第十二話
「その、バジリスクのことをそこまで強い相手ではなかった、と言いましたか?」
そのとおりであるため、ソウマはコクリと頷いて返す。確かに、あっさり一撃で勝利とはいかず、ダメージを重ねて首をもたげたところで斬り下ろした。
とはいえ、ソウマにしてみればそれほど危険な魔物とも思えなかった。
「いやいや、バジリスクは石化能力をもっていて防御力も高く、対応策を持っている複数パーティで挑まなければ勝ち目はないと言われているんですよ! 一体、何人で倒したんですか?」
カターラにそう言われてソウマは指を二本たてる。
「二? 二パーティですか?」
「いや、二人、というか……一人と一匹ですかね? アスル、出てきて」
ソーマが軽く胸のあたりをポンポンと叩くとアスルがピョンッと飛び出て、ソーマの隣に現れる。
「こいつはスライムのアスルといって、俺と契約しているんだけど……」
魔物を急遽登場させたことで、驚くかとも思ったがカターラは興味津々といった様子でアスルのことを見ている。
「ほうほう、ソーマ君は獣魔使いですか。ちなみにですが、契約している魔物であればギルドで登録してもらえれば、街中を連れて歩いても大丈夫ですよ。ためしにアスル君に、このハンコを……失礼」
カターラはどこからか取り出したハンコをぺたりとアスルに押す。
一瞬光を放つと、アスルの身体に冒険者ギルドのマークが表示される。
「街の中に入ると自然とこのマークが浮かび上がって、契約している魔物だという証明になります」
「なるほど……これは助かります。これでアスルも堂々としていられるな」
「ピー!」
これまではソーマの服の中に隠れていたため、自由に外に出られる開放感からアスルは部屋の中を跳ね回って喜んでいた。
「さて、話を戻しますが、普通じゃないですよ。ソーマ君とアスル君、普通じゃない」
カターラから笑顔が消えて、本気のトーンになっている。
「普通じゃない……」
ソーマは言われたことを繰り返す。
「そうです。あのバジリスクを、登録したばかりのFランク冒険者とスライム一匹だけで倒すなんて前代未聞です! ありえません! なので……」
「なので?」
ソーマがオウム返しする。
「ソーマさんのランクをCランクにあげたいと思います!」
カターラがそう宣言する。
「えぇ? いやいや、俺はFランクですよ? まだ二つしか依頼をこなしてないのに、そっちだってまだチェックの途中だったのに、なんで三つもランクが上がるんですか!? ありえないです!」
立ち上がったソーマは思わず大きな声でカターラに抗議する。
「ありえないのはソーマ君たちです! いいですか? 先ほども言いましたが、バジリスクというのは冒険者が単独で倒せる魔物ではありません! Aランク以上の冒険者なら別ですが、Fランクの冒険者がなどということはありえないのです! そして、それだけの力がある冒険者を低ランクにとどめておけるほど冒険者ギルドには余裕がないのです!」
最後の部分はギルド側の事情だったが、ソーマにとってランクの高い依頼を受けられるのは悪い話ではない。
「これは決定事項なので、拒否はできません! Cランクまでなら実力のある冒険者をギルマス権限で上げることができるので、これはもう決まりました!」
口を開いて反論しようとしたソーマだったが、ここまで言われては仕方ないと引き下がることにした。
(というか、こんな簡単にランク上がるならラッキーかも……うん、よかった!)
「……わかりました。それじゃ、ありがたくランクアップを受けることにします」
心の中でこれは悪いことではないと判断したソウマは笑顔で手を前に出し、カターラと握手をかわした。
ひと通りの話を終えると、カターラに呼び出されたファルとともに階下に降りたソーマは手続きを行っていく。
「ランクアップおめでとうございます」
ファルは笑顔でソーマのランクアップを称賛する。
「いや、まさかこんなに一気に上がるとは思っていませんでしたよ」
「いえいえ、あれだけの強力な魔物を単独で倒せるのであれば当然の結果です。ソーマさんほどの実力を低ランクで燻らせておくのは互いにとって損失です。是非、今後も頑張って下さい」
ファルはそう言いながら、更新を終えた冒険者ギルドカードをソーマに渡す。
「あー、本当にCって書いてありますね……ははっ」
一気にランクが上がったことを改めて実感したソーマは乾いた笑いが出てくる。
「そうそう、依頼達成の報酬と素材買い取り金を用意したのですがあれらの素材は全て買い取りということでよろしいでしょうか?」
ファルは報酬と買い取り金を別の袋にいれて用意している。もしソウマが断った際にも対応できるようにという配慮である。
「えぇ、それで構いません……なんだか買い取りの方の袋多くないですか?」
ソウマは答えながら二つの袋を持って重さを比べると、明らかに素材買い取り金の重量が重い。
「こちらも当然の金額です。なにせ、あの魔物を倒したのですから」
ここまであえてバジリスクと口にしないのもファルの気遣いだった。
「なるほど……まあ、多くもらえるのはありがたいことです。色々ありがとうございました」
そう言うと、金をカバンの中に入れる、ふりをしてダークストレージに収納していく。
「こちらこそ、とても良い経験ができました。今後のご活躍を願っております」
「それでは失礼します」
ソーマはファルに頭を下げると、ギルドを後にする。
「ふう、なんか思った以上に色々あったなあ……。さて、屋敷に戻るにはまだ早いから少し街を見て回ろうか。もらったやつ以外にも何か面白い武器とかないものかな」
ソーマには鍛冶神の加護もあり、記憶にはないが鍛冶の修練も積んでいたため自然とそちらに心惹かれていた。
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