第十八話
多くの驚くべき情報を一気に聞いたグレイグは、ソーマだから仕方ないと思うことにして無理やり自分を納得させていた。
「とにかく今日のところはお疲れ様。部屋はどうするね? ソフィアさんの部屋も別に用意させようか?」
「い、いえいえ! と、とんでもありません! 私はご主人様のお部屋の隅にでも置いて頂ければ十分です!」
領主であるグレイグの提案に、ソフィアは慌てて自分には分不相応であることを申し出る。
「そ、それに、私のことはどうぞソフィアと呼び捨てにして下さい」
奴隷の自分が領主にさん付けで呼ばれることに、なぜ? という混乱があった。
「ふーむ、君の立場はわかるが命の恩人であるソーマ殿の同行者に対して呼び捨てというのは難しいな」
「そうです! ソーマ様のお供の方であれば、ソフィア様も大事なお客様です!」
「そ、そそそ、そんな!」
領主が呼び捨てできないといい、領主の娘が様付けをしてくる状況にソフィアは混乱の渦中にいた。
「まあまあ、ソフィア。二人は俺に良くしてくれる人だから、厚意に甘えよう。ただ、部屋は俺と同じで、小さなベッドを一つ部屋に用意してもらえると助かります」
「お安い御用だ! 聞いていたな。手配を頼む」
グレイグは部屋の入り口のあたりに待機していた執事に命令する。執事は一つ会釈をすると、ただちにベッドの手配に向かっていった。
「そ、その、ありがとうございます……」
消え入りそうになりながらソフィアが礼を言う。小さい声だったが、それでもなんとか精一杯の言葉を振り絞っていた。
「うむうむ、いいんだよ」
ソフィアに微笑みながらグレイグが返事をする。このあたりからも彼の人としての器の大きさを感じる。
その後もしばらく色々な話をしたところで、ベッドの準備ができたとの報告が来る。
「いや、これは長話につき合わせてしまったな。疲れているところ申し訳なかった、ささ、部屋に戻って休むといい。二人……いや、三人かな? を案内してやってくれ」
いつの間にかソーマの膝の上にいたアスルも一人と数えてグレイグが指示を出す。
「承知しました。こちらへどうぞ……」
執事も笑顔でソーマたちを案内する。ソーマは自分の部屋をわかっていたが、広い家であるため案内は助かっていた。
部屋に入ったソーマは自分のベッドに腰掛ける。アスルはその隣に。
ソフィアは部屋の入り口で立ち尽くしている。
「ん? どうしたんだ? そっちのベッドを使っていいぞ。せっかく用意してくれたわけだしな」
ソーマは新しく部屋に置かれたベッドを指さす。
「えっ、その、床じゃなくていいんですか?」
「ぶはっ、床!? いやいや、何言ってるの! せっかくベッド用意してくれたんだから使っていいんだよ。もしなかったとしたら一緒のベッドで寝ればいいし」
「一緒の!?」
ソフィアの言葉にソーマが驚き、今度はソーマの話にソフィアがビックリするという状態になっている。
「あー、これは少し色々と話をしておいたほうがいいいみたいだな……」
そこからはソーマが考えているソフィアの扱い、ソフィアが考える奴隷の扱いのずれについて話し合って今後の対応についてのすり合わせを行っていった。
まず、ソフィアから一般的な奴隷の扱いについて話を聞いていく。
「奴隷というのは最低限の衣食住を保証していれば、その他は問題なしとみられています。この最低限というのは着られるものを着て、なんでもいいので食べられて、とりあえず屋根があるとこであれば床の上でもいいのでおかせてもらえればいいという認識が一般的だと思われます」
ソフィアはこれまで見聞きしてきた奴隷についての認識をソーマに説明していく。
「……まじで?」
思わずこんな言葉が出るほどにソーマは驚いていた。
「いやいや、それはひどすぎでしょ。まあ、他の人がそう思っているというのは仕方ないか……なんにしても、俺はソフィアのことを旅の仲間として扱うつもりだ。多少は命令することもあるかもしれないけど、そのへんはわかってくれ」
ソーマは自分が考えている対応について話していく。
「食事についても基本的に一緒のテーブルでとる。ベッドは普通に使ってくれ。服もちゃんとしたものを買っていいし、欲しいものがあったら言ってくれ」
「そ、そんな! そんな奴隷はいません……」
「いいの! 俺がいいって言ってるからいいの!」
ソフィアが抵抗を示すことはわかっていたため、ソーマは上からかぶせるように言い放ち、待遇を飲み込ませる。
「でも……」
それでもまだ何か言おうとするソフィアの両肩にソーマは手を置いた。
「いいんだ。俺がそうしたいんだ。ソフィアには対等に……まあ、完全には無理かもしれないけど、引け目を感じずに一緒にいて欲しいんだよ」
「ソーマ様……」
ソーマの真剣な目を見て、ソフィアの目も潤んでいる。
「ピッピー!」
「ははっ、アスルも大事な仲間だよ。俺の職業が一応だけど獣魔使いだからね。他にも強そうな魔物がいたら仲間にしたいもんだ」
わざと明るく言うソーマに、ソフィアも自然と笑顔になっていた。
「ソーマ様のお考えはわかりました。ソーマ様、アスルさん、改めてよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく!」
「ピー!」
こうして、三人は正式に仲間としてのスタートを切ることになる。
ソーマが持っている数々の加護、成長しソーマから加護を受けているアスル、呪いが解除されて雷神とソーマという二つの加護を得たソフィア。
これから三人は多くの難関に立ち向かうこととなるが、物凄い速度で成長していく三人の前にはそれらは全て越えられる壁となるのだった。
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