第一話
「ここは、草原?」
そう呟いたソーマはなぜここにいるのかわからなかった。
「えっと、なんでこんな場所に……って、あれ? 名前、はわかる。でも、何をしていたのか覚えてないな……なんか服も覚えがないものだし、一体なんなんだ?」
状況がわからないため把握しようと周囲を見回し、次に自分の身体を確認する。確認すると意識したところで、目の前に一枚の半透明のプレートが表示される。
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名前:ソーマ=キタガミ
種族:人間 性別:男
称号:神々の加護を受けし者
職業:獣魔使い レベル:1
体力:100(+1000) 魔力:50(+1000) 腕力:100(+1000) 素早さ:75(+1000) 運:500(+1000)
加護:光神の加護、闇神の加護、武神の加護、魔法神の加護、商神の加護、
鍛冶神の加護、治癒神の加護、時神の加護、成長神の加護、魔神の加護
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「……場所はわからなかったけど、俺については少しわかったな」
冷静に自分のステータスを確認するソーマ。
「いやいや、いやいやいやいや、これは、えっ? なんだ?」
しかし、すぐに能力がおかしいと感じて慌てる。ソーマはなぜここにいるのかわからずにいるが、地球にいた頃の知識は残っている。ゆえに、ゲームのように表示されている自分のステータスが異常だということを感じていた。
レベルが1なのは理解ができる。体力などのパラメータについてはよくわからないが、加護が圧倒的に多かった。しかも、名称を見る限り特別なものであるように見える。
「いや、これってどういうことなんだ?」
先ほども呟いていたように、彼の最後の記憶は日本でバイトからの帰り道。
「ん? ……手紙。服装もなんか違うな」
ズボンのポケットの中に何やら一通の手紙が入っていることに気づく。服装は普段着ていたソレとは異なり、シンプルなデザインのズボンとシャツだった。
それはさておき、ソーマは手紙の封をあけて中身に目を通す。
『ソーマ、お前はなぜ自分がその場所にいるかわからないと思う。しかし、我々はお前と過ごし修行をした長き時を忘れない。相談の結果、記憶を消してそちらの世界を一人のソーマとして、一から楽しむことにするということになった。ただ、過ごしやすいように簡単な鑑定能力はつけておいた』
初めて見る文字だったが、ソーマはどこか懐かしさを覚えていた。
『我々のことが記憶になくとも、我々の加護はお前の身を守り、お前の力になるはずだ。お前が実際にほとんど遊ぶことのできなかったゲームのような世界だ。剣や魔法が使える世界だ。我々の加護を持っているお前なら様々なことができるはずだ。そして、レベルが上がればもっともっとたくさんのことができるようになる……月並みな言葉だが、頑張って楽しんでくれ!』
ソーマには手紙の主である神々の記憶はない。それでも温かさを感じて、いつの間にか手紙を抱きしめていた。すると手紙はスーッとソウマの身体の中に消えていった。
そして、自分の心が打ち震えているのを感じる。
ソーマは家庭環境が良くなく、生活も楽だとはいえない暮らしを余儀なくされていた。その中でゲームの攻略本を読んで、その世界を空想して楽しんでいた。その記憶ですらも今は曖昧だ。
しかし、実際に自分がこの世界で『自由に』生きていいと言われた。
これまで、自由に生きて来られなかった彼にとって、何よりもの幸福だった。
「魔法……使えるのかな? ファイアーボール?」
ソーマはワクワクしながら、記憶にある中で初級といえる魔法の名前を口にする。
すると、手のひらに火の玉が現れる。
「すげえ……本当に使える! 消えろ!」
出現した魔法を消す。
「アイスボール!」
今度は氷の玉が現れる。頭の中で複数イメージしていたため、ソーマの周囲に五つの氷の玉が出現していた。
「うはっ! これはすごい、すごいぞ! それじゃ、エアカッター!」
ソーマは今度は風の刃を生み出した。周囲に待機させるイメージではなく、前に射出するイメージで。しかも、かなり広い範囲をカバーできるようなサイズで。横幅はおよそ十メートル。
風の刃は前方に現れそのまま、勢いよく前に進んでいく。
草原であるため、背の高い草刈られていく。しかし、草程度ではその勢いを止めることはできない。
「グギャアアアア!」
「ガオオオオン!」
すると、エアカッターが飛んでいった先から獣の叫び声のようなものが聞こえてきた。
「あれ?」
思ってもみなかった反応にソーマは慌てて声がした方向へと駆けつける。
背の高い草が刈られているため、走りやすかった。
「うわあ……」
到着したソーマの第一声がこれだった。
そこには十を超える狼の身体が真っ二つになっている光景だった。
「まさか、魔法の練習していただけでこんなことになるとは……」
普通の狼よりもやや大きいサイズだったようで、ちょうど首の少し下を両断していた。
「ま、まあ、魔物を退治したってことで! そ、それよりももしかしてこれでレベル上がってたりしないかな?」
内心の動揺を抑え込むように自分に言い聞かせ、誤魔化すようにステータスを確認する。
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名前:ソーマ=キタガミ
種族:人間 性別:男
称号:神々の加護を受けし者
職業:獣魔使い レベル:5
体力:180(+1000) 魔力:130(+1000) 腕力:180(+1000) 素早さ:155(+1000) 運:580(+1000)
加護:光神の加護、闇神の加護、武神の加護、魔法神の加護、商神の加護、
鍛冶神の加護、治癒神の加護、時神の加護、成長神の加護、魔神の加護
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「……うん、レベルアップしてるね」
気づいたらレベルが上がっていたというなんとも言えない感覚を覚えながらも、ソーマは自分のステータスの異常さを改めて確認している。
「ピピー!」
すると、足元から何者かの鳴き声が聞こえてくる。
「スライム?」
「ピピー!」
返事なのかはわからなかったが、スライムは鳴き声をあげる。
「魔物だけど敵対は、しないのか?」
「ピー!」
今度こそ返事だとわかる鳴き声。どうやらソーマの言葉を理解しており、問いかけに答えていた。
「もしかして、あの狼たちに襲われていたのか?」
「ピー!」
今度もソーマの質問を肯定するような鳴き声を上げる。期せずして、ソーマはこのスライムのことを救う結果になっていた。
『どうやらスライムが仲間にしてほしそうにこちらを見ている』
そんな言葉がどこからか聞こえて来たような気がした。
「えっ?」
本当に聞こえたのか、空耳なのかわからないがそれはスライムの言葉を代弁しており、キラキラとつぶらな瞳で見てくる。
『仲間にしますか? Y/N』
「うおっ、今度はメッセージまで出てきた……まあ、別に害はないみたいだしYESってことで」
ソーマにだけ見えるメッセージが空中に浮かびあがり、Yを指でタップする。
するとスライムは光輝き、一筋の赤い線でソーマと繋がり契約が完了する。
「えっと、これで上手くいったのかな?」
「ピーッ!」
先ほどまではただ鳴いているだけだったが、今ではなんとなく感情を読み取れるようになっていた。
「へー、これが魔物と契約した状態になるのか。どれどれ能力は……えっ?」
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名前:
種族:スライム 性別:
称号:ソーマの使い魔
レベル:1
体力:20(+30) 魔力:20(+30) 腕力:10(+30) 素早さ:45(+30) 運:40(+30)
加護:ソーマの加護
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「俺の、加護? ま、まあいいか。なんにせよ、第一むらび……いや村人じゃないな、第一魔物……はさっきの狼だから、第一使い魔ゲット! ってとこだな」
「ピピーッ!」
「ははっ、喜んでいるな。よかった、これから一緒に強くなっていこう!」
喜んでいるということがソーマには伝わっており、スライムはソーマの周囲をピョンピョン飛び跳ねて身体でもその喜びを表していた。
「街がどっちにあるかわかるか、えーっと……」
ここでスライムの名前が空欄であることに思い立つ。
スライムはどうかしたのかと首を傾げている、ような雰囲気を出している。
「名前、俺がつけてもいいか?」
「ピーッ!」
それが嬉しいらしく、先ほど同様にスライムはピョンピョン飛び跳ねまわっていた。
「そこまで喜んでくれると責任重大だな……」
そう呟くとソーマは目を瞑り腕を組んで考え込む。
(スラピー、スラどん……いやいやスラ●●なんてのは安直すぎる。こいつの色は青か、どこの国の言葉だったか、ブルー以外の言い方で……)
「アスル……」
「ピッ!」
「お前の名前はアスルだ!」
その昔、なんとなく検索したワードの中にあったいずれかの国で青を指す言葉。ソーマはそれをスライムの名前にした。
「ピッピピーッ!」
アスルという名前を自分のものだと認識し、そして情報に登録されていく。それは何よりの喜びであり、アスルは大きな声をあげゆっくりと実感していた。
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名前:アスル
種族:スライム 性別:
称号:ソーマの使い魔
レベル:1
体力:20(+60) 魔力:20(+60) 腕力:10(+60) 素早さ:45(+60) 運:40(+60)
加護:ソーマの加護
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「……名前が登録されている以外にも数値が大きくなっている。仲間にすると仮契約、名前をつけて本契約ってところか」
名前を与えたことで互いの繋がりが強くなり、加護による効果が強化されていた。
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