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令和の細女  作者: 吉野貴博
3/3

上中下の下


 無茶苦茶細い小さな女の顔があり、A君が硬直しB君が腰を抜かしC君が後ずさりをしてしばし間ができたのだが、誰も動かない。

 A君が(なんだ?)と不思議に思うのだが、女も何の反応もない。

(写真か!)

 A君が近づいて見ると、だいたい20cm四方くらいの顔写真の、顔の部分が切り出されて、軽く縦半分に曲げ、奥の部分を柱にできている溝に嵌め込まれているのだ。

 B君もC君も、A君が写真を外したので誰かのイタズラだと解ったのだろう、気が抜けた息が聞こえる。

 三人とも心霊スポットや廃墟巡りをするほど怪談話にアンテナを伸ばしているのだ、ネットで話題になった、「ドアの郵便受け内側に、折られた女性の顔写真が入れられている」のは何度も見ている。

「あぁ、びっくりした」とC君が言い、懐中電灯の明かりを下に向けると、その下にも同じく縦に折られた顔写真が差し込まれていた。

 今度はA君もC君も驚いて大声を出し、B君が懐中電灯を振り回すと、ドア側の壁一面に緩く縦半分に折られた同じ女性の顔写真、さまざまな大きさがいくつもいくつも壁に差し込まれていた。その勢いで天井に明かりが向くと、天井にも同じように写真が差し込まれている。

 三人とも悲鳴をあげて明かりを振り回すと、左右の壁にも窓側の壁にも、顔だけ、上半身の、全身の写真が大小無数にこっちを向いている。

 大声をあげて階段を駆け下り、靴をつっかけ、玄関を開けるとD君が立っていた。

「お前か!これやったの!」

 静かな住宅地だなんて知ったことではないとA君が大声をあげてD君に詰め寄る。

「だろ?お前たちも怖いだろ?」

「てめぇ!このやろう!」B君もC君も大声をあげてD君に食ってかかる。

 ところがD君、自分への怒声なぞ全く気に掛けず、

「だろ?だからお前たちなら解るよな!怖いよな!」

「てめえ!何言ってやがる!」

「だから!出るんだよ!俺んちにも!この女が!」

「あああ?何言ってんだ?」

 わけの分からないことを言われてB君のトーンが変わるのだが大声なのは変わらない。

「だから!俺の部屋に!出るんだよ!この女が!」

 三人とも声も動きも止まる。

 D君は三人を睨みつけ、左手を挙げると人差し指を伸ばし、声に合わせて何度も家を指さす。

「だか ら! こわ いだ ろ!」

 D君がテンポを合わせて力強く家を指さし、三人はその勢いに飲まれてそっちを見る。

 閉まった玄関の、扉と枠の隙間に女がいた。

 家々の明かりがつくのが視界の端に見えるのだがそれどころではなく、一秒、二秒、三秒、間ができて、女が四人をじろりと見回した、三人は悲鳴をあげて門から走り出た。

 何も考えずに逃げ出したのだが幸運にも方向は快速特急が停まる隣駅の方角だったようで、街灯をたよりに走っていたら商店街が見えてきた。

 人も大勢歩いていてホッとし、もうしばらく走ってから、終日営業をやっている居酒屋の笑顔なキャラクターに縋るようにその店に入った。

 三人とも店員さんが持って来た水を一気に飲み干し、頼んだビールも一気に飲み干し、簡単なつまみとジュースを頼んであの写真のことを話し合った。D君を置いてきたことなど誰も触れなかった。

「あれ、Dがやったんだよな」

「あぁ、認める口ぶりだったよな」

「この数日、あの準備してたのか」

「でもおかしくね?証明写真とかスナップ写真ならともかく、等身大の全身写真なんてどうやって印刷するんだよ」

「部分部分貼り合わせたのかな。すげー手間だな」

「あの女の人ってさぁ…」C君が言った。

「うん、どうした?」

「Dに振られて自殺したのかなぁ」

 A君もB君もじっと考えて、

「解んねぇなぁ」

「でもそれならDが鍵持ってたのも解るよな」

「写真もなぁ。付き合ってたんなら準備できるよなあ」

「でDの部屋に?」

「あれは反則だろ…」

 酔っ払って盛り上がっているテーブルが多かったので、三人は安心して夜が明けるまでその店にいることができた。


 閑静な住宅地で若者四人が大騒ぎし、住民多数の通報で警察が来て、ぼぉっと突っ立っていたD君はそのまま連行されてしまった。すぐに両親が呼ばれ、警察からも両親からも事情を聞かれたが、もうまともな受け答えはできなくなっていたという。幸いにと言っていいのか、逃げおおせた三人がどうにかなることはなかったが、D君はそのまま実家に連れて行かれ、大学に戻ることはなかった。

 なので真相はなんだったのか、三人にも知る術はないのである。


 ……部屋で見た、最初の一枚は写真なのは確認したんだろうけど、そのあとの膨大な数の、本当に写真だったんですかね?

YouTubeにアップした朗読https://youtu.be/iwihPzWSPvU

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