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王都にて1

読んで頂きありがとうございます。

前のタイトルを「王都への旅5」に変更しました。

 ライ一行がシラムカラ家の王都館についたのは、その日の夕刻前で、まだ日の高い時刻であった。カーリクは、祖父の侯爵に頼む。

「おじい様。僕は夕食前に外に行きたいのです。ライも一緒に」


「ハハハ、子供は元気だの。言ってこい、しかし、日が落ちるころには帰って来いよ。ミザル、サーマル、ご苦労だが、護衛についてくれ。身体強化ができん王都勤務の者では、子供についていけないだろう」シラムカラ領から来た、まだ10代の若手の2人が護衛に指名される。


 4人が屋敷の外に出ると、カーリクが手に入れていた屋敷周辺の案内図を取り出す。これは、大まかな配置を書いてはいるが、縮尺はでたらめである。

「こっちが市場だけど、どのくらいの距離かな?」

 カーリクが指さすのにライが探査で距離を測って言う。


「うん、2㎞はあるぞ。相当急がないと間に合わないが。ミザル、サーマル、走るけどいいかな?」

 ライの言葉に、ミザルが白い歯を見せて答える。


「もちろん、いいですよ。我々も王都の市場は見てみたいですね」


「よし。では、行こう。走るぞ!」カーリクが声をかけてスタートする。


 半ズボンに、半そでの緩い上着に短い剣を持った2人の小さな子供に、長剣を背負った若い2人の兵士が走る。彼らとしては軽く走っているが、身体強化をかけてのことであるので、軽々とした姿勢で走っているが、子供が全速で走る程度のスピードだ。


 その市場へは、わずか7分ほどで着いたが、皆息も切らしていない。

「お!着いたぞ」カーリクが立ち止まったところは、幅が10mほどの石畳みの道に、テントが両側にずらりと並んだ、長さ500mほどの規模が大きい市場である。両側の店の間に空いている4mほどの道一杯に人が歩いており、シラムカラ市とは比べのものにならない。


 えらい勢いで駆け込んできた一向に、周辺の人が目を向けるが、都会の常ですぐに関心を失う。シラムカラ領から来た4人は、皆人口50万人もの王都は初めてであり、知っているのは人口4万人ほどの田舎街であるシラムカラ市のみであって、そう言う意味では田舎者である。


「いらっしゃい、いらっしゃい。見て行ってね」

「さあ、これは、珍しい、異国の飾り物だよ」


 多くの売り子が、声を張り上げ、途切れることのない買い物客も遠慮なしにしゃべるものだから、全体に騒然としている。田舎者の4人の内、全く初めての3人は目を輝かせて見ている。しかし、ライは前世で王都には数回来て、市場にも来ており、その人格の一つの日本人であったヒロトは海外の市場で似たようなものを見ている。

 だから、ライは比較的冷静に見ているが、とりわけヒロトからすれば、両側の店で売っている商品は、全般に質が悪く、土産物や飾り物の加工は原始的である。しかし、ところどころに売っている串焼きは、程よくたれがついて美味そうに見える。


 そうやって、それぞれに店を見ながら歩いていると、少し先から怒号が聞こえる。

「なんだ?あれは、行ってみよう」カーリクが言って、軽く駆け出す。兵士2人は止める間もなく、苦笑して後を追う。ライも同様に『しょうがないなあ』そう思って追う。


 そこには、身なりの立派な12歳ほどの子供が、地面にうずくまっている人を、「こいつ、俺にその汚い手で触りやがって!」叫びながら、全力で蹴り上げている。その周りを屈強なユニフォームを着た兵士3人が、薄笑いながら人を近づけないように取り囲んでいる。

 見ると、蹴られているのは、ぼろぼろの服を着た、蹲っている子供でありとがった耳をしている。その子はか細い声でしきりに謝っている。

「ごめんなさい。ごめんなさい」ライも前に出ようとしたが、その前に反応したのはカーリクだった。


 彼は、周りの兵士をすり抜けて、蹴っている子を軽く突き飛ばす。しかし、とっさに身体強化をかけた状態だったために、身長が130cm程度しかない子供にとっては軽くとはいかず、後ろに飛んでお尻から落ちる。


「な、なんだ。伯爵家の僕に向かって。死にたいのか!」尻もちをついて、怒りに顔を真っ赤にした男の子は、もがいて立ち上がり、刃渡り50cmほどの剣を抜き放つ。

 さらに、周りの家臣らしき兵士たちがカーリクを捕らえようとするが、それを遮るように、ミザルとサーマルが滑り込んできて、兵士を手で突き放す。


 さらに、彼らは、背負った剣に手を掛けて、3人の兵士に向かって構えて言う。

「シラムカラ侯爵家、領兵隊の者だ。侯爵家嫡孫様に手を掛けることは許さん!」

 明らかに、3人の兵士はたじろぐ。確かに、2人の子供の服装は、自分たちの主人の息子に比べて華美ではないが、動きやすいもので貴族と言ってもおかしくはない。


 また、目の前に構えている兵士は、若いが、刀を背負っている点は変わってはいるものの、きちんとした制服である。なによりその動きの端々から、どちらも身体強化ができているようで、自分たちの適うレベルでは無いように見える。剣を持った子供は、兵士たちの動きに、剣を構えながらもひるむ様子を見せたが、彼に向かってカーリクが言う。


「お前は、伯爵家に生まれたかも知れない。しかし、そんなものは自慢にはならない。

 貴族には高い地位に生まれただけに、民を慈しむ義務がある。抵抗できない子供を、蹴りつけるとは何事だ。そんなことをするものは、貴族の恥だ」

 すこし、つっかえながら一生懸命にしゃべるカーリクの言葉を、感心しながら、蹲っている子供、それも尖った長い耳の女の子を抱き起しながら聞くライであった。


 伯爵家の子供という男の子は、それを聞いて尚更激高して、「恥とは!許さん!」剣を構えてカーリクに切込むが、ライもシラムカラ家の2人の兵士も、身体強化を覚えた後に、きちんと訓練を受けたカーリクに危険はないと放置している。大体、あの剣の威力ではまともに切りつけられても大した怪我はしないであろう。


 果たして、切り込んでくる剣先を冷静に見た、カーリクはさっと身を躱して、相手の剣を持った手を捕らえ、あっさり剣を取り上げる。伯爵家の男の子は、空手になった手を見て呆然としている。

 一方のライは、その様子を横目に見ながら、女の子の骨が折れたりの様子はないので、ほこりを払って立たせる。蹴られたところを痛そうに抑える女の子に聞く。


「名前は?」

「ジーラ」

「どうしたの?何で蹴られたの?」

「うーん、おなかが空いていて、よろけたら、あの子に当たったの。汚い、臭い、ってたくさん蹴られたの」

「確かに、汚いし、少し臭いね。風呂に入れてあげるよ。家は?」

「家はないわ。仲間はいるけど。私は孤児だし、孤児院も追い出されたよ」

「ふん。よし、任せろ。まず、何か食べよう。ジーラ、おいで」

 ライが自分より少し背の高い女の子の手をとって、よろける彼女を引いて歩き出したのを見て、カーリクが慌てて叫ぶ。


「ライ!何をしてるんだよ。どこへ行くんだ?」

「その馬鹿坊ちゃんの相手はカーリクに任せる。この子を虐めた罰を与えてくれよ。この子、ジーラは飢え死にしそうなんだ。なにか、食べさせる」


「はあ?なんだそれは」カーリクがライに気を取られたのをチャンスと見た、伯爵家の者という子が横から殴りかかるが、カーリクがあっさり蹴りで迎え撃って、蹴り飛ばすと後ろに飛んで頭を打って気絶する。


「もう、いいや。連れて帰れ。今後はこういうことはするなと、その馬鹿坊ちゃんによく言っておけ。文句があるなら、シラムカラ侯爵家に言って来い」ミザル、サーマルに抑えられて、手も足も出ない兵士3人に、持っていたおぼっちゃま君の剣を放り投げる。


 1人が慌てて受け取り、2人がおぼっちゃま君を抱きあげて、気が付いて頭をさすっている彼を背負って逃げ出す。捨て台詞を言う余裕もないようだ。伯爵家は中級貴族扱いで、侯爵家とは身分的に大きな差があり、通常は争いをしても勝負にならない。


 ライが女の子を連れて歩いていると、ぼろを着た子供が数人集まって来る。皆女の子のようだ。

 ジーラは元気はないが、「ああ、カーミラ姉ちゃん」中でも最も年長に見える女の子に呼びかける。ライもその子を見て尋ねる。


「カーミラ、君はジーラの仲間か?」3人で連れ立っている、13~15歳に見える、黒髪で目がぱっちりした子は、ライに答える。


「そうよ。お坊ちゃん。その子をどうするのですか?」

「ああ、だいぶ腹がすいているようだから、何か食べさせてやろうと思ってね。君らも腹がすいているようだけど、一緒にどうだい?」ライが言うと、連れの2人のもっと幼い子供の目が期待に光るが、カーミラは流石にためらう。


「そ、それは有難いけれど、いいのでしょうか?」

「いいよ。僕は結構自分で稼いでいるからお金持ちなんだ。どこか、屋台で食べるものを出すところに案内してくれよ」そこに、カーリク一行がやってきて、ライに尋ねる。


「ライ、何をやっているんだ?」

「ああ、この子らは腹がすいているようなんで、食べさせようと思ってね。ちょうどいいから、今後はいろいろ王都を案内してもらおうと思っているんだ」


「ええ!この子らを?」カーリクは眉をしかめて、ぼろぼろの服を着た子供たちを見る。子供たちは、怖気づいて身を固くしているが、リーダーのカーミラは強い目でカーリクを見返している。それに対してライが返す。


「まあ、そう言うなって。このジーラもカーミラもなかなかの魔力だぞ。それに、皆風呂に入れてちゃんとした服を着せれば、なかなか可愛いぞ」

 カーリクはその言葉に諦めてついてきた。ライはカーミラの案内で、近くのベンチを置いた屋台で、果実水や串焼き、ごった煮を4人の子供に腹いっぱいになるまで食べさせた。


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