第1話〜流行ってるよね異世界転生〜
後半パートです
「とりあえず神様呼んでくるのでここで待っててください。」
天使(仮)からこう言われてから、もう30分は経っているのではないだろうか。もちろんこの白い空間には時計などなく、時間は分からないのだが、決して短くない時間待たされているはずである。その証拠にここに来てからの出来事を回想し終わってしまった。ちなみになぜ回想などしていたのかというと、神様を呼んでくるという不可解な台詞の意味を知る手助けにならないかと期待したからだ。成果は全くのゼロだったのだが。天使を名乗る人がいるくらいなのだから、神様の一人や二人出てきてもおかしくないかもしれない。そう覚悟を決めた時、突然目の前に二人の人影が現れた。
「ちゃんと待っていたみたいでなによりです。意外とお利口さんなんですね。」
「一言多いですよ。それより、隣のお方は?」
一応質問をしてはみたものの、答えは聞くまでもないだろう。天使があんなのだったせいで神様も胡散臭いものが出てくると勝手に思い込んでいたが、少し甘かったらしい。仙人のような男性を想像していたのだが、見た目は天使とそう変わらない、むしろ少し幼いくらいの女性だった。しかし、思わずひれ伏してしまいそうになるほどの威厳というものが滲み出ている。かつて聖女が夢に出てきた神様の言葉で人生を決めたことがあったというが、なるほど、こんなものが夢に出てきたら人生など簡単に曲げてしまうだろう。
「私と態度違いすぎませんか?っていうかあんなのって酷くないですか?」
「まぁまぁ、神様と比べたら誰だってあんなのじゃないですか。」
「そもそもこの子神様じゃないし。」
この天使ちゃんには何度驚かされたらいいのだろうか。頭がおかしいだけでなく、まさか目まで節穴だったとは。
「おいちょっと待て人間。節穴とはなんだ。そして頭がおかしいとはなんだ。」
「だってそうでしょう。こんな威厳に充ちた人が神様じゃなかったらなんなんですか。」
「この子は私の同僚。つまり天使です。人のこと節穴呼ばわりしてますけど、そもそもあなた神様見たことないじゃないですか。知ったかぶりで悪口言わないでください。」
これだから最近の人間は、とまたぶつぶつ言っているが、もしさっきの発言が本当だとしたら、明らかに原因は彼女自身にあるだろう。こっちの天使様と同じような威厳を彼女からは感じたことが無いのだから。
「それはあなたと相性が良いから。」
突然天使様が口を開いた。予想外の出来事に思わずビクッとしてしまった。
「驚かせてしまってごめん。」
「いえ、こちらこそすみません。」
「私はお忙しい神様の代わりに来た。彼女とは長い付き合い。今まで彼女と何人も人間を案内してきたけど、こんなこと初めて。あなたは彼女と相性抜群。時代が違えば聖人とか英雄になれたかも。」
いきなりすごい情報量をぶつけられてしまった。この天使様は神様の代わりに何をしに来たのか。聖人?英雄?そもそもあれと相性がいいなんてありえないだろう。
「普通の人間はあなたが私を見た時に感じたものと同じものを彼女にも感じる。でもあなたは違う。それはあなたと彼女の相性が良いから。聖人とか英雄とかって言われてた人も相性のいい天使がいた。だからあなたもそうなってたかもしれない。そう言いたかった。」
「天使っていうのは彼女やあなたの他にもいるのですか?」
「たくさんいる。それぞれの天使にはそれぞれ違った役割がある。例えば彼女は案内。そして私は転生。」
転生。生まれ変わりということだろうか。つまり天使様は僕を生まれ変わらせるために神様に代わってここに?
「そう。人生の終わりに納得出来なかった人を、時々転生させてあげることになってる。あなたは運が良い。神様からのさーびす。」
もしやとは思ったが、やはり天使様にも心の声は聞こえるらしい。いや、そんなことよりも転生についてだ。天使様は運が良いと言っていた。つまりみんながみんな転生出来るというわけではないのだろう。そして人生の終わりに納得出来なかった人が転生するのだと言っていた。転生できる回数に制限はあるのだろうか。例えば転生した人生でもまた納得のいかない終わり方をしたとしたら。
「その時はきっと、また運が良ければ転生出来る。でも何回も同じ人に来られたら困る。それに悲しい。だから神様は転生する時にちょっとぼーなすをあげてる。次の人生が少しだけ上手くいくようにお手伝い。私が来たのはぼーなすの内容を決めてもらうため。」
なるほど、どうやら本当に僕はラッキーだったらしい。でもボーナスと言われても具体的にはどういうことなのだろう。
「その前に転生について少し説明する。残念だけどあなたは元いた世界には戻れない。元の世界に戻れるのは子供だけ。そして人間にもなれない。これはちょっとだけあなたのせい。持ってるエネルギーが少ないから人間に転生しようとすると失敗しちゃう。エネルギーは食事とかにも左右される。転生したらちゃんと食べてね。最後にぼーなすについて。出来ることと出来ないことがある。例えば世界一強くなりたいとかは無理。2桁のかけ算を暗算で解けるようになるとか、そういうちょっとした特技程度のものにして欲しい。なにか質問はある?」
「人間は無理ってことでしたけど、転生出来る生き物の大きさはどれくらいまでなんですか?」
「大きさだけで決まってるわけじゃない。転生出来るか聞いてくれたら答える。」
「前の世界にいない動物とかにも転生出来るんですか?」
「エネルギー量が大丈夫なら出来ると思う。」
「例えば蛙とかは…」
「蛙。あなたのいた世界ではもう絶滅した動物。なぜ蛙?」
「僕の名前と同じ読み方が出来るんです。だからなんとなく好きで。小さいらしいからあまりエネルギーもかからないんじゃないかと思って。」
「うん。大丈夫。じゃああなたは転生したら蛙。次は場所を決めて。どんな世界に転生する?」
「うーん。僕のいた世界は元々森や山、川といった自然溢れる世界だったらしいんです。でも僕の時代にはもうそんなものはなくて。だから、そういう自然が豊かな、あと出来れば平和な世界が良いです。」
「分かった。きっとそういう場所なら蛙がいてもおかしくない。最後にぼーなす。」
「特技じゃなくてもいいですか?例えば体が丈夫になるとか。」
「全身が丈夫になるとかは難しい。一部なら大丈夫。」
「蛙なんだし足腰でも丈夫にしてもらったら?」
実はさっきから視界の端でチラチラと天使が飛んでいるのは見えていたのだ。ただこっちも色々考えるのに忙しいし、下手に絡まれても面倒なので放っておいたのだが、どうやら機嫌を悪くしてしまったらしい。
「じゃあそうしてもらおうかな。」
特に深く考えていたわけではない。相性が良いと言われたこともあり、またなんだかんだでここまで面倒を見てはくれていたのに無視したのも少しは悪かったなと思ったこともあり、そして最後は考えるのが少し面倒になったこともあり、案内の天使とやらの言葉に従ってみることにしたのだ。
「え、ちょっとあんた。もう少ししっかり考えなさいよ。ボーナスって結構大事なのよ?」
「自分で言ったくせに。それに、考えたらそんなに悪くない気もしますよ。せっかく自然豊かな場所に行けるのに、すぐ疲れて歩けなくなるんじゃ全然満喫出来ませんから。」
私もしかしてやらかしちゃったかな、などと柄にもなく心配そうにしていたのでフォローのつもりで適当に理由を考えたが、なんだか自分までその理由で納得出来たように思えた。自然豊かな世界で足腰の丈夫な蛙が第二の人生を送る。少し、いや、かなり滑稽な響きだが、不思議と悪い感じはしなかった。
「決まったね。じゃあ転生させる。少しの間眠る。そして起きたら転生後の世界。心の準備はいい?」
「はい。」
「じゃあ行ってらっしゃい。」
「あの。ありがとうございました。」
「やっぱり結構良い子よねあんた。」
最後まで口の減らない天使だ。
「良い子のあなたに特別ぼーなす。転生後の世界でも言葉が通じるようにしてあげる。彼女があんなに楽しそうなの初めて見た。私からのお礼。次の人生は幸せに生きてね。」
特別ボーナスのお礼を言おうとしたが、まるで無理やり剥がされるかのような感覚に逆らえなかった僕の意識は、闇の底へと沈んで行った。