第十五話
「さて、まずは服を買おうか。俺と一緒だと魔物と戦うこともあるから、ある程度動きやすい服装がいいかもな」
「えっ? そ、その、服を買っていただけるのですか?」
ただでさえ自分を買うために大金を使わせたというのに、更に出費をさせることに驚いていた。
「もちろん、だってその服だと動きづらいし、せっかく可愛いんだからもっと綺麗な格好をしたほうがいいでしょ。さあ、行こうか」
洋服屋に関しては、途中で見た覚えがあったためソーマはスタスタと歩いていく。
ソフィアは置いていかれないように、小走りでソーマのをあとに続く。
しばらく歩いていくと、女性ものの服が置かれている店に到着する。
「はーい、いらっしゃいませえ!」
店に足を踏み入れた瞬間聞こえて来たのは店員の声だった。
「あら、うふふっ、可愛らしいお客様ね。大歓迎よ!」
高いテンションで話しかけてきた店員は、二人のことを見て笑顔になっていた。
「……あぁ」
「……は、はい」
対して、二人の反応は芳しくない。
その理由は店員の様相にあった。
言葉遣いは女性のもの。その肉体は筋骨隆々。髪は長く編み込んであり、顔には青髭。動きはくねくねとしたものである。少しサイズが小さいのでは? と疑問に思うくらいにピッタリサイズのシャツを着て、下は黒いレザーパンツをはいている。
「あら、二人とも緊張しているのかしら? こういうお店は慣れていないようね。大丈夫! 私に任せてもらえれば、バッチリコーディネートするわよ!」
「え、えぇ、彼女の服を頼みます。その、彼女に似合って、なおかつ動きやすい服をお願いします……」
ソーマは圧され気味になりながらも、なんとか要望を彼女(彼?)に伝える。
「あらあらあらあら、いいじゃないの! あなた、すごくいい素材じゃない! ささ、こっちに来て!」
「きゃっ!」
店員はソフィアを連れて店内を周り、いくつも服を手にしていく。
「いってらっしゃーい」
そんな様子をソーマは笑顔で見送っていた。
それから三十分後……。
「えっと……その、どう、でしょうか?」
ソフィアは恥ずかしそうにしながら、ソーマに自らの服装を見せていく。白色でフリルのついた上着に動きやすいよう茶色のキュロットスカートをはいている。
「おー、いいじゃないか。よく似合っている」
「あ、ありがとうございます」
ソーマが褒めてくれたことにソフィアは照れて、顔が真っ赤になっている。
「うふふー、そりゃそうよ! 私が選んで、素材がこの娘なのよ? 可愛くないわけがないじゃないのよ!」
店員はそういうとバシンとソーマの背中を叩いた。
「いててっ、俺は服のことはよくわからないから選んでくれて助かりました。この店に来て正解だったな、ソフィア」
「はいっ!」
最初は奴隷の自分が服を買ってもらってもいいのかな? と不安でいたが、今となっては嬉しい気持ちが不安に勝っていた。
「それで、おいくらですか?」
「うーん、そうねえ。私も色々楽しませてもらったから、これくらいでどうかしら?」
紙に書いて提示された金額は、今回買った服に対してかなり格安だった。
「えっと、俺は服の値段はよくわからないんですけど、多分、というか絶対安いですよね?」
待っている間に、いくつかの服の値段を見ていたソーマはそのことを察して質問する。
「もう、細かいことはいいのよ! 今回はこの値段で支払って、また買いに来てくれたらいいの!」
「なるほど……初回割引、ということですか。なら、了解です。また来た時にはよろしくお願いします」
ソーマは店員の心意気を受け取って、提示された金額を支払っていく。
「はい、ちょうど頂きました! また来てちょうだいね!」
「どうも、それではまたー」
「ありがとうございました!」
店員に見送られて二人は店をあとにする。
元々着ていた服は別の袋に包んでくれていた。
「強烈な人だったけど、いい人だったな」
「はい、とても素敵な方でした。色々と私の意見を聞いてくれて、そのうえで色々な服を用意してくれたんです」
ソフィアは自分でも、今の服を気に入っているらしく自分を見返しては笑顔になっていた。
「……よかった」
ふとソーマがポツリとつぶやいた。
「えっ? な、なにがでしょうか?」
その呟きはソフィアの耳にも届いており、慌てて質問する。
「あー、いやソフィアが笑えたからよかったなあって。最初に会った時は表情がなかったし、俺と契約してからもどこか怯えているみたいだったからさ。そういう表情が見られて安心したよ」
「そ、そう、ですか? すみません……」
今まで失礼な顔をしていたのではないかと、シュンとしてしまう。
「あー、もう。せっかくいい顔になったんだから、ほら笑顔っ……て強制するもんでもないけどさ。まあ、そんな些細なことで責めたりしないから徐々になれていってくれればいいよ。さて、次行こうか」
「次、ですか?」
「あぁ、今度は武器を見に行こうと思う。服屋さんに行く前も言ったけど、俺は冒険者だから一緒にいたら戦うことがある。となったら、武器は必須でしょ」
ソーマの説明になるほどと、ソフィアが頷く。
「ソフィアは得意な武器とかある?」
ソーマの何気ない質問にソフィアの表情が暗くなる。
「その、あの、こんな体質のせいで、まともに戦ったりしたことがなくて……」
ソフィアはこれまで武器を持って戦ったことがなかった。触れれば雷に打たれてしまう、そんな彼女に武器を教えてくれる者もおらずこれまで生きてきた。
ソーマの期待に応えられない自分自身に、彼女は肩を落としていた。
「なるほど……じゃあ、エルフならではってことで弓矢を使ってみるか」
「えっ?」
戦ったことがない。そのことを責められると思ったソフィアは、ソーマが武器を提案したことに驚いてキョトンとしている。
「いや、俺のイメージだとエルフは魔法と弓矢、あとたまにナイフとか? それが得意な感じだったから言ってみたんだけど……」
ソーマはゲームや小説のエルフを思い出して言っていたが、この世界では違うのかもしれないと、頭を掻いている。
「えっと、そのイメージで合っていると思います。里の人たちも、弓を使っている人は多かったです。問題は矢がなくなると攻撃手段がなくなることなんですが、そこは先ほどご主人様がおっしゃったようにナイフで近接戦闘を行うようです」
使ったことはなかったが、それでも里の他の者たちが練習をしている姿を見ており、どんな戦い方をするのか知識では知っていた。
「よかった、だったらその方向性でいってみよう。別に武器が合わなければ、他のものを試してみればいいよ」
自分のイメージがずれていないことに安堵したソーマは、ソフィアの手を引いて武器屋探しに向かっていった。
「あっ……」
ソフィアは、なんの心配もなく触れていること、そして手を引かれていることに顔を赤くしていた。
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