれしさの余りにそのひとの名前を叫んだ。




「ミストさぁああぁああぁあああぁぁぁああぁああぁああん!」




 木を飛び降りてミストさんはわたしに勢いよく抱きついた。


 その反動と衝撃で、わたしとミストさんは2〜3回転、回った。


「なんで、どうして!?」

「ミナミ。わたしもミナミと一緒にいく!」

 三日ぶりの再会のあいさつが斜め上の、『一緒にいく』発言。


「えっ! えっえぇぇえぇえぇええええ〜〜〜〜!」

「ちょっ、耳元でうるさい!」

 信じられないくらい大きな声で叫んだら、ミストさんはわたしの口をぶっきらぼうに手で塞いだ。


 ミストさんが一緒に……? ホントに? ホントなの?!


「ごめん。でもその一緒にって……一緒に旅っていうか、その、わたし色々な所に行くけど……一緒に行くって事……かな?」

「そうだよ!」

「ホントに!」

「うん!」

「う、うれしい! すごく、うれしい!」

 ホントにうれしい! わたしひとりだと……きっといつか心が折れちゃいそうだったから……寂しさと怖さでいつかきっと、がんばれないと思ってたから……


「ミストさん……ありがとう、ホントにありがとう」

 あ、どうしよう……涙がでてきゃった


「ちょっと、こんな事で泣かないでよ!」

「ごめん、でもホントに嬉しくて……これからはひとりじゃないって思うとうれしくて!」

「まったく……ミナミって泣き虫だね」

「ごめん」

「この石で座って泣いたの二回目だよね」

「うん」

「あの時は鼻水たらしたけど……今回はたらさないでね」

「たらしません。たらすのは涙だけです」

「うん、わかった。ミナミ胸貸してあげる」

「ありがとう……」


 わたしはミストさんの胸で泣きじゃくった。そんなわたしをミストさん頭をやさしくなでてくれた。


 ◆


「大丈夫?」

「はい、すいません」


 数分間。ミストさんの胸で泣いたわたしは落ち着き、胸から離れていた。


「じゃあ、行こうか?」

「あの……その前に、ミストさんに聞きたいことがあるんですけど……いいですか?」

「なに?」


 一瞬ためらい、くるしい胸を押し殺してこの言葉を口にした『あの時、なんで怒っていたんですか?』と


「もし、わたしが何か悪いことをしたんなら謝ります。だからその……怒っているならその、お許しをお願いしたんですけど……」

「あ……ううん、ごめん、あたしも子供だった。ミナミは悪くないよ」

「えっ? でも……怒ってたからずっと会ってくれなかったんじゃ……」

「まぁ、怒っていたことは確かだけど……その、あの……」


 めずらしくミストさんが口ごもった。やっぱりわたしが何か悪いことをしたんじゃ……


「ごめんね、ミナミ。実はね……その、ミナミがバハラタを出るって聞いたときにね……」

「はい」

「その、なんであたしに相談してくれなかったのって、なんでひとりで決めちゃったの? 思ったらだんだんイラっときて、むしゃくしゃして……その、距離を置いちゃった」

「あ……」

 そうか、ミストさんはわたしが『バハラタを出る』って事を相談してくれなかったから怒っていたのか……わたしひとりで決めちゃったから……


 でも、なによりミストさんがわたしの事を『友達』って思ってくれていたことがすごくうれしい。


「友達なのに何も相談してくれなかったことにイライラしてた。ごめん子供だった」

「ううん、わたしの方こそごめん。何も相談しなくて……」


 あ、どうしよう……また涙が……


「うれしいな……すごく……友達だと思ってくれてたんだ」

「あ、まぁね……ちょっ、また泣かないでよ!」

「ごめんね……止まらないんだ……涙」

 知らない場所(せかい)で寂しいと感じていたわたしは、ひとりじゃないんだ。もう、ひとりじゃ……


「もう……しようがないな」


 そして、わたしはまた数分間、涙を流してしまったのだった。


 ◆


「さて、じゃあ行きますか」

「そうだね」

 泣きやんだわたしと、ミストさんは歩き出す。


「で、どこ行くの?」

「わたしがここに来た最初の場所かな」

「最初の……場所? なにそれ」

「まぁとりあえず、行こう。こっちだから……たぶん」

「たぶん?」


 と、不安な一歩を踏み出して旅立ったわたし達だった。



 ◆



「……なんだ? おめぇら」

「お頭領……2時間ぶりですか……ね」

「あはは、2時間ですけど、お久しぶりです……本日はお日柄もよく……その突然ですみませんけど……恥を忍んで三日間だけお世話になりたいんです! お願いします!」

「はぁ? お世話? どういうことだ?」

 おかしらさんの言うことはごもっとも。ついさっきバハラタを出たのにもう帰ってきたから『どういうことだ?』と質問するのは当たり前だ。


 そうなのだ。わたし達は帰ってきたのだ。早くも『バハラタ』に。2時間ぶりに。


 旅が終わったワケじゃない。旅の途中でもない。


 これは……何て表現したらわからないけど……たぶん『足止め』ってヤツだ。


「これはその……なんとかの扉ってのが開くのが三日後でして……」

「はぁ? なんだなんとかの扉ってのは?」

「わたしもですね……あまりよく知らなくてですね、その、諸々の準備と、扉を開く儀式が三日かかるとの事でしてぇ……」

「なんだそりゃ!?」


 ううっ……そうですよね、意味不明ですよね。わたしだって意味がわからないんだから……


 事が起こったのは今から2時間前。


 ◆


「ここが最初の場所?」

「うん、たぶんそうだと思うけど……」


 この、ある程度開けた場所と大きな木。それに大きな木に寄り添うように生えている小さい2本の木。間違えなくここだ……と、思う。


「たしか……このへんで扉が……あったような……」


 大きな木の付近を食い入るように見た。


「この辺になんかあるの?」

「あるというか、浮かんでいるというか……」

「浮かんでる? なにそれ?」


 そうだよね。わかんないよね。うん、正解。そしてわたしもわかんない。


「ねぇ、ミナミ? 浮かんでるってこれじゃない?」

「えっ! あったの!?」

「うん、なんかここだけ、変な感じ。歪んでるって言うか、空間がぐにゃってしているって言うか……」

「み、見せて」

 と、ミストさんが指さす方を見ると、確かになんとなく歪んで見えなくもない。手のひらサイズでかなり小さいけど……


 でも、見覚えがある。わたしが入ってきた『なんとかの扉』と『ルーラカーテン』にみえなくない。かなり小さいけど。


「これだと思うけど……かなりミニサイズだなぁ……」

「そうなの?」

「うん、わたしが入ってきたときはもっと大きかった」

「ふぅ〜ん。で、どうする。もう少し探してみる」

「う〜、そうですねぇ〜どうしようかな……」

 と、必死に考えている時。


「もしかして、勇者様? そこにいらっしゃるのですか?」

「あ、神父さん! わたしです。います! ここにいます!」

 この小さな空間の歪みから神父さんの声が聞こえてきた!


「おお、勇者様! では、踊り子の職業(メモリ)を手に入れたのですね!」

「はい、踊り子ではないですけど、盗賊のメモリを手に入れました!」

「おおっ……って盗賊ですか? たしか踊り子の世界に行かれたのでは?」

「確かにそのつもりだったんですけど……なぜが盗賊の世界に来てしまいまして」

「なんてこと……もしかして私が操作間違えをしてしまったかもしれません……大変申し訳ございませんでした! お怪我などはされていませんか?」

「あ〜まぁ……大丈夫です!」

 大けがして寝込んでたっていったらすごく心配されそうだしね。これは言わないでおこう。


「さっそくですけど、神殿に戻りたいんでですけど、ここ小さくて通れないんで、この扉を大きくしてもらえませんか?」


 そう神父さんに進言すると、神父さんは『え〜そのぉ……』とバツの悪そうな声を上げた。


「……えっと……もしかして時間がかかったりします?」

 まぁ、そうだよね。あれだけ大きいんだからそれなりに時間かかるよね


「10分、20分なら待ちますよ」

「その……開くのに準備と……扉の再開錠の儀式がありましてぇ〜」

「準備と儀式ですか……じゃあ2時間くらいですかね?」

「その、あのぉ……大変申し訳ございませんが……その最短で三日かかります」

「はい?」

 神父さんの言葉に固まった。


「三日かかかりますので……どこかで時間を潰していただけると助かります……そこで三日間お待たせするわけには行きませんので……」

「あはは……ミストさん……どうしよう? 三日間だって」

「どうするって……どうしよう……」

 そんな途方にくれていたわたし達が出した答えが2時間後の答えだった。



 ◆



 そして時は二時間後に戻って今に至るのだった。

 

 ミストさんに助け船を求めてチラッと横を見たけどもう目が『無理! 無理!』と訴えている。


「もちろん、ただで泊めてもらうわけにはいかないんで……その、何かお手伝いしますのでその……三日間泊めてはいただけないでしょうか……お、お願いします!」


「あれ? ミストとミナミ? なんで、どうしてここにいるの!?」

 そこにわたしたちの声を聞いてミリアちゃんがやってきてしまった。


「恥ずかしながら……戻ってきました」

「えっ? 戻ってきたって!? えっ?」

 そうだよね……ついさっきお別れしたばっかりの人間が、数時間後に戻ってきたら混乱するよね……


「色々とあってぇ〜延期になったというか扉が開いてないというか……その三日間だけ……またここでお世話になろうかなっていうか……まぁその、お世話になります」

 と、ミリアちゃんに宣言。ミストさんも大きくうんうんと頷いていた。


「延期? 扉? なに、どうなってるの?」

「まぁ……三日間帰れないって事かなぁ? ねっ、ミストさん!」

「うん、まぁそう。三日間足止めって事」

 ふんわりとミリアちゃんに説明してわたしはおかしらさんにもう一度『お恥ずかしいですけど、三日間だけお願いします』と懇願した。


「またお世話になるね」

 戻ってきたわたしの部屋。数時間しか経ってないけど一度お別れして戻ってきた部屋はなんか懐かしいというか、変な感じだった。


 ◆


 そして、翌日のお昼。


「ミナミちゃん! お皿が足りないからすぐに洗って!」

「はい!」

「ミナミ! 洗い終わったらここにある料理の補充お願い!」

「はい!」

「ミナちゃん! 補充が終わったら、テーブルに残ってるお皿の回収、それと客席の清掃してくれる!」

「は、はい!」

「のんびりしてるヒマなんてないよ! 食堂は戦場と思いな!」

「は、はいぃいぃいぃいいいぃいい!」


 朝イチでベルーナさんとお手伝いさんから『手伝ってくれるなら食堂を手伝ってくれない』とのお誘いがあったのでふたつ返事でオーケーをだして現在。


 食堂のベルーナさんは料理人モードのはいっているらしくかなり厳しいくどんどんと指示を出してくる。


 ほかのお手伝いさんもピリピリしていてホントに戦場って感じだ。


 食べる側から提供する側になって初めて気づく大変さ。飲食業は大変って事を思い知った。まったく考えるヒマもないお昼の食堂。


 そんなわたしは、あたふたとしながら業務に当たっている。


 午前中のヒマだった時間が嘘のようだ。お手伝いさんの言うように『午前中しか教えれない』っていう言葉の意味が痛いほどよくわかる。


「料理の補充行ってきます! これですか!?」

「そう、それをお願い!」

 お皿洗いをある程度終わらせて、ベルーナさんの脇のテーブルに置いてある

料理の補充を急ぎ早に開始する。


「お〜いミナミ! ここの肉ないぞぉ〜」

 中肉中背のバハラタ男性から指摘を受けて、確認。


「あ、はい、ありがとうございます。ベルーナさん! 四番のお肉がなくなりましたぁ!」

「四番だね、五分待ちな!」

「りょ! すいません五分待ってください!」

「おう」

 男性は軽くて手を挙げて、席に戻っていく。


「ベルーナさん、色飯もあとすこししかありませんでした!」

 厨房に戻ったら即、不足料理の報告!


「そこに炊いてのあるから出してきな!」

「りょーかいです!」

 さっそく大きな鍋を持って色飯の補充交換を終える。


「ミナミ〜仕事やってるねぇ〜」

 そんな忙しいわたしに声をかけてきたのはミリアちゃんだった。その後ろにはミスト

さんの姿もあった。


「どうよ、食堂は? 忙しいでしょ?」

「忙しいってもんじゃないよぉ〜ミストさんも手伝ってくださいよぉ!」

「あたしはお頭領の手伝いで忙しいのぉ」

「う〜〜〜〜いじわるぅ〜」

「ミナミ! しゃべってる時間なんてないよ!」

「すいません!」

 これはやばい! ベルーナさんの檄がとんできちゃったよ!


「ごめん、行くね! 空いているところに適当に座ってじゃあ!」

 ふたりと離れて、厨房に戻る途中にテーブルに置いてある空の皿を回収して厨房に戻るのだった。


 そして、そんなこんなで食堂の手伝いをして三日が経った。


「じゃあ、今度こそ行くね」

「うん、気をつけてね」

 ミリアちゃんとのお別れ。前回と同じだけど今回は違う。


「ミストも気をつけてな」

「はい。お世話になりました」

「おう、じゃあ」

「はい」

 今回は隣にミストさんがいる。


「もう、戻ってくるんじゃねぇぞ!」

「戻ってくんなぁ〜ふたりとも!」

 おかしらさんとミリアちゃん、ブライルさんやベルーナさんみんなに二度目のお見送りをされてわたしとミストさんはバハラタを後にした。


 今回はもう戻ってこない。前日にしっかりと神父さんと確認したから大丈夫。


 扉は開いている。あとは扉に入るだけ。


「あ、そうだ。ミナミこれ」

 と、渡されたのが水晶玉と色の付いた小さい紙がそれぞれ三枚づつ


「あれ? もしかして星晶石?」

 前回もらったものとほぼ同じ……いや少しこっちの方が少し小さいかな?


「うん。そう」

「あ、でもこの前もらったのがあるけど?」

「それ返して、こっちが出力をあげたものだから」

「えっ? そうなの?」

 と、話して星晶石を受け取った。


「この前のは突然だったから調整が間に合わなかったけど、今回はバッチリ仕上げてきたから。正直、最高の出来映えだよ。ダウンサイジングに成功してさらに出力もあげてる。本当に最高のできなんだから!」

 自信たっぷりのミリアちゃんを見ると、なんだかこの星晶石がすごいものに見えてくるなぁ……


「じゃあ、これ返すね」

「うん、ごめんね中途半端なもので」

「ううん、いいよ。わたしために作ってくれたんだから」

 前回もらった星晶石をミリアちゃんに返す。


「そろそろ……本当に行くね。ミリアちゃんまたね」

「うん。またね。ミストも気をつけてね」

「うん。じゃあね。ブライルさんと仲良くしなよ」

「するに決まってるでしょ。心配いらないよ」

「ならいい……またねミリア」

「うん。また」


 こうして、わたしとミストさんはバハラタを後にしたのだった。



 ◆



「勇者様! お帰りなさいませ!」

「ただいまです。神父様」


 色々とあったけど……なんだか家に戻ってきたって感じだ。


「どうでしたか? メモリの方は?」

「はい。バッチリです!」

 メモリを見せて起動させる。『盗賊』とかわいい声が流れる。


「おおっ! おおっ! なんということでしょう! すばらしい! ありがとうございます! 勇者様!」

 神父さんは両膝をついて胸の前で手のひらを組んでまるで神様に祈るようなポーズでお礼を言っている。正直そのポーズはやめてほしい。


「……もしかして、ミナミってすごく偉いヒトなの?」

 その光景を見ていたミストさんが訝しげな顔でわたしたちを見ている。


「いやいや、普通だよわたしは?」

「いやいやでもさ……」

 と、ミストさんは神父さんに視線を向けると……


「……おふぅ」

 神父さんは未だに祈りのポーズを解いていなかったのだった。


 ◆


「で、こちらの方は?」

 わたしの世界でいう所のリビングみたいなテーブルとイスがおいてある広間でわたしとミストさん。そして神父さんで座って飲み物を飲んでいるときだった。


「あ、えっと……わたしの新しい旅の仲間です」

「おおっ! 勇者様のお仲間でございますか! しかし……そのお着物の面積がその……」

 うんうんそうだよね。改めてじっと見ると服の面積が狭いよね。おへそ丸出しだし。ホットパンツと破れたTシャツを着てるみたいだよそれ。


「目のやり場に困りますね……そのお着物は」

「そうかな? 動きやすくていいと思うけどな」

 ミストさんは下を向いて自分の服装を見てるけど……きっとおかしいなんて微塵も思ってないんだろうな。きっと……


 ◆


 そんなこんなで神殿で過ごした三日目の朝。


「じゃあ、魔法使いの世界でお願いします」

「はいでは、今度こそ間違えないように慎重に操作しますね」


 ゆっくりと、慎重に神父さんは青い水晶玉のパネルを操作しだした。


 この三日間。


 次に旅経つ世界のことミストさんと神父さんで話し合っていた。

 わたしはわたしで当初の目的の『踊り子』の世界に行くつもりだったけど、ミストさんが『魔法使い! 魔法使いの世界がいい』って聞かなかった。


 理由は『魔法が見てみたい』との事だった。


 魔法なら……似たような物をミストさんの世界でもありそうだけど……わたしは見てないけどブライルさんが作った『万雷収束砲』なんてすごいんじゃないの? 地面があんなに削れてるんだから。


 なんだかんだで、結局ミストさんに押し切られる形で『魔法使い』の世界に行くことになった。


「お気をつけて。魔法使いはどんな方はわかりませんので」

「はい。できればミストさんみたいな、やさしいひとだと良いんですけどね」

「ちょっ、恥ずかしいこと言わないでよ」


 ミストさんは顔を赤らめて恥ずかしがってるけど……意外と奥手なのかな?


「じゃあ、行ってきます」

「お気をつけて」


 ゆらゆらと光が揺れるルーラカーテンをくぐってわたしとミストさんは『魔法使い』の世界へと旅だったのだった。



 別れ、新たなる世界へ 完




 〇おまけ1:『テントにて』


「今回の事は王に報告せねばならん」

「真面目なこったな」

「真面目な話をしている」


 男ふたりがテントの中で会話をしている。


 ひとりは隆々の筋肉をつけた中年の男性。筋肉で服が張りつめていて今にも破れてしまいそうな布の服。顔はいかつく近づくだけでも恐れてしまいそうな風貌。


 ひとりは見た目は華奢な身体だったが筋肉はしっかりと付いていた。服装もしっかりとしていて着こなしも十分だった。

 見た目も優男風で、女性のもモテそうな顔が良い男だった。


 ただ違うのは優男の左脇には『剣』が置かれていた。


「その、お真面目ちゃんが何のようだ」

「1ヶ月、ここをあける」

「で?」

「俺の信頼のおける部下を置いている。心配をする事はない」

「それだけか?」

「……」

「話の本質はそこか?」


 間をおいて優男は『手ぶらで王の元へ行くことはできない』口を開く。


「本筋はそっちか」

「ああ」

「くだらない前置きはいらねぇから、そうならそうとはっきりと言え」

「すまないと思っている」

「……欲しいのは『星晶石』だな」

「ああ、少しでいい俺に分けてくれないか?」

「お前の王はなんでそんなに、ほとんど採れなくなった星晶石を欲しがるんだ? あんなのただの石ころだろ?」

「本気で言ってるのか? 本気で思ってるのか? あれはただの『石ころ』ではないとお前も十分にわかっているはずだ」

「なら、目的はなんだ? お前の王様は星晶石をなにに使おうとしているんだ?」

「……それは、俺にもわからない」

「わからない、か。」

「だが、きっと平和的に使ってくれるはずだ」

「平和的? お前は本気で言ってるのか? 本気で思ってるのか? あの王がか?」

「……」

「言い返さないところを見ると、お前は『理解』しているんだな」

「王は……正しいことに使ってくれるはずだ……」

「従順なお犬さんだなお前は。あんな愚王に忠誠を誓うなんてな」

「……我が王を、愚弄するな」


 優男は剣の柄を手に取り今にも抜き身にしようをしている。


「……すまねぇな。まぁ水でも飲んで落ち着けや」


 いかつい男は大きな木のコップに水を注いで優男に差し出す。


 優男は剣を床に起き、座り直し出された水をひとくち、口に付けた。


「俺もまだ死にたくねぇからな。今のはすまなかった」

「俺の方もすまなかった」


「……」

「……」


 逡巡の後、いかつい男が口火を切った。


「星晶石は持って行け。俺からブライルに言っておく」

「……すまない。少しだけだが持って行く」

「ああ」


「……」

「……」


 再び静寂がふたりを包む。


「あの子は大丈夫か?」

「あの子?」

「俺をかばってくれた青い鎧の騎士の子だよ」

「ああ、ミナミの事か。大丈夫だ。驚くくらいピンピンしてるぞ」

「そうか」

「話は終わりか?」


 いかつい男は無口になった優男に投げかける。


「そうだな……なぁブラムス」


 と、そのとき『あの〜おかしらさん。いらっしゃいますか?』と女の子の声がテント内に進入していた。


「ん? 誰だ?」


 いかつい男はは立ち上がり出入り口に向かう。


「じゃあ、用も済んだし俺も出よう」

 同じく優男も立ち上がり後を追う。


「お、ミナミか? なんか用か?」

「あ、おかしらさん。よかったいてくれて……あれ? お客さんですか?」


 そこで女の子は優男を見た。


 〇おまけ:テントにて 完



 ●おまけ2:初期設定


「おはようございます。いらっしゃいませ〜」

 と、男性店員が挨拶をする。


 最近、接客用語で『おはようございます』とつけるのはかなり珍しいが男性店員は臆せずに言葉を発した。


 コンビニ。


 なんの変哲もないたたのコンビニ。


 店舗面積は50〜60坪の平均的なコンビニ。


 ただひとつ違ったのはこのコンビニは『最近できたコンビニ』ということ。

 その認識で少女は何も考えずに足を踏み入れたはずだ。


 セーラー服を着た学生。年の頃なら15〜16才。学年で言えば高校二年生くらいだろう。ボブカットのかわいらしい女の子だった。


 すこしキョロキョロとあたりを見渡して、お菓子のコーナヘと赴く。


 朝が早いのか、それともこのコンビニがまだ認知されていないのか、店内には少女しかいなかった。


 店員はレジでファイルを開いて帳簿の記載をしている。


 少女はお菓子コーナーでお菓子を選別中だ。


 店内BGMは声だけでは、誰だかわからない女性がコンビニ限定商品の案内をしている。声のトーンが高いところをみると、たぶんデビューしたてのアイドルといった所だろうか。


 店内BGMがある程度流れ終わった所で、少女がお菓子を手に持ってレジに来た。

 その手には『ポッチー』と『シルバーサンダー』『ボノボル』が握られていた。


「よろしかったら、どうぞ」

 レジ会計の最中、店員が少女にそう勧めたのが『コンビニ限定販売 サウンドUSBメモリ』というものだった。


 タブレットで大々的に広告を流しているその横につり下げ台に鎮座しているのが『サウンドUSBメモリ』だった。


「こちらは小型のスピーカーとなってまして、Bluetoothと接続すると音楽が流れるんです。さらにマイクロSDカードスロットとイヤホンジャックが付いていますので、携帯音楽プレーヤーとして音楽が聴けるんですよ」

「へぇ〜」

 と、少女は答えるがまったく興味を示さなかった。それはそうだろ。音楽を聴くだけなら少女が持っているスマホで事足りる。


「こっちも同じですか?」

 そう指さしたのが『サウンドUSBメモリ』の隣に寄り添うように展示されている『コインスピーカー』だった


「はい。機能的にはまったく同じです」


 それは手のひらサイズの大きな丸い物だった。


「へぇ〜」

 何の感情も沸かずに少女は『メモリ』に手を触れる。


 ボタンのような物を押した瞬間。


「あれ?」


 少女の視界が乱れ、立ちくらみを起こして後ずさった。


「だ、大丈夫ですか?」


 と、心配そうに店員が声をかけ少女は『すいません、大丈夫です』と返答した


「余計なお世話かもしれませんが体調が悪いようなら、学校はお休みされた方が……」

「いえ、本当に大丈夫です。昨日遅くまでテレビを見てたので寝不足かと……」

「そうですか。無理をなさらずに」

「すいませんん。あ、支払いはSumicaでお願いします」


 ◆


「ありがとうございました」

 こうして会計を済ませた少女がコンビニを出る


「よい、旅路を」


 店員が少女にそっと投げかけた。



 ●おまけ2:初期設定

こんばんは、間宮冬弥です。

まずは、くそつまらない作品を最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


読んでいただいてお分かりですがこの小説は全9話での完結となります。

続きですが、『魔法使いの世界』は描こうと思っていますがまだ執筆はしていない状態です。期待はしないでお待ちしていただけるとありがたいです。


それでは、短いですが、これで失礼します。

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