6.重力魔法は大体固体にしかダメージない
12魔神の出番はない
「行け!僕ちゃんの忠実なる僕、四天王」
「ファイアー見参!」「サンダー見参!」「ブリザー見参!」「ウォーター見参!」
「その生意気な能力者やろうを切り刻んでやれえ!」
ザクザク!ザクザク!
「い、痛い!痛いよアレト」
「そう慌てるなミトリ…傷は浅い。すぐに殺す気はないらしい」
「そうさ!僕ちゃんはゆっくりいたぶって殺すのが趣味でねえ!僕ちゃんの重力魔法で動けなくなってる間に、少しずつ切り刻んであげるのさあああああ!」
「その余裕が命取りだぜ…」
アレトは重さで垂れ下がった腕の先で、軽く手首を捻った。光の刃が、アレトの手首から真っ直ぐ伸びて、マンニエルの肩を貫く。
「あんぎゃああああああああ?痛いああああああああ?何これ?何これええええけえ?ママあああああああ助けてええええええ」
「けっこう腕にくるなあこれ…」
「な、何で…僕ちんの重力があるのに…」
「固体から液体、気体、プラズマ…媒体が繊細になるほど、重力の干渉は受けにくい。大気中で空気の分子が、重力下でも激しく動き回ってるようにな…腕を伸ばしてナイフであんたの肩を刺すことは出来なくても、プラズマを伸ばせば何てことはない」
「ぐっ…何てチートな能力なんだ…グスン」
「おっと暴れるなよ…首を刎ねたら困る」
「アレト、殺してよ!」
「何で?」
「何でって…そいつ僕らを殺そうとしてるんだよ?」
「でも今回は、前のチンピラと違って、俺たちからこいつの方を尋ねたろ?尋ねといて、気に入らないから殺すって、何か違くないか?俺達がこいつのシェルター…ギルドだっけ?に来なければ、このマンニエルとやらまだって、こんな態度取らずに済んだだろ」
「ひ…ひええ…助けてくれるのかい?」
「ちょっと待てよ、この刀を抜いていいものかどうかは、俺も迷ってるんだ。とりあえず、こんなことになって済まんなマンニエル…俺達を見逃してくれるなら、俺もこの刃を鞘に収めようと思うんだが」
淡々とした口調でアレトが言う。前にチンピラの首を刎ねた時と全く同じ無表情で。
「わ…わかった。四天王!撤収!撤収だ。悪かった。ごめんよ」
「わかってくれたか」
アレトはプラズマを消した。マンニエルの肩の傷はそれほど深くない。
「チ…チミ!」
さっさと行こうとするアレトと、慌てて付いて行くミトリに後ろから声が掛かった。マンニエルが、大きな袋を担いで追ってきていた。四天王とやらは、近くにいないようだ。
「こ…これ、1ヶ月分の水と食料だ。肉も果物とある。缶詰めだ。缶切りもある」
「どうも」
アレトはさほど嬉しそうでもないが、すんなりと受け取った。
「勘違いするなよ!僕ちゃんは別に助けられたと思ってない!お前らが勝手に僕ちゃんのギルドに踏み込んできたんだからな!」
「もっともだ」
「だがな…このまま帰すのは、なんか負けた気がするから、その袋をやるんだ!いいか、僕ちゃんは負けてないんだぞ!わかったか!」
「そうか」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「こんなに沢山…よかったのかな?」
「まーた瓦礫の中を歩き回る期間が増えるな…さっさと死にたいのに…一か月分か…はあ…」
「やっぱり、アレトに着いてきて良かった。食べ物が何故か手に入る!」
「死ねない…」
憂鬱なのは本音だった。あのまま食料を貰わなかったらあと少しでスマートに飢え死にできたかも知れないのに。切り刻まれて死ぬのは痛そうだからやだったが、抵抗しなければよかったんだろうか。
「すごい!お肉もある!僕、家族と離れてから、一度もお肉食べてないんだ。やったあ!」
美味しそうな食べ物を前に、子供らしくはしゃぐミトリを見ていると、憂鬱なりに何だかアレトも少し嬉しい気分になった。
「家族?」
「うん…」
表情から、それ以上は聞けなかった。
アレトの家族は、『徹底破壊』の日にみんな外に出ていて、そして魔法による攻撃や破壊に呑まれて死んだ。
アレトの携帯に残された家族からのメッセージは、「ずっと見守ってる」だった。
その携帯も、瓦礫を彷徨う中で無くしてしまった。
「あの世にいったら」
アレトも缶詰めの肉を頬張る。悪くない味だ。
「ニートでいても、気がひけることがないのかな。それならやっぱり、さっさと死にたいなあ」
マンニエルは仲間になりません