戦い、時間を稼げ
「ひゃあ!?」
身体を揺らすほどの大爆音が響きわたる。
まるで大地を崩すかのごとく響く轟音にわたしとミストさん体勢を崩しては片膝をついてしまう。
「な、なに!?」
ミストさんが轟音の響きく元凶を見る。
「あのあたりって……たしか」
「工房……」
そうつぶやき、ミストさんはウサギのように走り出して、工房にむかった。
「なんだろ……イヤな予感がする」
わたしは自然とカバンを手にとってミストさんの後を追った。
◆
「あうう、どうしよう、どうしよう!」
ミリアはおろおろとしている。
眼下には鉄の球体で作られた人型万雷絡繰装置が倒れている。
突然、動き出した人型絡繰装置が走り出し、駆け出てそのまま崖のしたに落ちたのだ。
そして、人型絡繰装置はそのまま動かなくなっていた。
「どうしよう、どうしよう」
言葉を繰り返すミリア。自分ではどうしようもない状況を対処できずにうろたえるばかりだった。
轟音に気づいたミリアの師匠であるブライルが駆けつけ、ミリアは泣きながら状況を話した。
◆
「ちょっとなんですか!? あれ!」
駆けつけたわたしがミストさんに問いかけるが、ミストさんは『知らないわよ!』と返した。そりゃそうだ! だってさっきまでこんな大きな鉄の塊なんてなかったんだから。
でも……この位置的には……
「これって……やっぱり工房から落ちたのかな……?」
「場所的に……そうでしょうね……」
目の前に転がる六つの鉄の玉を見てわたしとミストさんは同時に崖の上の工房を見上げる。
「ねぇ……これって」
「なに?」
視線を落ちてきたであろう人型のいびつな鉄球に戻す。
そのいびつな鉄球を見てわたしはある疑問が忍び寄る。
「なんだか……人型になってる気がしない……かな?」
鉄球。それぞれの鉄球を繋げてる太い鉄線。
六つの鉄球を人の体に当てはめると……頭に胴体。左右の手と足。合わせて六つ。
「ミナミ、変なことを言ってないで早く工房に行くよ!」
「うん、そうだね」
ミストさんに急かされて『じゃあ、急ごう』と、駆けだそうとした直後、
「ゴ……グゥ……」
「へ?」
落ちてきた鉄の塊が……鉄が軋む音を鳴き広めてゆっくりと動きだし……
「ね、ねぇ……動いてない」
わたしがそんな事を言うとミストさんは『う、動いてる訳ないじゃない……かな?』と疑問系で返してきた。
「や、やっぱり人型じゃない?」
「いやいやそんな事……」
と、ミストさんの口の行動が止まる。
「なんかゆっくりと立ち上がってない!? 『鉄球大地に立つ』って感じしない!?」
「動くって……そ、そんな訳ないでしょうが! た、立ち上がるなんてそんな……」
と、認めたくない事実から残酷な現実へと成ろうとしている光景が広がる。
「ゴブゥ……」
と、どこからは漏れているかわからない声のような声で鉄球をつなぎ合わせた人型の鉄球体はわたしたちの前に立ちふさがった!
「これって! やっぱり動いてますよね!?」
「いやいや、動いてないよ!」
「確実に動いてますって! 立ってますって! そんでこっちを向いている気がしますって!」
「ちょっ! 怖いこと言わないでよ!」
立ち上がった鉄球体はじっとその場を動かないでいる。
でもなんか……
「わたしを……見てる?」
と、そう思った時に鉄球体は『メ……もリ……』と発した。
「メモリ?……あっ!」
そして気づく。鉄球体の胸の所にはめ込まれている、見覚えのある棒状のモノ
「あれって……メモリ?!」
「ググ……」
「ミナミ!」
鉄球体は右手を握りしめて? 球体の形に振り上げてそのままわたしにめがけて振り下ろしてきた!
「ひゃあ!」
なんとかもうダッシュして振り下ろしをかわした! 今のはやばかったぞ! ミストさんの呼び声がなかったか危なかったかも!
「ぼーっとしないで!」
飛んで駆け寄ってきたミストさんに『ミストさん! あれメモリです。ほら!』と胸のあたりを指を差し、わたしのメモリを空いた手で『勇者メモリ』を見せる。
「メモリ……確かにこれと似てるわね」
「なんか、文字が書いてあるっぽいんですけどミストさん何て書いてあるか読めます?」
「文字? 文字なんかって……いまそれ所じゃないでしょ!?」
「わたしにとっては結構大事なことなんです!」
「ったく! じゃあ、あいつを引きつけておいて!」
「へっ!?」
「なんて書いてあるか知りたいんでしょ!」
「わかった!」
「頼んだ!」
ミストさんは脱兎のごとく駆けだしてどこかにいってしまった!
「えっとぉ……」
残されたわたし……
「……そのぉ〜」
勇ましく叫んでみたけど……どうすればいいの!? ひとり残されたわたしはどうすればいいのぉ!
「め……モりぃ……」
鉄球体はふたたび鉄球付きの右腕を振り上げた!
「やばっ!」
回避行動をとり大きく横にずれる!
左に避けた瞬間! 振り上げられた右腕がおろされる!
鉄球体の攻撃行動は予備動作が大きい。これなら楽にかわせる!
鉄球はこちらに向き直してまたも腕を振り上げる。
その動作をみたわたしはさっきと同じ要領で横に大きく身体を左にずらす!
ドォン!
またも同じようにわたしのいた場所に鉄球が振り下ろされていた。
うんうん! 動作が大きいからよけやすい!
「ミナミ!」
唐突にミストさんの声が耳に入ってきた!
この方角を見上げるとミストさんが木の上で姿勢を低くして、今にも木から飛び降りそうに身を屈めていた。
「そいつに飛び移るから! 気を逸らしてて!」
「わかった!」
落ちていた石を拾い、そのまま鉄球体に投げつける!
「こっち! こっちを向け!」
大声でそう叫ぶ。
正直超こわい! 怖くてしょうがないけど……やらないと! わたしが!
「めも……り……」
またメモリって言った……もしかして、ううん、やっぱり……
「このメモリに反応しているの?」
カバンに入れている『勇者メモリ』を目で追う。
「……もり……め、もり……」
「これが、欲しいなら……! わたしの方に来い! この鉄球野郎!」
カバンからメモリを取り出して、鉄球体にわかるように、おおびらに左右に振って
見せびらかす。
「めもり……? メモリ……!」
勇者メモリに反応した鉄球体がこちらに歩き出してくる!
よし、そのまま!
「そのままこっちに来い、鉄球野郎!」
しゃがみ込んで、石を拾ってはそのまま鉄球体に投げつける!
「めもり、め、め、も……り」
徐々に近づいていく鉄球体に恐怖しながらわたしは待つ! はやく、早くしてください! ミストさん!
「も……り、めも……r め……り」
「ひゃあ!」
振り上げた鉄球がわたしめがけて振り下ろされる。
そのたびにわたしは大きく避けてなんとかかわしている。
「怖い! 超怖い! やばっ! 死ぬ死ぬ! 早くしてください! ミストさぁぁああぁぁああぁああん! まだですかぁあぁあぁあああああぁああぁぁあああぁあああ〜〜!」
「情けない声で鳴かない!」
「だってぇ〜〜〜だって〜〜〜! あのおっきい鉄球に当たったらわたし……あの世のおじいちゃんに会える気がします!」
「冗談言えるならまだ余裕よね?」
「いやいや! 結構やばいですってぇ!」
「ホントにやばかったら、頑丈そうな蒼い鎧を着たら?!」
「無理無理! 動けないもん! 鎧からでも痛そうだもん!」
「じゃあ、鳴かないでそのまま動き続けて!」
「急いでくださぁあぁああぁあああああぁぁあああ〜〜〜い! うひゃあ!」
振り下ろされた鉄球をなんとかかわして、ミストさんに急ぐように急かす!
「よし、そのまま後ろを向かせてて!」
「急いで! 急いでぇぇえぇええぇえええぇええぇえ〜〜〜!」
動き回って、動きまくってもう、体力が続かなくなってきた! お願いだから急いで! ミストさん!
「3.2.1……ここだぁ!」
鉄球体にミストさんが飛び乗る!
暴れる鉄球体にまとわりついたミストさんは振り落とされず、器用にバランスをとってパネルの文字を読みとってくれている。
「とう、ぞく……盗賊! ミナミ! 盗賊って書いてある!」
「盗賊!」
あのメモリは『盗賊』のメモリ!?
「ありがとうございます!」
「どーいたしまして!」
「危険ですから早く降りてください!」
「わかってるって!」
その返答後、器用に鉄球体から飛び降りてそのままわたしの隣に着地した。
「で、この後は……どうしましょうか?」
「このまま放置って訳にはいかないでしょ?」
ミストさんは鉄球をあきれる感じで眺めてそう言った。
「そうですよね……とはいえ……」
「「どうすんのこれ……?」」
と、わたしとミストさんは同時に口を開いた
◆
「師匠……どうしようって、あれ? 師匠?」
ミリアはこわばる声で師匠であるブライルに言葉をかける。
しかし、崖の上で一緒にミナミ達の戦いを見ていたブライルの姿がなくなっていた。
「師匠〜〜〜〜〜〜〜!」
ミリアが左右を見渡して声を上げる。声はむなしく響きわたるだけでブライルの姿はない。
「師匠……もしかして、逃げたんですか……」
落胆した言葉を漏らす。
「逃げちゃいねぇよ」
「師匠!」
居なくなっていたブライルが大きなモノを肩に担いでミリアの元へとやってくる。
「それなんですか?」
との問いにブライルは『あいつを倒す武器だ』と答えた。
「武器……ですか?」
ブライルが担いでいる無骨なモノ。色々な機器や電線を無理矢理つなぎ合わせたような、ミリアの身長くらいある大きな棒状物体。その先端には穴があいている。それはまるで、ミナミの世界にある肩に担いで砲撃する『バーズカ砲』または、ロボットのような人型兵器が背中に設置している『ビームキヤノン』のような武器だった。
『名付けて、【万雷収束砲だ】』と、ブライルは自慢げに言う。
「万雷……収束砲?」
首をかしげたミリアの投げかけに、『いいから見てろ』とブライルは答える。
片膝をついて砲口を鉄球体に、そして標準を合わせ引き金を引いた。。
「ちっ、ダメか。万雷を充填するのに時間がかかるな……ミリア」
引き金を引いたが不発。どうやらエネルギーの充填が必要な武器のようだ。
「はい! ふたりともぉぉぉぉぉおおおぉおおおぉぉおおお〜〜〜〜時間を稼いでぇぇえええぇえええええええええぇえええ〜〜!!」
自分が出せるであろう大きな声で瞬時にミナミとミストに伝えた。
◆
「攻撃は遅いしかわすのは楽ですけど! ずっとかわしっぱなじゃダメだと思うんですよねわたしは!?」
「そんな事わかってるわよ! アタシは!」
「じゃあ、なんとかしましょう!」
「具体策は? あるの!?」
「ありません!」
「無策を自信たっぷりに言うんじゃないわよ! でもなんとかしないといけないのは賛成だけどね!」
「ふたりともぉぉぉぉぉおおおぉおおおぉぉおおお〜〜〜〜!!」
中身のない作戦口論をしていると崖の上からミリアちゃんの声が響きわたってきた。
「時間を稼いでぇぇえええぇえええええええええぇえええ〜〜!!」
鉄球の攻撃をなんとかかわしていた所に突然の大声が耳に入ってきた!
時間を稼いでって!?
「ミナミ!」
「はい! はっきり聞こえました!」
「たぶんミリアになんか策があると思う!」
「それな!」
「じゃあ、行くよ!!」
「行きましょう! 稼いでやりましょうよ、時間!」
ミストさんは再び木に飛び乗って、わたしは走り出す。
「こっち! こっち!」
さっきと同じように落ちていた木の枝や石を拾っては鉄球体に投げつける。
「こっちにもいるよ!」
同時にミストさんが木の上から短剣を投げつける。
石や短剣は鉄球体にあたり、空しく地面に落ちる。もちろん鉄球体は無傷。動きも相変わらずのっそりと遅い。
「ひゃあ!」
鉄球体の攻撃。
ダッシュで逃げて距離を取ってかわしているけど……攻撃自体は相変わらず腕を振りあげて、ふり下ろすだけの単調な攻撃でだけど……
「死ぬ……当たったら絶対に死ぬ!」
鉄球体の腕の振り下ろし攻撃の後は……地面にぽっかりと大きな穴が空いている。
例えるなら……月にできてる『クレーター』のような感じの穴。
「ミストさああぁああぁああああああぁあああ〜ん! そこと交代してください!」
「無理! 自分であがってきて! それくらいできるでしょ!」
「無理ですぅううぅうううううぅうぅうぅうぅうぅううう! 木登り無理ぃぃいぃいぃい!」
「なら、交代なんて言うんじゃありません! あんたは地面でなんとかして! フォローはするから!」
「今の言葉……絶対に忘れないでくださいよ!」
意を決したようにわたしは呼吸おいて鉄球体と正面きって向かい合う。
「よし……いくぞ!」
しまっていた『勇者メモリ』を取り出しゆっくりと手を挙げて空にかざす
「ほ、ほら……これ! これが欲しいんでしょ!」
勇者メモリを鉄球体に声をあげ、見せびらかすように手を大きく振ってみる。
「? ダ……マ、め……、メモ……りぃ……」
相変わらずどこかわからない口から言葉が漏れてる……
ゆっくりと、わたしに向かって鉄球? それとも手? どっちかわかんないけど伸ばしてくる。これは攻撃じゃない。だって……
鉄球は掲げた『メモリ』の方に伸ばしているから。
ゆっくりと伸びてくる鉄球をまとった腕は、わたしの目前まで迫る。
「こ、怖いよぉ……」
顔を横に背け恐怖で目をつむる。
◆
「師匠! まだですか!? ミナミがやばいです!」
ミリアは叫ぶ。
しかし、ブライルは『まだだ! あと少し耐えろ!』と告げる。
「急いでくださいよ!」
急かすように言うがブライルは『無理言うな! それはこいつに言ってくれ!』と万雷収束砲に向かってクイと首をしならせる。
「ポンコツですね! それ!」
辛辣な言葉を浴びせると、ブライルは『言うようになったなミリア! オレが設計から製造したこいつをなめんじゃねぇ!』と啖呵をきる。
「なんでもいいですから急いでください!」
もう一度、ミリアはブライルに同じ事を叫んだ。
「ミストぉ! ミナミぃ! ごめんあと少しだけ耐えてぇぇえええ〜〜〜〜!
ミリアは大声で、懇願するようにふたりに叫んだ。
◆
「ブラムス! なんだあの音は!」
怒声をあげたのは立派な鎧を動きやすさ重視のため、軽装気味に着込んでいる
王国騎士団団長『エクスハルト』
顔立ちがよく若く。その上に誰にも隔てなく優しく接するので街の
住人からはたいそう評判はよい。
数人の騎士隊員を引き連れてブラムスに押し寄っている。
エクスハルトが怒声をあげているのは、今現在、街はずれで起こっている事態に着いてのことだ。
その事態とは、街はずれの崖で大きくて巨大な動く人型の鉄球が大暴れしている事態に着いての追求。
「知らねぇよ! それえと近けぇよ! 離れろ!」
「あ、ああ、すまない!」
エクスハルトはブラムスに押しのけられて数歩、後ずさる。
「すまねぇな、本当に知らねえんだよ。ただ……」
「ただ?」
「あのあたりは、俺の弟が住んでいる場所あたりだ」
「……そうか、ならこんな問答をしている場合ではないな」
「あ?」
「そんな大きなオノを持っていて、まさか木を刈りに行くわけないだろう?」
ブラムスの両手には大きな斧がしっかりと握られていた。
「木を? 違ぇよ、獲物を狩りに行くんだよ」
「俺も付き合おう」
「はぁ? 何言ってんだお前?」
「俺も付き合おうと言ったんだが?」
「いいのか? 街の警備だろお前の仕事?」
「そうだ。その警備のついででお前の獲物を狩る手伝いをしてやろうと言ってるんだ」
「……すまねぇ、恩にきるぜ」
「恩はあの固くて頑丈そうな木を切り倒したら受け取るよ」
そういって、ふたりは頷いて、同時に駆けだしていた。
◆
「師匠! まだですか!? ミナミがやばいです!」
ミリアは数分前と同じ言葉を叫ぶ。
しかし、ブライルは『まだだ! あと少し耐えろ!』と同じ返答で告げた。
「あと少しはどれくらいですか!? やっぱりポンコツですね! 師匠もそれも!」
「おいィィィイイィイイイイィィ! 本当に言うようになったじゃねぇかァアアア!」
「ミリアちゃあああああぁぁああああぁあああん〜〜〜〜〜〜〜まだですかぁ〜〜〜〜〜〜!」
ふたりの会話を遮って、ミナミが大きな声で助けと確認をとるような大声で叫んだ。
「ごめんんんんんんんんん〜〜〜〜〜〜〜〜〜あと少しだけ耐えてぇええぇえええぇえええ〜〜〜〜〜〜〜!」
「マジでかぁあぁああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
ミナミは心底『信じられない』といった感情を込めて叫び返した。
◆
「ミナミぃいいぃいぃいいぃいい〜〜〜〜〜〜〜〜いいよ、そのままそいつを足止めしてて!」
「ミストさぁああぁああぁあああん! 怖いです! チョー怖いですよぉおおおぉおお〜〜〜〜〜! 助けてださいぃいいぃいいぃいい〜〜〜!」
「いけるよ! いける!」
「いけないです! いけない!」
無責任な言葉を連発するミストさんにわたしは大声で助けを求めるけど……ミストさんはいっこうに動こうとしない!
「ミストさぁああぁああぁあぁああん! 目の前、目の前ですけどぉおぉぉおぉおおぉぉぉおぉぉ〜〜〜!」
思い切って目を開けると、数メートル先には人型をした巨大な鉄球の集まりが見える。
「ミリア! まだなのぉ!」
ミリアさんはそう叫ぶのが聞こえるけど、返ってきたのが『ごめん! まだかかりそう』の絶望的な返答だった!
「ミストさん!」
「ミナミ! ミリア! 目を閉じて!」
耳に入ってきた瞬間! わたしは目を閉じる!
「師匠! 目を閉じてください!」
ミリアちゃんの大きな声が聞こえた瞬間、わたしの瞼が白く光った気がした。
「ミナミ! いまのうちに離れて!」
聞こえてくるより先に体が反応して、わたしは背を向けてダッシュでその場を離れた。
◆
「くっ! なんだ!」
疾走する足をとめて光の方角を見据えるブラムスとエクスハルト
「誰かが、閃光玉を使いやがったか!? ありゃミストか!?」
「と、とにかくこの光に乗じてあの巨木を刈るぞ!」
「わーってるって!」
◆
「師匠!」
「すまん! あとちょっとだ!」
「ホントに時間がかかる、くそ道具ですね! ミストぉぉおおぉおお〜〜〜〜 ミナミぃいいぃいいぃいぃいい〜〜ごめん! もう少しだけ! もう少しだけ耐えてぇぇえぇええええ〜〜〜〜!」
ミリアちゅんの悲壮の声が響く!
「とにかく急いでください!」
「わかってるって!」
声が枯れるほどの大きな声でミリアちゃんに頼み込む。
「ミストさん! 聞こえました!」
木の上からわたしの隣に着地したミストさんは『わかってる! あと! 少し何とか耐えるよ!』と
「はい! がんばりましょう!」
わたしとミストちゃんは左右に分かれて駆け出す!
「ミストさん!」
「なに!?」
「とりあえず挟み打ちって感じで挟んでいますけど、どうします!」
状況は言葉通り、ミストさんとわたしは鉄球体に対して距離を取って左右に挟んでいる。
対して鉄球体はわたしの方を見ていて動こうとしない。さっきの光が効いてるのかも?!
「ミストさん!」
「なに!?」
この状況を打開できるかわからないけど、わたしはミストさんにドレスアップの提案をしてみる。
「戦力になるかわかりませんが、勇者にドレスアップしますか?」
「ドレスアップ?」
あ、そうか。ミストさんはドレスアップかけ声? 変身を知らないんだっけ?
「はい。ミストさんと初めてあったときや魔物と戦った時の格好になれる言葉です!」
「ああ、あの蒼い鎧の姿ね」
「そうです。どうしますか?」
「戦力もくそも、あんたあの格好じゃ動けないでしょ?」
「まぁ、そうですけど……」
的確な事を言われてしまうと……確かにどうしようもできないな……
「ならそのままでいい! 動いてくれた方がこっちの仕事も増えないから!」
「わ、わかりました」
と、言うことで勇者のメモリはスカートのポケットにしまった。
ギィ……ギィ……
「あ!!」
鉄球体が軋む音を立てて動き出した!
「ミストさん!」
「とりあえず、なんでもいいから足止め!」
「はい!」
と、言っても足止めって……
ミストさんはどこからか取り出した短剣を片っ端から鉄球体に投げつける!
わたしもさっきやったように、落ちている石や土を拾っては鉄球体に投げつける!
だけど、鉄球体は何事もなかったかのように動じずに何かを探している。
たぶん……わたしだ。と、いうよりこの『勇者のメモリ』だと思うけど。
「ミリア!」
「師匠!」
「あと少しだ!」
「見た目はすごいですけどポンコツくそ武器ですね! ミストごめん! あと少し!」
「うっせぇ黙れ!」
「どうでもいいけど急いでよ!」
ミストさんとミリアちゃん。崖の上と下とでのやりとり後、再び鉄球体に短剣を投げつける。
わたしも石と土、木の枝などを拾ってどんどん投げつける。まったく効いている気がしないけど何もしないよりはましだ!
「ミストさん!」
「なに!?」
「鉄の玉がずっとわたしを見てます! 怖いです!」
わたしに気づいてじっと、こっちを見つめている。
「そのまま魅了してて!」
「怖いでしゅ!」
怖すぎて下を噛んだその時だった。
「うおおぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉおおぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!」
「うおおぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉおおぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!」
ふたつの雄叫びが遠くから聞こえて、徐々に近づいてきているのを気づいたのは。
◆
「ブラムス! 見えたぞ、あれだ!」
「なんだありゃ、鉄球が人型になってるぞ!?」
「かなり固そうだぞ、あれは!」
「ああ、一筋縄ではいかないそうだな!?」
「一気にいくぞ! ブラムス!」
「おいおい! 俺はてめぇの部下じゃねぇぞ!」
「うおおぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉおおぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!」
「うおおぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉおおぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!」
ふたつの咆哮が重なって、駆け抜けていった。
戦い、時間を稼げ 完