第七話
「ちょっと聞きたいんですけど……」
「ああん? なんだ?」
ソーマの言葉に返事をしたのはゲンガン。
「いや、あなたじゃなくて、受付のお姉さんに」
「は、はい、なんでしょうか?」
「さっきこの人は俺をぶん殴って処分を受けましたけど、絡んできたこの人を俺が殴ったら同じように処分を受けることになるんですかね?」
そうなってしまっては、せっかく受けた依頼が無駄になってしまうための確認だった。
「いいや、そもそもがゲンガンが絡んできたのが原因だということは誰もがわかっている。ならば、そこで反撃をしたとしても正当防衛だ」
答えてくれたのは未だギルドホールにいたギルドマスターだった。
「それを聞いて安心しました……せいやあ!」
ソーマは単純な正拳突きをゲンガンに向かって繰り出した。
細身のソーマの拳を受けたところでなんてことはないだろうと、ゲンガンはニヤリと笑って堂々と受けることにする。
「ぐへえええっ!」
しかし、結果はゲンガンが吹き飛ぶというものだった。
ゴロゴロと転がったゲンガンはそのままギルドの入口から外に出てしまった。
「まあ、そういうことで、俺は行きますね。あの人の治療とかはお願いします。それじゃ!」
ソーマは爽やかな笑顔を見せると颯爽とギルドを出発していった。
静まり返ったギルドホールで、残された人々はポカンと口を開けて呆然としている。
先ほどはソウマが吹き飛んだ。しかし、今度は反対にゲンガンが吹き飛んだ。それも、ソーマの時以上の距離を。更につけ加えると、ゲンガンはピクピクと痙攣して動かなくなっている。
ギルドを出たところで、数人の若い冒険者とすれ違ったが、彼らも倒れているゲンガンに驚いているようだった。
一方でソーマは機嫌よく鼻歌を歌いながら西門に向かっていく。
「しかし、RPGの定番スライムを仲間にして、これまたRPGの定番ゴブリンを倒しに行くなんてな。ゲームっぽくて面白い」
ニヤリと笑ったソーマは西門から出発して、道なりに平原を進んでいく。
平原では魔物と出くわすことはなく、そのまま森へと到着する。
「ここならいいだろ、アスル出てこい」
声をかけるとアスルがカバンからにゅるにゅると出てくる。
「ピー!」
狭いカバンの中にいたため、アスルは開放感から嬉しそうにピョンピョン跳ねている。
「さてさて、この森にゴブリンとホーンウルフという魔物がいるらしい。ゴブリンは小さな鬼で、ホーンウルフは多分額に角の生えている狼だ」
本当はギルドで情報を集めてから出発するつもりだったが、ゲンガンが絡んできたため確認をするのを忘れていた。
「まあ、それくらいの情報でも多分なんとか……しっ」
話していたのはソーマ一人だったが、人差し指を口もとにあてて静かにするようポーズをとる。
アスルも返事はせずに、黙っている。
二人の視線の先にいるのはゴブリンだった。数はちょうど依頼と同じ五体。
ソーマは自分を指さしてから、指を三本立てる。
それに対してアスルは頷いたように見せる。実際にソーマの言いたいことを理解しており、二体のゴブリンに狙いを定める。
加えて、ギルド内での話も聞いていたためゴブリンの左耳を証拠として持っていくこともわかっている。
「それじゃ……」
「ピー!」
アスルの声を合図に二人は飛び出した。
ソーマは右側から、アスルは左側からゴブリンを急襲する。
「ギャギャギャッ!?」
「ギャギャー!」
慌てるゴブリン、武器を持とうとして落としてしまうゴブリン、腰のナイフを抜いて構えるゴブリンなどなど対応は様々である。
しかし、対応が一番早いゴブリンでも、二人の接近の速さには対応しきれずに動揺の色が浮かんでいる。
「せい! やあ! とう!」
ミスリルソードを三度振ったところで、三体のゴブリンの首が身体から離れていた。ミスリル製の剣は軽く、なおかつ鋭いためあっという間に倒すことができた。
「アスル! ……は、問題なしだな」
自分の分のノルマを終えたため、すぐにアスルの動きを確認するが既に二体のゴブリンを倒しており、ソーマにガッツポーズを見せていた。
「ピーピー!」
アスルは体当たりでゴブリンを倒すと、溶解液を使って左耳を切り落としていた。
「よーしよし、うんうん。さすがアスル。綺麗にとれてるよ」
ソーマはアスルの分、そして自分が倒したゴブリンの左耳をダークストレージに収納していく。
そこにはゴブリンの左耳×5と表示されている。
「これで一つ目は完了……次行こう!」
「ピー!」
二人は森の中を歩き回って、ホーンウルフを探しに行く。
まずはホーンウルフの討伐から向かう二人だったが、そちらは二人の実力であれば問題のない相手であり、あっさりと三十体のホーンウルフを倒して角を手に入れていた。
「さて、これで依頼は完了したからあとは……」
ソーマとアスルは、広大な森に目を向けてワクワクしていた。
今回は討伐系の依頼を選んだが、掲示板には薬草などの採集系の依頼も掲示されていたため、ソーマは採集もしてみようと考えていた。
そこで問題になるのが、ソーマはこの世界の薬草などの知識がないことだった。
「ふっふっふ、神様からもらったこの便利能力。鑑定!」
ここまでの経験から、ある程度詳細な能力を見ることができるのは自分のステータス、もしくは契約している魔物などの能力。
戦った魔物などは詳細な情報を得られない。
「でも、名前さえわかれば十分なんだよなあ」
ニヤリと笑って鑑定をそのあたりにある草に使う。
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名称:キーラの草
説明:成長するとキーラの実をつける
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「これは、外れか。キーラの実っていうのが気にはなるけど、次を見てみよう」
いくつか森に生えている草花を鑑定していくと、薬草、毒草、麻痺草など使えそうなものがあったため、それらを採集していく。
「お、アスル。それがキーラの実だ!」
アスルも楽しいらしく、色々なものを拾い集めてきてソーマに見せていく。その中の一つが最初に鑑定した草の説明にあったキーラの実だった。オレンジ色で丸々としており、リンゴのような形で皮が桃のように柔らかく、色がみかん。
「……食べてみるか」
鑑定では毒の記述がみられなかったため、試しに口にしてみる。
「……美味い! あれ、これすごい甘くて美味いぞ! アスル、どこにあった?」
「ピピー!」
ソーマが喜んでくれたことが嬉しく、アスルはピョンピョン跳ねながらキーラの実の場所まで案内する。
そんな大量の実に喜んでいる二人のもとへと、遠くから悲鳴が届く。
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