第十七話
「って、えええええっ!?」
領主の館に到着したところで、ソフィアは足を止めて大きな声をあげて驚いている。
「ん? どうかしたか?」
何に驚いているのかわからないソーマは小首を傾げて質問した。
「え、ええっと、その、ご主人様は領主様だったのですか?」
領主の館に当然のように入って行こうとするソーマを見て、彼女は当然の質問を返す。
「あー、そう思うのも無理ないのか。この間……いや、昨日か。昨日、ここの領主さんとその娘を助けた縁で、何日か泊まらせてもらっているんだよ。というわけで入ろうか」
ソーマは足を止めているソフィアの手をとって中へと入っていく。
入り口には衛兵の姿があったが、ソーマは顔パスであり、その同行者のソフィアに関しても簡単な挨拶のみで、深く問われることなく入場が許可された。
部屋で休憩をしていると、メイドの一人がソーマを呼びにくる。ソフィアも同行するようにとの話であるため、緊張しながら彼女もソーマについていく。
案内された部屋は応接室。
「やあやあ、ソーマ君。おかえり、今日はどうだった? と、質問する前にそちらのお嬢さんを紹介してもらってもいいかな?」
部屋に入るなり声をかけてきたのは、領主のグレイグだった。
出発した時は一人と一匹だったソーマが、二人と一匹になって戻ってきた。
しかも、増えた一人は希少種であるエルフで、しかもしかも奴隷の首輪をつけている。
「えーっと、彼女の名前はソフィア。見てわかるとおりエルフで奴隷です」
その答えに、グレイグの隣に座っているアリアナが不満そうな表情でソーマのことを睨んでいた。
「ふむ……奴隷を買うのは自由だし、どうやら彼女は良い扱いを受けているようだ」
ソフィアが綺麗な身なりをしているのを見て、ソーマが彼女のことを大事に扱っていることをグレイグが推察する。
「どうして、奴隷を買おうと思ったのか聞かせてもらってもいいかね?」
どういう経緯でソーマが彼女を買うに至ったのか、もしくはただ奴隷が欲しかっただけなのか。そのあたりをグレイグは聞いてみたかった。
「えぇ、もちろん。バジリスクを倒して報告を終えて街をぶらついていたんです、そうしたら……」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ!」
何気ない調子で話し始めるソーマの言葉をグレイグが慌てた様子で遮る。
「バ、バジリスクを倒したと言ったのか?」
「ええっと、まあそのとおりなんですけど、本題はそこではなくて、バジリスクを倒した報酬をもらって街をぶらぶらしていたんですよ」
驚くグレイグをよそに、ソーマは話を続ける。
「そうしたら、大きな声が聞こえてきて人だかりができていたんです。そこでソフィアが売られていました。彼女はエルフですが、触れると雷が落ちるという呪いがかけられていたため安く売られていたんです」
それを聞いたグレイグが驚いたようにソフィアに視線を送り、アリアナはグレイグにしがみつくようにしている。
「雷が落ちる場面を他の人も見ていたため、最初についていた値段で買う人はいなくて、自分が声をかけたら更に安くすると言われたので、ソフィアを買うことにしました」
ソーマは言いながらソフィアの肩に手を置く。
「「!?」」
グレイグとアリアナはその行動に対して、目を見開き驚いている。
「ご覧のとおり、今は問題ありません。俺が呪いを解除したので」
「まあ、すごいですね!」
ソーマの言葉にアリアナは両手をポンっと合わせて称賛する。
ソフィアも笑顔になる。今の自分には呪いがかかっていない、そのことは彼女の心を安らがせていた。
「……」
口を開けたまま唖然としていのはグレイグだった。
ソーマの話にはツッコミどころが多く混乱しており、なんとか脳内で情報を整理しようとしている。
「……いやいや、どういうことだね!」
しかし、出てきたのはこの言葉だった。わからないことが多すぎるため、質問することとなった。
「あー、えっと、とりあえずソフィアのことを先に話しておくとですね」
奴隷として買い、街の外に出てそこで解呪をしたこと、そのあと服を買ったこと、武器を買ったことを話す。
「彼女を奴隷として買ったことや、服と装備はいいんだが、解呪というのが……」
呪いを解くというのは、国の中心にあるような大きな街の、そこにいる高位の神官クラスでもないと行うことができない。つまり、可能なものは世界広しといえど極一握りの者だけである。
「そう、ですね。うーん、まあ俺は少しばかり神様に愛されているみたいなんで。そのおかげだと思います」
そう言うと、ソーマはニコリと笑う。これ以上の追及は辞めて下さいねという意味を込めた、強い笑顔だった。
「ふっ、はははっ、うむ、君は出会った時からそうだったな、あい、わかった。これ以上の質問は辞めて置こう。バジリスクを倒したというのも、君がやったのであれば不思議はないというものだ」
「あ、そうそう。ついでの話ですけど、冒険者ランクがCに上がりました」
最後に驚くべき情報をもう一つ投げて、ソーマは再びニコリと笑った。
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