第八話
「美味い美味い」
「ピピー!」
キーラの実に舌鼓を打っていたソーマとアスル。
「ん? なんだ?」
「ピー?」
そんな二人だったが、ふと違和感を覚える。
最初は何かがおかしい気がする程度。
次に、気づいたのは動物の鳴き声も気配も感じないこと。
そして、ドスーンという大きな音がして、その後にどこかで木が倒れる音がした。
「アスル、これは……なにかいるぞ!」
音は少しずつ近づいてくる。
ソーマは剣を構え、アスルも戦闘態勢に入る。
「「「うわああああああ! 逃げろおおおおおお!」」」
大きな音の先頭には三人の冒険者の姿があり、ソーマたちがいる場所に走ってくる。
「あれ、確かギルドの入り口ですれ違った冒険者の人たち」
のんきにそんなことを口にするソーマは武器を構えてはいるものの、表情は笑顔だった。
「お、お前も逃げろ! やばいぞ!」
冒険者たちはソウマの隣を駆け抜けて、更に逃げていく。
「いやいや、俺たちは
「さてっと、アスル。やるぞ!」
「ピー!」
逃げるつもりなど毛頭なく、二人はやってくる脅威に立ち向かう。
足音はどんどん近づいてきて、ついに姿を現す。
「こいつは……バジリスク!」
巨大な蛇の姿に足が生えておりサイズはソーマが見上げるほどだった。背中にはドラゴンのような翼があり、頭はまるでニワトリのそれである。
ソーマがその魔物の名前がわかったのは、現れた瞬間に鑑定を使ったためだった。
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種族:バジリスク レベル:40
説明:相手を石化させる唾液を持つ。
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「ということは……」
ソーマはチラリとバジリスクがここまで通ってきた道に目をやる。
そこには石化した木や地面がある。
「あらら、唾液が飛び散ってあんなことになっているのか。アスル、あいつが吐き出す毒液には気をつけろ。石になるからな」
バジリスクの口からぽたぽたと垂れている唾液は、触れるところから一定範囲石化させている。
「ピピー!」
わかっているとソーマが返事をする。アスルは他のスライムに比べてかなり知能が高くなっており、現状を、そして相手の能力を理解していた。
「そんじゃま、バジリスク討伐といきますか!」
このままにしておけば、森の被害が広がる。もしかしたら、他の冒険者が出くわしてしまう可能性もある。であるならば、ここで自分たちが倒すのが一番の安全策だとソーマは考えていた。
ソーマは剣を手にしてバジリスクに向かって走りだす。
同時に、アスルもバジリスに向かって移動を開始していた。ただし、ソーマとは別の方向から。
「やあああああ!」
ソーマはバジリスクに近づくと、足に斬りつける。
ミスリルの剣を使って、ソーマの能力値であればかなりの威力を発揮する。
その狙いどおり、バジリスクの右足に大きな傷をつけることに成功した。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアア!」
苦しいからか、痛みからか、怒りからか、大きな声をあげたバジリスクはそれと同時に首を大きく振って、周囲に石化効果のある唾液を振りまく。
それが付着した木々や地面はみるみるうちに石化していった。
「ははっ、こいつはやばいな」
口ではやばいといいながらも、ソーマの表情は笑顔だった。強敵を相手にする緊張感、考えを巡らせないといけないという状況。それは楽しいものだった。
「それそれそれ!」
唾液を回避しながら、ソーマは次々に身体へと斬りかかっていく。
「ピッピピー!」
アスルはというとソーマとは逆の方向から溶解液を浴びせて、ジワジワダメージを与えていく。
しかし、どちらの攻撃もバジリスクの表皮に傷をつけるだけで深い傷を負わせることはできずにいる。
「だったら……アスル! 交代だ!」
「ピー!」
ソーマのその言葉だけで理解できたアスルは、戦う位置を交代する。
バジリスクの左側にソーマが、右側にアスルが位置取る。
「これでも、くらええええ!」
アスルの溶解液によって溶かされた皮膚。そこにソーマがミスリスの剣を突き刺していく。皮膚の固い部分が溶けていることで、ソーマの攻撃が通りやすくなっていた。
「ギギギギイイイイ!」
痛みからバジリスクが声をあげる。
「ピッピピー」
反対側に移動したアスルは、ソーマがつけた傷がある場所に溶解液をかけていく。
「ギギャアアアアア!」
傷から溶解液がしみ込んでいき、内部へとダメージをあたえていく。
蓄積されたダメージはバジリスクの動きを鈍らせ、高い位置にあった頭部が徐々に下がってきた。
それでも、ソウマが攻撃をするにはまだ高さがある。
「アスル!」
「ピー!」
ソーマの呼びかけにアスルが応える。
アスルはソーマの足元で丸くなってから、膨らむ。
ソーマはそのアスルを足場にして跳躍すると、上段に構えたミスリルの剣をバジリスクの首へと思い切り振り下ろした。
ボトリ
声もなく、バジリスクの首が地面に落ち、身体も大きな音をたてて倒れた。
「ふう、お疲れ様」
「ピピー!」
ソーマもアスルも少しの疲れはあったが、いつもと同じ一つの戦闘を終えた程度の気楽さで声を掛け合った。
「おーい、大丈夫か……って、うわあ、倒してる!?」
先ほど逃げていた冒険者たちは、追いかけてくる音がなくなったことに気づいて引き返していた。
「く、首が落ちてる……」
「えっ? 一人で倒したの? あのバジリスクを?」
バジリスクの死体を前にしているソーマを見て、冒険者たちは驚きを隠せずにいた。
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