第十一話
「ホーンウルフの角が二十本以上あると聞きましたが……もしかして、他にも何かお売りになりたいものがありますか?」
角をこれだけ持って来ている者であれば、他にも色々持っているのではないかとファルは考えていた。
「えっと、薬草、毒草、麻痺草、炎草が草系のもので……」
「ほう、これは綺麗ですね。この質なら問題なく買い取りできます」
ファルはソーマが採集してきた薬草などが折れておらず、綺麗であることに感心している。
「あと、こっちが……」
「……えっ?」
ソーマが取り出したのは、バジリスクの素材。骨、皮、爪、牙、核と順番に並べていく。
「これも俺が倒した魔物の素材なんで、買い取ってもらえるとありがたいんですけど……あれ?」
ファルが目を見開いて素材を見ていることに気づいたソーマは首を傾げる。
「もしかして、こんなのは買い取りできないとか?」
「い、いえいえ! ぜ、是非買い取らせて下さい! ただ、これほど強力な魔物の素材どこで……」
「えっ? ゴブリンとかホーンウルフを倒しに森へ行った時に、たまたま出くわしたので倒しましたが?」
何かおかしいことがあったのかと、ソーマは再度首を傾げる。
「……その、ということは西の森でバジリスクに?」
ファルの問いかけにソーマは頷く。
「えーっと、なんと申しましょうか、あの森は比較的平和な森で、そのランクの魔物が出るとは……」
ファルは森でこれまで発見された魔物のことを思い出しながら言う。ソーマのランクが低く実績がないことも証言の信憑性を低くしていた。
「あの! それ、本当です!」
すると、ソーマの後ろから声をかけてくる人物がいた。
「あれ、レイたちも戻ったんだ」
それは森でソーマとあった冒険者のレイとミズルとユミナの三人だった。
「はい、森ではありがとうございました……それより、ファルさん。西の森でバジリスクが出たのは本当のことです。俺たちが追われて逃げているところをソーマさんが助けてくれたんです」
その説明を聞いたファルは真剣な表情になり、話が聞こえていた近くにいた冒険者たちがざわつく。
「一応これも拾ってきたんですけど、石化された俺の剣です」
それを見たファルはごくりと唾を呑む。
「とまあ、そういうわけなんですが……買い取ってもらえますか?」
改めてソーマが質問すると、ファルは姿勢を正す。
「ソーマさん、申し訳ありませんでした。疑うような言葉をかけてしまった自分を恥じます。そして、情報提供をして下さったレイさんたちもありがとうございます。愚かな私の考えを正すことができました」
ファルは深々と頭を下げて自らの間違いを謝罪した。
「い、いやいや、謝らなくていいですよ。俺は素材を買い取ってもらえればそれで十分ですから」
「もちろん買い取りはさせていただきます。どれも高い品質のものですので、満額での買い取りとなります。ただ、少しお願いがありまして……」
「なんですか?」
買い取りをしてくれるとあって、ソーマはお願いを聞くのもやぶさかではないと考えていた。
「買い取り金の用意に少々お時間を頂きたいので、その間にギルドマスターに会ってもらえませんか?」
その言葉にソーマの表情が明らかに曇る。
「いやいや、決して悪いようにはしませんし、面倒ごとを頼むようなことはしません! ですので、どうかお願いします」
「ソーマさん、ここのギルドマスターは悪い人じゃないから会っても大丈夫だと思います」
レイが耳打ちでギルドマスターのことを教えてくれる。
それを聞いてソーマは初めてギルドに来た時のことを思い出す。
(確か、ゲンガンが絡んできた時もビシッと仕切っていたなあ……)
あの時は、ギルドマスターの采配で自分が責められることはなかった。そのあとの反撃に関しても咎められることもなかった。
「そう、だね。わかりました、会います」
「ありがとうございます! い、今話をしてきますね!」
ファルは素材を奥のテーブルに置くと、二階に上がっていく。途中で別の職員に声をかけて、素材の見張りを頼むのを忘れない。
しばらくして戻ってきたファルはソーマをギルドマスタールームへと案内する。
そこでは、ソーマとゲンガンの騒ぎを収めてくれたあのギルドマスターが待っていた。
「やあ、いらっしゃい。話はファルから聞いてます。どうぞ、かけて下さい」
やや小柄のエルフの男性。エルフであるため実年齢を計ることはできないが、見た目からは二十歳そこそこに見える。
彼はニコニコと笑顔を絶やさずにいるため、好青年といったように見えた。
「聞いているかもしれませんが、俺の名前はソーマ。登録したばかりのFランク冒険者です」
さすがにギルドマスター相手ということで、立ち上がって自己紹介をする。
「丁寧なあいさつありがとう。座って下さい……まずはお礼を、わざわざここまで来ていただいてありがとうございます」
「いえ、ファルさんがお金を用意しているので時間が空きましたし、以前ことを収めてもらいましたから。そのお礼をかねてです、ありがとうございました」
ソーマは言いながら、鑑定を発動してカターラの能力を確認する。
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名前:カターラ
種族:エルフ 性別:男 レベル:150
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「うおっ」
あまりのレベルの高さに驚き、思わず声を出してしまった。
「……もしかしてソ-マ君は鑑定ができるのですか?」
「えっ!? なんでわかったんですか!」
ソーマが驚くと、カターラはニコリと笑う。
「やっぱりそうだったんですね。驚いた顔をしていたので、もしかしてとカマをかけてみたんですけど……まさか私の力がわかるほどの鑑定を使えるとは思ってもみませんでした」
鑑定にはランクがあり、高レベルの者のステータスを確認するにはそれなりの力が必要になる。ソーマのものは詳細なデータまでは計ることができなかったが、レベルに関係なく見ることができた。
「いや、ははっ、まあ、ちょっと、ですね」
まさかカマかけとは思っていなかったため、ソーマは変なごまかしをしてしまう。
「いえ、そのことはいいんです。それよりも、今回はバジリスク討伐……ありがとうございました。あの魔物は危険なので、目撃情報が入れば討伐部隊を編制しなければでしたよ」
カターラから改めて礼を言われ、居心地の悪さにソーマは頬を掻く。
「あれはたまたま出くわしたから倒しただけなんで、そんなに気にしなくていいんですよ……そこまで強い相手っていうわけでもなかったし」
「えっ?」
ソーマの話を聞いたカターラは驚いて声を出してしまう。二人の会話にはどこか食い違いがあった……。
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