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願い事~第一章エピローグ~

 告白が終わって、再び繋がりを取り戻した僕と日和は崖の上で寄り添っていた。


 お互いに話す言葉はなかったけどそれでもよかった。ここでならいつでも会話が出来るとわかったのだから。


「言えなかったことって聞いてもいいかな?」


 画面をぼーっと見ていると隣にいる日和が声をかけてくる。もしかするとタイミングを見計らっていたのかもしれない。


 ちなみに、彼の事を日和と呼びに戻したのは慣れ親しんだ呼び方だからだ。いきなり「彼」に変えてもしっくりこなかった。


 僕はそんな事を考えながらキーボードを打つ。

 今の僕達は文をやりとりする事でしか意思の疎通がはかれない。


「うん、言ってもひかないでね?」僕は前置きをしておくことにした。


 それに対して日和は、「うん」とメッセージをくれた。これは前に進む為に必要な事だと思い覚悟は決めていた。


「実はね、僕は小説を書いてるんだよ。小説家を目指している途中なんだ」


「小説?」


「うん、小説」僕は勇気を出して伝える。それに対して「おー」と日和は驚きの表現をしてくる。


 その後に「ふむふむ、なるほどなるほど」と今までの僕の言動と照らし合わせて納得をした感じで返ってきた。


 今の日和は足りないピースがはまった感じを受けている事だろう。


「えーっと、どんな小説を書いているのかな?」


 日和は気になったのか僕に聞いてくる。


「恋愛ものだね」僕はそう返す。


 僕は今まで恋愛ものばかり書いてきた。これは多分、好きな本がそういうものばかりだったからかもしれない。


「うーん、何で私に言えなかったの?」


 核心を突かれた、当然気になっている事だろう。


 僕は大きく息を吐くと正確に考えていた文字を打っていく。


「僕は、君との恋愛を小説に組みこもうとしていた。だから言えなかった」


 そう、日和の事を取材対象として見ていた部分があったのは事実だ。その事は僕が罪として背負っていくべきだろう。


「え、そんな事だったの?」


 そんな僕に、予想と違う答えが返ってくる。


「もっと重たい事かと思ってたよ⋯⋯よかった⋯⋯」


 日和の言葉に頭の回転が追い付かずに理解出来ない。


「え、許してくれるの?」


「許すも何も、小春君の夢に繋がっているのなら嬉しいよ!」


 日和は僕が甘えそうになる言葉をかけてくれる。


「それでも、日和を利用しようとしてたのは事実だから」


「今もそうなの?」


「違う」


 僕はすぐに返した。日和は信用してくれないかもしれない。それでも誠意を示すにはそれしか出来なかった。


「じゃあ大丈夫だね。これからもよろしくね!」


 日和のその言葉に僕は呆気に取られてしまった。


「え、それだけ?」


 僕は現実世界で独り言を呟いてしまった。この声は日和には届かない。


 こんな簡単に済むなら先に言えばよかった⋯⋯


「⋯⋯うん、こちらこそよろしく」日和言葉に僕はそう返す。


「まあ、こうやってちゃんと分かりあえたから許すのであってもっと前に言ってたら幻滅はしてたかもね」


 前言撤回。言わなくて正解だった。


「でも、私を題材にしてるなら私に何かしてくれてもいいよね? 勝手に使ってたわけだし」


 現実の日和が意地の悪い笑みを浮かべてる気がした。多分気のせいではない。


「は、仰せの通りに」思わず家来のような口調になってしまった。


「うむ、苦しゅうない」


 日和はまるで姫⋯⋯いや、殿なのか? どっちにでも取れる言葉を使った。


「では、二つ願いを叶えてもらおうかな⋯⋯」


 僕はその次の言葉を、固唾を飲みながら待つ。


「まずは一つ。その小説が完成したら、一番最初に私に読ませて欲しいな」


 その言葉を見て安堵した。叶えられそうな願いでよかった⋯⋯


 僕は「もちろん」と答えた後、「というより元から読んで貰うつもりだったけどね」と続けた。


「そうだったんだ⋯⋯一つ目の願いは違う願いに変えてもいい?」


「ダメ」


 僕は即答する。それを許可してしまうと色々押し付けられそうだったからだ。


 日和は「しょうがないなぁ⋯⋯」と諦めたような言葉を使った後、「そろそろ用事がある時間だからログアウトするね」と言った。


 もう一つの願い事を聞かされると思っていた僕は肩透かしを食らった気分になる。


「もう一つの願い事は?」気になったので思わず聞いてしまっていた。


「うーん、そのうち⋯⋯ね」日和は僕の言葉を受け流しながら曖昧な返事をした。


 ハッキリとした返事を得られなかった事に何故か胸の中がモヤモヤとした。


 近づこうと思ったはずなのにまだ距離があるようなそんな錯覚を覚えてしまう。僕は頭を振る事でその思考を頭の外に出そうとした。


 日和はそんな僕の気持ちを知ってか知らずか、「バイバイ、またね」と言う言葉を残して僕の前から姿を消した。


 ──僕は、そんな日和をただ見送ることしか出来なかった。

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