第九話
「あー、えっと。君たちも冒険者だよね?」
「あ、あぁ、そうなんだけど……」
答えたのは赤い髪の男の子。年齢は恐らくソーマと同じか少し下。それゆえにソーマも気安い言葉遣いで話しかけている。
「そうか、怪我はなかったかな?」
「う、うん、僕たちは大丈夫」
まだあどけなさの残る回復職らしい服装の彼は、バジリスクの頭とソーマを見比べながら返事をする。明らかに動揺しているのが見て取れる。
「あ、あの、ありがとうございます」
こちらは魔法使いであるらしく、杖とローブを身にまとっている少女。
「いやいや、全然気にしなくていいよ。色々素材が手に入るし、実力試しもできたし。満足満足!」
ソーマは心の底からそう言っていたが、三人は未だ信じられないものを見るような表情でバジリスクの死体をみている。
「それじゃあ、解体をしていこうかな」
「あっ、それなら俺たちも手伝うよ!」
「うーん、こいつはちょっと危ないみたいだから、とりあえず俺たちだけでやってみるよ」
赤髪の少年が自ら手伝いに名乗りを上げるが、ソーマは少し考えたのちにその申し出を断ることにする。
死んだとはいえ、唾液には未だ石化効果がある。複数人で作業してそれが身体に付着しては危険だと判断していた。
「で、でも、こんなに大きいんじゃ一人でやるのは大変ではありませんか? というか、俺、たち?」
「まあ、見ててよ。アスル、やるぞ」
そう言うと、ソーマとアスルはバジリスクの死体へと近づいていく。
「アスル、多分石化毒液を貯めてる部分があるはずだ。そこは壊さないように気をつけるぞ」
「ピー!」
二人は、石化に気をつけながら解体を始めていく。
「な、なんだあれ!」
「スライム?」
「か、可愛い!」
三者三様の反応を示すが、三人ともにスライムがソーマの言うことを聞いて動いていることに驚いていた。
まずはアスルが体内にある血を全て吸収する。
次に牙や毛皮爪などを解体する。毒液を噴出する器官は危険であるため、取り除いたのちにアスルの身体の一部を使って包み込んで漏出を防ぐ。
バジリスクの肉は毒性があるため全てアスルが溶かし、残りは骨と核を回収して完了となる。
「余計な部分はアスルが吸収してくれるからかなり楽だなあ」
「ピッピピー♪」
褒められたアスルは嬉しそうに飛び跳ねている。
「「「……」」」
あっという間に解体を終えてしまったソーマたちに、冒険者三人は言葉を失っていた。
「待たせて悪かったね。俺の名前はソーマ、今日登録したばかりのFランク冒険者だよろしく!」
「「「……はあ!?」」」
三人は声を揃えて驚きを口にした。
「いやいや、バジリスクを倒すFランク冒険者なんて存在しないだろ!」
「さっきの解体も手馴れてて、初心者のものじゃないよ!」
「ありえない……ありえないです……」
バジリスクを倒したこと、スライムと一緒に解体をあっという間に終えたこと、そしてとどめが登録したてのFランク冒険者とくれば、三人に声をあげさせるほどのものだった。
「まあ、こういうこともあるんだよ。ほら、俺って神様に愛されているみたいだから」
こう言えばなんとか乗り切れることは、グレイグとアリアナの反応でわかっていた。
「「「なるほど……」」」
それは効果てきめんであり、三人は納得していた。
「あとは、素材をカバンにいれてっと」
解体した素材が次々にソーマのカバンに吸い込まれていくことに、再び三人は驚きを覚えるが驚き疲れたため、ただただため息をつくにとどめた。
「そうだ、俺の名前はレイ、剣士です。こっちのクレリックがミズル、そっちの魔法使いがユミナ」
「僕がミズルです、よろしくです」
「私がユミナ、よろしくお願いします」
三人が自己紹介をし、ソーマもそれぞれに会釈をする。
「俺たちは同じ村の出身で、ふた月前に冒険者登録して今はDランクです」
「といっても……」
「ソーマさんを見ると、なんだか本当にDランクでいいのかと不安に、ね?」
三人は顔を見合わせて頷きあう。
「うーん、でも三人で頑張って結果を残してきた結果がそれなんだから誇っていいと思うけどね。周りに自慢することでもないけど、君たち自身がそれを悪く言うことはないと思うよ」
ソーマの言葉を聞いて、三人は一瞬キョトンとして、次には笑顔になる。
「うん、そうだよな」
「うんうん!」
「だね!」
彼らはここ最近、いくつか依頼に失敗していた。
不可抗力であるとはいえ、今回の依頼もバジリスクの介入があったため中断して逃げるほかなかった。
そんな情けない自分たちのことを、格上の実力を持つソーマに言われたことで気持ちが軽くなっていた。
「そういえば、みんなは何かの依頼の途中だったの? それとも終わって帰るところだったのかな?」
ソーマの質問にレイたちは肩を落とす。
「実は……」
彼ら三人はビッグボアという巨大猪の肉の調達依頼を受けていた。しかし、目的の魔物を見つけたところで先のバジリスクに追いかけられてしまったとのことだった。
「だったら、その魔物を倒しに行こうか。バジリスクは倒したから、探せばいるだろ」
ソーマはレイたちが逃げて来た方向を指さした。
「えっ? でも、俺たちは……」
「うん……」
「……」
危険は去ったため、ソーマは提案したが彼らは再び肩を落とす。
よく見ると三人とも手ぶらで武器を持っていない。
剣士のレイの腰には鞘のみ、クレリックのミズルと魔法使いのユミナは杖を持っていない。
「もしかして、石化されたとか?」
ソーマの問いかけにレイが頷く。バジリスクの毒液を武器で受け止めたため、彼らは戦うすべをなくしていた。ユミナの魔法も、レイ、ミズルとの連携があるからこそ生きてくる。
「だったら、俺が一緒に行こう」
「いや、それは悪いですよ!」
ソーマの言葉にレイは首を横に振っている。ミズルとユミナも同様だ。
「まあまあ気にしないで。俺も色々な魔物と戦ってみたいんだよ。さあさあ、案内してよ!」
先にソーマが歩き出してしまったため、レイたちも渋々ついていくことにした。
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