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ひいじいちゃんの鳥かご

作者: 大川雅樹

 まさお君のひいじいちゃんには、今年の夏まで誰にも話した事がない秘密がありました。

 ひいじいちゃんは山に囲まれた田舎の村で、ひいばあちゃんと二人で暮らしています。

 まさお君は今年の夏休みもまた、お父さんとお母さんに連れられて、この村に遊びに来ました。お父さんとお母さんは、その日のうちに帰るのですが、まさお君は一週間ほど、ひいじいちゃんの家に泊まります。

 村では毎年、小さなお祭りがあるのですが、そのお祭りが終わるとひいじいちゃんが駅まで送ってくれてまさお君は一人で帰ります。

 ひいじいちゃんとひいばあちゃんは、とても優しくてまさお君は二人が大好きです。まさお君はこの村も大好きで、山で虫を捕ったり、川で魚を釣ったり、ひいじいちゃんの畑を手伝ったりします。都会で育ったまさお君にとって、毎年この村で過ごす一週間は、とても楽しいものです。

 ただ一つ、まさお君はいつも不思議に思っている事がありました。

 ひいじいちゃんの部屋には空っぽの鳥かごがあるのですが、ひいじいちゃんは毎日、鳥かごのえさと水を取りかえているのです。まさおくんはおかしく思いながらも聞いたことがありませんでした。なぜか聞いてはいけない様な気がしていたからです。

 この村には木々に囲まれた小さな神社があります。ひいじいちゃんは毎朝この神社にお参りに行きます。まさお君も村にいる間は、ついて行きます。

 ある日まさお君はは神社に向かう道で、思いきって聞いてみました。

「ひいじいちゃんは、どうして空っぽの鳥かごにえさをあげてるの?」

 ひいじいちゃんは立ち止まって、まさお君の目を見つめました。

「まさおは今年でもう10才だったな。ちょうどあの頃のわしと一緒の年だな。」

「あの頃って?」

「まさお。今から話すことは、誰にも言ってはいけないよ。」

「うん。」まさお君はドキドキしました。

「あの鳥かごの中には、幸せを呼ぶ見えない鳥が住んでいるんだよ。」

「えっ、本当に!」

「そうだ、もう80年近く前に、わしが神様から預かったもんだ。」

「神様!?」まさお君はびっくりしました。

「この国は今は平和だけど、わしが子供の頃は大きな戦争があったんだ。」

「学校で習ったよ。」

「みんないろんな理由をつけたが、本当は見えない鳥を取り合ってたんだ。そして戦争を見かねた神様がわしに預けたんだ。」

「ひいじいちゃんには、見えるの?」

「わしにも見えんさ。」

「すごいね、ひいじいちゃんは神様に信用されてるんだ。」

「内緒だよ。」

「うん。」

 二人は神社にお参りして帰りました。

 その日、ひいじいちゃんは村の寄り合いにでかけていました。ひいばあちゃんはどまで土間でご飯の用意をしています。

 まさお君は、鳥かごの前に座り、じっと中を見つめていました。見えない鳥がかごから出られないなら、触れるかもしれない、と思いました。

 そして、まさお君が鳥かごの扉を開けて手を入れようとした、その時です。

 バサバサバサッ!

 鳥かごの中から見えない何かが音を立てて飛び出しました。

「あっ!!」

 まさお君がびっくりしてる間に、その羽音は開いていた窓から外へと消えていきました。

「大変だ‼逃がしちゃった‼」

 まさお君は虫取り網をつかんで、家の外へ飛び出しました。

 見えない鳥がどこに行ったか分かりませんでしたが、まさお君の足は自然と神社の方へと向かいました。

「どうしよう、大変だ。ひいじいちゃんの大事な鳥を捕まえなきゃ。」

 神社に着いたまさお君は、何かがいつもと違うことに気づきました。いつもはうるさいくらいに鳴いているセミが、今日はしんと静まり返っていました。

 神社の境内では、まさお君と同じくらいの少年が一人で石けりをしています。

 まさお君は見えない鳥を探して辺りを見回しました。少年がまさお君に声をかけました。

「そんな網を持って、何を捕まえるの?」

「見えない鳥を探してるんだ。知らないかい?」

「見えないのに、そんな網でどうやって捕まえるの?」

 まさお君はその言葉でがっかりしました。確かに馬鹿げてると思いました。

「それに見えない鳥って言っても、どの鳥のことなの?」

「えっ?どの鳥って?」

 少年は地面を指差して言いました。

「ほら、影くらいなら見えるだろう。」

 まさお君が地面を見ると、神社の屋根の影にたくさんの鳥の影が止まっていました。まさお君は屋根を見上げましたが、鳥の姿は見えません。

 少年は言いました。

「もうすぐ祭りだから、みんな集まって来てるんだ。」

 まさお君は少年を見つめました。

 少年はニコッと笑って手をたたきました。

 パン!!!

 そのとたんに、たくさんの羽音が神社中に響き、まさお君が見上げる空の中へと消えていきました。

「ああ、飛んでっちゃった。」まさお君はため息をつきました。

 いつの間にか少年の姿も消えていました。

 まさお君はとぼとぼと帰りました。

 まさお君は鳥かごの前で、ボーっと座っていました。どうせ見えない鳥ですから、黙っていてもわからないでしょうが、まさお君はそんなことを思いつきもしませんでした。

 ひいじいちゃんが帰って来るなり、まさお君は泣き出しました。

「ごめんなさい、ごめんなさい。鳥を逃がしちゃった。ちょっと触ってみたくなって、扉を開けたら飛んでっちゃったんだ。」

 ひいじいちゃんは、まさお君を抱きしめながら言いました。

「泣かんでいい、まさお。泣かんでいい。」

 それでもまさお君は泣きました。泣きながら神社での事も話しました。

 ひじいちゃんは、まさお君の頭をなでながら言いました。

「まさお、わしはうれしいんだよ。わしが神様から鳥を預かった時には、鳥はひどく傷ついていてな。血だけが見えた。飛べるくらいに元気になったんだから、いい事なんだよ。」

「また、戦争が起きちゃうの?」

「いいや、そんなに見えない鳥が増えてるとは思わなかった。世界には、戦争をしてる国がまだあるが、見えない鳥がいっぱい増えて、みんなが取り合いをしなくてもいいぐらいになれば、世界はきっと平和になる。」

「本当に?」まさお君は鼻をすすりながら言いました。

「きっとそうさ。」

「あt!!!」まさお君は部屋の壁を見て声を上げました。

 ひいじいちゃんも、まさお君の見ている方に目をやりました。

 壁には窓から射し込む陽で二人の影が映っていましたが、まさお君の頭の上に鳥の影があるではありませんか。

「おおっ!!!」ひいじいちゃんも声を上げました。

 二人は顔を見合わせました。

「まさおが気に入ったようだな。」ひいじいちゃんは笑いました。

 まさお君も影を見ながら、何もない頭の上をまさぐって笑いました。


 それ以来、見えない鳥はまさお君の頭の上に住み着きました。時々、飛び立って行きますが、またまさお君の頭に戻って来ます。でも、その鳥の影はまさお君とひいじいちゃんだけしか見えないようです。

 その夏から、ひいじいちゃんの秘密はまさお君との二人の秘密になりました。

                                       (了)


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