第十話
「いたいた」
ソーマはビッグボアを見つけると声を抑えながらレイたちに伝える。
レイたちは頷くが、どう戦おうか考えを巡らせるだけで動けずにいる。
「それじゃ、行ってくるよ」
それだけ言うと、ソーマはスタスタとビッグボアのもとへと向かっていく。
「ちょ、ソーマさん!」
レイが慌てて声をかけるが、ソーマは既に歩き始めておりビッグボアもその存在に気づいて鋭い視線を向けている。
ソーマはミスリルソードを鞘に納めたままで歩いて近づいている。
いくらソーマが強いとはいえ、武器を持たなければ危険であることは誰が考えてもわかることである。
「大丈夫だって、ほらかかってこい!」
「ブルルル!」
ソーマが挑発すると、ビッグボアは鼻息荒く怒りを見せ、足で地面を何度か蹴って助走の準備をしている。
「ブオオオオオ!」
そして猛り声とともにソーマに向かって突撃してくる。
「よし!」
その動きを確認したソーマは左足を前に出し、右の拳を握りしめて正拳突きを打ち出す準備をしている。
衝突まで数秒。
「う、うおお……」
「あ、あぶない……」
「きゃあっ!」
レイとミズルはこれから起こる光景を目に焼きつけようと見ているが、ハラハラしている。ユミナにいたっては見ていられずに手で目を覆っている。
「ふっ!」
ソーマは呼吸を一つ吐き出し、それとともに拳を打ち出した。
ビッグボアは武器を持たない人間など吹き飛ばしてやると、勢いを緩めず、そして双方が衝突する。
ドゴンという重い音が周囲に響き渡った。
「ぷぎゃああああ!」
ビッグボアは悲鳴をあげながら吹き飛び、そのまま後方の木に衝突して、その木をなぎ倒してさらにその後ろの木にぶつかったところで動きを止める。
「ふう、なんとかなったかな」
ソーマはそう言いながらも倒せたか確認するため、ビッグボアのもとへと移動していく。
「「えっ……?」」
「な、なになに? どうなったの?」
レイとミズルは絶句し、ユミナは戦いの結末がどうなったのかキョロキョロ見ている。
二人が無言で指さした方向にユミナが視線を向ける。
「えっ……?」
彼女もビッグボアのありさまを見て、同じ反応をしている。
実際にソーマが戦っているところを初めて見た三人は、あまりに強すぎることに思考が停止していた。
「おーい、なんとか一発で倒せたよ。さすがに解体はそっちでやってもらいたいんだけど……あれ?」
ソーマがビッグボアを担いで三人の前に持ってくるが、声をかけても反応がないことに首を傾げる。
「おーい、大丈夫かあ?」
「はっ、あまりの驚きに固まってた……って、ソーマさん強すぎですよ!」
「ぼ、僕は信じられないものを見てしまった……」
「えっ……?」
レイは興奮、ミズルは驚愕、ユミナは未だ驚きの渦中といったそれぞれの反応を示す。
「まあ、このビッグボアは三人にあげるから、解体して依頼の納品に使うといいよ。そうすれば、新しい武器を買うこともできるだろ。あとは頑張って!」
あまり肩入れしすぎると、彼らが申し訳なく思って恐縮してしまうだろうと考えたソーマはそれだけいうと彼らに背を向ける。
「あっ、ありがとうございます!」
「ありがとうです!」
「ありがとうございます!」
背中にお礼の言葉を受けて、ソーマは振り返らずに右手を一度あげるとそのまま森をあとにした。
「とりあえず、ギルドに行ってみるかな」
街に到着したソーマは、依頼の達成を報告するために冒険者ギルドへと向かっていく。
今日は空いていたため、すぐに受付をしてもらうことができた。
「えっと、依頼の達成報告をしたいんですけど、ここで大丈夫ですか?」
報告をどうやってするのが正しいのかわからないため、まずは質問するところから始める。
「はい、こちらで承ります。まずは冒険者ギルドカードの提出をお願いします」
「えっと……はい、お願いします」
カードを受け取った受付嬢は魔導具を使って手続きをしていく。
「えー、ゴブリン討伐5、ホーンウルフ討伐3の依頼ですね。あれ? 今日受けたばかりみたいですけど、もう達成されたのですか?」
受付嬢は確認素材を乗せるトレーをカウンターに置く。
「そうです。これと、これを……」
ソーマは答えながらゴブリンの耳を五つ、ホーンウルフの角を三つ提出する。
「……はい、ちゃんと指定した部位ですね。綺麗ですね。耳はともかく、これだけ綺麗な角の納品は見たことがないかもしれません」
その言葉にソーマはホッとする。戦った際、角に傷をつけないよう気をつけたかいがあった、と。
「おめでとうございます、依頼は二つとも達成です! 報酬の準備をしますので、少々お待ち下さい」
「あっ、ちょっと待って下さい!」
ソーマは慌てて受付嬢を呼び止める。少し大きな声になってしまったため、周囲に軽く頭を下げる。
「あの、ホーンウルフの角ですけど、依頼の本数より多く取ってきたので買い取りしてもらえますか?」
「承知しました。何本あります?」
「えっと……三本納品したので、あと二十七本あります」
「にじゅっ!!」
想定以上の数値だったため、受付嬢は動揺して変な声を出してしまう。
「他にも見てもらいたいものがういくつかあるんですけど、ここに出してもいいですか?」
数が多いので、取り出す前に確認をとる。
「えっと、その、少々お待ち下さい!」
先ほどと同じセリフだったが、今度は慌てた様子言い、そのままどこかに行ってしまった。
しばらくすると、受付嬢は一人の男性を伴って戻ってくる。
彼は鷹の獣人であり、ソウマよりに高い身長であり、鋭い目でソウマのことを見おろしている。
「失礼します。ここからは私が担当をさせていただきます。買い取り担当職員のファルと言います。少々数が多いので、あちらで確認させて下さい。依頼の報酬も一括してお払いしますね」
一緒にやってきた男性職員は買い取り専用カウンターを指さし、そちらで買い取り作業を行うことを話す。
「はい、お願いします。お姉さんもありがとうございました」
ソーマはファルの指示に従って移動する。ここまで担当してくれた受付嬢への礼の言葉も忘れなかった。
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