田中君は奈津子さんと付き合いたい!
2月6日(土)PM1:23
改稿しました!
資産家の一人息子である田中君は、わがまま系男子だった! しかし周囲に居るのは彼より頭の悪い茶髪のチャラい女ばかり。話していても会話に深みが無く薄っぺらい。当り前だ。彼女らが見ているのは彼のお金なのだから。
そんな日常に飽き飽きしていた田中君は、隣の教室で偶然面白い子を見つけた。
(うわ……めっちゃ地味)
地味オブ地味子。その名も奈津子。トレードマークは丸眼鏡。休み時間にも関わらずカリカリと勉強をしている。見た目は超真面目だ。
「きっしょ、あんな女、なんで生きてんだろーねぇー」
きゃははと笑いこけるバカ女たち。しかし、そう言われてみると興味が湧いた。この地味オブ地味子を自分色に染めたらどう化けるか。試したくなったのだ。
思い立ったら即実行。
「ねぇ、俺と遊ばない?」
「いやです」
即答。静まり返る教室。
こんなことあり得なかった。田中君はショックを受ける。
「聞き間違えかな? 俺と……」
「いやです」
はじめての事に動揺して田中君は、どうしても奈津子を落としたくなった。これは男の意地である。どうして自分の物にならない物がこの世にある。それが彼には理解できなかった。
◆◇◆
放課後。
田中君は、自家用車で帰宅するのを拒み、奈津子を追いかけまわす。迷惑がる彼女に手を回した。そのとき、
「はぁあああ! さっわんな!」
まるで例のヒット曲のように叫ばれて、背負い投げされる田中君。ビタンという音が痛そうだ。腰を抑えながらふらふらと立ち上がる彼を見てふんと鼻を鳴らす奈津子。
「へ、へーお前柔道できるんだぁ。すげぇな」
「うっせぇ。くせぇ口塞げや限か――」
「わ、わかった!」
どうやら地味だと思っていた奈津子は、だいぶ例の歌に感化されて病んでいるようだ。これは救ってやらねば。そう思った田中君。
「金か? 金がないのか? なら俺とつるめ。良い思いできるぞ」
「金ならあるわ。見くびるなよクズ」
「クズ!?」
はじめての言葉にびくびくしながらも謎の快感に襲われる田中君。その時彼の中で、
(絶対彼女の物になってやる)
という歪んだ心が芽生えた。
「あの……俺と付き合ってくれませんか」
「いやです」
「音楽が好きなら、シアタールームを貸し切りにしても良いです」
「うーん……」
少し考えるそぶりをしていた奈津子。あまりにも田中君が詰め寄るので、彼女は側溝でコケそうになった。奈津子の腕をパシッと強く掴む田中君。引き寄せたら意外と近い距離だった。多感な年だ。多少の意識は……してしまう。
「仕方ない。ちょっとだけならいいか」
「(´;ω;`)ウッ…」
こうして、田中君はシアタールームへと奈津子を案内するのであった。
◇◆◇
シアタールーム
高音質の環境で、社会に対する憎しみや恨み、不満などを垂れ流すような歌がガンガン鳴っている。最初は鼓膜が破れそうになったが、次第にそれにもなれた。しかし人は意外な一面を持つものだ。地味だと思っていた子がこんな凶暴なジャンルの音楽を聴くなんて。と、段々彼女に惹かれていく田中君。
「まつ毛入った」
奈津子が眼鏡をはずした。
(か、かわいい!!)
くりくりのぱっちりお目目に、上向いたまつ毛。小さな小鼻。整った顔……ライフポイントがガリガリ削られていく田中君。もう彼女にメロメロだ。異物を取り出した奈津子が再び眼鏡をかけた。
「何ジロジロ見てんだよ」
「ご、ごめんね。でもかわいかったからつい」
「これ、タナカ眼鏡のやつ」
「あ、かわいいって眼鏡の事じゃなくて」
「あ? 気に入ってんだよこちとら」
「ごめんなさい」
完全に告白するタイミングを失う田中君。彼の心は既に彼女一択になっていた。くそ雑魚女どもなどと一緒にいてもつまらない。このような一見地味だが、確固たる自分を持っている女に惹かれたのだ。
「あの……付き合ってくれませんか」
シアタールームで、自分の想いを全てぶつけた田中君。その表情は真剣だった。
「……毎日ここに連れてきてくれるなら」
「いいですとも、いいですとも!」
こうして、二人は付き合うことになったのである!
了
おまけ。
早朝。登校のために支度をしていた奈津子。ゴーゴーというけたたましい音がして、カーテンをめくる。そこには、ヘリからぶら下がった金の梯子を掴みながら満面の笑みを浮かべる田中君の姿があった。
「奈津子ー! 迎えに来たぞ!」
(やべぇコイツ。ヘリで来た……)