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シラムカラ侯爵家1

読んでいただきありがとうございます。

 スブラン・ドラ・シラムカラ侯爵は57歳、中肉中背、白髪で鋭い顔つきのいかにも有能そうな貴族である。シラムカラ領はラママール王国の東部にあり、ザーシラ大森林に接する豊かな農業地域であり、小麦の生産のみでなく畜産業による食肉及び乳製品の生産も盛んで豊かな領である。


 またシラムカラ家には、ジュブラン男爵家を含めて周辺の9つの貴族家が頼子として頼っている。スブラン侯爵は、かって王国の外務卿も務めたこともある要人で、その経歴から国際事情にも詳しく、内政においても自領に畜産業を導入して、王国でも有数の豊かな領にしたやり手である。

 その息子のマジカル男爵は、32歳で父に比べると凡庸と言われているが、穏やかな人柄であり、馬鹿は嫌いと公言するような父と、交流のある人々や周りの人々の間に入って、領の内政を円滑にしている人格者である。


 マジカルには8歳の息子と6歳の娘がいるので、これはライとマーシャと同じ年になる。なお、侯爵以上の貴族は、その世襲の長子は3段階下の爵位を名乗ることを許されるが、マジカルを普通の男爵として扱うものはおらず、皆次期侯爵として遇する。


 彼ら2人は、ジュブラン男爵家から重要な話があるという事でラジル男爵を待っている。貴族が他の貴族家を訪れる場合は、いきなり訪問することは許されないので、ジュブラン家から数日前に従士が侯爵家を訪れ、ラジル男爵の手紙を届け面会の日時の確認をしてから帰っている。


「父上、ジュブラン男爵の言う、国のみでなく大陸の将来にかかわる重要な話と何でしょうね?」

 マジカルが父に話しかけるが、スブランは少しそっけなく返す。

「わからん。しかし、ジュブラン男爵は、領地が小さく貧しいが思慮深い男だ。それなりに重要な話だろうよ」


 間もなく執事が2人の居る応接室をノックして入ってくる。

「御前、ジュブラン男爵がご子息とおいでになりました」

「うむ?しかし、馬車の音が聞こえなかったが?」マジカルが執事の顔を見て問う。


「は、はい。ええ、男爵はその……、変わった馬車に乗ってこられて、その馬車はほとんど音がしないのです」執事も戸惑ったような顔で答える。

「ほう。音がしない。まあ良い。ここに通しなさい」


 侯爵が命じ、執事がジュブラン男爵家の2人を案内してくる。やや高めの身長の細身で理知的な顔をした男爵と、マジカルの長男カーリクより少し高めの身長で、年にしては落ち着いた感じの息子である。

 男爵は寄り親を正式訪問するということで、男爵としての正装で来ており、息子も精いっぱいめかしこんでいる。対する、侯爵親子は准正装である。


 ラジル・マス・ジュブラン男爵は、立って出迎えた侯爵親子のまえに恭しく頭を下げて言う。

「これは、侯爵閣下並びに男爵閣下。本日はお忙しいところにお時間を取っていただきありがとうございます。さて、これは私どもの次男のライでございます。今8歳ですので、マジカル男爵のご長男のカーリク殿と同じ歳でございます」


「うむ。ジュブラン殿、久しぶりであるな。重要な話というのも、貴君が言うからには実際に重要であると思う。ぜひ聞きたいと思って待っておった。まずは座って、お話し願いたい」侯爵が迎えの言葉を述べ、彼らは低い机を挟んで向かい合って座る。


 ラジムは座って数秒、考えをまとめておもむろに口を開く。

「この話は、大変不思議な内容であり、なかなかご理解が得られないことは承知の上で申します」そう前置きして、ラジルはライに聞いた話を要領よくまとめて話し始める。


 ライが、22歳まで育って後、裏切りに乗じて侵略してきたサンダカン帝国の軍に殺され、その記憶を持って8歳の自分に蘇ったこと、さらにライの中には、異世界の大変進んだ知識を持ったものも混在していることがまず述べられた。

 さらに、重要な点はライの記憶であり、それによるとサンダカン帝国が、7年後の大国ジルコニア帝国の征服をきっかけに、勢いついて大陸を席捲し、ララマール王国もその過程で滅ぼされることが述べられた。


「このように、国が興って他の国を征服した例は歴史の中には数多く、珍しいことではありません。自分のことでなければですね。

 ただ、サンダカン帝国の特異な点は、彼らが魔力絶対主義であり、それも他の国の魔力を持つものの存在を許さず、さらに他の国の人々を基本的には奴隷にしてすべての財産・権利を奪い取ることです。

 その征服の過程においても、他国の貴族以上のものは女子供を含めて皆殺しにしております。要は、反乱を起こすような可能性のあるものを、根絶やしにするということのようです。ですから、彼らがこの大陸を征服することは、なんとしても防ぐ必要があります」


 ちょうど、メイドが入って来たところで、ラジルは言葉を切った。メイドが皆にお茶を注ぎ、4人は無言でお茶をすする。幼い子供のライが、大人と同じようなしぐさをするのは、おかしなものであるが、彼は無意識に大人の自分の気分になっていたのだ。メイドが出て行った後に、侯爵が口を開く。


「わしは、知っての通り外務卿を務めておった。その経験と知識からすれば、サンダカンと言っても今は王国だが、我が国と同じ程度の国で目立ったところななかった。だから、それが帝国になり、ジルコニア帝国をも征服するというのはいささか信じがたい話だの。

 しかし、あり得ない話でないのと、そのライの持っている知識で領と国を発展させようというのは大いに興味がある。

 また、確かにジルコニア帝国の力は圧倒的で、我が国もサンダカン王国も全く及ばない。とはいえ、いまジュブラン男爵の言われたことは、荒唐無稽な話でありながら、あり得ない話ではないと認める。しかし、わし自身はそれを信じるに足る根拠がないと感じておる。外交面でわしほどの知識がないマジカルはなおさらであろう。のう、マジカル?」


 父から話を振られた長男は答える。

「そうですね。父の言う通りです。結局、お話の根拠はライ君が話をして、ジュブラン男爵がそれを信じたということだけになります」


 ラジルはそれに対してにっこり笑って話を始めた。

「その通りです。私もライから話を聞いて、そのまま信じたわけではありません。ライがよみがえる時に与えられたという、この世でありえないその能力と知識故です。その知識を使って、私はもちろん、我が領のものはすでに魔法の処方を済ませております。

 この処方を終えた結果、全員が身体強化をできるようになっており、約1200人の領民のうちの130人以上が魔法を使えます。さらに、我が領ではライの知識を使って所得3倍増計画というものを始めており、当面、領の小麦の収量を3倍にするための措置を終えたところです」


「なに!全員が身体強化をつかえるとな!魔法を一割以上のものが使える?」

「ええ、私も使えるようになりましたよ。ほらご覧ください。ライト!」侯爵が驚いて言うのに、ラジルが応じて、指先に光のボールを出す。


「おお!」侯爵とその息子が声を合わせて驚くのに、かぶせてラジルが言う。

「息子ライの魔法はこんなものではないですよ。しかし、ライの真価は魔法よりむしろその知識です。よろしければ、息子から説明させたいと思いますが、いかがでしょうか?」

 侯爵が重々しく、しかし少々焦ったように「うむ、ぜひ聞きたい」と言う。


「はい、まず、我が領では農地に肥料というものを撒いて、小麦の面積当たりの収量を3倍にしようとしています。現在は全面積の2/3しか肥料を施していませんので、その部分では3倍になるでしょうが、残りの1/3の畑は肥料を施した畑と、そうでない畑の苗の育ち方を見て、後に施すつもりです」

 

ライが言うのにマジカル男爵が驚く。

「3倍!なんと」これに対して、ライが肥料の効果の説明をする。


 さらに、ライは自分の家の裏にあたるザーシラ森林の中の鉄鉱山の存在について説明をして、高炉の建設の話をする。これに、大いに興味を示す侯爵家の2人に、さらに農機具や武器の他に鉄のあらたな用途、鉄道などの話をする。そして、こうした交通網の革新の上で、冷蔵のシステムを導入することで、シラムカラ領の有力な産物である、食肉、乳業がどれほど変わるかを示すと、2人は完全にライの話に夢中になった。


 しかし、その中でさすがに、侯爵はのめりこむところを踏みとどまりライに訊いてくる。

「うーむ、どの話もぜひ実現したいものであった。しかし、ライが言うところの肝心な点は、サンダカン帝国によるこの大陸への支配を食いとめることだ。確かに、経済を大きくすることは、武器を揃え、兵を養うに必要なことであるが、戦力・兵器の面では何も話しておらんが、その点はどうなのじゃ?」


「はい。私の戦略は先ほど仰言られた通り、まず経済を強くしてそれに並行して戦力も上げていこうとするものです。現状のところ、この大陸の圧倒的な強者は、ジルコニア帝国です。それは量について言えば、他の諸国がまとまれば、同等くらいにはなりますが、彼らはすでに、鉄砲及び大砲それも相当に進歩したものを実用化しています。

 現状のところ、鉄砲はわが国でも話には出ております。しかし、わが国も含めて他の国は鉄砲に必要な火薬を作る方法がわかりませんので、この帝国は質で他を圧倒しています。したがって、ジルコニア帝国が大陸を征服しようとすれば、そう2年で可能ですね。

 しかし、かの帝国は極めて誇り高く、わが国を含めた蛮人を支配しようとは思っていないようなので、その点は安心だと思います。また、ジルコニア帝国では奴隷は禁止されていますので、サンダカン帝国、今は王国ですが、かの国のように他国の国民を奴隷化しようとは思いません」


 ライが一旦言葉を切ると、侯爵が重ねて訊く。

「では、なぜサンダカン王国がジルコニア帝国を征服することができたのか?」


「それは、サンダカン王国が固く秘密にしていますので、明らかではありませんが、私には具体的な方法の見当がついています。彼らは魔法を使ってその弱点に付け込んだのです。また、私の知識にはジルコニア帝国のもっている、鉄砲や大砲をより進んだ物を作ることも含まれています。

 ですから、そうしたものを作ることはできますが、数年で兵力や経済力を含めた面であの帝国に追いつくのは無理ですね。なので私の考えは我がラママール王国において、経済力を全力で伸ばしていき、その余裕の中で、ジルコニア帝国に劣らない兵器を作り、さらに訓練を積んだ兵力も整えていきます。

 また、その兵器はサンダカン王国の魔法に弱点をつかれないものでなくてはなりません。しかし、絶対に必要だと思うのは、あの誇り高く傲慢なジルコニア帝国と同格の同盟を結び、サンダカン王国の脅威を除くことです。そのためには、わが国の経済も文化も短期間で大いに進化させる必要があるのです」


 ライは、侯爵家の2人に対し真剣に言った。彼らも、ライの話を聞くうちに目の前の子供が、すでに子供と映っていなかった。


よろしければ、連載中の別の小説も読んでください。

https://ncode.syosetu.com/n5355en/


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