第十六話
しばらく通りを歩いていると、一軒の武器屋に到着する。
「とりあえず、ここでいいかな」
「は、はい!」
ソーマは軽い調子で言うが、ソフィアは緊張している様子だった。
店に入ると、金属の匂いがする。
「俺も武器屋に来るのは初めてだけど、独特の空気だなあ」
「はい……」
ソーマに返事をするソフィア。先ほどの服屋の明るさと違って、どこか静まり返っている雰囲気に緊張していた。
店の奥にあるカウンターに店員が一人いるが、ソーマたちをチラリと見るだけで声をかけることなく仏頂面で武器を磨いている。
背の低さとヒゲから見て、恐らくはドワーフだと思われる。
「自由に見ていいってことかな? 弓は……」
「ゴホン」
ソーマがそう言いながら店の中をキョロキョロ見回すと、店員が咳払いをする。
視線を向けると、指でそれとなく弓がある方向を教えてくれていた。
「あっちか、どうもです」
軽く会釈をすると、ソーマはほうへと移動する。
そこには店員が教えてくれたとおり、いくつもの弓が並んでいた。
「こんなにたくさんあるもんなんだなあ……」
「すごいですね……」
正確に数えてはいないが三十は超えており、二人はその数に圧倒される。
「さて、どれがいいかな? えっと、これって触っても……?」
ソーマがそんな疑問を店員に投げかけると、彼は無言で頷いていた。
「ということらしいので、いくつか持ってみるか。気になるのはあるかな?」
「えっと、そうですね……」
質問されてソフィアは弓を順番に眺めていく。
「あっ! これ、これなんか綺麗でいいと思います!」
「ふむふむ、赤く塗られたコンポジットボウか。確か複数の素材で作られている弓のことだったかな?」
「……」
ソーマが弓の種類を言い当てたことに、店員は無言のままピクリと反応している。
「結構力がいりそうだけど、引けるか?」
「ちょっとやってみますね……よいしょ」
呪いが解除されて、加護が二つ付いているソフィアは腕力も強化されているため問題なく弦を引くことができている。
「おぉ、すごいな。力のほうは問題なさそうだな」
「はい!」
これならソーマの力になれるとソフィアは喜んでいる。
「他には何かいいのは……あれは?」
順番に眺めていき、一つの弓を見てソーマは視線が止まる。
「お前さん、いい目をしてやがるな」
「えっ?」
ソーマに声をかけてきたのは、先ほどまで武器を磨いていた店員だった。
「あれは魔力を矢に変える特別な弓だ。名前を……」
「エルフィニウムボウ」
名前を言い当てたのはソーマではなく、ソフィアだった。
「なんだ、嬢ちゃん。知っていたのか」
「あっ、いえ、その、昔に似たようなものを見たことがあるので……」
それは里にいる時に見たもので、エルフの里でとれる特別な金属で作られている。
エルフィニウムという金属はソーマが持つミスリルよりも魔力との親和性が高い。そして、その金属の力を引き出せるのはエルフのみと言われている。
「ちょっと持ってもいいですか?」
特別な弓と聞いたため、ソーマは念のため確認する。
「うーむ……まあいいだろう」
店員は少し考えるが、すぐに許可をだしてくれた。ソーマたちなら粗雑に扱わないだろうという判断だった。
「まずは俺から……」
ソーマは弓を構え、弦を引き、魔力を込めてみる。
しかし、一瞬弦がぼんやりと光っただけでそれ以上は何も起こらない。
「やっぱりだめか。ソフィアやってみてくれ」
「は、はい」
ソーマにエルフィニウムボウを渡されると、ソフィアは先ほどと同じように弓を構え弦を引き、そして魔力を込めていく。
「おぉ!」
ソーマが感嘆の声をあげたとおり、弓には魔力の矢が生み出されていた。
「うむうむ。エルフが魔力を流すとこうやって矢ができるのだ。込める魔力が強くなれば威力もあがるし、属性魔力を込めれば属性矢を放つことができる」
「すごいです……軽いですし、魔力さえあれば矢の残りを気にしなくてすみます!」
店員の説明と、実際に触ってみての感覚から、エルフィニウムボウのすごさを感じ取っていた。
「よし、買います!」
「えっ!?」
ソーマが即答したことにソフィアは驚いて声をあげる。
「うーむ、特徴を説明しておいてなんだが……高いぞ?」
性能、希少性から考えて、安くするのは難しい。
「まあ、そこはそれなりに覚悟はしているので……。で、おいくらでしょうか?」
「そうだなあ、ちょっと待ってろ」
店員はそう言うと、カウンターに戻って紙に値段を記していく。
「これでどうだ、武器の良さを見抜いた上に、使えるエルフを連れてくるなんて滅多にあるもんじゃないから少し安くしたがこれ以上は無理だ」
そこに記されているのは金貨二十枚という額である。
ソフィアを買った時の値段に比べれば安いが、それでも大金にはかわりない。
「買った」
「ええっ!?」
値段を見ても先ほどと同様に即答するソーマに対して、ソフィアは更に大きな声で驚いてしまう。
「よっしゃ売った!」
「それじゃあ、これで……」
ソーマはカバンに手を突っ込んでダークストレージから金貨二十枚を取り出す。
「……二十枚確かに戴いた。その武器はお前たちのものだ、好きに持っていくといい」
割引をしたとはいえ、大物が売れたことに店員は喜んでいるようだった。
「えっ? えっ?」
あっという間にやり取りが終了してしまったため、ソフィアが口をはさむ間もなくエルフィニウムボウは彼女のものになっていた。
今日は色々あって疲れたため、二人は一路、今の宿(領主の館)に戻っていった。
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