上中下の中
時間になって電車を降りたのはA君とD君の二人で、B君とC君は先に来て駅前のファミレスで話していまして、A君が二人に到着したことをメールで送りましたら、二人ともすぐ店を出てA君とD君に合流しました。
D君が先導して歩き始めたんですが、方向は上り坂なんです。別に急な坂ではないから三人とも何も言いませんでしたが、なるほどこれは急行とか特急が停まる駅ではないなと。その住宅地に住んでる人たち、車を利用しているのか解りませんが、鉄道会社が駅のそばで宅地開発をして、人を呼んで電車の利用を増やそうという意図は、この駅に関しては上手くいっているか疑問でした。坂道の両脇にさまざまなお店があるのですが、営業時間が終了したから閉めているようには見えず、よくあるシャッター商店街に思えるのです。
さらに言えば、一つ隣の駅が昔から栄えていて特急どころか快速特急まで停まるのです。夜中にこの商店街の飲み屋が開いていたとして、ここに住んでいる人は入るかもしれませんが、ここに住んでない人はそっちの駅で飲んで特急や快特に乗る方が楽だろうと。
「この上り坂をさらに上がっていくと、開発した宅地以外に、もっと昔からある住宅地があるんだよ、この駅が出来てすぐは駅からそっちまで結ぶバスがあったんだけど、何故かその路線が廃止されて、そっちの住宅地から隣の駅のバス路線になっちゃって、この商店街がさらに寂れたの」
「詳しいな。調べたのか」
「でもそういうバス路線って、この鉄道会社が運営するもんじゃないの?」
「それがね、鉄道会社のバスと市営バスの競合で、市営バスのほうが勝っちゃったようでね」とD君の解説が続きます。三人も興味があるわけではなく目的地までの場つなぎで聞いていたんでどうでもよかったんですが、D君が一応自動車で帰宅する人がいるかもしれないからそういうのを避けようと、大きな道から路地に入りまして、声を落として、三人も一つ二つ道を曲がったくらいですから方向の見当は付きまして、で目的の家に到着しました。
駅前開発の木造新興住宅、建て売りでスタートした区域ですから、家の形や大きさは周囲の家と同じなんですよ。家族の三人や四人は普通に住める。一人暮らしだとちょっと大きいかなって思えるんですが、この家だけはくたびれて見える。家は人が住まなくなると駄目になるとは聞きますが、持ち主が亡くなったのは三日前だとすると、ちょっと妙だなと。
「でもさ、両親が亡くなってそれなりに経つわけでしょ、その間に雨漏りとかペンキ塗りとかやってなかったから、周囲と差が付いたんじゃないかな」とD君。
三人も(なるほど)と周囲を見回すと、みんな寝てるようで、どの家も明かりがついてない。しかもそれらの家は車があったり門柱の飾りとか、どこも何かしら明るい感じを作って生活感があるんだけど、この家だけはなにもなく、廃墟の始まりって感じで、う~んと。
D君門を開けて玄関に進む。鉄製の門を開けるときキーという音が聞こえるのだけど、やはり近隣の寝てる人には聞こえないんだろうなと三人も続く。
カチャンと音がしてD君が玄関の鍵を開ける。そして三人に
「俺は昼間に見てるからさ、お前ら第一印象をたっぷり味わってくれ」と道を譲る。
玄関に入るとすぐ二階に行く階段と、奥に行く廊下があって、怖いから三人一緒に奥に行くことを決める。懐中電灯は振り回さずなるべく下を照らすようにする。
すぐの部屋は両親の部屋だったんだろう、とてつもなく落ちついている部屋だ。そして居間と台所がある。居間にはテレビが置かれているのだが、この家族はなんの番組を楽しんでいたんだろう。
一階はどの部屋も異常なし。丁寧に住んでいたんだろう家庭が思い浮かぶ。
ただ、居間のテーブルに大きな本が積まれている。手に取ってみると、写真のアルバムである。三人で一冊ずつ手に取ると、積まれた上のアルバムは家族写真ばかりで、女性が幼かったときに撮ったものなのだろう家族写真だ、ときどき古い日本家屋で老人が一緒に写っているのは祖父母か。
三人で回し読みをして、家族写真は続き、女の子も成長して中学生高校生になる。ところが大学生になると、ところどころ写真が外されていて空欄になっている。うむ、両親は亡くなったのだし、女性を振ったという男が写っていて、その男が自分が自殺の原因と思われるかと剥がしてしまったのだろう。観光地や景勝地で女性が一人で写っている写真ばかりが貼られている。そして最後の写真以降はページも真っ新で、剥がしたあとも一つもない。そして一枚も貼られなかったアルバムが五冊。念のためそれらのアルバムを全ページ見たが、女性はこれらのアルバムを幸せな写真で一杯にしたかったのだろうか。
玄関に戻ると、誰かに見られるとやばいので玄関が閉まっているのだが、D君がいない。外に立っているのだろう、見られたらどうするんだとは思うが、Dのことだから大丈夫だろうと思い直しそのまま二階にあがる。D君の説明では女性が自殺したのは二階の自分の部屋だというので、ここからが本番である。
二階は部屋二つとトイレなのだが、先に女性のネームプレートがかかった部屋に入ることにした。
部屋は八畳か十二畳か、ぱっと見では解らないのだがちょっと広いような気がする。ドアを開けてすぐ机が目について、左を見るとベッドがある。
ここで懐中電灯の明かりを窓に向けると外から誰かがいるのがばれてしまうかもしれないので慎重になる。
女性がどんな方法で自殺をしたのかはD君から聞いていたが、それよりも女性の性格を物語っているのは、なんの跡も残されてない現状である。女性は自分の死体が発見されるのが遅くなっても、見つけた人や後始末をする人が苦労しないように、さまざまな工夫をしていたんだという。だから遺品もきちんと整理され、机の中もタンスの中も、誰に見られても構わないものだけを残している。
三人とも感心してしまい、トイレはともかくもう一つの部屋に行ってみようとドアの方に懐中電灯を向けると、B君が悲鳴をあげた。
A君も同じモノを見たのだがそれが何なのかよく解らず固まり、C君がどうなのかは全く解らない。
厚さ数mmの細い女がいた。