第十三話
プラプラと街並みや、店の様子を見ながら歩いていると何やら大きな声が聞こえてきて、そこには人だかりができている。
「なんだ?」
なるべく人が少なそうな場所から突入し、一番先頭に出る。
「さあさあ、いらっしゃい! 今日の目玉は普段ではお目にかかれないエルフの奴隷だよ!」
それは奴隷商による、奴隷販売の場面だった。表情のないエルフの女性が外に運び出された檻の中に捕らえられている。手には金属の手かせ、足にも同様に足かせがされている。
金髪も傷んでおり、本来の美しさは欠けている。
「なんと、そのエルフが今日は大特価の金貨百枚!」
集まっていた人々は値段を聞いてざわつき始める。
「???」
その反応の理由がわからず、ソーマは首を傾げている。
「おう、にいちゃん。奴隷販売を見るのは初めてか?」
犬の獣人の男性が不思議そうな顔をしているソーマに話しかけてくる。
「えぇ、エルフで金貨百枚っていうのは驚く値段なんですか?」
「あぁ、そりゃな。さっきあの奴隷商も言っていたが、エルフっていうのは希少種でかつ能力が高い。だからああやって奴隷になることがほとんどないんだ。だから、相場でいえば金貨一千枚が最低ラインだと思ってもいい」
「なるほど……」
その説明にソーマは頷くと同時に、更なる疑問を持つ。
「でも、それだけ高いのが普通なのになんで百枚なんていう格安なんだろ?」
この疑問はこの場にいる誰もが思っていることだった。
「いい質問だな。で、どういうことなんだ?」
もちろん犬の獣人の男性も理由はわからないため、疑問を奴隷商にぶつける。
「いやあ……それはちょっと……」
質問された奴隷商は先ほどまでの威勢のいい様子はなりを潜め、何やらもぞもぞと口ごもってしまう。
「へへっ、なんだっていいじゃねえか。結構な上玉だし、なんたってエルフだぜ。ほれ、綺麗な髪をしている……」
酒に酔っぱらっているのか、顔を赤くした男が下品な笑みをニヤニヤ浮かべながら奴隷に触れようとする。
「あっ! ダメだっ!」
それを奴隷商が大きな声で止める。
自分の商品に手を出そうとする男を怒って止めるという様子ではなく、恐怖心があるような表情で止めている。
ドーン! という大きな音とともに雷が落ちる。
「ひっ、ひぃ!」
酔っ払い男は奴隷商の声に驚いて手を引いたため雷の直撃を奇跡的に避けることができた。
「はあ……アレのことを黙ったまま売れれば儲けものだと思ったんだが……」
エルフに触れたからといって雷が落ちるなどということはありえない。今回売りに出された、この奴隷だからこその問題である。
「えっと、この奴隷? このエルフの女の子に触ると雷に打たれるってことでいいんですか?」
一連の流れを見て、ソーマが質問する。
既に、危険を感じた住民たちは散り散りになっていた。
「ちっ、残ったのは金を持ってなさそうな小僧だけか。あぁ、そうだよ! せっかくエルフを仕入れられたと喜んでいたら、こんな呪いがかけられてやがる。はあ、うちに置いとくだけでも飯代やらなんやら金がかかるんだよ……もういい加減売れてくれよ」
奴隷商はソーマに悪態をつき、そしてガックリと大きく肩を落としている。
「あの……金貨百枚でしたっけ?」
ソーマの質問に奴隷商がパッと顔をあげる。
「あ、あぁ、興味、あるのか?」
「ええっと……」
ソーマはダークストレージのウインドウを表示させて、金がどれだけ入っているかを確認する。
ウインドウが見えない奴隷商からすれば、ソーマが懐具合と相談しているように見える。そして、ソーマの見た目から、それほどの金を持っているとも思っていなかった。
「はあ、買ってくれるなら金貨五十枚でもいいぞ……まあ、そんな金持っていないだろうが……」
「買います!」
ソーマの現在の資金のおよそ半分程度を指定されたため、即答する。
「なにっ!? か、買うのか? いや、買ってくれるならありがたいんだが、金は本当に……?」
持っているのかと奴隷商が確認する。
「さすがにここで全部は出さないけど、まず十枚」
見せ金としてとりあえずの金を取り出す。
「ふむ、すぐにそれだけの金を出せるのなら大丈夫そうだな。なら、中で手続きをしよう。おい、中に運ぶんだ」
奴隷商は部下に命令して、エルフを檻ごと店の中に運び込む。状況に変化があっても、彼女の表情は変わらない。
部屋の中に入ると、既に他の部下によって書類が用意されていた。
「こちらの書類に記入と、金貨五十枚を」
「はい、これが金貨五十枚。それとこっちにさらさらさらっと……」
奴隷商に言われるままにソーマは金貨を取り出し、続けて書類へ記入を行っていく。
「これで取引完了だ。こちらの首輪に血を垂らして……それをあいつに着けさせれば、あんたがあいつの主人だ」
言われるままに針で指先を傷つけて血を首輪に一滴垂らす。すると、ぼんやりと光を放った。
その首輪を拘束を解かれているエルフの少女に手渡し、彼女は自らそれを首にはめていく。
通常であれば職員の誰かが手伝うが、彼女の場合はそれをすれば雷にうたれる危険性があるため、自分でつけてもらう。
「……私はソフィアです……よろしくお願いしますご主人様」
感情の籠っていない目で名乗り、スカートのすそをつまんで挨拶をする。
奴隷が買われた際に用意されている簡易的な服装を身に纏っている。粗雑な造りだが、美しい彼女が身に着けているとそれなりに見える。
「俺はソーマだ。よろしく頼む、こいつは俺の仲間のアスルだ」
「ピーッ!」
ソーマの紹介を受けて、アスルが服の中から姿を現す。
「あっ……」
アスルの姿を見て、ソフィアは一瞬だったが小さな笑顔を見せた。
「なんだ、いい顔ができるじゃないか。とはいえ、気持ちはわかるよ。そんな呪いがかけられているんじゃな。そのせいで力を発揮することもできない状態にある」
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名前:ソフィア
種族:エルフ 性別:女
称号:呪いを受けし者
職業: レベル:5
体力:30(-10) 魔力:120(-100) 腕力:40(-20) 素早さ:15(-10) 運:5(-5)
加護:
呪い:雷神の呪い
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「えっ?」
ソフィアが置かれている状況を完全に把握しているようなソーマの言葉に彼女は目を見開いて驚いていた。
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