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チートなのは両親です。私はただの伯爵令嬢…えっ、悪役令嬢なんて聞いてませんけど!

作者: 美波

「ユリア・フォン・イーストウッド!

 そなたとの婚約をここに破棄する!」


ユリアが王宮でのお茶会に招待され、猫を被りながら参加している最中、魔法便が飛んできて、ケーキのお皿の前で開封されたかと思うと、自動再生が始まった。

我がマセラティ王国の第二王子オーネストのミニチュアが、テーブルの上で叫んでいる。実物の5割増しの可愛らしさだ。

ユリアはその再生を無言で見つめる。

そして、おもむろにオーネストのミニチュアを細い指で摘み、フィンガーボウルの中に入れてみる。

「プク…プ 

 プゥリア・プォン・プクプトプット…

 ポォなた…プの パパ…にプワー棄すプ…プク…」

ミニオーネストは、プクプクと叫びながらフィンガーボウルの中に沈んでいった。

(こういうおバカなところは、そんなに嫌いじゃないんだけど…)


言葉を発したのは、同席しているオーネストの母である、王妃ネティス。

「…あの、馬鹿息子…!」

優美な指先を握りしめ、ミニチュアオーネストが沈んでいったフィンガーボウルを睨み付ける。

ユリアは、香り高い茶葉の風味を味わいながら自身の空間収納から3枚の書類を取り出した。




ユリアは、マラセティ王国の東の国境を守る辺境伯爵家に生まれた。

衝撃的な事実を知ったのは7歳の時だった。

赤味がかった豪奢な金髪に空色の瞳をもつ母、アルテイシアが前世の記憶を持つ転生者だというのだ。

しかも、父は魔王を倒すべく異世界から召喚された勇者であったという。確かにマラセティ王国で見ることがない、黒髪黒眼である。

情報過多に陥ったユリアは、一つ一つを理解することを放棄し、両親の話をそのまま受け入れることにした。





父、有人(アルト)は高校生の時にこの世界に召喚されたそうです。部活の帰り道、気づいたら神殿の奥の院にいて、先王に魔王討伐を命じられたんですって。

17歳って、魔王を倒せるものなのかしら。

その頃、デビュタント前だった母、アルテイシアは先王の妹の降嫁した公爵家の令嬢で、前世の記憶を使って知識チートとかいう試みをしていたんですって。

自前の豊かな魔力を使って土壌を改善してみたり、治水?を試みたり、美容液の開発(私も恩恵に預かっております)をしたりして、公爵家を潤していたようです。

お父様は、倒すはずだった魔王と何故だか親友になって帰ってきて、先王の娘との結婚を蹴って、お母様と結婚したそうですけれど、その辺りの詳しい話は教えてもらえませんでした。まだ、早い、と言われて…。


ともかく、その頃、私は、両親が普通じゃなく、異世界(お父様の世界のことね)でいう『チート』というものだということは理解したのです。


そのことを私が受け入れてから、お父様もお母様も遠慮がなくなっていきました。


キャリアウーマン(自分をしっかりもって精神的にも経済的にも自立した女性らしいわ)だったというお母様は、王都から離れた我が領地イーストウッド(お父様が魔王と協力して開拓した新しい領地だそうです)を、どんな人でも住みやすいユニバーサルデザイン(これは何度説明されても解らなかったのです…)の街として創り育てていくそうです。

工業科(パソコン?とか精密機器?というものを学んでいたそうです)だったというお父様は、魔力を使って魔石にC言語(魔法陣のようなものだそうですが、もう全く理解できません)を書き込んで、生活のIT化を図るそうです。今のところ、物質の質量を変換して転移させることに成功したそうです。

次は人の転移に挑戦すると言ってましたわ。


そんな風に、我が家が東の辺境で好き勝手に街づくりをしていたら、いつの間にか国王陛下が代替わりしていたそうです。

それが今のエルナンド陛下です。

お父様とは、魔王討伐隊(討伐してませんけどね)で一緒だったようで、気安い仲だそうです。王妃殿下のネティス様は、隣国から輿入れされてきたのですが、一時、我が国の王立学園に留学されていて、若き日のエルナンド陛下と出会い、婚約を経てご成婚されたと聞いています。お母様とも級友でらしたそうです。

その縁もあって、第二王子オーネスト様と私ユリアとの婚約が結ばれているのですが…。






ユリアは、デビュタント前の13歳。

オーネストとの婚約が成ったのは、10歳の時だった。だが、オーネストは、幼い頃お忍びで出かけた先で運命の出会いをしたそうで、その初恋の君以外と結婚しない、と公言している。

そのため、隙あらば婚約破棄をしようと仕掛けてくる。

しかし、チートな転生者の母と、元勇者の父をマラセティ王国に留めるため、エルナンド国王とネティス王妃が二人がかりであらゆる手を使って、息子の婚約破棄を阻止しているのである。


ユリアの方としては、訳あってできれば婚約破棄を受け入れたいところなので、婚約破棄の阻止の合間を縫って、婚約破棄をなんとか成立させようと思っている。

その訳というのも……。





「あっ、ゆりちゃん!

 あなた、悪役令嬢になるみたいよ。」

「…は?

 ママ、一体、何の話なの?」

そう言われたのは、去年の冬、12歳の時でした。

最近になって、やっとちょうどいい感じの温度に調節できた、とかでイーストウッド家の家族用リビングは、『コタツデミカン』様式になってます。

ぬくぬくとしたコタツの中に両足を入れ、品種改良して超小ぶりにしたオレンジを食べていたところ、向かいに座っている母に、いきなりそう言われました。

母、アルテイシアの持つ、前世の記憶によると、私たちが住むこの世界はあるゲーム会社が出したシリーズもののゲームの世界観に酷似しているそうです。

RPGとか、生産系とか、アクション、都市育成、乙女ゲームとかいう…語句はよくわからないのですが、それらが同一の世界観で作成されたことがあったようです。

父、有人(アルト)は、どうもRPGの登場人物に近いようで、本来ならば魔王を討伐する予定だったようです。

母は

「ママ、乙女ゲームの悪役令嬢かと思っていたら、どうも都市育成バージョンだったみたい。

 ゆりちゃんの世代が乙女ゲームみたいなのよね。」

あ、私ユリアは、両親からは『ゆりちゃん』と呼ばれています。

父も母も家の外では、ちゃんと貴族然とした話し方や態度を崩しませんが、家の中では異世界ニホン(父の故郷)方式なんです。

私もはじめのうちは戸惑ったものの、ジャージー素材のルームウェアや靴を脱いで上がる私室、大きな湯船のあるお風呂の快適さに、あっという間に慣らされました。話し方も、家の中では現代風?でいいそうです。でも、外用にできるだけ令嬢語を使うように心がけています。


「乙女ゲーム?

 悪役令嬢って、何をするの?」

「そうねぇ。

 基本的なパターンは、ヒロインのシンデレラストーリーのスパイス役ね!

 ケナゲなヒロインをいじめて、王子サマに断罪されて国外追放っていうのが定番かしら。」

「なにそれ。

 超やりたくないんですけど。」

「でも、ゆりちゃん、王子サマと婚約しちゃたんだもん。」

紅をさしてもいないのに鮮やかなコーラルピンクの唇をとんがらせて「だもん」とかいう母アルテイシアは、今年、30です。


「すき焼き、できたよー」

魔導コンロに鉄鍋を乗せ、父有人(アルト)が夕飯を持ってきてくれました。

卓上魔道コンロも、すき焼きのためだけに作ったという鉄鍋も父の手作りです。

癖のない黒髪に、開いているかどうかわからないくらいの細い目の父は、母の3つ年上です。

母は、「前世の分を入れたら、私の方が年上よ〜」と言ってますが、正確な歳は教えてもらっていません。

「やりたくないなら、ブッチしちゃえばいいんだよ、ゆりちゃん。」

すき焼きを取り分けてくれながら、あっけらかんと言うので、ちょっとカチンときました。

その婚約の話を持ってきたのは、誰なんですか!

あなたですよ、オトウサマ!


ムッとした顔をした私に、サラッと父は言いました。

「この世界で自分の意志を通すのは、割と簡単だよ。

 力(物理)と金(知識チートと魔物を倒して得られる魔石で我が家は超お金持ちです)があればいいんだから。」

世界観が単純って、住みやすいね、という父有人(アルト)に悪気はないんです。

単純なのは、あなたがそうしてるだけじゃないでしょうか、オトウサマ…


お友達(エルナンド陛下)に頼まれて、気軽に二つ返事で婚約を受けてきたのは、あなたですよね、オトウサマ…


「でもねぇ。

 ゆりちゃんが、悪役令嬢の役回りなら、ちょっと準備しておきましょうか。

 備えあれば憂いなし!よ。」

そう言って母が準備したのが3枚の書類でした。





12の冬からいつでも取り出せるよう、常に空間収納に入れて準備をしていたのは、『婚約解消届』の内務省提出用、控え(甲)、控え(乙)の3枚です。

3枚とも我が家の欄は全て記入済み。

王家の欄も、父有人(アルト)がエルナンド陛下の分は署名をもらってきているそうです。

どんな手を使ったんでしょうか、オトウサマ…


あとは、王妃殿下の署名のみなのですが、交渉の結果、『決定的な失態』が起きた場合、署名をしていただけることになっています。






ユリアが、そっと、テーブルに書類を出すと、ネティス王妃は高速でミニチュアオーネスト殿下をフィンガーボウルから取り出し、パチンと指を鳴らして魔法便を消し去った。

「……」

「お茶のおかわりはいかが?

 ユリアちゃん、わたくしの祖国から取り寄せたとっておきの茶葉と焼き菓子があるのよ。」

 微笑みながらなかったことにする、大人の女性の態度を見て、ユリアは一応、空気を読んで書類を仕舞った。




お母様の記憶によると、『乙女ゲーム』が始まるのは、15歳だからあと2年。

私はただの伯爵令嬢なんだけどなぁ。

ユリアは、上品に焼き菓子を味わいながら、心の中でため息をついた。







もしかして、続く…かもしれません。

思いついたら書いてみます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前の方に同意。 [一言] でも続きは読みたいなあ
[気になる点] 未完成(オチなし)であるなら、そのことについてあらすじで言及してほしかったです。オチがなくてがっかりしました。 あと、現段階では恋愛要素もないのでジャンルもファンタジーとかの方が良いの…
[一言] 長くなくて良いので続きを読んでみたいです。
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