王都、孤児たちの奮闘1
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私はイーガル、年齢はすでに60歳に近く、手広くやっていた商売もたたんで隠居生活だ。長く連れ添った女房は2年前に死んだし、3人出来た子供は皆幼いうちに死んだ。この世界で幼い子供は、様々な病気で簡単に死ぬ。
寂しい生活をして、お迎えを待つだけの私に、最近楽しみなことが出来た。私の持っていた廃屋が建っていた空き地が最近売れたのだが、そこに新しい家が建ち、そこで暮らしている子供たちの世話をしているのだ。
その子供たちは、その廃屋で住んでいた孤児の女の子達だ。その廃屋に、その子たちが住みついているのは承知していたが、別に使ってもいない所でその子らが命をつなぐのを追い出す気もなかったが、そうはいっても世話をする気もなかった。
しかし、なんと侯爵家の嫡孫という子とその護衛と共に現れた、ライという子供がその土地を買いたいと言って現れて以来、何もかも変わった。その子ライは、8歳というその年齢には全くそぐわない物言い・態度で、簡単に大枚の金貨を土地の購入のために払った。
さらに驚くことに、その日の内にそこにあった廃屋を取り払って、新しい家を建ててしまったのだ。
その家は、倉庫とその居住用の上屋といったものであったが、居住用の2階にはなんと見たこともない透明のガラスの窓が嵌っている。 そのように、建物自体がなかなか人目を惹くものであるが、一緒にその屋敷内を魔法で片付けたので、前の幽霊屋敷から塀で囲まれたこざっぱりした屋敷に変身した。
それのみでなく、子供たちは魔力を操れる『処方』を受けたということで、皆身体強化ができるようになり、そのうちの2人の子供は魔法が使える。
次の日には、ライ君と侯爵家の嫡孫等の働きで建物が出来上がった。私も隅々まで見せてもらったが、2階には一つの仕切りをトイレ、シャワー室に、1階では食卓のある台所で使っているほかに、3つの居室の1つを子供たちが使っている。また、1階の一部にはなんと土魔法で作ったという、大人でも3人ほどが入れる風呂があり、火魔法と水魔法が使えるジーラという子が2日に1回風呂を沸かしている。
風呂に入るなど、水を張るのが大変で、さらにその上に沸かすのが大仕事であるため、よほどの大金持ちか沢山の使用人を抱えている貴族様しか入れない。無論私も、家では少し湯を沸かしてそれで体を拭くぐらいがせいぜいだが、その“日の出荘”(ライ君がその家につけた名前だそうだ)にほとんど毎日行くようになって、私も沸かす都度風呂に入れてもらっている。
この風呂というのは、ちょっと遠いが温泉に行ったとき、また商売をやっているころ大商店の主の家などで、私も何度かは入ったことがあるが本当に快適だ。ちなみに私が日の出荘に通っている理由は、主には子供たちに読み書きと算数を教えているのだ。これはライ君から頼まれたもので、子供たちも是非ということなので、隠居仕事でちょうどいいと思ったのだ。
無論私は無料で教えているが、この2日に一度入れる風呂は、十分な報酬になっている。それと、住んでいる女の子たちは明るく清潔で可愛い。彼女らは、前にはぼろを着て清潔とは言えなかった上に、栄養が足りていなかったせいでどんよりしていた。
しかし今は、それぞれにこざっぱりした着替えも持っていて、それらを洗濯もちゃんとしているので、見たところではちゃんとした家の子のようだ。それに、特にカーミラがちゃんとしつけているらしく、振る舞いもむしろそこらの家の子よりきちんとしている。
ところで、2階の子供たちが寝起きしている部屋は、どれもガラス窓があるので明るく、子供用の2段ベッドが3つ、ほかには大きなクローゼットと机一つ置かれているが十分広い。そのほかに、勉強部屋ということで、一つの居室に長机が配置され、黒板という白筆で書ける黒く塗った板が掲げられている。
私は毎日、朝のうちに1刻(王都に鳴り響く鐘が鳴る間隔で約2時間)の間、読み書きと算数を教えている。子供たちは、年長(18歳らしい)のクララが集めてきた子ばかりだそうだ。クララは、体に命取りの塊ができる病気で寝たきりになっていたそうだが、ライ君のおかげで快復し、その後どんどん良くなって子供たちに料理を作るなどの世話をしている。
子供たちの実質的なリーダーは、クララではなくて11歳のカーミラだ。彼女は年にしては非常に賢くて、本当に献身的に皆の世話をしている。その次が8歳のサマーヤ、7歳のジーラ、そのほかに6歳のミラヌ、イレナの合計6人が日の出荘最初の住民だった。皆魔法の処方を受けた結果、身体強化を使えるようになったが、魔力の小さいものは使える時間が限られている。
ジーラは、半エルフという血のせいか、前から魔法を使えていたようだが、処方によって更に強力な魔法使いになっている。カーミラも相当に魔力が強いために、ジーラほどではないがいろんな魔法が使える。ジーラはまた、もともとある程度読み書きと計算はできたが、長く使うことがないため、忘れかけていたようだ。
生徒としての日の出荘の子供たちは大変優秀だ。よほど、カーミラから発破をかけられているらしいのと、私が教えた後にカーミラがその日に教えたことを完全に覚えるまで復習させているらしい。確かに、孤児の彼女らにとって読み書きが出来て、商売上必要な計算が出来ることは大変な力になるだろう。
しかも、カーミラが中心になって始めた商売は非常にうまくいっている。もっとも、元はライ君が教えて作らせたものだから、彼が彼女たちにそれを生活の糧にすることを認めているからこそである。それは寝台用のマットであるが、今までそれに似たものが無かったので、200ダイン、大銀貨2枚もするが、作る端から売れている。
これはカーミラとジーラが、廃材から1日にクッション部分を10枚作れるので、それに私が交渉して布屋に作らせたカバーをかけて売っている。カバーが20ダインするので、それを150ダインで近所のラーセグ商店に卸して、子供たちに1枚につき130ダインのお金が残る計算である。
日に1300ダインの収入といえば、金貨1枚に大銀貨3枚であるから、私が商売をしていた最盛期でもそれだけの利益は稼げなかった。
子供たちの生活費は、ちゃんとした食事をして、服も20日毎程度に買い足し、様々なものを買いそろえても10日で300ダインというから、大部分の金は残っていることになる。しかし、カーミラは孤児の子供たちを集めて商売をするためと言って、そのお金を貯めているようだ。
また、ライ君の領では、王都に無いような様々な産品が出来ているということで、近くそれを王都に運んできて、日の出荘に集めて王都中に売るということだ。そのために、使える人手を探しておくようにと、カーミラにライ君からの依頼があったという。その意味でも仲間をもっと増やしたいということで、カーミラはあちこちを歩き回っている。
また、カーミラは今後そのように人を多く集め、商売をどんどん大きくしていく(予定の)中で、大人の力が必要ということで私に助力を頼んできた。私も可愛い子供たちに勉強を教え、様々に相談に乗ることで日々触れ合うことが喜びになっている。ただ、そうは言っても、彼女らが経済的に自立しており、清潔にしているからでもあるだろうなとは思う。いずれにしても、少なくとも必要とされている限り、彼らと共に余生を過ごしたいと思っているこの頃である。
カーミラは実際に王都の孤児仲間に接触しようとした。そうした孤児のグループは、彼女が知る限り10ほどあり、彼女たちのような幼い女の子ばかりのグループには、いじめてくるものが多かった。倫理を学ばず権威に学ぶ者は、自分より弱者を作ってその上に立ちたがるものだから、おそらくクララ、カーミラのグループは最弱者に位置付けられたのであろう。
しかし、カーミラたちは、今や魔法が使えかつ立派な家を与えられ、マットの製造と販売によって有り余るお金を稼ぐことのできる強者になったのだ。またその決定的な強みは、他のものに魔法の処方を施すことが出来るようになった点である。この能力で、選んだ仲間に処方を行って、突出した能力を持ったグループを作ることが出来る。
そのことで、仲間は少なくとも身体強化ができるようになり、6歳の子でも、長くは続けられないとしても大人の男に勝る力を出せるようになった。しかも、ジーラとカーミラの魔法は半端ではなく、その気になれば、恐怖の対象であった孤児たちの上前を撥ねているチンピラや、そのボスのような連中でも殺すことが出来るだろう。
カーミラは、まだ病み上がりのクララにはさせていないが、ライに習ったように、仲間を毎朝走らせ、体操という体を動かす運動をさせている。また、小さい子供たちにも、掃除洗濯をさせ、マットを布のカバーに入れて製品にするなど出来るだけ体を動かさせている。
子供たちも、クララの作る十分でおいしい食事が食べられ、ベッドのある立派な家に住め、着換えも含む衣類の他、ちょっとしたおもちゃなど自分の物を持てるようになった。そのこともあってイーガルから教えられる毎日の勉強、カーミラ主導の運動さらに様々な仕事を生き生きとこなしている。
また、カーミラとジーラと2人は、魔法を使ってマットの中身になるクッション材を毎日作っているほか、ウオーターボール、ファイアボール、風の刃などの練習をして、魔力を絞り出すようにしている。このことで、魔力をもっと高めたいと思っているのだ。
カーミラは、ゆとりができたところで仲間を探す中で、野菜類を売っている市場で目当ての相手を見つけた。ミリンダという少し年上の黒髪の女の子で、確か4人ほどのグループでこの市場の手伝いをして暮らしているはずだ。がっしりして、日焼けした彼女は、カーミラたちが飢えている時に、小さいカーミラとその仲間を心配そうに見ていたし、食べ物をくれたこともあった。
「ミリンダ!ちょっといいかな」カーミラが声をかけると、ミリンダは振り返って彼女をみて、目を丸くした。




