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番外編その二、正直者は幸せな夢を見る後編

 「拓|お断りさせていただきます」

ファンになって欲しいという珠洲さんの従姉妹さんに、お願いを聞く気は無いとはっきり伝える。

「…やはり…こんな事をお願いしても、聞きいれてくれませんよね…」

「拓|俺が貴女のお願いを断るのは、珠洲さんの為ですよ」

「それは…どういう事ですか…?」

察しが悪いなあ…考えたら普通気付くんじゃないの?

「拓|嘘を吐いて珠洲さんを元気付けても、それは問題の解決にはなりません」

「それでも、萌莉ちゃんの元気を取り戻せるなら…」

「拓|珠洲さんが本当の事を知った時、傷付くと分かってる事はしたくないです」

「………]

俺の言い分を聞いた珠洲さんの従姉妹さんは何も言わず、少しの間黙っていた。

珠洲さんの為だと思うなら、別な方法にするのが絶対にいいだろ。

「…分かりました、さっきのお願いは諦める事にします」

「拓|それは良かっ…」

「その代わり、貴方に別の事をしてもらいます」

「拓|えっ、ちょ…どういう事ですか!」

俺は珠洲さんの従姉妹さんに引っ張られて、どんどんと奥へと連れていかれた。

血が繋がってるからって、こんな所迄似なくても…


 わけも分からないまま、ファッションショーのステージらしき場所迄連れてこられた。

らしいと言ったのは、もう既に終わっていて片付ける途中だからだ。

「拓|…そんなに広くないんですね」

「街おこしのイベントで、このあたり出身のモデルを起用した中小企業が主催していますから、

そんなに大きくは出来ませんよ」

成程、だからこんな所でファッションショーをしてるのか。

道理で俺の知ってるようなモデルがあんまり居なかったわけだ。

此処に来る前にスマホで見たイベントの情報を思い返しながら、そんな事を思う。

「私はマネージャーとしての仕事があるので、萌莉ちゃんを探して私が戻ってくる迄一緒に居てください」

「拓|拒否出来なそうなんで、分かりましたと言いますよ…」

別な事って、珠洲さんを探す事なのか?

俺、ショーが終わる前に出ていくって言ったんだけどいいのかな…?

そんな不安を抱えながら、此処の何処かに居るだろう珠洲さんを探す。

「萌|ちょっと、何でまだ此処に居るの?もうファッションショーは終わったわよ?」

だが、逆に珠洲さんが俺を見つけた。

後ろに居たのか…気付かなかった…

「拓|従姉妹さんに、君を探して一緒に居てくださいって言われたんだよ」

「萌|…本当なの…?嘘を言ってるんでしょ…?」

「拓|マネージャーとしての仕事をしに行ったんだって。戻ってくる迄の間だけだよ」

「萌|それじゃあ何処で待てばいいのか聞いてる?」

「拓|聞いてない」

「萌|…嘘吐き…」

「拓|嘘なんて言ってないって!戻ってくるんだから此処から動かないでって事だろ!」

拒めなかったから一緒に居るのに、嫌がられてる上に、

嘘吐き呼ばわりしている珠洲さんと何で一緒に居ないといけないんだろう?

一緒に居てくださいと言われたからとしか言えない現状に不満を持ちながら、

珠洲さんの従姉妹さんを待っていると。

「萌|お姉ちゃんも、さっさと帰らせればいいのに…」

「拓|お姉ちゃん?」

珠洲さんがぽつりとそう呟いた。

俺に話しかけたと思って言葉を返したが、珠洲さんはそんなつもりでは無かったらしい。

「萌|ああ、貴方が従姉妹って呼んでる人の事よ。あたしはお姉ちゃんって呼んでるの」

「拓|そうなんだ。というか、俺は従姉妹さんに言われて此処に居るようなものなんだけど…」

「萌|そうなら納得出来るけれど、何でなのか理由が分からないのよ…」

「拓|そんなの、俺の方が聞きたいんだけど…」

俺には答えが出せない問いに戸惑っていると、待ち人である珠洲さんの従姉妹さんが急いで戻ってきた。

「ごめんなさい、もう少し早く戻れると思ってたんだけど時間がかかっちゃったの」

「萌|お姉ちゃん、何でこの人を追い出さなかったの?関係者でも無いのに」

「私が引き留めたの、お願いしたい事があったから」

「拓|でもそれはお断りしましたよね?何で今も此処に居るんですかね?」

「もう一つ、お願いしたい事があるんです。萌莉ちゃんにも聞いて欲しいの」

えっ、別な事って珠洲さんと少しの間一緒に居る事じゃなかったの…?

思ってもみなかった言葉に、俺は動揺を隠せなかった。

「萌|お願いしたい事って…彼じゃないと駄目なの?」

「彼が一番適任だと思ったの。萌莉ちゃんが嫌でも私はお願いするからね」

「拓|…とりあえず…そのお願いしたい事の内容を教えてもらえませんか?」

聞かないと帰れなさそうなので、早く聞いてさっさと帰りたいと思ってお願いが何なのか聞く。

聞いてみてやりたくないと思ったら断るつもりだ。

「単刀直入に言うと、萌莉ちゃんとモデルの仕事の見学に付いて来て欲しいんです」

「拓|…はあ?」

意味が分からない、

何で俺が今日会ったばかりの珠洲さんと一緒にモデルの仕事を見学しないといけないんだ?

そう思ったが、頭の中でもう一人の俺がこう囁いてくる。

モデルの仕事の見学か…可愛い女の子見放題だな…

それだけで俺は、引き受けるしかないなと思った。

「萌|お姉ちゃん!こんな人にそんな事を頼むなんておかしいよ!」

「落ち着いて萌莉ちゃん。私は彼が貴女に良い影響を与えると思ったから頼んでいるの」

「萌|それは絶対に無いよ!」

「たとえそうでも、彼にマネージャーの仕事を見学させるって決まったの」

「萌|だったら、あたしと一緒じゃなくても…」

「拓|よく分からないけどさ、もう決まってるなら拒否権無いんじゃないか?」

もう答えが出たので、俺は目の前の揉め事をさっさと終わらせるために口を出した。

「萌|貴方は口を出さないで!」

「拓|いや、俺も関わってるから口を出すよ。

それに、珠洲さんが嫌でもお願いするってさっき言われたじゃないか」

それってさ、珠洲さんに決定権は無いって事だよな。

決めるのはあくまでも俺、珠洲さんが決める事じゃない。

「拓|俺は別にいいですよ。というか、むしろやらせてください」

「ありがとうございます。また断られたらどうしようかと思っていたので」

「萌|あたしは嫌なのに、どうして今日会ったばかりの人にそんな事を頼むの…」

「確かに萌莉ちゃんが嫌がるくらい…変な人なのは分かるわ」

「拓|本人を前にしてよく言えますね?」

さすがに初対面で言う事じゃなかったのは確かだけどさ…

あの時言った事を取り消したいくらいには後悔し始めた。

「でも、彼と一緒に居たら、萌莉ちゃんはまた歩き始める。私はそう思ったの」

「萌|…お姉ちゃんがそこ迄言うなら…」

どうやら話が一段落ついたらしい。

良かった、可愛い女の子を見れなくならなくて。

落ち着いたらしい珠洲さんに、俺は少しでも印象を良くしようと右手を前に出した。

「萌|…何…?」

「拓|何って、握手。後、改めて自己紹介。俺は榎本拓巳、これからよろしくな」

「萌|はあ…言わなくても知ってるでしょうけど、あたしは珠洲萌莉よ」

多少嫌な顔をした珠洲さんと握手して、俺はマネージャーの仕事を見学する事が決まった。


 「君!セットを片付けるのを手伝って!」

「拓|はい!」

「ちょっといいかな、それが終わったら休憩中のモデルさんにお水を持って行って」

「拓|分かりました!」

マネージャーの仕事を見学する事になり、萌莉さん達に付いて行くようになって数回。

今では撮影スタジオのスタッフさんの手伝いも手慣れてきた。

…忙しくてモデルの仕事も顔も見れないっていう残念な事になってるけどな…

思っていたのとは違っていた現実にがっかりしながら、

スタッフさん達の手伝いをこなしていると、休憩に入ったのかやる事が無くなっていた。

暇になってしまったので、折角の機会だから色々と見て回る事にした。

とは言っても、一人でうろつける場所は限られているので、

どうしたものかと階段を降りながら考えていると。

「拓|あっ…」

階段に座り込んでいる萌莉さんの姿が見えた。

…何やってるんだ?こんな所で…話しかけるべきか…?

悩んだ末に、俺は萌莉さんに話しかける事にした。

「拓|こんな所で何をしてるんだ、萌莉さん?」

「萌|っ…!拓巳君…!なっ何でも無いわよ!」

話しかけた途端、慌てて顔を拭った萌莉さんに変だなと思いながらも、何も気付かないふりをする。

ちなみに、名前呼びになった経緯は最初の仕事見学の時に、

萌莉さんの従姉妹さんに、仲良くなる為にお互い名前で呼び合ってと言われたからだ。

「拓|何でも無いのに泣く人間は居ないって、諦めて言ってくれよ」

遠慮も躊躇いも無く萌莉さんの隣に座る。

そもそも、萌莉さんはモデルの仕事を見学するという事で、

萌莉さんの先輩であるモデルさんに付いて来ているのだ。

それなのにこんな所に居るのは、何か理由があるのかもしれない。

「萌|…貴方に言ったって…どうしようもない…」

「拓|…分かった。じゃあ、今後もこの事を聞かれ続けたいか、今言うかのどっちかを選んで」

「萌|…話したく無い事なんだから聞かないでよ…」

じとっとした目で見られるが、すぐに呆れたように溜め息を吐いた。

見られた時点で手遅れだって分からなかったのか?

「萌|あたしはさ…モデルになって半年くらい経つのに、

一回だけしかモデルの仕事をしてないのは知ってるでしょ?」

「拓|ああ、最初に従姉妹さんに会った時にその話は聞いたよ」

「萌|そうなの…そのせいであたし、モデルをクビにされそうになってるの…」

「拓|意外と大変な事になってるな」

「萌|売れないモデルを、事務所はあまり長く抱えられないのよ。

だから、仕事をもらえるように頑張ってるんだけど…中々上手くいかなくて…」

「拓|それで誰も居ない階段で落ち込んでたわけか」

萌莉さんは何も言わずに頷いて、頭を下げたまま泣きそうな顔をしていた。

その表情は、もう時間が無いのだろうと思わせるには十分だった。

でも、無関係な俺にとってはそんな事はどうでも良くて。

「拓|そんなに落ち込む程の事かなあ?」

誰が聞いても無神経な一言を言っていた。

「萌|なっ…!貴方にあたしの気持ちは分からないでしょ!」

「拓|そうかもしれないけど、俺はその程度の事でここ迄落ち込む事なのかな思っちゃうんだよ」

別にモデルをやめたからって、誰かが死ぬわけでも、自分が死ぬわけでもない。

萌莉さんがモデルを始めた理由は知らないけど、

モデルをクビになりそうになって落ち込むなんて俺には理解出来ない。

「拓|モデルの仕事をするだけが、萌莉さんの生き甲斐ってわけじゃないだろ?

そうなっても他の事に挑戦したりすればいいじゃないか」

「萌|…そんなに簡単じゃないのよ…」

萌莉さんが言うには、モデルになったのは友達が冗談半分でオーディションに履歴書を送ったら、

奇跡的に合格してしまったからだった。

何の相談も無く、後になってその事を知った萌莉さんの両親は大反対したそうだ。

だがその反対を押し切って、

当時からモデルのマネージャーをしていた萌莉さんの従姉妹さんと一緒に説得して、

モデルの仕事をする事を許してもらったそうだ。

親に反対されてもやりたかった事なのに、簡単に諦めるわけにはいかないらしい。

「萌|あたしは…お姉ちゃんにも、お母さんやお父さんにも我が侭を言ってるの。

それなのに、あたしが簡単に諦めるなんて出来ない…!」

「拓|…そうなんだ…」

萌莉さんは、自分が無理を言って今モデルをやっているのに、

諦めたいなんて言えるわけがないと思っているようだった。

萌莉さんの事情を聴いた俺は、何と言えばいいのか深く考えた。

深く考えた結果、最初に思った事を口にした。

「拓|やっぱり、そんなに落ち込む程の事なのかなあ?」

俺のその言葉を聞いた萌莉さんは、俺に平手打ちを食らわせようとしてきた。

必ず何かされると予想していた俺は、その平手打ちを後ろに引いて避けた。

「萌|…避けないでビンタを受け入れなさいよ…」

「拓|絶対に来るって分かってる痛い思いを避けないわけないじゃないか」

「萌|だからこそビンタされなさい」

「拓|いや理不尽!」

本気で怒っている萌莉さんを何とか落ち着かせて、俺は話を続けた。

「拓|俺からしたらさ、落ち込んでも何も良い事なんて無いのに、何で落ち込むのかなって思うんだよ」

「萌|不安…なのよ…モデルをやめたら、これからどうすればいいのか分からないから…」

「拓|だから、それが分からないんだって」

そう言って、俺は階段の踊り場迄降りて萌莉さんに向き直った。

「拓|モデルじゃなくなっても、やりたい事は変わらないだろ?

だったら、別のやり方にすればいいだけじゃないか」

「萌|別のやり方…そんなの、あたしには分からない…」

「拓|時間をかけてもいいから、見付ければいい。落ち込んでいるよりずっと有意義だ」

戸惑っているような、考え込んでいるような、そんな表情の萌莉さんに言葉を続ける。

「拓|やりたい事を探すくらい、一緒に探すさ。落ち込む暇なんて無くしてあげるよ」

不安を消せるように、にっと笑いかける。

たったこれだけで元気にさせられるとは思わない。

安心させたいなら、これからも支え続けないといけない。

でもそれくらい、俺にとっては楽な事だ。

だから、これからも助けて欲しい時は言ってくれれば助けに行くつもりだ。

そんな気持ちが、少しでも伝わってくれればと思う。

「萌|馬鹿じゃないの…?言うだけしかしてないくせに」

「拓|落ち込んでいる女の子を放っておくなって兄貴からの教えに従っただけだ」

少しだけ笑った萌莉さんにほっとしながら、言うだけにならないようにと気を引き締める。

「拓|じゃ、今出来る事をする為に撮影してるスタジオに戻ろうか」

「萌|言われなくてもそうするつもりよ」

これなら、少しの間は大丈夫そうかな?

そう思いながら、萌莉さんと一緒に撮影を見学しに戻った。


 「萌|今から…会って話したい事があるんだけど、いいかしら…?」

学校とマネージャーの仕事を見学するのも休みの日、萌莉さんを励ましてから約一ヶ月くらい経った頃。

何の予告も無く、萌莉さんからそんな内容の電話が来た。

今日は久し振りに何も無い日だから、グラビア写真集でも買いに行こうかと思っていたが、

萌莉さんがこんな電話をしてくるんだから何か大事な用があるんだと思い、呼び出しに答える事にした。

「拓|ああいいけど、何処に行けばいいんだ?」

「萌|今、薊公園に居るの、そこでいいかしら」

「拓|近いな、五分くらいで行けると思う」

「萌|そう、じゃあ待ってるわ。…必ず来てよね」

そう言って萌莉さんは電話を切った。

「拓|…何だか、様子が変だったような…」

いつもより弱々しい雰囲気だった気がする。

実際に会ってないから確信は無いけど。

「拓|…急いで行くか」

何だか悪い事があったような気がして、俺は萌莉さんが待ってるだろう公園に急いで向かった。


 「拓|はあ…はあ…話って…ぜえ…何なんだよ…」

「萌|遅…くは無いわね…電話してから二分くらいで来るなんてどうしたの?」

家を出てからダッシュで公園まで向かい、徒歩五分くらいの道を約二分で走破したらしい。

公園に着いた俺は体力の限界を超えて、口から出てはいけないものが出そうなくらい気持ち悪くなった。

…喉の奥から鉄と胃酸の味がしてきた…

「拓|どうしたも何も、電話の時に様子がおかしかったから、

何かあったのかって思って急いで来たんだよ」

「萌|そっ、そうなの。まあ、いい心がけじゃない」

俺が急いで来た理由を聞いた萌莉さんは、落ち着かない様子で髪を手で梳いていた。

…何か嬉しそうに見えるんだけど…電話してた時の弱々しい感じは気のせいだったかな?

「拓|それで?話したい事って何?呼び出したんだから大事な用なんだろ?」

俺がそう言うと、萌莉さんは髪を梳いていた手を止めて悲しげに目を伏せた。

やっぱり…何かあったんだな…しかも、良くない事が…

「萌|あたしね…今日、モデルを辞める事になったの」

「拓|そう…なんだ…」

「萌|うん…まあ、本当ならとっくの昔にクビになってたはずだったんだけれどね」

そう言いながら、萌莉さんは笑っていた。

でも俺には、その笑顔が無理をしているようにしか見えなかった。

そう思っていたのが顔に出ていたのか、萌莉さんは誤魔化すように言葉を続けた。

「萌|ショックじゃなかったわけじゃないのよ?でも、思っていたよりすんなり受け入れられたわ」

「拓|簡単だったわけじゃなかったろ?親に反対されても、やりたかった事なんだから…」

「萌|それはそうよ、でもね」

萌莉さんはまた笑顔を見せる。

でも、それはさっきの笑顔とは違っていた。

「萌|貴方が言ったんじゃない。やりたい事くらい一緒に探すって。

だからあたしは、別のやり方でやりたい事をするの」

「拓|それで納得できるのか…?」

「萌|もう次にやりたい事は見付けてるわ。あたし、お姉ちゃんと同じマネージャーになりたいの!」

そう夢を語りながら笑う萌莉さんは煌めいているように見えて、

心からの笑顔に俺は心と心臓が高鳴った。

ああ、そうか…俺、萌莉さんが好きなんだ…

いつ好きになったのか分からない。

今好きになったのかもしれないし、

もしかしたら最初に会った、ぶつかったあの時に一目惚れしたのかもしれない。

まあ、それは俺にも分からないし、どうでもいい事だ。

大事なのは、今俺は萌莉さんが好きだって事だけ。

「萌|それでね、出来れば…」

「拓|俺、萌莉さんが好きだ」

自覚した途端に、口からするりとその思いが言葉として出ていた。

無駄に考える事も空気を読む事も出来ない俺は、言いたい時に自分の思いを伝える事しか出来なかった。

「拓|もう一緒に居る理由が無いから会えなくなるなんて、寂しいし嫌だ。

俺は萌莉さんの隣で萌莉さんの夢を応援したい」

でも、それでいいと思ってる。

俺の心の内を伝えられなくなるくらいなら、今此処で萌莉さんに全部伝えたいから。

「拓|この気持ちが邪魔になるとしても、俺は諦めない。傍に居たいんだ。それじゃあ駄目か?」

「萌|ちょ、ちょっと待って!」

俺の告白を慌てた様子で萌莉さんは止めた。

やっぱり…いきなりこんな事を言われても困るよな…

「萌|展開が急すぎて追いつけないわよ…

それと、あたしの話はまだ終わってないんだから最後迄聞きなさい」

「拓|えっ、続きがあったんだ?」

「萌|あったわよ…人の話はちゃんと聞きなさいよ…」

呆れたように言う萌莉さんに、じとっとした目で見られた。

え~…何か言おうとしてたか?

「萌|とりあえず処理しやすいものから。

あたしは、モデルを辞める事になったからって貴方とは会わないなんて言うつもりは無いから」

「拓|そっ、そうか…」

もう会えなくなると勘違いしていた事に、俺は少し恥ずかしくなった。

「萌|そっ、それとあたしが好きだって言ってた事だけど…」

顔を朱く染めながら、

また髪を手で梳いている萌莉さんは何を言えばいいのか迷っているような表情をしていた。

「萌|いきなりすぎてびっくりしたわよ…あたしはもっと時間をかけてから言うつもりだったのに…」

「拓|えっ…それって…」

「萌|予定とか頭の中とか色々と滅茶苦茶になったけど、あたしは…拓巳君が好き」

拗ねたように照れながら萌莉さんはそう答えた。

両想いだった事に嬉しいと思うよりも、

好きだと言われた事に俺は萌莉さんと同じように顔が朱くなっていく。

「拓|そう、はっきりと言われると…何だか照れるな…」

「萌|あっ、あたしは恥ずかしいわよ。そっちは恥ずかしくなかったの?」

「拓|ぽろっと言ったからそんなに恥ずかしくはなかったな」

「萌|あたしだけ恥ずかしい思いをさせないでよ!」

理不尽に怒られるが、それが本気では無いのは分かっているのであまり気にしない。

「拓|これから先も一緒に居るんだから、こんな恥ずかしい思いはお互いいくらでもするって」

「萌|そんな事を言ってるわけじゃ…」

「拓|それよりも、俺は萌莉さんと一緒に嬉しい事や楽しい事をしていきたいからさ」

「萌|そうね…あたしもそう思うわ。ん…」

萌莉さんの手を取って、顔を額が当たるくらいに近付ける。

そしてこれからも一緒に居る事を誓うように、俺は萌莉さんと口付けを交わした。


 「拓|ってわけで、俺と彼女は付き合う事になったわけだ」

「統|………」

「………」

俺と萌莉が付き合ってから大体一年くらい経って、

俺と萌莉が付き合う事になった経緯を、聞いてきた統次郎とクラスメイトに話していた。

二人は正に苦虫を噛み潰したような顔をして俺を見てきている。

聞きたいって言うから話してるのに、何でそんな顔をしてるんだよ?

「何か…ものすっごく…」

「統|納得が出来ない…!」

「拓|おいおい、聞きたいって言うから本当の事を話してるのに何だよそれ」

「統|元モデルなんて絶対に可愛い女の子と拓巳が付き合ってるなんて納得したくない~!」

「気持ちは分かるけどさ…納得しようよ…」

「拓|本当に何なんだよ…」

話す時間があまりなかったので、細かい事は話せていないし、

話す必要も無いと思ったので最初の出会いと最後の部分を大まかにしか話していない。

それでも統次郎は泣く程悔しがっていた。

…実はこの学校の同学年の別クラスに萌莉が居て、

毎日会っているなんて知ったら、大変な事になるだろうな…

そう思いながら窓の外を見上げて、愛しの彼女に思いを馳せて幸せな夢を見るのだった。

最後まで見ていただきありがとうございます。

ここから先は本編にも触れるので、

まだ見ていない人や、三十二話目の普通が分からなくなる六月四日を見てない人は、

ある程度のネタバレを覚悟して下さい。

今回の話は、榎本拓巳に彼女が居るのでそれを書こうと思って書きました。

ちなみに、最後の統次郎達とのやり取りは三十二話目の、

この話は、俺が話を無理やり変える迄続いた。の後にあったやり取りです。

他にも、前編では本編で少しだけ書いた所があるので探してみてください。

出来れば、感想をもらえると励みになりそうなのでお願いします。

最後に、本編を見ていない人が興味を持ってもらえると嬉しいです。

次の番外編も楽しみに待ってください、それでは。

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