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わたしの職は未確定  作者: 間宮冬弥
6/9

星晶石とマナ

「おふぅ……」


 夜をまたいで次の日。


 わたしは今、ミリアちゃんと一緒にミリアちゃんのお師匠であるブライルさんの工房に来ていた。


 理由は簡単。


 昨日教えてもらった『星晶石』を使ってどうやって道具を動かしているのか見てみたかったから。ミリアちゃんにムリを言って見せてもらったんだけど……


「これは……何というか……想像の上を行ってるな……」

 そう言わざるを得ない。


 工房は岩山……というか採掘場の頂上にあってちょっと大きなコンビニくらいの広さ。その工房内はというと、所狭しと何に使うかわからない謎の品々が置いてあった。


「お師匠、すごいでしょ?」

「うん、想像以上にすごい」

 本当にすごい。道具という道具がすべて『機械化』しているのだから。


 ドリルやハンマーの粉砕道具、のこぎりやカッターなどの切断道具、バーナーやコテなどの溶接道具などがすべて機械化、または自動化していた。


「これってぜんぶミリアちゃんのお師匠さんが作ったの?」

「そうだよ。でもそれを実現したのはあの『星晶石』だよ。


 そういいミリアちゃんが指を指した方角には……


 大きな……わたしがすっぽりと入るくらい大きな透明なガラスの玉がある。

 その中でひときわ光り輝く、光の玉が無数見える。そして、その透明な玉にはこれたまた無数の紙? が張り付けてあった。


「あの透明な玉が?」

「そ、あの動力炉に入ってるのが『星晶石』だよ」

「動力炉……ねぇ近くで見てもいい?」

「うんいいよ、あ、待って。師匠に断ってくるね」


 ミリアちゃんは小走りでお師匠さんの元へと駆け寄っていって、事情を説明してくれている。


 だけど……『動力炉』か。なんかしっくりくる言い方。


「ミナミ〜見ていいよ」

 大きく手を許可を取ってくれたことを教えてくれる。


 手を振り返して『ありがと〜〜』を言葉を返す。


「さて」

 そして、目に入る透明な水晶玉。


「……どうなってんだろう、これ? 動力炉っていうからこれがエンジンみたいなものだと思うけど……」


 お師匠さんが持っているドリルを見てみる。それにはコードも何もないのにドリルが回転している。


 水晶玉のぐるりと1周してみる。


「ない……やっぱりどこにもない……」

 何が言いたいかというと、自動化している道具がすべて『ワイヤレス』で動いている。水晶玉からはコードが延びている様子は見られない。


 工房の周りで音を立てて動いている道具を見てみてもすべてにコードがない。

 もしかして……電気を飛ばしてるのかな? Wi-FiやBluetoothみたいに?


 そんな仮説を立ててみる。


 でも、そんな話はわたしの世界では聞いたことはない。家電を電波で繋げるのは知ってるし聞いたこともある。むしろ、わたしもイヤホンとスマホをBluetoothで繋げて音楽を聴いているし。


 でも、電気そのものを電波みたいに飛ばしてテレビや冷蔵庫、家電そのものを繋げるのは一度も聞いたことはない……って言うけど、もしかしてわたしが知らないだけですで技術革新していて実験、実用段階に入ってるかもしれないけど……


「う〜ん」

 水晶玉から離れて、しゃがんで壁を見てみる。


「ない……やっぱりない」

 壁つたいを歩き、しゃがみ、歩いての繰り返しで一通り壁を見てもない。


「コンセントがないな……」


 コンセントもないって事はこの動力炉自体がやっぱりコードレス? で動いているのかな。


「……ミナミ、なにやってるの?」

「うわっ!」

 突然、真後ろからミリアちゃんが話しかけられた。


「なにやってるの?」

「えっと〜コンセント探し?」

「何で疑問形なの?」

「あはは……」

「で、こんせんとってなに?」

「へっ?」

 あ〜そっか。ここじゃコンセントなんて言葉知らないよね……しまったなぁ……


「こんせんとを探してたんでしょ? 落としたの?」

「あ〜そのぉ〜落とした訳じゃ……」

 ううっ……どうしょう……どう言えばいいんだろう?


「じゃあ、こんせんとってなに? なんなの? 壁にあるものなの?」

「あ〜えっと〜」

「形は? 大きさは?」

「あのぉ〜そのぉ〜」

 ううっ……なかなか引いてくれない……むしろ好奇心爆発で目がキラキラしてるよぉコンセントの説明なんてどうしたらいいんだろう……日常的すぎてコンセントとはなんぞや。って言う説明が思いつかないよ。


「コ、コンセントっていうのは……」


 その後、『コンセント』の説明をたどたどしくした。


 『道具を動かすエネルギーが出てくる小さいふたつの穴』

 かなりかみ砕いて、恐ろしく簡単にわたしでも理解・整理できるように説明したけど、かなり省略しすぎてちゃんと伝わったかわからない……


「う〜ん……」

 ミリアちゃんの表情にハテナマークが大量に浮かんでいるのが目に見えてわかった。

 やっぱり、わかりませんよね。


 ちなみにいつのまにか、ミリアちゃんの隣にいたお師匠さんも同じくハテナの表情だ。


「つまり、そのコンセントって穴に工具を差すと工具にエネルギーが供給されて動くって事?」

「うん、そうだいだいそうだね」

 工具じゃなくてコードだけどね。


「それって……穴はないけど動力炉と同じしくみですよね」

 と、ミリアちゃんが隣にいるお師匠さんにそう、問いかける。


 お師匠さんはだまってこくりと頷く。同じしくみ。確かにそうなんだけど、すごいのは『コードがいらない』って所なんだよね。


「じゃあ、ミナミの故郷ではそのコンセントがあればどこでも工具が動くんだね! すごいじゃん!」

 どこにでもあるって訳じゃないけどね。


「まぁ……たしかに探せばどこにでもありますけど、わたしが思うこの『動力炉』のすごい所はそこじゃないんですよね」

「? じゃあどこ」

「工具とコンセントを繋ぐコードがいらないって事だよ」

「こーど?」

 あ、しまった……


「こーどって何? それがないとミナミの所じゃ工具が動かないの?」

「あ……まぁ、そうだね……」


 今度はコードとはなんぞやっていう講習がはじまってしまった……


「こーどってなに? コンセントは小さい穴だけどコードって大きいの?」


 おふぅ……好奇心がまぶしい!


「えっと……やっぱり聞きたいかな?」

「聞きたい! 絶対!」

 おふぅ……これは絶対に逃げられない案件だ!


「その、コードって言うのはね……」

 一呼吸おいて……覚悟を決めて2時間目の授業が始まったのだった。


 『コードとは工具と繋がれた縄のことで、縄の先をコンセントに繋がる鍵があるんだ』

 わたしはまた恐ろしくも単純明快にかなりかみ砕いて説明した。もちろんわたしでも理解・整理できるようにだ。


 説明の課程でコンセントの穴を『鍵穴に』例えをさりげなく変更したのは言うまでもない。


「う〜ん……つまりコードって工具から延びてる縄ってことで、その先に鍵が付いてるって感じ?」

「うん、だいたいあってるよ」

 ミリアちゃんは理解が早くて助かる! 本当に!


「それだと、縄の長さで工具の使用範囲が決まっちゃわない?」

「うん、そうだよ」

 延長コードの存在は言わないでおこう。


「それに、コードが邪魔になるんじゃない?」

「うんかなり邪魔になるね。だからコードがなくて工具が動かせるこの『動力炉』はすごいってわたしは思うの」

「うんうん。そうでしょ? そうでしょ?」

 誇らしげに首を縦に振るミリアちゃん。でも、これ、ミリアちゃんが作ったんじゃないよね?


「ねぇわたしからも聞いていい?」

「いいよ。なに」

「この動力炉からエネルギーを放出してるんだよね? それで工具が動いている?」

「そうだよ」

「じゃあ、工具はどうやって動力炉から発生しているエネルギーを受け取ってるの?」

「??」

 誇らしげな顔から一転。ミリアちゃんの表情が曇ってきた。きっと頭の中はハテナマークで埋め尽くされているんだろうな……


「えっとねぇ……それはぁ……ねぇ」

 目が泳いで時折お師匠さんに助けを求めるように視線を向ける。


「お師匠さんは黙りを決め込んだのかドライバーをもって謎の物体のネジを締めはじめる。


「えっと……この動力炉からぁ……エネルギーが放出されているから……その方向をぉ……一定の方向に固定させて……」

「どうやって固定するの?」

 問いつめ、追いつめるように質問を投げる。


「それは……えっと……」

 すでに視線はお師匠さんに向けられて完全にロックオンされている。


 その視線に耐えられなくなったのか、お師匠さんが作業の手を止めて、説明をしてくれた。


 動力炉から工具へのエネルギーの供給はどうやら動力炉に貼ってある様々な色の『シール』がエネルギーの受け渡しの役割を果たしている。


 この色違いのシール。二枚一組で構成されている。使い方は一枚を動力炉に。もう一枚を工具に貼ることによって動力炉からのエネルギーを『一定一方に制御』して工具がエネルギーを受け取ることができ、それで動かす事ができる。


 色が違うのは万雷の雷圧を制御するためで送受信するエネルギーを抑制するため。


 なので大きな雷圧は赤色、小さいな雷圧は緑などで色分けしているらしい。それと紙自体の大きさ。紙が大きいと大きな雷圧を受け取る事ができる。


 あ、雷圧っていうのは電圧とかアンペアの事かな? たぶんそうだと思うけど……


「なるほどです」

 要はつまりは、スマホのようなものだね。工具がスマホで動力炉が回線設備兼バッテリー。そう考えると理解できる。


 うん、見近なもので例えるとホントに理解が早くなる。科学の先生がよく見近なもので例える理由がよくわかった。


 ふと、『永遠に使えるんですね』と言うとお師匠さんの声のトーンが落ちてこう話してくれた。


 『永遠とか永久に使えるわけねぇ』と。


 理由を聞くとこの動力炉の中にある『星晶石』はエネルギーを使い切ると輝きを失う。輝きを失うと、とたんにすべての工具が使えなくなるらしい。でも数日経つと輝きを取り戻して、工具が使えるようになる


 これもスマホに例えると、『充電』だ。スマホもバッテリーが切れると使えなくなると同じで『動力炉』も充電が必要なのか。


「ん?」


 じゃあ……動力炉はどうやって充電するんだろう?


 これも聞いてみた。


 結果は『放置』だった。


 輝きを失った『星晶石』は数日間放置すると自然と輝きを取り戻す。

 輝きを取り戻した星晶石は動力炉を活性化させ再び工具が動かせる。との事だった。


「つまり……自然充電?」


 と、いう結論に辿りつく。


 次の原理につい聞いてみる。お師匠さんによるとマナという不思議な粒子が星晶石と干渉して反応するらしい。


 この星晶石は使用するとマナを放出。マナが尽きると輝きを失う。輝きを失った星晶石はマナを数日かけて取り込み再び輝きを取り戻す。


 このサイクルが成り立っている。


 つまり……永久に動き続けることが可能。だけどマナがある限りという前提だけど。


「すごいですね……星晶石って……」

「うん、ホントすごい。このえ〜〜星晶石? のおかげで作業が捗るよ」


 と、みるとすでにお師匠さんはドリルを片手に鉄板に穴を開けているところだった。


「ここの工具のほとんどは師匠が作ったものなんだよ。すごいでしょ?」

「へぇ〜じゃあ、今使ってるあのドリルも?」

「そうだよ」

「へぇ〜」


 ウィーン、ウィーンと動いているドリル。見れば見るほどわたしの世界にある電動ドリルとそっくりだ。


「ん? でんどう……?」


 ちょっと……まって……電動……


「って……事は……これって思った通り電気って事だよね?」


 電波とかBluetoothとか言ってたわたしだけど……話や原理とか……あの電動ドリルとか見ると……この動力炉から発生している見えない粒子? って……『電気』かもしれない……


「ねぇ、ミリアちゃん」

 ここでわたしは訊ねてみる。


「シールを貼ればなんでも動くの?」

「なんでもってわけじゃないけど……」

「その言い方だと、動くのと動かないのがあるんだ?」

「うん。動くのはお師匠が作った『万雷絡繰装置』とか……かな、後は動くとは違うけど鉄や鉄線は万雷を通すし、ゴムとかは万雷を通さないんだ」


「ばんらいって……言うのは?」

「あ、そうだねごめん。万雷って言うのはあの星晶石から出てる光の筋のことだよ。あれが稲妻に見えるから『万雷』って言ってるの」

「なるほどねぇ〜」


 確かに雷に見えないこともない。でも……どちらかと言うと科学の実験で見たプラズマに近いかも。


「ミナミ……どうしたの? 黙っちゃって?」

「あ、ごめん。ちょっと考え事をね……ねぇミリアちゃん」

「ん? なに?」

「試したい事があるんだけど……あのシールって貸してもらえる?」

 動力炉を指さしてミリアちゃんに尋ねてみる。


「シールを? いいけど何を試すの」

「試すには『物』がいるから。ちょっと取ってくるね」

「モノって……ちょっとミナミ?!」


 ミリアちゃんの言葉の制止を無視してわたしは自分の部屋へと戻っていった。『物

を取りに行くために。駆け足気味で。



 ◆



 20分後。


「ただいまぁ……」

「遅かったじゃん。何やってたの?」

「ごめん……道に迷っちゃって」

「あ、ミストじゃん。おはよ」

「うん、おはよ」

「どしたの工房にくるなんて。なんか用事?」

「ううん、違う。ミナミが工房どこにあるのって泣きながら聞いてくるもんだからさ。運動がてら案内してきたんだ」

「この鉱山……すごく広いね……迷いに迷っちゃったよ」

 今に思えばどこに行くにもミストさんが居た気がする。ひとりで移動したことがなかったなぁ。


「まぁ……そうだよね。あたしも最初に来たときは道を覚えるのにかなり時間かかったし」

「うん、そうだね私も数ヶ月かかかったよ」

 ふたりは、思い出すように首を縦にふる。


 これだけ広いし複雑な構造の鉱山だから……道を覚えるの大変そうだな……


「で、ミナミは何を持ってきたの?」

「あ、そうだ。これ」

 ミリアちゃんに促されてて見せたのはスマホ。


「何これ?」

「なんか、光ってるよ?」

「それより何でできてるこれ?」

 と、ミリアちゃんがわたしの手から強引にスマホを奪ってしまった……


「なにこれ、触れると色が変わるよ」

「えっ、なにこれ? 音が出てきたよ!」

「なにこれ、光の線がうねうね動いてる、キモっ!」

「あ、あの、ちょっと……なるべくやさしく扱ってね」

 と、クギを差す。どうやらミュージックアプリを起動させたみたい。


 やっぱり神崎かのんちゃんの歌声がとてもいいよ。心が癒されるというか、とても落ち着くというか。とにかく声がかわいくてキレイ!


「すご〜い!」

「何言ってるかわからないけど! 光の線がキモい!」

 ふたりはわたしの言葉も聞かず、スマホにご執心だ。わたしも最初スマホを見たときは似たような感情だったな……懐かしいよ。


「ちょっと構造に興味あるから分解させてね」

「えっ?」

 と、聞き捨てならない言葉を残してミリアちゃんはトンカチを取り出し、わたしは即座に『ダメぇぇえええぇええぇええええええぇぇぇぇええええぇえ〜〜!』と大声で止めたのだった。


「で、この音の出る、光る石版みたいなものでなにがしたいの?」

「光……石版? ああ、スマホ事ね」

 スマホを光る石版て例えるなんて、やっぱりここは知らない世界だって事を実感させるよ。神父さんに『帰れないならやり遂げる』なんて言ったけどやっぱ、帰りたいな……


「すまほ?」

「うん、これスマホって言うんだ」

「すまほねぇ……へんな名前」

 ミストさんがスマホを見ながらそう返してきた。うん……まぁね……うん、変かも……

 スマホは正式名称じゃなくて略称だけど……スマートフォンなんて言ったら『はぁ?』とか言われそうだよ。


「この聞こえてる音って……歌なの?」

「うん、そうだよ」

「なんか……言っていることはわからないけどいい歌だね」

「ありがとう。わたしの大好きな歌なんだ」

 ミリアちゃんの質問に返答をしつつ、わたしはわたしで準備を始める。


「いけるか、な?」

 受け取ったシールをスマホの背面と動力炉を交互にみる。


 大きさ的にはスマホより一回り小さいシール。これなら背面に貼れそう。


「うん、いい感じ」

 スマホに張り付けたシールを見る。うん、カメラも隠れずに写真とか撮れそう。この動力炉をツブッターにアップしたいけど……ネットに繋がらないからムリだな。


 一応スマホの画面を確認したけど……やっぱりアンテナは立ってなくて『圏外』を表示している。これはムリだ!


「よぉし、いくぞ!」

「シール貼るだけでしょ? 気合いを入れる必要ある?」

「……」

 ミストさんのツッコミを華麗に無視して動力炉に向かう。


 動力炉にペタッと張り付けたシール。


「……」

 画面右上のバッテリーアイコンをじっと見つめる。




 見つめること、数十秒。



 バッテリーアイコンに変化はない……やっぱり、ダメだったかな。


「あ!」

 と、思っていた瞬間! バッテリーアイコンに……イナズママークが入った!


「きたきたぁぁああぁああ〜〜〜! きたぞこれぇ! どうしよう! やった! わたしの考えは間違えてなかった! ミストさん、ねぇ! きてるよこれぇ! どうすればいいかな! これぇ!」

「あ、いや……あたしに聞かれても……」

「よしよし! いいよ! すごくいいよぉ! バッテリー残量が1パーセント増えたよ! ミリアちゃんどうしよう! きてるよぉこれ! 100パーセントいっちゃよこれぇ!」

「あ、うん、よかったね……」

「やったよ! ワイヤレス充電対応スマホにしておいてよかったよ! あの時のわたしに『無線充電がいいんじゃない』と言ってくれたお母さんに、店員さんに、ありがとうと言いたいよ! ミストさん、言ってもいいかな! あ、帰れないんだった!」

「あ、いや……あたしに言われても……帰って言えばいいんじゃない?」


 テンション爆上げのわたしに対してふたりのテンションはだだ下がり。


 でも、そんな事はどうでもいい! これでスマホが使えるとわかると気持ちがあがってくる! あ、ネットには繋がらないんだった!


「いいよ、イナズママーク消えてないよ! この調子で100パーセントまで行くよ!」


「……」

「……」


 ふたりがわたしを見る目がとても冷ややかだ。


「……」


 ちょっと……静かにしようかな。あまりはしゃぐとミストさんとミリアさんのお師匠さんが怒りそうだし。


 ◆


「はぁ〜〜」

 結局、充電は100パーセントにはならなかった。


 ミリアちゃんから『そろそろ仕事に戻ってもいい』と言われ、泣く泣く工房をあとにしたわたし。ダメもとで動力炉のエネルギーである星晶石をちょうだいって言っても『ダメ』と言われてしまう始末だし……希少石だって言ってたからなぁ〜〜


 そして帰る間際にふたりに『メモリ』の事を聞いてみたけど『知らない』との事だった。ついでにブライルさんにも聞いたけど……『どっかで見たことがあるなぁ……』との返答だった。気になるけど覚えていないならしようがない。


「はぁ〜〜……」


 外にでてため息をつく。


 しかしスマホ充電の機会を失うのはキツイなぁ……


 と、いうよりは充電に結構な時間がかかりそう。


 まぁ、そうだよね。だって家で満充電するのも2〜3時間くらいかかるし……急速充電なら話は違ってくるだろうけど、この動力炉がそれに対応してるかわからないし、見た目じゃそれを判断できないし……かと、言ってお師匠さんに『これ急速充電ですか?』なんて聞いたらきっと、キョトンとされそうだし。



「いつまでもいると迷惑かかりそうだしなぁ〜〜」



 満充電するまで工房にいるのも気が引けるしなぁ〜


 木にもたれ掛かってスマホを眺める。バッテリーゲージは半分くらいはそして『60パーセント』を表示している。



「はぁ……」


 充電どうしよう……スマホが使えなくなったら……どうしよう。


「はぁ……」

「ため息ばかりでだね。ミナミ」

 木を背もたれにして座り込んでわたしをのぞき込んでくるミストさん。


 ふたつの手のひらを顎に当ててこっちをみている姿を見るとなんとなく小さいお花を連想させる。


「そうだね……バッテリーがなくなったらどうしようかな……」

「そんなに大事な物なの? その『すまほ』っていうのは?」

「う〜ん大事って言う訳じゃないけど……」

 確かに言われてみれば……別に友達や両親ともコネクトでメッセージのやりとりをするわけじゃないし……やりとりの前に電波が届いてないし……届いているっていうかそもそも電波がないし、この世界は。


「でも……音楽が聴けなくなるのはイヤかな……」

 サブスクにダウンロード保存機能があって本当によかった。


「あ〜それはなんとなくわかる。あの歌、すごくよかったから。誰が歌ってるの?」

「そんな事を聞いてわかるの?」

「わかんない。でもなんとなく名前は聞いておきないかな」

「そっか……名前はね……神崎かのんっていうんだ」

「かんざきかのん?」

「そ、顔は知らないんだけどね。知ってるのは歌と名前だけ」

「へぇ〜なんか神秘的だね」

「神秘的……そうかもね」


 たしかにそうかも。顔も知らなければCDも秋葉原のショップだけしか売ってない。それもかなりマニアックな店だけだ。一般のCDショップには売ってない。


 神秘的か……CDのジャケットも宝石や花のイラストや文字だけで人物像とかの表現はぜんぜんなかったな。


「最後に……一緒に聞く?」

「最後?」


 そう、最後。ミストさんと一緒に居られるのはたぶん今日まで。わたしには……やらないといけないことがあるから。



 ◆



「うん、こんなところかな?」

 ミリアはスパナでネジを締めて汗をぬぐう。


「なかなか上出来じゃないかな?」

 一歩下がり、『それ』を見る。


 『それ』は青い空の下で、布の上で寝かされている人の形をかたどった万雷絡繰装置。


 鉄クズなどで組立てた人の形の鉄の集合体。


 指の五本あるが、鉄の板で作ってあるので長さがばらばら。脚と腕は鉄のパイプで組み立てておりこれまた長さがバラバラ。


 かろうじて関節部分は丸く象った鉄でくっつけられている。


 胴体も丸びを帯びているが鉄クズや廃材などでで構成されていて、頭も同じく工房で使われなくなった小さい丸い球体で構成されている。


 目はガラス玉。鼻はアルミパイプ。口は長方形の鉄板で構成されている



 見た目は、黒い『雪だるま』


 その雪だるまにいびつな脚と腕がくっついている様だった。


 黒い雪だるまに手足がついた無骨な人型。


 だが、ミリアにとっては自身で初めて作った万雷絡繰装置。

 その万雷絡繰装置を使った初めての『作品』だった。


「うん、初めて作ったにしてはいい出来。あとは機動テストして動けば完成っと……ん?」


 ミリアは万雷シールを貼ろうとして気づく。


「あ……左の胸に少しヘコみがあるなぁ〜」


 気になるほどではないが、胸の球体にすこしヘコみがあった。


「部品を落として空いたのかなぁ……う〜気になるなぁ。あのヘコみに合うくらいのちょうどいい部品ないかなぁ……」


 ミリアはガラクタ置き場を漁り始める。


「これは……少し太いな。こっちは……ダメ細すぎる」


 手にとっては鑑定して違えば放り投げる。

 その繰り返しで部品を次々と手にとっては放り投げる


「ん〜このヘコみ……なんか合いそうな部品があったような気がするんだよなぁ……」


 工房に戻り人型絡繰装置の頭をじっ〜〜と見ながら頭をフル回転させる。


「ん〜師匠のところにないかなぁ……」


 ミリアは師匠であるブライルの作業机をグルグル歩き見渡す。


「あ……このちっこい鉄板いいじゃん!」


 そうして、見つけたのは人型絡繰に合いそうな一枚の板。


 板と言うには語弊があり、どちらかと言うと『棒』に近い。


「ここにあるってことは師匠も使わないし、使ってもいいよね」

 そして、その棒を人型絡繰装置に取り付けてみる。


「あ、ぴったり!」


 まるで、この棒をはめ込んでくださいと言わんばかりにしっくりぴったりとはまった。


「お〜〜〜引き締まった感じかする」


 完成に近づいた人型絡繰装置。


 ミリアがとった手のひらに収まる棒には特徴がある。


 その小さな棒の先は段差状になっていて細くなっていた。

そして棒には『ボタン』らしきものが付いており、その表面には汚れているが小さい『パネル』らしきものも付いていた。


 それは……あるものにとても酷似している。


「……これ……どこかで見たことあるような……ま、いっか。どうせ使わないんだし」


 そして、万雷絡繰装置のシールを胴体にあたる球体。右の胸あたりに張り付けたのだった。


『盗賊』


 ミリアが聞いたこともない曇った声が部屋に鳴り響いたのだった。


 ◆


「不思議だね……これ」

 ミストさんがスマホを見ながらそんなことを言ってきた。


 あの後、ミストさんとわたしは部屋に戻って来てスマホの音楽を聴いた。

 あ、部屋ってのはわたしの部屋ね。


 テーブルにスマホを置いて音量を最大にして音楽を再生。

 ミストさんはベッドに座って、わたしはイスを持ってベッドの横に置いて座った。


「そう?」

 わたしはわたしでその言葉を聞きながら答える。


「うん、こんな小さな板から声が聞こえてくるんだもん。ミリアが興味を持つ理由がわかる気がする」

「ん〜そんなものかな」

 マジマジとスマホを見るわたし。


「ミナミの故郷じゃこれが当たり前なの?」

「う〜ん、そうかもね」

「いいなぁ……なんか楽しそう」

「楽しいけど……これを作るのに色々と犠牲にしてるんだよ」


 曲が終わりアプリが再生を停止する。次の曲の再生はない。

 このプレイリストにはこの1番好きなこの1曲しか登録してないから。


「犠牲?」

「うん。そうだね……ここでは見渡す限りの木や川、森……自然がこんなにたくさんあるのに、わたしの世界……故郷ではほとんどこんな『自然』見ることはない」

「そうなの?」

「そう。わたしの故郷では『便利』なるかわりに『自然』が犠牲になってる。便利になる建物なんかができる代わりに山がなくなったり川が埋められるんだ」

「……」

「そうやってどんどん便利になる反面、自然がどんどんなくなる。綺麗な物がなくなって無機質な光景ができあがっていくんだ……ねぇ、どう思う?」

「どうって……なんか、汚そう」

「……汚いか。そうだね。ミストさんから見たらきっと『汚い』が正解かな」

「ミナミ……」

「あ、ごめんね。なんかしんみりした話になっちゃって」

 ダメだな、もう最後って思うと、なんかしんみりする話になっちゃう。最後は笑ってたのしくお別れしたいのにな……


「寒くなってきたね……」


 ミストさんに大食堂で暖かいものでも飲もうか? と。そう提案した。


 その時、外で轟音が鳴り響いた。


 星晶石とマナ 完

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