魔王、はじめての言葉
魔王は魔王が座る様な椅子に座り、足を組み左肘を肘あてに当てて、そこに顔を乗せてポーズをとっていた。
「よくぞここまで来たぞ勇者よ....」
魔王が呟いた次の瞬間だった。
「ダメだーー! テンプレ過ぎて、印象に残らん!」
自分にダメ出しをした。
「あーどうしよう。決まんねー勇者もう来んのに、一言目が決まらねー!」
魔王は立ち上がり椅子の回りを歩きながら焦っていた。
「こんなテンプレじゃ印象に残んねよ....あっ、閃いた!」
そう言って魔王は自らの体を『ボコッバコッ!』と変化させた。
いわゆる第二形態だった。
魔王の声もそれ相応になっていた。
「いきなりこれなら、あいつらも...」
と言いかけたとこで『ハッ』と気づく。
「いやいや、ダメだろ。これこそ俺の見せ場だろ」
そうして元に戻った。
それからマントを大げさに舞わせたり、変なポーズをとったりと迷走し続けていた。
「あーダメだ! 決まらん!」
魔王が、床に大の字になっていると直前の部屋で大きな音がしたのが聞こえた。
「マズイ! もう目の前じゃん! こうなったら例の物に頼るしかねぇ!」
魔王は立ち上がり、異空間からある本を取り出す。
「これだ! この前拾った異世界の本の内容に頼る!」
そこには、「誰でもなれる、素晴らしい上司への方法10選」と表紙に書いてあったが、魔王は異世界の言葉は読めず、たまたま拾った異世界の本を取り出したのだった。
「えーっと、なになに....」
そして、魔王は王座の椅子の前で体育座りで読み出した。
「全然読めねー! ダメじゃん!」
そう言ってペラペラと流して行った時だった。一箇所だけ読める文字が書かれているページを見つけた。
「お、えーと....来てくれた方には感謝をしよう......お足元が悪いなかお越し頂きありがとうございます....?」
魔王はただ読んだだけで、意味が理解出来なかった。
その次の瞬間、魔王の部屋の扉が勢いよく開いて勇者が入って来た。
「魔王! かくご...」
勇者は魔王が体育座りをして謎の本を読んでいる姿を目にして、言葉に詰まった。
魔王も顔が真っ青になり、咄嗟に立ち上がり魔王としての一言を勇者に放った。
「足元がわ、悪いりゅい中、よくぞいらっちゃったなぁ勇者!!」
「....」
勇者一行が、冷たい目で魔王を見つめた。
魔王も直ぐに自分の行動を理解して取り乱した。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って! 今の無し! ナシナシ! もう一回、もう一回だけやらせてー!」
それにも勇者一行は冷たい目を向けていた。
「頼むー! もう一回! 扉から入ってくる所から、お願い! この通り、お願いしますぅーー!」
魔王は勇者と戦う前に土下座をして頼んだ。
勇者一行は無言で扉の方に向かい出て行った。
「ありがとう勇者! ....さぁ、いつでもいいぞー!」
魔王は叫んだが勇者は入って来なかった。
それ以降も勇者一行は入って来なかった。
「ん? おーい、まだかー?」
その後、勇者一行は魔王城を後にしており、魔王は土下座して感謝する変わり者というと噂が広まった。
魔王は世界にとてつもない印象を、本意ではない形で残したのだった。