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君と四季  作者: 四葉陸
3/5

二年目――春

 そんなこんなで宇宙が来てから八ヶ月以上経ち、春がやって来た。

 僕は小学三年生から四年生になり、宇宙も小学二年生から三年生になっていた。

 この時期になると、宇宙は僕に対してかなりの信頼を寄せてくれていたと思う。

 具体的には、学校からの帰り道に、僕らは今日あった面白いエピソードを話し合った。

 そう、僕ら間の気まずい空気は、跡形もなく消え去っていたのだ。

 とはいえ、時折僕の友達と会った時などは、まだまだ人見知りのようだったが。


 学校の友達に僕と宇宙との関係をからかわれたりすることもほとんど(・・・・)無かった。僕の両親は町でも有名な変わり者夫婦なので、その息子である僕が転校生で下級生の女の子と一緒に登下校していても、「まあなにか事情があるのだろう」とでも思われていたのだろう。……一部を除いて。


「おーい奏介。今日お前んちいっていいか?」

「あ、私も奏ちゃんの家に行きたいなー」

「えぇー、まあ別にいいけどさ」


 幼稚園の時から仲のいい幼馴染の錦原(にしきばら)大地(だいち)星宮(ほしみや)綾乃(あやの)の二人。彼らだけは、僕と宇宙の関係について、痛くも痒くもない腹を探ってきていた。因みに大地は流れ星探しをしていたあいつだ。

 まあ、こいつらが学校で一番僕や僕の親のことを知っていたので、別に本気で疑ってたという訳ではなく、ただ面白がってからかっていただけなのだろう。


「ああでも。宇宙に確認とってからな」

「オッケーオッケー。いつもの時間な」

「話聞いてんのかお前」

「じゃあ私お菓子持っていくねー」

「じゃあ俺もポテチとゲーム持っていく!」

「……はあ」


 人の話を聞かないやつらだと思う。

 ――この辺、大地はずっと変わってないんだよな。綾乃は中学の頃にはまともになっていたというのに。


 まあ今がどうにせよ、当時の二人はいつもこんな調子だった。そのせいで僕は今後色んなところで面倒見が良いと言われることになるのだが。


「お、話をすればなんとやら」

「宇宙ちゃんやっほー」


 二人の言葉を聞いて教室の扉を見ると、ランドセルを背負った宇宙が立っていた。


「ああ悪い、宇宙」

「ううん、大丈夫」

「そうだ、今日この二人が家に遊びに行きたいって言ってるんだけど、いいか?」

「……? 別に、いいけど?」

「そうか、なら問題なし。おーいいいってよ」

「別にお前が言わなくても聞こえてるよ」

「宇宙ちゃんのお許しも出たことだし、帰ろっか」


 こうして四人で帰ることも、この頃は多くなっていた。

 帰り道は、他愛ない話し合いがほとんどだ、嬉しいことに、宇宙も会話にはしっかり参加してくれていた。まあ、それができるからこいつらと一緒に帰っていたんだろうが。


「ただいまー」

「ただいま」


 とりあえず帰宅、両親は仕事でいないが、二人が来るのはいつものことだ。しかし、あいつらが来るので一応家をきれいにしなければならない。

 まあ普段からきれいにしていたし、僕も宇宙も僕の両親に仕込まれていたので、ある程度の家事はできるようになっていた。

 ただ宇宙が器用なのか僕が不器用なのか、家事スキルは僕が僅差で負けていた。

 家の掃除が終わった頃、家のチャイムがなった。


「おっす、邪魔するぞ」

「おーじゃまーしまーす」


 宣言通り菓子やゲームを持ってきた二人。

 僕も家庭用ゲーム機のスイッチをいれ、宇宙は飲み物の用意を始めた。


「くそっ、おら!」

「へっ、効くかよ!」

「ほい、ほい、ほい」

「え……あれ? え……?」


 僕らは四人で、スマッシュな兄弟の大乱闘をしていた。因みに僕は赤いひげ男、大地はゴリラ、綾乃はピンクボール、宇宙は黄色いネズミを使っていた。

 ルールはみんなが最後まで楽しめるようにタイム制で、というかそうでもしないときっと全員すぐ綾乃に潰される。勝負ごとには手を抜かない奴だからな。


「うがー!」

「また負けた……いい加減別のゲームにしようよ」

「うん、そうだね。宇宙ちゃんもなんかあれだし……」


 宇宙はゲームが下手だった。それはもうすごく。僕はわかっていたことであったが、二人が見るのは初めてだろう。


 宇宙は家ではいつもラジオを聞いていた。

 変わったやつだとは思ったけれど、あまりに熱心にラジオを聞いている宇宙に対して、ゲームに誘う気にはなれなかった。


 という訳で、次は大地が持ってきた人生ゲームをすることになった。これならゲームの上手い下手よりも運のほうが重要だろう。


「こいこいこいこい……」

「あ……」

「ちくしょー!」

「あーあ、これで大ちゃん、ほとんど所持金ゼロになっちゃったね」

「ちくしょう……こんなはずじゃ」

「じゃあ次は宇宙の番だな」

「わかった……えいっ」

「おっと?」

「これは宇宙ちゃん、やりましたねぇ」


 結果として、この予想は当たっていた。宇宙は僕たちとなんら変わりなくゲームを楽しんでいた。なんなら負けた。


「ただいま……あら、綾乃ちゃんに大地くんじゃない」

「あ、お邪魔してます」

「どうする? 今晩うちで食べる?」

「ああ、お願いします」

「ふふ、わかったわ」


 結局夕飯までこいつらと一緒に食べることになった。まあ昔からのことだったし、僕も二人の家のどちらでも夕飯をご馳走になったことも何度かある。

因みに夕飯はカレーだった。僕はこの世にカレー嫌いはいないと思ってるんだよね。


「ごちそうさまでしたー」

「また来るぜー」

「もう来るなー」

「ばいばい、また学校でね」

「二人とも、気をつけて帰ってねー」


遊んで食って、二人は帰った。後はいつも道理の日常だ。まあ僕にとっては二人が来たことも含めて日常なのだが、宇宙にとってはそんなこともない。

この頃から、宇宙は日記をつけ始めた。さすがに内容を盗み見たりはいていないが、おそらくこの日の日記は長文になったことだろう。

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