王都にて4
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午後、ライ様が「さあ、家を建てるよ!」と叫ぶ。その前に、今の家は邪魔だということで、クララの寝床を、作ったテーブルのそばに土魔法で作り出す。それに、ライ様が木から作ったという、ふわふわの柔らかい板(ライ様はマットと言っている)を敷き、アイテムボックスから取り出した薄い布をカバーにして、毛布を掛ける。
その上に日が当たらないように、差し掛け屋根をつけて、クララを寝かせる。そうして、クララが見守るなかで、家の中の使えそうなものを外に出して積み上げた。子供が持てるものは子供が持ち出して、殆どはライ様が風魔法でふわふわと運び出した。
「じゃあ、この家を壊すね!」ライ様が叫ぶと、ビュンと何かが、家を何度か横切ったと思ったら、ガラガラ・グシャンという音と共に、家がぺしゃりとつぶれた。後で聞くと風の刃を使ったらしい。
その瓦礫を、ライ様がガラガラ音を立てて、魔法で敷地の隅に寄せて山にしてしまう。次に、ライ様はそれらの瓦礫がなくなって裸となった土地に向くと、すぐに土魔法だろうか、全体が押しつぶされさらに均されていく。
ライ様はそこに踏み込んで、低い壁を建てたり、窪ませたりといろんなことをして、気が付くと家を支える基礎というものができ上っていた。それは後で聞くとこうしたことだったらしい。まず、1)建物の平面図を見ながら、2)テープ(巻き尺)で長さを計って壁の位置を決めて、3)その中心にそって白い線を魔法で土の上に引く。4)その線に沿って、土魔法で高さ30cmほどの固い壁、基礎を立ち上がらせる。5)その上面はまだ凸凹しているので、魔法で水平に切り取る。
まだ、太陽が中天に近いのに、基礎を終えると今度は壁を作り始めた。ところで、長さの単位は、あとで習ったメートルという単位を使っている。
「さあ、頑張って壁を作るぞ!カーリク君も頑張ってね」ライ様が言って、1m×4m厚さ20cmの土の壁を作り始めた。ライ様が、アイテムボックスから出した鉄の枠にはめ込む形で2つ作り、ライ様とカーリク様が次々にその大きさに合わせて、その壁を作っていく。未来の侯爵様をこんなことにこき使っていいのかしら、そう思うが、カーリク様も額に汗を浮かべて一生懸命作っている。
また、ライ様は途中から、床板という長さ1m×6mの片方は平らで裏は突起のついた部材を作り始め、さらにそのほかに窓とか入口とか様々な違う材料を作り始め、カーリク様も作っている。逞しい兵士の2人は、一人は魔法が使えるということで、やはりライ様も指示でいろんな材料を作り、もう一人はライ様が積みあげたがれきを整理している。
聞くと、魔法は使えば使うほど、魔力が増えるそうなのだ。では、私たちも何かしなくては。私たちの内で魔法を使えるようになったのは、ジーラと私だけなので、ライ様はカーリク様が一生懸命壁を作っているのを眺めながら、私たち2人にいろいろ教えてくれる。
まず、人に魔法の処方を施す方法、これは自分たちのような弱い子供に、処方をかけてやれるようにということで、教えてくれている。さらに、作っている家に必要なもので、壊した家の木材を一度分解して再構成することで、机やベッドなどの家具や、クッションの作り方を教えてくれる。
私たちは、世の中で使われているものをあまり知らないので、とりあえずはマットや机など単純なものしかできない。魔法が使えない小さい子は、クララにいろいろ聞きながら、ものを運んだりして、できることをやっている。夢中になって、そんな時間を過ごしていると、ライ様が言った。
「よし、大体材料は揃ったから、いまから家を組み立てるよ、皆、基礎のところから退いてね。そら!」基礎は、幅が6mで長さが24mらしい。そこに、「これは壁材だ!」ライ様が叫ぶと、重ねられていた長細く薄い板材が、次々に舞い上がって、基礎の上に立っていく、端の6枚、それとくっつく壁の両側に6枚、たちまち壁に囲まれたコの字の空間ができた。
「次に床材だ」ライ様が再度叫ぶと、今度は床材がその壁の上に乗ります。その要領でたちまち、幅6m高さ4m長さ24mの箱が出来上がるものの、どこにも入口も窓もない。
「接着!」ライ様が再度叫ぶと、ギシギシと鳴る音がして、少し見えていた隙間が全く見えなくなったが、どうも材料同士が土魔法でくっついたらしい。
ライ様は、できた灰色の箱を満足げに見て、あちこちに黒い線を引き出した。聞くとライ様は「ドアと窓を開ける位置を決めているのだよ」そう言う。
通りに面した表には、幅2mで高さ2mの扉が3か所と、幅1mで高さ1.5mの窓が6か所、裏には小さい扉が3か所と同じ窓が6か所あり、これらは、アッと言う間にくり抜かれた。
「2階は君たちの家だよ!」ライ様がそう言うが、2階は作り方がすこし1階と違っており、表と端には下と同じ壁材、裏には1mほど短い壁材が並べられ、上には「屋根材!」という長い床材のような材料が敷かれた。端の壁材は傾いた屋根材には合わないので、「切断!」というライ様の叫びで、屋根の傾斜に合わせて斜めに切られる。
こうやって、傾いた屋根を持った箱が出来上がり、接着され、両側にドアと窓が開けられた。さらに両端に幅が1.5mの斜めの板材がくっつられて、それに段がたちまち作られて階段ができあがる。建物の端には1、2階ともにトイレとシャワー室、1階には風呂が作られた。
水は、魔力の使い方が上達したジーラが、十分必要な量を出せる。この家には、すでに井戸はあったが枯れていたので、ライ様に掘り下げて頂いた、魔法に頼らなくても十分な量が得られる。もっとも実際に使うには、私かジーラが魔法で汲み上げる必要があるが。
2階のドアと窓には、私たちも協力した建具が入り、窓も開け閉めができるようになり、なんと見たことのない透明のガラスが嵌った。私たちもそうだが、子供たちは2階にあがって、ガラスの窓から外の光が入る明るい部屋に、跳びあがってはしゃいだ。
ふと外を見ると、日もすっかり傾いており、2階から見下ろすと黒山の人だかりだ。
それは、そうだろう。傾いて今にも倒れそうな家が建ち、半ば崩れた腐った板塀に囲まれて、草に覆われていた屋敷に、いつの間にか、真新しい家が建っているのだ。隅には廃屋のがれきが積んではいるが、ほとんど敷地の中は綺麗に整地されている。
しかも、1階のドアと窓の位置はただの空洞だが、2階の窓には日の光を反射する透明の板がはまっている。ガラスは知られてはいるが、基本的にあまり透明なものでなく、ごついコップなどに使われている程度なのだ。
元のこの土地の持ち主のイーガルは、むろんライの言った、夕方には家の形ができているというのは冗談だと思った。しかし、近所でもあるし様子を見に行こうとは思っていたので、日が傾いてきたのを確認して、昨日売ってしまった土地を見に出かけた。彼にとって、そこの家はすでに家でなく、ただの廃屋という邪魔物がある土地である。
しかし、そこに近づくと異様な人だかりに気が付いた。それをかき分け近づいて目を疑った。あの廃屋がない、そこには、いささか愛想がなく、到底邸宅とは呼べないが、2階建てのまさに倉庫のようだが立派な建物が建っている。それも、1階の入口や窓らしきところは空洞のままであるが、住居階らしき2階には窓がはまり、それがどうも透明のようで、光を反射して輝いていた。
イーガルが建物を見ながら、やじ馬から抜けて建物に近づいていくと、先ほど家に来て契約に立ち会った兵士が、彼に気が付いて笑顔で声をかける。
「やあ、イーガルさんだったかな。どうだ、この家は?」
「ああ、というより、何でもう家が建っているのだ。いつから建て始めたのだ?」イーガルはひょっとして、何日も前に建て始めて、今日は何食わぬ顔で来たのかと疑って聞く。
「今日だぞ。半日でこれだけ出来たのだ。魔法だよ。途方もない魔法だ」兵士、ミザルは頭を振って答える。彼自身、どれだけ自分の常識を疑ったか。
「まあ、せっかくだから、上にあがれよ」ミザルの誘いに、魔法で出来たという家をぜひ見たくてイーガルは二階に登る。しっかりした作りの、何の材質かわからないドアを開くと、入口近くが仕切られているほかは、仕切りのない細長く広い部屋に、ベッドや机が置かれて、小さい子がはしゃいで走り回っている。その中は、透明の何かが嵌った窓があって中は明るい。カーミラが目ざとくイーガルを見つけて、笑顔で駆け寄って話しかける。
「あら、イーガルさん、どうです。もう家はできました。この2階に私たちが住めるのよ。明日、間仕切りをしていただけるのですって」
「おお、カーミラだったね。驚いたよ。まさかもう家ができているとは」その声にライも話に加わる。
「ああ、イーガルさん。おかげで、それなりの建物ができました。まあ、美しいとは言えませんが、所詮は倉庫ですからね。なにぶん、子供たちはここに住むようになりますから、何かと気にかけて頂くとありがたいですね」ライのその言葉に、相変わらず子供と話しているという気がしないイーガルだった。
イーガルさんは近所なのもあって、その後も子供たちのことを気にかける中で、子供たちに無料で勉強を教えてくれるようになった。さらに、何かとクララと私の相談に乗る存在になっていって、近所で顔が広い彼の存在は大いに私たちの助けとなった。
翌日朝には、2階は廊下が配され、トイレ、シャワー室の他、台所と食堂の他居室。4部屋に仕切られて、ジュブラン領で量産されるようになった、明かりの魔法具も取り付けられた。無論1階も、大きなドアはつけられたが、窓はガラスでは盗まれる可能性が高いということで、鎧窓になった。
ちなみに、私はライ様にいろいろ教えてもらった中で、土魔法としての木材加工で、木の廃材を一旦分解して作り変える、クッションや家具や様々な小物は十分売れると思った。
これらは、すでに私たちの部屋に使っているが、特にクッションはその使い心地は大変良く、イーガルさんもそれを見て、自分で試しに使ってみてすぐに欲しがった。私は彼に長く勝手に家を使わせていただいたお礼にそれを進呈して、いろいろ助力をお願いした。
イーガルさんは前には商売をしていたらしく、その伝手を使ってくれてクッションにかけるカバーの布の手配をしてくれた。さらにその上、出来上がったカバー付きのクッションを売る商会を紹介してくれた。おかげで、私たち皆で一日に10枚作れるクッションは大人気で、作る端から売れていった。
こうして、私たちはクッションの売り上げだけで、十分自分たちの生活費を稼げるようになったので、前から知り合っていた孤児に声をかけて、めぼしいものには魔法を処方をして、まだ広さには余裕のある2階に住まわせて仲間にしていった。
なおクララについては、その後急速に回復して、10日後には普通の生活ができるようになったので、その後は皆のお母さん役をしてもらっている。
私と仲間が、このような不自由のない生活をできるようになったのは、何もかもライ様もおかげだ。私は、一生のうちに何とかライ様にこの恩を返そうと思っていて、小さい子たちにも言い聞かせている。




