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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

毎年恒例の肝試し

 小学生の頃から夏休みになると恒例行事がある。それは――肝試しだ。

 俺の住む町には、廃墟となった3階建ての町病院がある。子供たちからするとかっこうの遊び場だった。『入ってはいけない』と言われれば、余計に入りたくなるのが子供心。

 ある日、俺と同じように廃病院に忍び込んだ三人の小学生が居た。子供だけあって仲良くなるのは早かった。

 小学生の高学年にもなると、少しばかり背伸びをしたくなる年頃でもある。だから俺たちは夜の廃病院に忍び込み、肝試しをした。

 それ以来、8月14日に肝試しをするのが恒例となった。とは言っても毎年のことだから慣れたもので怖さを全く感じない。遊び場でもあったし、勝手知った家のようなものだ。それに一度も幽霊や怪奇現象にも遭ったことがない。

 そして、高校2年生になった今年も肝試しをする日を迎えた。俺は待ち合わせ場所である廃病院へと――


「よぉ、二人とも久しぶりだな」

「やぁ、マサキ。久しぶり」

「おひさ~。マサキは宿題やった?」

「……まだやってねぇよ。そういうユキこそやったのか?」

「えへへ。私もまだなんだ」

「二人とも宿題はちゃんとやりなよ」

「へーへー。相変わらず、シュンは真面目だな」

「アキラに比べたら普通だよ」

「そのアキラはまだ来てないのか……」

「少し遅れるって言ってたよ」


 病院の入り口前に集合。

 ユキは、少し生意気な性格をしているが、意外と優しい女の子。ムードメーカーって感じ。

 シュンは、背が高く体格がいいけどおおらかな性格をしている。俺たちのツッコミ兼ブレーキ役。

 まだ来ていないアキラは、強面(こわもて)な見た目に反して勉強が出来る。兄貴分って感じだ。

 三人は同じ小学校だけど、俺は別だった。だから待ち合わせはもっぱらこの病院になった。中学、高校にもなるとそれぞれ違う学校に通っている為、なかなか会う機会が作れなかったから久しぶりの再会でもあった。

 互いに近況を報告しつつ、他愛もない会話をしてアキラを待つことに。数十分後、アキラがこちらへと歩いて来るのが見えた。遅れているにも関わらず、悪びれた様子もなくゆっくりとした足取りで……。


「アキラ、遅い」

「悪い、悪い。宿題を終わらせてたんでな」

「さすが、アキラだね」

「シュンは大丈夫として……マサキにユキはちゃんとやってるか? あとで苦労すんぞ」

「は~い、私はちゃんとやってます!」

「ちょ、ユキ嘘つくなよ⁉ さっきは俺と一緒でまだやってないって言ってたろ」

「ったく、お前らなぁ……少しはシュンを見習えよ」

「それは違うぜアキラ! 夏休みこそ遊ばずして学生とは言えないんだぜ!」

「良く言った、マサキ! 私の代わりにもっと言ってやれ~」

「あのなぁ……マサキ、ユキいいか? なにも俺は勉強だけしてろって言いたいわけじゃ――」

「――まぁまぁアキラ、せっかく久しぶりに遊ぶんだからさ。勉強の話はあとにしようよ」


 開口一番が勉強の話とは、さすがアキラだな。その真面目さで俺とユキに説教を始めるが、それをシュンが止める。こんなやり取りを子供の頃からで、楽しくもある。

 それでもシュンの言う通りにせっかく遊ぶ為に集まったというのに勉強の話は勘弁して欲しい。アキラは勉強が出来るからいいんだろうけど、こっちは万年平均を下回るつーの。


 さて、今年の肝試しはどうするか……もう数年も続けているから、あらかたの肝試しをやり尽してしまっている。全員で、二人で、一人で、と様々な方法で病院内へと入り中を散策する。

 どうしようかと悩んでいると、シュンが『今年はみんなで行こうよ。色々と話したいしさ』と言った。確かに久しぶりだもんな、話したい気持ちはわかる。それに今さら真面目に肝試しをすることじゃないしな。俺たちがここに集まったのは肝試しよりも、みんなに会うことが目的みたいなもんだし。

 そんなわけで四人全員で病院の中へと踏み入る。子供の頃は不気味だった、昼間でも建物が建物と機能していない荒れた様相は正常ではないから。しかし、それも年を追うごとに恐れは薄れていった。


 特に道順を決めずに院内を懐中電灯を片手に談笑しながら歩き回る。中を知り尽くしてしまっているからなぁ……散歩気分だ。床には放棄された医療器具やら薬品やら、空き缶やカップメンのゴミなどが散らばっている。俺たちの他にもここに入る物好きがあとを絶たないんだろうな。

 ただ、まぁこの廃病院にも怪談噺の一つや二つはある。医療ミスによって死んだ患者の幽霊が出る……ノイローゼになったナースが飛び降り自殺をして、その怨霊が出る。よくわからないバケモノが住み着いている……等々。

 バケモノってはいわゆるUMAのこと。UMAとは、謎の未確認動物を意味する “Un(アン)identi(アイデンティ)fied(ファイドゥ) Mysterious(ミステリアス) Animal(アニマル)” の頭文字をとったもの。

 しかし、何年もここを訪れているけど幽霊もUMAも目撃したことないです。そんなものはいない、別に無神論者とか、幽霊なんて非科学的だ……なんて言うつもりはない。ただこの病院にはそんなものは居ないだけで、噂は噂でしかなかったってこと。


 そんなことを思っていたら知ってか知らずか、ユキが似たような話を切り出し始めた。


「みんな知ってる? 最近この病院に新しい噂が出来たって」

「ユキってそういうの好きだよね」

「そんなこと調べるくらいなら、勉強しろ」

「おいおい……今さら怖い話で俺たちをビビらすつもりか?」

「ひっどーい! 私だって信じてないしぃ……」

「まっ特に話題もないから、暇つぶしに話してみろよ」

「絶対にマサキを恐怖のどん底に突き落としてやるんだから! いい? 今の私たちみたいにここで肝試しをした人達の話なんだけどね――」


 ユキは若干不貞腐(ふてくさ)れながらも語り出した。その内容は……三年前に、ここで肝試しを始めた大学生の男女四人組。地元の住人ではなく、廃病院の噂を聞いてやって来たという。


 その噂とは――経営難で自殺した院長の幽霊が出るというものだった。彼らはその噂を確かめる為に、院内へと入る。とは言っても、そんな噂話を信じている者などいなかった。ただの夏休みの遊びの一つとして行っているに過ぎない。そう考えていた。

 一階から二階を見て回ったが特になにも起こらなかった。その頃になると彼らも院内の雰囲気にも慣れ、怖さを全く感じていなかった。そして、最後の三階へと行く為に階段へと差し掛かると――上階から “奇妙” な音が聞こえてくる。だが、距離が離れているせいかその音を聞き分けることは出来なかった。ただこれまで一階と二階を見たがそんな音は聞こえて来なかったから彼らは不思議に感じていた。怖いもの見たさ……それも手伝ってかその音の正体を確かめることにした。

 階段を登り切り三階へとやって来たが、音はまだよく聞き取れない。一人が耳を立て音のする方向を探る、聞こえてくる方向は一番奥にある大部屋からだった。恐る恐るとその大部屋へと向かうことに……近づけば近づく程に音が鮮明に聞こえてくる。それでも音がなんなのか想像出来ないでいた、なぜならこんな廃墟で聞こえてくるような音ではないと思っていたからだ。さしずめ、その音は料理の際の音に近いものだった。


 音を立てない様に部屋の扉の前までやって来る。廃墟にも関わらず扉はしっかりと閉じられていた。その扉に窓は付いておらず、中を覗き見ることは出来なかった。だから中を確かめるべく、慎重にゆっくりと扉を少しだけ開けてみる。

 覗いてい見ると……人が居るようだった。しかし、暗がりのせいで何をしているかまでは判別出来なかった。それでも明らかに人であることだけはわかった。正体がわかった安堵感からか、彼らは部屋の中にいる人物を面白半分で脅かしてやろうと考えた。きっと自分たちと同じ様に忍び込んだか、他人(ひと)には言えない秘め事をしているからと。四人はタイミングを見計り、勢いよく扉を開け放ち懐中電灯の明かりを当てる。

 すると、彼らの目に映った光景は――殺人現場だった。

 男が仰向けに伏した女性に跨り、手にした包丁で何度も何度も女性の身体を刺している光景。一瞬の間を置き……彼ら四人は逃げ出した。犯行を目撃された男は逃がすまいと、追いかける。


 ――後日、四人の大学生の捜索願が出された。そしてそれ以来、夜な夜な男女の悲鳴が聞こえてくる……血で染まった部屋から――


「ないわー」

「ありえんな」

「さすがにその話は無理があるね」

「なんでよー! 怖いじゃん! だって人が殺されてるんだよ⁉」

「だからそれが()()からだろ」

「なんでよ、マサキ?」

「アキラ、説明頼む」

「ふぅ……いいか、ユキ? 俺達は何年その現場であるこの病院で肝試しをしてると思ってるんだ。そんな部屋見たことあるか? 一度も見たことないだろ。それにそんな事件が起きてれば警察が来るはずだ、だが実際には捜査なんてされていない」

「それに三年前だって肝試しをしてるけど、そんな痕跡はなかったからね」

「ぶー、シュンまで酷い」


 ユキはくだらないデマに踊らされたな……むしろなぜ信じたし。アキラの言う通りにそんな事実は存在していない。結局、例年通りに何事もなく肝試しを終える。もちろん、ユキの話にあった例の部屋もしっかりと確認したが、血の跡なんてない。それどころか、本当になにも無い荒れた部屋なだけだった。

 まぁユキの話のおかげで多少は今年の肝試しは楽しめたのも事実。今年も楽しかった、久しぶりに三人に会えたからな。別の日に会おうと思い誘ったがみんなに断られた。シュンは宿題と同じ高校の友達と遊ぶから、ユキも似たようなもの、違うのは友達と一緒に宿題の写し合いをすること、アキラはさすがと言うべきで、受験に向けて忙しいとのこと。

 仕方ないと言えば仕方ない、俺もそろそろ宿題をしないとな。


 ――夏休みが明け、登校日。

 こっちはこっちで、また久しぶりにクラスメイト達と再会。皆、思い思いに夏休みを堪能していた。お互いに夏休み何してた、なんて話題で盛り上がる。その話題で何かを思い出したようで、一人のクラスメイトが俺に聞いてくる。


「ところでさ、マサキに聞きたいことがあんだけど」

「ん? なんだよ?」

「マサキさ、8月14日にあんな場所でなにしてたんだよ?」

「なにって、肝試しに決まってんだろ」

「ハァ⁉ あんな空き地でか? しかも()()で……変わった奴だなぁ」

「お前こそ、なに言ってんだよ。あそこは廃病院だろ?」

「……それ、何年前の話だよ」


 それを聞いた途端に背筋に冷や汗が流れた。俺は不安な気持ちで、その日の帰りに廃病院へと寄った……そこは空き地だった。

 俺は一体何時(いつ)から、一体何処(どこ)で、一体誰と――()()していたんだ。



 言い知れぬ恐怖に襲われたその時――三人の笑い声が聞こえた気がした。

最後までご愛読してくださり有難うございました。


どうだったでしょうか。日常や、なんの変哲もないと思っていたことが、実は異常であったと知った時の恐怖。

ありきたりと言えばありきたりなんですけどね。でも、ホラーにとってのお決まりは「醍醐味」とも言えます。

今作は、ありきたり要素で話を引っ張り、最後にオチを着けるという構成でした。

正直、恐怖を読者に煽る、という部分では弱い気がします。でも、私はこういったオチが好きです。

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[一言] 夏のホラー2019から来ました。 予想できても良さそうだったのに、展開に最後まで気が付かずオチで感心してしまいました。短い間ならいざ知らず、長いこと付き合いのあった友人たちが実は……という展…
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