第四話
「そ、それでは改めてソーマ殿の力を確認できたところで、早速出発しようじゃないか。ソーマ殿も、そのスライム殿も一緒に乗ってくれ。ダンク、アリュー出してくれ」
未だショックの中にありながらもなんとか気を取り直したダンク、そしてその様子を見て笑っているアリューの二人が御者を担当していく。
「ソーマ殿、うちのものが申し訳ないことを言った。あいつも職務に忠実であるがゆえに、頭の固いところがあってな……あとできつく言っておくので、どうか許してほしい」
「ごめんなさいです」
ダンクに変わって、雇い主であるグレイグとその娘のアリアナが謝罪をする。
立場のあると思われる人間が、下のものの不始末を素直に謝罪できることに、ソーマは好感を持っていた。
「いやいや、気にしないで下さい。忠誠心の現れだと思いますし、確かに俺みたいなやつがオーガソルジャーを倒して、回復までしたなんて怪しく思われても仕方ないです」
一見して強者あるように見えない、普通の青年であると自覚しているため、ソーマはこんな風に言う。
「いやいや、ソーマ殿はすごい……その歳で自らのことを律することができるとは」
一般的に考えれば、あんな風に言われれば怒っても仕方のないことである。しかも助けた相手に言われたともあれば、なおさらである。
「ソーマ様、素敵です!」
にも関わらず、怒ることも驕ることもしないソーマのことを二人は賞賛していた。
「ははっ、それはちょっと褒めすぎですよ。それよりも、このまま一緒に行って俺は街に入れるんですかね? 身分証とか持ってないんですが……」
身分を証明するものは持っておらず、同行しているのが魔物のスライムである。そんなソーマでも大丈夫なのかと確認する。
「問題ない、私はこれから向かう街の領主だ。君たちに対して文句は言わせないし、身分証はこちらで用意させよう」
「そうだわ、お父様! うちに泊まってもらいましょう! お好きなだけいてもらっていいと思います!」
「うむ、それがいいな!」
二人ともソウマのことを気に入ったらしく、魅力的な提案をしてくれる。
「身分証はありがたいですし、しばらく泊めてくれるのもすごく助かります。なにせ頼る相手がいないどころか、ここらへんのことを全く知らないもので……でも、泊めて頂くのはしばらくでいいです」
しばらくでいいというところを、ソウマはあえて強調する。
神からの手紙では、好きに生きていいと言われている。だが、せっかくこちらの世界で自由に生きることを許されたのであれば自分の力で色々なことをやって、自分の力で生き抜いてみたいと考えていた。それは、地球では決して許されなかったことである。
「そう、ですか……」
「うむむ、まあすぐにというわけではないから、好きなだけいるといい」
恩人に対してあまり強引に話をしても仕方ないと、二人はそこで引き下がることにした。
その気持ちはソウマに十分伝わっていた。しかし、それ以上に彼は初めて乗る馬車の感覚と爽やかな陽気と風を楽しみたいと思っていた。
(そういえばオーガソルジャーを倒したけど……どうなってるかな?)
ついでにソウマは自分たちのステータスを念のため確認していく。
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名前:ソウマ=キタガミ
種族:人間 性別:男
称号:神々の加護を受けし者
職業:獣魔使い レベル:12
体力:320(+1100) 魔力:270(+1100) 腕力:320(+1100) 素早さ:295(+1100) 運:720(+1100)
加護:光神の加護、闇神の加護、武神の加護、魔法神の加護、鑑定神の加護、商神の加護、
鍛冶神の加護、治癒神の加護、時神の加護、成長神の加護、魔神の加護
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名前:アスル
種族:スライム 性別:
称号:ソウマの使い魔
レベル:8
体力:140(+60) 魔力:140(+60) 腕力:130(+60) 素早さ:165(+60) 運:80(+60)
加護:ソウマの加護
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(思った以上に色々上がってるなあ)
そんな風に思いながら、ソーマは再び流れていく景色に目をやっていた。
それからしばらくして、一行は街に到着する。
予定より幾分か遅い到着だったが、全員無事であることとグレイグからの説明によってすんなり通過することができた。
また、その際にソーマの顔見せもして身分証を作る手はずもとってくれた。
命の恩人であることを話すと、入り口で入場チェックをしている衛兵から何度も頭を下げられることとなった。
このことからもグレイグとアリアナが、この街でいかに愛されているかがよくわかった。
屋敷でも事情を話すと使用人たちから歓待されることとなる。
夕食を終え、風呂を頂いたあとでソーマはグレイグの部屋へと呼び出された。
「ソーマ殿、くつろいでもらえているかな?」
「えぇ、もちろんです。こんなによくしてもらうと、逆に恐縮しちゃいますけどね」
広めの部屋を与えられ、食事も特別に指示を出して良い素材を腕のいいコックが調理していた。服も、最初に着ていたものでなく新しく用意された。
「武器まで用意してもらいましたからねえ」
グレイグは武器を持っていなかったソーマに、ミスリルでできた新品の剣を用意してくれた。ミスリルは軽く、魔力との親和性が高い。値段もそれなりである。
「いやいや、礼をしてもし足りないくらいだ。何か困ったことがあれば何でもいってくれ。必要なものもいくらでもそろえよう」
ソーマとしては大したことをしていないつもりであるため、グレイグが予想以上に重く強く思っていることに、戸惑っている。
「そうそう、この街で活動をするにしても最低限の資金は必要だろう。こちらを持って行ってくれ」
グレイグが取り出したのは大きめのきんちゃく袋のようなものであり、重量のあるそれはドサリと音をたてて机の上に置かれ、更には金属がぶつかりあう音が聞こえた。
「……えっとこれってお金ですよね。多分、すごく多いと思うんですけど?」
「うーむ、これでも少し抑えめにしたんだがな……ソーマ殿が断るかもしれないと考えた末にこの量に決めた。受け取ってくれ、そこに置いてあるカバンを使うといい」
金をくれると言ってくれて、しかもソウマの性格を考えて抑えてくれたともなれば、それ以上文句を言うわけにもいかず受け取ることにする。
「それでは、ありがたく頂きます」
「うむ、よかった。まだ寝るには少し早いから話でもしたいのだが、いいかね?」
「もちろん」
部屋に備えるけられているソファに腰かけて、二人は夜遅くまで互いに色々な話をすることとなる。
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