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終末の魔道士  作者: エタリスト
1/6

1.死にたい主人公と生きたい少年

エタらないことできる?

「死にたい…」


そう毎日呟いてはいるものの、なかなかアレトは死ねないでいた。死にそうになると不思議と、水や食料にありつける。それも、略奪などではなく、ありそうもない瓦礫の下や隠し扉の中に、非常食の缶詰めやミネラルウォーターを見つける、といった感じで。


そこかしこに飢え死にしたであろう死体が跋扈する東京西部では、間違いなく運がいい方だ。しかし、水や食料を運良く見つける度に思う。また、死にそこそこなったと。


「あの…」


腰を降ろして非常食の乾パンを口に含んでいると、10歳くらいの大人しく気の弱そうな男の子に話しかけられた。


「食べ物、分けてくれませんか?もう一週間、何も食べてなくて…」


「水は?」


アレトは、男の子の顔も見ずに、素っ気なく答えた。


「昨日の夜に、大事に取っておいたジュースを飲んだのが最後です」


「ふうん…」


アレトは、まずそうに乾パンを頬張りながら、何気なく男の子の方を見た。やはり、気の弱そうな顔をしている。


「分けてもいいんだけどさ…飢え死にする方が楽じゃない?この乾パンだって、二人合わせても一週間分くらいしかないよ?」


「でも…」


「でも、何?生きたい?たった一週間生き延びて何になる?まあ、ムシャムシャと食べてる俺がいうセリフでもないけど」


「生きろ って」


「ん?」


「生きろって、心が言ってるんです」


「ふん…」


アレトは、乾パンを口に運ぶ手を止めて、今度はまじまじと少年の目を見つめた。よく見ると、くりくりと可愛らしい目をしている。


「面白いこというね。何となく、俺が死ねない理由と同じだな。破壊しつくされたこの世界で、毎日毎日目にするのは瓦礫と死体ばかり。だけどどういう訳か、俺は死ねない。飢えと渇きでいよいよ死ねるかと思ったら、なぜか食料にありつける。食わなきゃ死ねるのに、本能なんだな。ついつい食べてしまう。そしてまた後悔するんだ」


「…」


「お前も、後悔するといいさ。ほら、急いで食べると、空腹空けはお腹を痛めるから、水で戻しながら、ゆっくり食べろよ。」


「あ…ありがとうございます」


「名前は?」


「ミトリです」


「そっか」


アレトはそれ以降、何も話さなかった。ミトリという名のその少年も、夢中で、しかしゆっくり乾パンをふやかしながら少しずつ食べるばかりで、翌朝まで、一言も話さなかった。

死にたい症候群

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