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君と四季  作者: 四葉陸
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一年目――夏

 ――僕の両親は子どもを育てるのが上手い。


 尤も、僕自身が子どものときはそんなことは一度も思わなかった。

 誰だってそうだ。両親に対して愚痴でもなく、感謝ですらなく、子どもを育てるのが上手いなんて思う思春期男子はほとんどいないだろう。少なくとも僕は見たことがない。


 でも今になるとそう思う。母親は家事が上手かったし、父親も夕飯は家族と食べ、休日は子どもとキャッチボールをするような人だった。

 ……まあ僕はあまり好きじゃなかったけどな、キャッチボール。


 理由はなんとなくわかっている。母親は保育士だし、父親は……なんだろう?

 よく分からないが、子どもの面倒を見る仕事だということは本人が言っていたし、そういうことなんだろう。


 でもやっぱり、両親がやけに子育てが上手かったのは、あの二人が僕が生まれる前から、里親として何人もの子どもを世話していたからだろう。


 僕の両親は里親のプロだった。いや別に里親にプロとかないけど……ないよね?

 まあでも、都道府県の研修だとか都道府県知事の調査だとかを受けて、公的機関によくあるやたら名前の長い議会の意見を聞いて、全国に五百人といないという専門里親に認定されてるらしい。

 この辺の説明は酔っ払った母親がゲラゲラ笑いながら教えてくれた。どうなってんだ専門里親。


 しかし両親は僕という実子が出来てから里親として面倒を見ていたのは一人の女の子だけだった。







 彼女が僕の家にやってきたのは、夏休みが始まったばかりの暑い日だった。


 両親が家に連れてきた女の子は、よく見ると服の下のあちこちに痣のある子だった。

 両親がこれから彼女と一緒に住むことになった旨を僕に伝えた時、僕の方はというと、半袖短パンに麦わら帽子、あとは虫籠と虫取網を持ったバカみたいに健全な格好をしていた。

 とは言うものの、その時の僕も別に自分からくそ暑いなか虫取りに行こうとしたわけじゃない。


 先週、この辺りで通常では有り得ない軌道の流れ星が見えたということがあった。

 それを見たという友達が「あの流れ星捕まえようぜ!!」と、

 ……もうね、バカかと。

 さらにバカなことに、当時の僕はそれに対してノリノリだったのだ。

 そんなノリノリの僕は、目の前の女の子に対してて、始めましてを言うよりも先にこう言ってしまった。


「君も一緒に捕まえに行こうよ。流れ星」

「え……」


 女の子はしばらく驚いたような様子だった。両親も「なんだこいつ」と言いたげなのが顔に出ていた。

 やがて女の子は俯いて、消え入るような声で言った。


「……ごめんなさい」

「ああ、うん。気にしないで」


 当たり前だ。「一緒に流れ星を捕まえよう」なんて、今時くっさい少女漫画でも言わないようなセリフを、よくもこう堂々と口に出したもんだ。まあ恥ずかしかったな。

 でもまあ、この時の恥があったから、この先彼女とは恥ずかしげなく会話出来たんだろう。そう考えると悪くは無いのかも。……いやダメだな、今思い出しても恥ずかしいわ。


 ちなみに当たり前ながら流れ星は見つからなかった。友達はまた探しに行くと言っていたが、僕はヘトヘトになったので断っていた。


 日暮れと同時に家に帰ると、すぐに夕飯の匂いがした。

 その日の夕飯は夏野菜のカレーだった。

 僕は早速テーブルにつき、カレーができるのをワクワクしながら待っていた。


 その時になってようやく、僕は隣の椅子に座った女の子の存在に気付いた。


 女の子の顔色は、僕が出掛ける前と比べると、大分ましになっていた。元が悪かったのもあるが、僕はそれがなんだか無性に嬉しくなった。


「君の名前は?」

「え……」


 女の子はまたしばらく驚いたようだったが、今回は両親も微笑ましいものを見る目になっていた。

 やがて女の子は消え入るような声で、しかし今度はしっかりと顔を上げて言った。


宇宙(そら)……色川(いろかわ)宇宙」

「僕は奏介。よろしくね、宇宙」

「……うん」



 ――これが、僕らの出会い。

 これから僕らはたくさんの経験をして、たくさんの思い出を作り、そして、いつか別れる。

 僕は彼女との生活に後悔はない。

 だからこそ、彼女との思い出は、僕の中で一生忘れられないものなのだろう。

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