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わたしの職は未確定  作者: 間宮冬弥
5/9

『盗賊』の世界

「ここって……」

 ミストさんに付いていった先は岩に囲まれた所だった。

 無我夢中で付いていったからどういった経路でここまできたのかさっぱりわからない。

 

 でも……街中にこんなところがあるなんて……なんか不思議。


「ここはあたしたちの盗賊団アジトだよ」

「あ、ちなみの私たちの盗賊団の名前は『バハラタ』って言うんだ」

「はぁ……」

 アジト……なんか岩をくり抜いた感じが漂ってる場所だなぁ……ランプやたいまつで照らされてるだけだし……所々暗いしこわいなぁ……


「あの……ミストさん」

「なに?」

「ここって……その……街の中にあるんですか?」

「街中と言えばそうだけど……正確には『街はずれ』かな」

「あ、なるほど」

「ここはね、昔は採掘場だったんだよ。『なんとか石』って難しい名前の石が採れてね。その石を採るために片っ端から岩を削ったんだ」

「へぇ〜」

 ミリアちゃんはやさしい子だな。色々と教えてくれて。


「それでね、もうその石が採れなくなったから放棄されてるのを私たちが使ってるんだ。勝手にね」

「あはは……」

 そうだよね。盗賊団って言うくらいなんだから正規の手続きで使わせてもらってる訳ないよね……しかもこんな大きな岩山? を。



 ◆



「じゃあここを使って」

「えっ?」

 数分。ミリアちゃんのおしゃべりにつきあいながらミストさんの後を着いていったら岩に囲まれた小さな個室みたいな所に案内されてた。


「寝所は勝手に使っていいから。それと(かわや)はここを出て左にまっすぐいくとあるから。じゃあね」

「あの……ミストさん」

「なに?」

「えっと……ここ使ってもいいんですか?」

「そうだよ。なんで?」

 ミストさんは不思議そうな顔でわたしを見ている。


「その……何でと言われると……えっと……なんでかなって?」

「なんで? 当たり前でしょ?」

「当たり前……ですか?」

「そう。あんたはアイツらからあたしたちと街を助けてくれたじゃん?」

「助けた……? でも、そもそもわたしのせいで街が襲われたわけですし……」

「きっかけはそうかもしれないけど……その事に責任を感じて、身を挺して時間稼ぎをしてくれた。そうでしょ?」

「……」

「筋は通ってると思うけどね」

「もうミストは回りくどいなぁ。要は私たちバハラタは恩を仇で返すような事はしないって事」

 黙って聞いていたミリアちゃんが口をはさみ、ミストさんをフォローしたけど『うるさい』とミストさんが返した。


「と、とにかく一晩だけここを使っていいから! じゃあね!」

「今日はありがとね〜ごゆっくり〜」


「あ、待ってください」

「なに?」


 呼び止められたミストさんは振り返る。

 そして、わたしは聞かなければならない疑問がある。


 それは……


「厠ってなんですか?」


 するとミリアちゃんが笑顔で『おしっことう○ちをする所』と教えてくれたのだった。


 ◆


 ふたりは部屋を出て行っていって、わたしひとりになった。


「……石と岩だらけ」


 部屋と言うには部屋らしくない部屋。


 部屋と理解できそうなのは、申し訳ない程度に置いてあるベッドにイスとテーブル。

それもテーブルはひとり用くらいの小さいテーブル。


 部屋と外を仕切るドアや扉といったものはない。

 それに、窓だと思うけど……荒くくり抜かれた岩から晴れた空が見える。


 空が見える場所はふたつ。すべて岩をくり抜かれて作られている。と思う。


 風や雨が降ってきたらどうするんだろう? 寒いしびしょ濡れになっちゃわないかな?


「う〜ん」

 ひと通り部屋を見渡す。


 ここは部屋と言うよりさっき思った『個室』があっている気がする。


 文句を言う訳じゃないけど……快適とは言えなさそう。


「これが……ドアの役割かな……」

 わたしたちが入ってきたひとひとり分くらい通れるくり抜かれた岩。

 その荒く、くり抜かれた岩の隣にカーテンらしき布が備え付けられている。


 端を持ち、上を見るとロープが反対側まで延びていて、布をくくりつけてあった。


 カーテン? を止めている留め金をはずし、引っ張ってみる。


「やっぱり……」


 布を引っ張ると出入り口を塞ぐぐらい横にスライドして長い布が出入り口を覆う。


「これがドアなんだ……」

 これで一応プライベートは確保できたけど、この布を留めておくことができない……


 手を離すと若干だけど隙間ができて中が見えてしまう。


「う〜ん、留めれないのかな? おや?」

 ふと下を見るとレンガぐらいの大きさの平たい石がふたつ置いてある。気づかなかったけど、反対側にも同じような石がふたつ置いてあった。


 しゃがんで持ち上げてみる。やっぱり石でそれなりに重い。


「と、言うことは……」

 窓? を見てみる。


 同じようにロープにくくりつけてある布が備え付けられていた。


 留め金をはずしひっぱる。横にスライドしてふたつの窓? を覆う。


 思った通り窓? ふたつ塞がるくらい布がスライドする。


「一応……カーテンなんだよね」


 と、自分に言い聞かせる。


 だけど、これだと風が強い日や雨が降ったときはどうするんだろう?


 寒いし濡れちゃうよ。しかも寝所? たぶんこのベッドの事だと思うけど……そのベッドは窓際にあるし。びしょ濡れ確定って感じ。


「ふぅ……」


 考えてもしょうがない。とりあえずベッドに横になる。


「綺麗な青い空……」


 寝ころんで見た窓の外に広がっているのは雲一つない澄んだ青い空。


 決して寝心地がいいベッドじゃないけど……あるだけましだ。


 ベッドにしたの岩に直接横にならなくていいと思うと、ミストさんに感謝してもいいくらいだ。と、言うか感謝しかない。


「疲れたぁ」


 空に向かってそうつぶやく。もちろん答えなんて返ってこない。


「……なんだか、信じられないくらい遠いところまで来たなぁ」


 まるで他人事のように言う。いまこの『遠いところ』にいるのは間違いないのに。


「ホントに……疲れたな……」


 そして、目を閉じて……そのまま睡眠に落ちていった。


 ◆


「ミナミ? 起きて、起きて」

「ん……」

 聞き覚えのない声。でもどこかで聞いたような声がわたしを起こそうとしている。


「起きて! 起きてってば!」

 身体を揺さぶられて、重いまぶたを開く……


「あれ……ミストさん……?」

「あれ、じゃないよ起きて!」

「あ……どうかしたの!?」

「何をいってんの。夕飯の時間だよ」

「えっ……」

 起きて窓をみる。外はすでに太陽が沈んでいて、代わりにまん丸の……って!


「月がふたつ!?」


 空にはまん丸の紅い色の月と……蒼い色の月が……


「どうして……」

「……月がふたつなんてあたりまえでしょ?」

 と、ミストさんが言うけど……


「違うよ……」

 そう。問題はそこじゃない。


「はぁ?」

「なんで、|ここ(別世界)でも月がふたつ……どうして双子月なの……?」


 ◆


「うわぁ……広いところだね」

「まぁ、『大食堂』って言われているくらいだからね」

「なるほど……」


 ミストさんに案内されたのは大勢が食事をとる『大食堂』と呼ばれているところだった。


 すでにかなり大勢のひと達がテーブルを囲ってごはんを食べているところだった。


 それぞれが大声をあげたり、笑い合ったりしてかなり賑わっている。


 大きな体の人は小柄のひと。それに女の人もちらほらみれる。だけど……わたしのような年齢の女の子は数人しかいない。


「わたしやミストさんの歳くらいの女の子もいるんだね」

「そりゃいるわよ」

「そうなんだ」

 なんか……すごく苦労してそうだな……わたしと違って……


「おっ、そいつがミストの話していたヤツか?」

 わたしたちに気づいたひとりの大柄の男の人が席を立ち上がり、ジョッキを片手にこっちに向かってくる。


「ちっせえなぁ〜こいつがほんとに『鎧の騎士』なのか?」

「ど、どうも」

 おふぅ……怖い……それにお酒くさいよぉ……


「ほぉ〜ホントにヘンテコな格好してんだな」

「あはは……どうも」

 なんとなく思ったけど……わたしのこの服装って……目立つな……


「はいはい。触らないでね。あたしたち飯食いに来たからあとで、あとで」

 ミストさんが軽くあしらけど……大丈夫なの? そんな塩対応で……


「なんでぇ〜つれねぇなぁ〜」

「つれないで結構」

「あいかわらず、愛想がねぇなぁ〜〜もっと笑ったらどうだ」

「酔っぱらい相手にあたしの笑顔は高くつくわよ?」

「はっはっ! そいつはちげぇねえ!」

 男のひとは笑いながら、仲間が座るテーブルへと戻っていった。



「すごい大所帯だね」

 改めて見渡すと結構ひとがいる。大食堂と言われているだけあって、ほぼすべての席が埋まっていた。


「えっ? なに?!」

「すごいひとが多いね」

 それと、周りがかなりの騒音。『騒がしい』のレベルを超えて正直……『うるさい』レベル。それゆえに結構な大きなの声で話さないと相手にも自分にも聞こえない。


「まあね。バハラタはほかにくらべて人数が多いからね」

「ほかにって……バハラタのような盗賊団がほかにもあるの?」

「あるよ。っていうかどこも盗賊団か一般人がほとんどだよ」

「……そうなの? あ、でも騎士団ってのは?」

「あれは例外中の例外。王国が有能な子供を集めて育てたの操り人形の集まり」

「操り人形って……なんかひどい言い方じゃないですか?」

「本当のことだよ。あいつらは小さい頃から王のための教育をされて、王の命ならなんだってする連中よ? それこそ王の命令ならひとを殺すことだってためらわない」

「でも、その騎士団にこの街は救われたんでしょ? その事に関しては感謝しないと

ダメだと思うんだ」

「確かにそうだけど……中にはこの街の騎士団長のような、まともなヤツもいるけど……そんなヤツはかなり希なケースよ」

「そうなんだ」

「あんた……ほんとどこから来たの?」

「あ〜それは……」

「ミスト〜〜ミナミ〜〜こっちこっち! こっちだよぉ〜〜〜〜〜〜!」

 ミリアちゃんの声。その声を探していると。大きく手を振っているのが見えた。


「どうやら席探しはしないでよさそうね」

 ミストさんは、そう言ってミリアちゃんの方へと歩きだし、わたしもその後に着いていったのだった。


 ◆


「へぇ〜すごい料理の数」

「ミナミこれ持って。で、あっちで白飯か色飯を選ぶから」

「色飯?」

 木のトレイを渡されて色飯に疑問を抱く。


 白飯はなんとなくわかるけど……色飯って……?


 とりあえず、ミストさんに習うように列の最後尾に並ぶ


「ミストさん。色飯ってなに?」

「はぁ? そんな事も知らないでホントにどこで暮らしてたの?」

「え〜まぁまぁ、遠いところで……かな?」

 と、言葉を濁してみるがミストさん『どこよ、そこ?』と痛いツッコミ。


「あ、あはは……」

 笑ってごまかす。


 でもきっと、言っても信じてもらえないかもしれないし……別の世界から来たなんて……


 あ、あれ……でも、あの職業の神殿があるところも別世界……? ここって『盗賊の世界』って言うくらいだし……あの神殿の世界もここも別世界になるのかな?


「ったく、色飯っていうのは味が付いる飯の事よ」

 深く追求してこないのはミストさんのやさしさなのかもしれないな。ここって『訳あり』のひと達が多そうだし。


「ベルーナさん。白飯ちょうだい。大盛り多めで」

「はいよ。お、そっちの子はあんたが言ってた子かい」

「まぁ、そんなとこ」

「ほぇ〜ちっこいね。あんた。それとヘンテコな格好だねぇ〜」

「あはは……ど、どうも」

「はいどうも。どうする?」

「ん〜じゃあ、色飯で」

「盛りはどうする?」

「盛り?」

「大盛りか中盛り、小盛りってこと」

「え〜じゃあ、中盛りで」

 ミストさんの助言でとりあえず中盛りを頼んだ。


 なんとなく小盛りじゃ足り無そうだからね。


「はいよ。色の中盛り」

 トレイに乗せられたのはお皿に盛った黄色っぽいごはんだった。匂い的になんとなくバターライスを思わせる匂い。


 でも……ホントにこれ中盛り? 結構なごはんの量だけど……


 チラッとミストさんのお皿を見た。信じられないくらいご飯が多く盛られていたのだった。大盛り多め……恐るべし……


「じゃあこっちで食べ物を選んで」

「おおう……」

 結構忙しいな……あっちに行ったりこっちに行ったりで。


「じゃあ、ここで食べたいのを選んで。乗せる皿はあっちにあるから」

 そこは無骨な長方形の鉄でできた大きなケース。その中に大きなお皿が多数並べられていてそのお皿の上にはたぶん食べられるであろう料理が盛られている。


 たぶん野菜にたぶん魚料理。たぶん肉料理。大きな鍋の中にはたぶん飲めるスープ的なもの。たぶん甘いスイーツ的なものまでよりどりみどりだった。


 ……ちなみに『たぶん』と付けたのははじめてみる料理と食材だったからだ。食べられると思うけど……正直わからない。と、付け加えておくからね。


「本当にたくさんあるね」

「食べる量もひとも多いからね」

「そ、そうだよね……じゃあ」

 と、わたしが皿に取ったのは、『白いソースがかかった揚げ物料理』を2切れ。それと野菜を多めに。

 たぶんだけど……揚げた魚料理と野菜だと信じたい! って言うか……信じてるからね!


「それだけでいいの?」

「まぁ……最初はね」

 ミストさんのお皿には大量に盛られたお皿がふたつ……ホントに食べきれるのかなぁ……


「ふぅ〜ん」

 ううっ……なんだか疑心の目で見られてるよぉ〜


「じゃあ、あとは……あっちで飲み物と飯汁を選ぶから」

「飯汁?」

 また、難解なキー言葉が出てきたぞ!


 大量の料理を横目にミストさんお後を付いていくと、透明なガラスに注がれたこれも大量の瓶の数……たぶん飲み物が置いてある場所まで来た。


「このガラス瓶から好きな飲み物を選んで注いで。入れ物をはそっちにあるから」

 見るとガラスや陶器のコップらしき大小の入れ物が色々とがおいてあった。


 サイデリスのドリンクバーのようなものだな。


「で、あっちの三つの大きな鍋に入っているのが飯汁ね」

「あれが飯汁か」

 気になったのでふたを開けて鍋の中を覗く。


「あ……」

 鼻をつくスパイシーな匂い。中にはたぶんジャガイモとたまねぎ。それとニンジン的な食材が入っていて、トロみがある茶色いソース


「これって……カレーかな? なんとなく匂いが似てる」

 ひとつはたぶん『カレー』的なものだと推測できる。


「こっちは……」

 甘辛い匂い……中には肉とタマネギらしきものが浮いている


「これって……牛丼?」

 なんとなく……そんな気にさせる匂いとビジュアルだった。


「最後は……」

 最後の鍋をのぞき込む


「おっ……」

 カレーとは違った鼻を刺激する匂い。中はそぼろのような小さい肉と豆腐のようなやわらかそうな白い食べ物。そしてトロみがついた赤いソース。


「これはマーボー豆腐かな?」

 そんな感じのする料理だった。


「どう、おいしそうでしょ?」

「うん、すごくおいしそう」

 カレー? を色飯にかけて最後に飲み物を選ぶ。


「……無難にこれかな……」

 と、言いつつ選んだのは透明な飲み物。その透明な飲み物をガラスのコップに注ぐ


「……水でいいの?」

 やっぱり水だった。


「うん、最初はね」

「ふぅ〜ん」

 おふぅ……またなんか変な目で見られてるよぉ……


 ◆


「……甘口だったか……」

 夕ご飯を食べ終わり、部屋戻ってベッドに横になった開口一番言葉がこれだった。


 どれもすごくおいしい料理。いままでどこのお店よりも断然おいしい!


 ただ……カレーは匂いは辛そうだったのにいざ、食べてみると意外と辛くなかった。子供の頃にたべた甘口カレーのような押さえた辛さだった。


「となると……マーボー豆腐が辛いのかな……」

 などと想像を膨らませてみる。そんな事を思ってもわたしは辛いのはあまり得意ではないんだけどね……


「ミナミちょっといい?」

「ミストさん? どうしたんですか?」

 部屋にきたのはミストさんだった。


「お頭領に会ってないでしょ?」

「おかしら……まぁ、そういうひとには会ってませんけど……」

 ベッドに縁に腰をかけてミストさんの話を聞く体制になる。


「じゃあ、いくよ。いますぐに」

「えっと、いまからですか?」

「そう。いますぐに。急いでね」

「あ、はい。わかりました。ちょっと待ってください」


 どうやらわたしの知らないところですでに『おかしら』さんには会うとこが決定しているらしい。


 『ちょっと待ってください』と、言いつつも、とくに支度することは何もない。


 着替えるような正装用の服もないし、身体を洗う事もできない。


「ん?」

 ちょっと……まって、もしかして気づいちゃったかも……


「どうしたの?」

「あ、えっと……対面が終わったらミストさんに聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたいこと? いいけど」

「じゃあ、あとで聞くね」

「うん、わかった」


 身体を洗う……そう、ここには『お風呂』があるかどうか心配になってきた。

 ミストさんやミリアちゃんを見る限り、そんなに臭わないし……むしろミリアちゃんからはほのかに柑橘系の匂いがするから『身体を洗えない』って事はないと思うけど…… 


 とりあえずこの問題は後回し。


 クシと鏡は神殿に置いてきちゃったから髪を手櫛で手直しをし、すこし乱れたセーラー服を整えミストさんの言う『おかしら』さんに会いにに行くことになった。

 

 ◆


頭領(おかしら)があんたと話したいって」

 岩と石でできた通路を歩く。周りが岩と石だけだからかもしれないけど、なんとなくひんやりとする。


 たいまつが所々に焚かれているけど……それでも通路は少し暗く感じる。


「あの……おかしらって……」

「バハラタで一番偉いひと」

「ああ、社長って事ですね」

「しゃちょう?」

「あ、いやひとり言でした」

「格好も変だけど……言動も変なじゃない? あんた」

「そうですか?」


 そんな話をしつつ、歩いていると、外に出てしまった。


 肌寒い風に、点々と煌めく無数の星。

 怖いほど真っ黒な空。


 街の明かりがないとこんなにも夜の空は真っ黒で……怖いものだったんだ。


「……双子の月か」

 相変わらず、空には寄り添う紅と蒼のふたつの月……双子月が浮かんでいる。


「ミストさん。おかしらさんはここにいるんですか?」

「うん、たぶん……あ、いた。頭領〜」


 ミストさんが声をあげて、手を振るその先には、たいまつを焚いて薪割りにいそしむひときわ大きな体の男にひとがいた。


 筋肉が半袖の服に張り付くようになムキムキの身体。下半身も同じようにムキムキ履いているパンツが張り裂けそう。


「おう、来たかミスト」

「はい。連れてきました」

「ほぉ〜聞いていたとおり、ヘンテコな格好だな?」

 首にかけていたタオル? ようなもので汗を拭う。


 年の頃なら三十代後半か四十代前半くらい。顎に髭を蓄えている。


 ……髭を剃ったらかっこいい中年男性っぽくなるイケメンな感じ。でも……筋肉がつきすぎてなんかアンバランスな気もするけど……


「あはは……ど、どうも」

 それとわたしの印象って変な格好ってのが一番なんだな……


「頭領。どうして薪割りなんですか?」

 ミストさんは割られた薪を拾い上げてそんな事を口にする。


「そろそろ寒くなるだろ? だから早いうちに薪を蓄えておかないとな。あっという間に無くなっちまう」

「なら、別に頭領がやらないでも」

「何が何でも下のものにやらせる訳にもいかないだろ? こういうことぐらいはオレがやらないとな」

「ふぅ〜ん、そんなもんですかね?」

「そんなもんだ。おまえも下のものを持つとわかるさ」

「下のものねぇ〜」

 と、わたしを見るミストさん。なんで?


「立ち話もなんだし、ふたりともそこに座れ」

 と、指を指した方角には大きな切り株がふたつ。


「あ、わざわざ用意したんですか?」

「ああ、立ち話は疲れるだろうからな」

 そう言ったおかしらさんは地べたにドスンと座り、あぐらをかく


 じゃあ、この切り株は本当にどこから持ってきたんだ……すごいな……それと、自分は座らないんだ……


「魔物から町を救ってくれたんだってな。感謝している。ありがとう」

 切り株に座ってすぐにおかしらさんが頭をさげた。そんな光景に驚いたのかミストさんが『頭領!』と驚きの声をあげた。


「だまれ、ミスト」

「あ……はい。出過ぎたマネでした……」

「あ、いや、その……わたしは別に何もしてません。守ったのは騎士団ですよ?」

 空気が少し重くなったのでわたしが口を挟む


「だが、おまえがいなかったらその騎士団がくるまで、町は半壊していた」

「えっ、そんなにすごいんですか……あの魔物って……?」

「ああ、一体で町を壊滅できるほどに。この町の規模なら一日だろうな」

「おふぅ……」

 もしかして……わたしが生きているのって……ほぼ奇跡に近いのかな? もしあの時に……ポッチーを投げてなかったら……ドレスアップに間に合ってなかったらと思うと……ゾッとするよ。


「本当にありがとう」

「あ、その、頭をあげてください」

「すまんな」

 やっと頭をあげてくれたおかしらさん。すごく礼儀正しいというか……義に尽くしてるというか……本当に盗賊団の社長なの? と思うほどの聖人君子だ。


「その……おかしらさんが頭を下げる必要はありません。そういうのは都知事とか区長とかの役目なので……大丈夫です」

「とちじ? くちょう? なによそれ?」

 と、隣に座るミストさんの突っ込んだ言葉が耳に刺さる。


「あ〜えっとぉ〜〜この町をまとめている偉いひとですかね。あ、騎士団っていうから王様かな?」

 そんな事を言うとミストさんは『あ〜』と言い、おかしらさんは『あ?』とふたりは同じ『あ』の発言だけどそのニュアンスはだいぶ違う。


「王の野郎はここにはいねぇよ」

「そうだよ。それに騎士団だって勝手にここに来て勝手に町に居座ってるだけだし」

「へ、そうなんですか?」

「ああ、そうだ。王の命令だかなんだか知らねぇが、勝手に来て居座る。名目上は『町の警護』だが、実際は『監視』だな」

「監視?」

 穏やかな話じゃなくなりそう……


「この町は元々は無法者の町で、俺たち訳ありのもんが集まる町だったんだよ。だけど数十年前に、この採掘場で『星晶石』って鉱石が採れるようになると突然、アイツ等がやってきたんだ」

「星晶石?」

「そ、その星晶石を何に使うのかしらないけどね。ちっこい石を持っていったよ」

「もしかして……ミリアちゃんが言ってたなんとか石って……」

 ミストさんに小声で確認すると『そう、いま話している石のこと』と返ってきた。


 星晶石……なんだか名前だけ聞くととても綺麗な石ってぽいけど……


「でも……その星晶石はもう採れないんですよね?」

「ああ、採れても小さいもんばっかだ」

「なら……その言い方が失礼ですけどこの町には用はないんじゃないですか?」

「その通り」

「じゃあ……なんでまだいるんですか?」

「言ったでしょ。監視」

「監視……監視って何を監視しているんですか?」

「王のやつはまだこの採掘場で採れると思ってるんだよ『星晶石』が」

「……それで、この町じゃなくてこの採掘場を監視してるんですか?」

「そういうこと」

「……」

 なんで居座るんだろう? もうほとんど用はないはずなのに


「あの……おかしらさん。ひとついいですか?」

「あん?」

「その星晶石って……すごい価値があるものなんですか?」

「価値?」

「あ……えっと……ものすごく高く売れるとか……そういう石なんですか?」

「ああ、そういうこと」

 ミストさんがひとつ頷くとこう返してきた


 『売れても少額だし、価値自体はほとんどないよ』と


「じゃあ……なんで王は星晶石を持って行ったんでしょうか?」

「さあな……ブライルにでも聞いてみるんだな」

「ブライル?」

「お頭の弟さんで、ミリアの師匠だよ」

「ミリアちゃんの師匠?」

「そ、ブライルさんは鍛冶師でミリアは鍛冶師見習いだからね」

「そう言えば……会ったときにそんな事言ってたね」

「ブライルさんが『星晶石』を使ってるんだよ」

「そうなんですか?」

 わたしはお頭さんに意見を求めるように視線を向ける。


「ああ、どういう使い方か知らんけどな。朝から晩までその石で道具を動かしているぞ」


「動かす?」


 道具を動かす? どういう意味だろう。


 言葉通りに受け取るなら『星晶石で道具を動かしている』って事だけど……どういう意味?


 テコの原理とか? それとも蒸気機関車みたいな炉に石を()べたりしてるのかな?


「さて、そろそろお開きにするか」

「そうですね。頭領のごはんの時間ですからね」

「ああ、たらふく食ってくるぜ。今日は何がでたんだ?」

「相変わらず色々ですよ。あ、今日はお頭の好きな色飯でしたよ」

「おおっ! そうかじゃあ早く行かないとな」

「はい。ごゆっくり」

「じゃあなミスト。あ〜」

「海波です」

 自己紹介……っていう紹介じゃないどおかしらさんに名前を名乗り、会釈をする。


「じゃあな、ミナミ」

「はい。色々とありがとうございました」

 もう一度……今度は深めに頭を下げてお礼を言った。


「気にするな」

 おかしらさんは豪快に手を挙げて、食事をとるために大食堂に向かった。


 『盗賊』の世界 完

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