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遊園地にて

 その翌日、朝起きて一番最初にカーテンを開いた。

 昨日、雨が降っていたのが嘘みたいに外は燦々(さんさん)と夏の日差しがアスファルトに照りつけているのが見えた。


 寝起きの目には少し刺激が強かったみたいで少し目がちかちかとしたので直ぐにカーテンを閉めた後、今日も一日暑くなりそうだな⋯⋯と考えて溜め息を吐いた。


 時計を見ると待ち合わせの時間まで後二時間だった。


 机の上に置いてある携帯を見てみると日和から「今日は遊園地楽しもうね」と連絡が来ていた。


 僕は「そうだね、今日は楽しもう」と返事を した後に気合いを入れるためにパァン!と頬を叩いた。


 ⋯⋯さあ、準備を始めよう。


 顔を洗った後、日和に選んでもらったサマーニットへと袖を通しズボンを履く。


 机の上に置いてある財布の中身を確認して入っているお金が少なかったので引き出しを開けてお金を取り出す。


 そのついでに残っているお金を確認すると、夏休みが始まった時から大体半分も減っていて少し焦ってしまう。


 それを見て、夏休みが終わったら節制しよう⋯⋯そう誓いを立てたのだった。


 約束の一時間前に家を出て、想像通りの暑さの中日和との待ち合わせ場所へと向かいながら「午後からは少し涼しくなりますように⋯⋯」そんな願いが口から出てしまった。


 待ち合わせ場所に行くと日和が待っていて、手を振ってくれた。

 今日の服装は出会ったときと同じ白いワンピースだった。

 いつもの癖でヘアピンのある位置を見ると今日は着けていなかった。


 どうしてだろう?と考えて、今回は忘れただけかもしれないと自分を納得させた。


 おはよう、とお互いに挨拶を交わし合い電車に乗り込む。


 行き先は思った通りに志麻に決まった。


「ハル君、昨日何してたの?」電車のなかで日和はそう聞いてきた。


「なんで?」

「返事が遅かったからなにか集中してたのかなって」


 やっぱり気にしてたらしい。


「えーと、宿題をやってて後は寝ていたかな」少し頭で言葉を考えた後にそう答える。


 ──ぼりぼり。


 ああ、また頭を掻いてしまっている。気がついてその手を引っ込めた。


「そうなんだ」僕をじっと見ていた日和は素っ気なく返事をする。何か気に触る事をしたのだろうか?


 返信が遅れた事を謝らなかったのがいけないかもしれない。


 そう思い、「返信が遅れてごめん」と一言謝った。


「──いいよ、別に」日和は窓の外に顔を向けたままそう言った。


 どうやら僕の予想は外れてしまったらしく僕は口を閉ざした。


 ずっと窓の外を見ている日和を見て、このままではいけないと思い話題を変える事を考える。


 何か良い話題はないものか⋯⋯そうだ。


「そういえば、貸した本はどこまで読んだ?」


 僕はその事を話題にすることにした。

 本の事なら得意分野だ、話を続かせることができるだろうと考えての事だ。


 それを聞いて日和はんー、と言った後。

「あんまり進んでないね」と言って苦笑いをした。


 僕は「⋯⋯そうなんだ」としか返すことが出来ず、そこから違う話題に変えようとしても思い付かなかった。


 そのまま、目的の駅に着くまで気まずい雰囲気が続いたのであった。


宇賀田(うがた)~宇賀田でございます。志麻フランス村へお行きの方は駅前のバスへお乗りください」

 電車内にアナウンスが流れる。


 僕達はその指示に従って電車を降り、バスに乗り込む。その間日和とは会話を二言くらいしか交わさなかった。


 ようやくまともに話せるようになったのは遊園地にバスが到着したときだった。


「ハル君、行こうか」バスを降りた後、日和はそう言って僕の方に手を差し出してくる。


 僕はうん、と頷きながらその手を握った。


 入場口でお金を払い、中に入る。

 そして、最初に辺りを見て思ったことが一つあった。


 ⋯⋯あんまり人いないな。


 夏休みなのに⋯⋯僕はこの遊園地の未来を憂いてしまった。


「うーん、ハル君何から乗る?」日和は目を輝かせながら辺りを見回している。


 初めて遊園地に来て何に乗るか、か⋯⋯


「うーん⋯⋯絶叫系以外ならなんでもいいよ」考えた末そう答えた。


 絶叫系はあまり乗りたくない、何となく嫌だ。

 決して怖がっているとかではない。


「えー、せっかくだし乗ろうよ、後でいいからさ」

 それを聞いて非難がましくそう言ってくるが、僕は耳を塞ぎながら「とりあえず、案内板を見てみようか」と提案をしてみた。


 そして、案内板を見た僕は愕然とする。


「絶叫系多すぎない?」ぽろりと心の声がもれる。

 なんだこの遊園地、普通の観覧車とかないのか⋯⋯心の中で愚痴を吐く。


 ふふ⋯⋯と笑い声が聞こえたので横を見てみると日和はにやにやと笑っていた。


「これは乗れってことだよー」と笑い顔を隠さないまま言ってくる。

「まずはこのシューティングゲームが出来る所から行こうか」

 僕はその言葉を無視して自分の意見を押し付ける。

「⋯⋯まあ最初はそこからでいいよ」

 日和は不承不承と言った感じでそう答えてくれた。

 しかし、その瞳に宿っていたのは諦めない意思なのを僕は気づいていなかった。


 シューティングゲームの所へ着くとすぐに僕達の番が回ってくる。


 前には三組程並んでいただけで、そこまでの待ち時間ではなかった。


 建物の中に入ると中は暗く、中々雰囲気があり

 嫌が応にもテンションが上がっていくのがわかる。


「ハル君、勝負しない?」

「勝負?」


 日和が唐突に話を持ち掛けてくる。


「この勝負に負けた方は相手の言う事を一つ聞く、そういうルールでやった方が盛り上がると思うの」

 確かに、一理あるな。

 テンションが上がっている僕は深く考えずにそう思ってしまった。


 勝てばいいだけ。

 そう思いながら僕は「いいよ」と安請け合いをしてしまった。


 そして、アトラクションは動き出す。

 僕の敗北へと向かって⋯⋯


「何でだ⋯⋯あの敵が連射を可能にする隠しキャラとかわからないだろ⋯⋯」


 結果は僕の惨敗だった。


 このアトラクションが隠し要素のあるゲームだと先に気付いた日和に点差をつけられてしまって、そのまま負けてしまった。


「いやーラッキーだったよ、なんか小さいキャラが遠くにいるなーと思って倒したらいきなり連射出来るようになったからびっくりしたよ!」


 日和も知らなかったみたいだ、僕はそのキャラを気付かなかったので負けても仕方ない。


「じゃあ、罰ゲームね」そう言って日和はニヤリと笑う。

 テンションが下がった今、その言葉を聞いて何を命令されるのか考えていると心が冷えていくのを感じた。


「うーん、色々あるけどーやっぱり絶叫系乗ろ

 う! かな?」

 日和は口に指を当てて悪戯をするみたいな笑みを浮かべてそう言った。


 ああ、やっぱり⋯⋯僕は日和に引きずられるように絶叫マシンへと向かうのであった。


 この遊園地で一番人気のあるジェットコースターの前で僕は放心したように乗っていく人達を見ていた。


 シューティングゲームとは違い、それなりに人が並んでいる。

 よく見てみると、このジェットコースターは足をぶらぶらと自由にするタイプのジェットコースターらしい。


 日和はキラキラと輝く瞳でそれを見ている。

 あと二周すれば僕達の番に回ってくる、それまでに覚悟を決めないと⋯⋯


 その覚悟は僕の番が回って来る時に呆気なく砕け散った。


 係員の人が安全確認の為にしっかりとシートベルトを確かめていく。

 何だろう、さっきから震えが止まらない。

「ハル君、大丈夫?」

「だ、大丈夫じゃな⋯⋯ひっ」


 言い終わらない内にジェットコースターが動き始めてしまい、声が裏返ってしまった。


 あああああ、足が地面に着いてない!踏ん張れない!


 視界が空に近づきコースと共にぐるぐると回る。それを見て肝が冷えたのか内蔵がスーっと冷えていく感覚に陥る。


 いつまで続くんだ、早く終わってくれ!!!

 そう思いながら途中から見るのをやめて目を瞑ることにした。


 すると突然下へと落ちていく感覚に包まれる。

 目を瞑っていた方が怖いと思い始めたが、目を開ける事は出来なかった。


 誰かが叫んでいる声が聞こえる、聞き覚えのある声だ。


 ああ、何だ僕の声か。どこか遠いように聞こえる声を耳元で聞きながら僕は少し意識を手放していった。


「──ル君、ハル君終わったよ」

 何だろう、肩が痛い。誰かに叩かれているような⋯⋯


「え、あ⋯⋯」


 僕の意識は少しずつ覚醒していく。辺りを見回してみるとジェットコースターがホームに戻って来るところだった。


 ⋯⋯もしかして、失神していたのだろうか。


 意識を失っていた事に気づくのにしばらく時間がかかってしまった。


 降りようとしても視界がフラフラとしてしまい、まともに歩けない。

 日和に手を貸してもらい、何とか降りる事が出来た。


「⋯⋯気持ち悪い」

 近くにあったベンチに座りながら出た第一声がそれだった。それ以外の感想が出て来ない。


「⋯⋯ごめん、ハル君がまさかそんな風になるなんて思ってなかったから」

 日和は申し訳なさそうな顔をしている。


「終わったからいいよ、もう」

 僕は少し不貞腐れながらそう言った。


 ──ジェットコースターには、もう二度と乗らない。

 それだけは心に刻んでおかないとまた酷い目に合いそうだった。


 それにしても、何でここまで無理にジェットコースターに乗せようとしたのだろうか。


「──あのさ、ひよ」

「少し休んだら、今度は二人で楽しめそうな所にいこうね」

 日和の申し訳なさそうに言ったその言葉に遮られて僕の言葉を途中で途切れてしまった。


 ──まあ、いいや。


 あえて聞く必要はないだろうと思い、僕は日和の提案に頷いた。


 そして、僕達は休憩をした後軽く食事をして色々とアトラクションを回る。


 船で水の中に突っ込むやつに乗ったのは失敗だったと言わざるを得ない。


 日和も僕も服がかなり濡れてしまった。大丈夫なのだろうか、と僕は少し日和を心配する。


 前に同じ服を着て来た時は汚れを気にしていたのに今回は全く注意していない。

 何でだろう、と少し心の中で違和感をおぼえた。


 最近の日和には違和感を覚える事が多くなっている。

 何でだろうと考えてもわからない、僕は頭を掻いた。


 そして、アトラクションで遊んでいると辺りは少しずつ暗くなっていく。


 そのうち花火とナイトパレードが始まるのだろう、そういえばそれが目的だったと僕は思い出した。


 携帯を出して確認すると、今の時間は五時半。

 一応花火の始まる時間を確認すると七時半からだった。

 まだ二時間程時間があることを伝えると「展示物でも見に行こうか」と日和は提案してくれた。


 なんだろう、また違和感を感じる。

 何かを忘れている気がするんだけど思い出せない。

「どうしたの、ハル君?」

「いや、何でもないよ」


 前を歩きながら僕を見る日和にそう答え、日和を追いかけていく。


 うん、何にもないよな⋯⋯


 何かが起きていたとしても、そう自分に言い聞かせる事しか出来なかった。

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