第三話
「なるほど旅人だったか。失礼、恩人に対して失礼な態度を何度もとってしまった。私の名前はグレイグという。こちらは娘のアリアナだ。今回は危ないところを助けてもらって本当に助かった、ありがとう」
グレイグは深々と頭を下げて謝罪と礼を口にする。アリアナも隣で頭を下げていた。
「あぁ、気にしないで下さい。突然現れた男が魔物を連れて、別の魔物を倒したら怪しく思うのも当然だと思いますから」
ソーマは笑顔で言うが、グレイグとアリアナは笑顔を返しながらも内心で『そこじゃない!』とツッコミをいれていた。
「あ、あの、ソーマさんはなぜそんなにお強いのですか?」
ツッコミたい気持ちを抑えられなかったアリアナは思わず質問をしてしまう。隣のグレイグはよくぞ聞いてくれたと小さく拳を作っている。
「えっと、俺は……その、あれです、多分、他の人よりも少しだけ神様に気に入られているからかと」
苦し紛れに出た言葉がこれだった。
「えっ! すごい、もしかして加護持ちなんですか!?」
「それはすごいぞ! 私もこれまで加護を持っている者など、数人しか会ったことがない! しかもそれが神のものともなると初めてだ!」
しかし、その選択は正解だったらしく二人から好意的な驚きという反応を引き出すことに成功した。
「ま、まあ、そういうわけなので、あまり他の人には言わないでいてくれると助かります」
思っていた以上にレアなケースであるらしいため、ソーマは口止めを頼む。
「もちろんです!」
「うむ、承知した」
アリアナとグレイグが即答する。その反応を見たソーマは、思いついた質問を口にする。
「その、加護持ちというのが珍しいというのはわかりましたが……その、すごいものなんですか?」
加護を持っているものがそんなにすごいことなのか? と実感のないソーマが質問する。
「それはもちろん! 一つ加護があるだけで、様々な能力が強化されるんですよ!」
「うむ、加護を持っているというだけで騎士団、冒険者パーティ、護衛など引く手あまたというものだ!」
二人が熱く語ることで、そのすごさの一端が伝わってくる。
そして、その説明を聞きながらソーマは自らの加護の数が十一あることを思い出している。
「さて、それはそれとしてどうやって帰るかが問題だな……」
騎士の二人は傷が回復したためいずれ目を覚ます。馬もなんとか無事で近くにいてくれている。しかし、馬車はオーガソルジャーによって潰されてしまったため乗ることが叶わなかった。
「あー、馬車ですね」
ソーマはそう言いながら壊れた馬車の状態を確認していく。
馬車の本体はボロボロで、車軸も折れ、車輪も破損し、幌も切れてしまっている。
「どこまでできるかわかりませんが……ちょっと修理してみますね!」
袖まくりをすると、ソーマは馬車の構造を確認し修理にとりかかる。
(普通に修理をすると道具がない、だったらこんなことはできないだろうか?)
ソーマは自分が持っている加護のことを思います。
①鍛冶神の加護
おそらくこれは、物を作ることに対してアドバンテージを得ることができるものである。
②治癒神の加護
こちらは先ほど回復魔法を使えたことでわかるように、治療系の魔法を使うことができるものである。
「オブジェクトヒーリング!」
オブジェクト(物)ヒーリング(治療)する、これはソーマが思いつきで生み出した魔法である。
魔法の光に包まれた馬車は、みるみるうちに修復されていく。
時間にしてみれば一分程度でオーガソルジャーに壊される前の状態に戻っていた。
「「「「すごい……」」」」
グレイグとアリアナ、そしていつの間にか目覚めていた騎士二人が馬車を見て同じ言葉を口にしていた。
「汚れとかは綺麗になってないみたいなので、多分直せる時間に制限とかでもあるのかな? まあ、これで我慢してもらえると助かります。申し訳ない」
新品同様とまでいかないことにソーマは頭を下げて謝罪する。
「い、いやいや! これはすごいことだ! 謝る必要などない、むしろ感謝させてくれ!」
「ありがとうございます! あんなに強い方が、こんなことまでできるなんて……」
グレイグとアリアナが頭を下げて礼を言う。
「「……」」
騎士二人はといえば、未だに言葉も出ずにいる。
「ど、どうしてここまでのことができるのですか?」
当然の疑問をアリアナが口にする。
「えっと、それもその、神様の……」
「加護なんですね! すごいです、戦闘、回復に続いて壊れた馬車の修理までできるなんて!」
ソーマの言葉の続きをアリアナが先に言う。それほどに興奮しているようだった。
「とりあえずこれで馬車には乗れるので、よければ俺とこいつを一緒に街まで連れて行ってくれると助かるんですが……旅の途中で道に迷ったもので、街がどっちかもわからないんですよ」
ソーマは頭を掻きながら、さもそうであったかのように語る。
実際に道に迷っていたのは本当で街がどっちなのかもわからないため、あながち嘘とも言えなかった。
「もちろんだ。命の恩人である君たちなら大歓迎だ! それだけでなく、馬車を直してくれたのも君たちなのだから断る理由がない!」
グレイグはそう断言し、隣でアリアナも頷いている。
「そ、その馬車を直してくれたのはありがたいのですが、彼は本当に信用できるのでしょうか?」
あまりにものすごいことを簡単にやってのけたソーマに対して、騎士の一人ダンクは慎重になっている。
「い、いやいやダンク、それはちょっと言いすぎなんじゃないかなあ? ほら、僕たちだってかなりの怪我をしてたでしょ? それを治してくれた恩義はあると思うんだよねえ。旦那様とお嬢様を守ってくれたのも彼だよ?」
もう一人の騎士である、アリューはそんなダンクのことをなだめようとする。
本来グレイグとアリアナという騎士二人が守るべき主を実際に守ったのはソーマである。だから、感謝こそすれ、批判をするのは違うとアリューは考えていた。
「それだ! 俺たちが起きた時にはオーガソルジャーの姿はなく、誰も怪我もしていないという結果があっただけだ。もちろん旦那様やお嬢様が嘘をついているとは思っていません。恐らく、その男が何やら言い含めたのでしょう……」
ダンクは彼なりの正義感からこんな発言をする。ソーマの実力を見ていないことも、彼を信じることができない要因の一つであった。
「えっと、方向さえ教えてもらえれば俺たちは徒歩で移動するので、どっちに行けばいいかだけ教えてもらえれば……」
「ダメです!」
「うむ、ダメだな。それでは恩人に対して礼を失しすぎてしまう」
別の提案をしてもダメと言われてしまったソーマはそれならばと、一つ提案をする。
「……うーん、それじゃあそこにある岩を俺が殴るというのはどうでしょうか?」
「は?」
とんでもないことを言うソーマにダンクは驚いている。
「この岩を壊せるくらいの力があるとわかれば、少しは力を信じられると思うんですけど……」
言いながら、ソーマは岩の前に立つ。
「それじゃ、いきますよ!」
ソーマの拳が大きな岩に振り下ろされる。
ドゴン! という、およそ人の拳が繰り出したものとは思えない音が生み出され、そこにあった大岩が砕かれた。
「ふう、これでどうですかね? 動きのあるオーガソルジャーとは比べられないと思いますけど、少しは力を見せられたんじゃないかと……あれ?」
ダンクだけでなく、グレイグ、アリアナ、アリューと、全員が口をあんぐりと開けて岩の在った場所を見ている。
「えっと……やっぱり、魔物を探して倒したほうがいいですか? それとも、手に傷をつけて治すところを見せたほうがいいですか?」
その反応を見たソーマは納得いってないのではないかと考え、次の提案をしようとしたが四人が大きく首を横に振っているためホッと胸をなでおろす。
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