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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第七章
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第七章 18 この世界の気候

18 この世界の気候


 王は続けた。

「先ほど妻が、このコオンテニウには西洋大陸、中央大陸、東洋大陸があり、リーメイクンは西洋大陸にあると話したな。

 だがリーメイクンの気候が現実世界のヨーロッパそのものなわけではない。

 そもそもこの世界の暦、契世暦では一年は三百日、三十日が十ヶ月だ。

 リーメイクンでは、一月から四月が春、五月が夏、六月から九月が秋、十月が冬となっている」

 女王が笑いながら言った。

「夏と冬は一ヶ月しかないの。だって、暑いのも寒いのも嫌でしょ? 各国の王は、契世暦元年からずっと、自分たちが創作物だと知っている。だから歴代の王の願望が積み重なって、その国の気候が王位継承者の理想に沿うものになったとしても、おかしくないわ。

 それから、隣り合う国でも気候が全然違ったりするのよ。北が寒くて南が暑いとも限らないの。

 そこは地理的なリアリティを追求するより、『異世界の気候は現実よりロマンチックだ』ってことでいいんじゃないかしら。

『神の力でこの地方の気候はこうなってる』でもいいわよ。特殊な気候に神秘を感じた人間がそこに神を見いだし、この世界ではその神が具現化するわけだから、卵が先か鶏が先かみたいな話になってくるけど。何にしても、その場所の気候がそうなっているなら、それを楽しんだ者の勝ちよ。

 ルフエ島もそうだったでしょう?」

 三人はうなずく。

「ルフエ島は気候が独特で過ごしやすい……。で、五月が真夏だもんで、王様と女王様は結婚前にルフエ島に旅行に行かれたんですよね」

 ユージナがそれを思い出す。ルフエ島からコハンに戻る船の上で、コハン側の暑さに驚いていたら、デムーから五月は真夏だと聞いたのだ。

「うむ。リーメイクンはそもそも日本ほど寒暖の差はないが、この気候が普通になっている国民にとっては、やはりリーメイクンの夏は暑いからな。

 ルフエ島は契世暦以前からあの地に存在していたが、定期的に行き来できるようになったのは、人間が魔法を使えるようになり、魔法の風で帆船を動かせるようになってからだ。長息人の祖先となったのは、契世暦以前に島に渡った人々なのだろう。

 契世暦元年からは、島の外と内で交流を持つようになった。ルフエ島に王はいなかったため、リーメイクンの一地方という扱いになった。

 リーメイクンの国王として、国を、そこに住む人々を豊かにする義務があるのでな。ルフエ島は観光地として宣伝することにした。暑すぎず寒すぎず過ごしやすい気候で、長息人という、島の外とは違う人種が住む。長息人はあまり島の外に出たがらないので、ルフエ島に行かないと会えない。

 だから島の外の短息人に向けて、ルフエ島は気候が独特で過ごしやすいですよと宣伝した。観光客が増えればルフエ島の人々も潤うので、島の人々も乗り気だった。

 ルフエ島の街道沿いの休憩所も、多めに作るように指示した。休憩所があればそこを利用する者がお金を使うからな」

「ああ、だからルフエ島には休憩所が多かったんですか!」

 ヴァルルシャが納得する。島の外では街道沿いの休憩所は丸一日歩いてたどり着くぐらいの距離にあったが、ルフエ島の休憩所は半日ぐらいの距離にあった。

 長息人の歩く速度や馬の品種が違うからではと三人で推測していたが、こういう理由があったのか。

 合点がいった三人に、国王は続けた。

「だが、同じ宣伝ばかりでは飽きられてしまうからな。少し工夫をしたのだよ。

『メーンクゥン八世国王陛下と、メイ女王陛下は、ご婚約中にご旅行に行かれました』

『樹齢数千年を超えると言われる双心樹の大木の元で、若き日のメーンクゥン八世様はメイ様に指輪を差し出し、プロポーズをなさいました。しかしそのとき強い風が吹き、指輪を落としてしまわれたのです。

 指輪が無くても、メイ様はメーンクゥン八世様のお気持ちをお受け取りになり、お二人はご夫婦となられました。

 しかし、毎年五月の結婚記念日が来るたびに、あのときの指輪はどうなったのだろうと、お二人で思いを馳せられるのです。

 今年の五月十五日は国王陛下と女王陛下がご結婚なされて三十年目となります。

 来月の三十回目の結婚記念日を前に、国王陛下はどうしてもこの指輪を見つけたいと願っていらっしゃいます。』

 今年の四月一日から配布したチラシの文章は、こんな感じだったかな。

 この内容、よく考えると少し気になるところがないかね?」

 王に言われ、三人は考え込む。しばらく考え続けているので、女王が笑いながらヒントを出す。

「結婚記念日は五月十五日だけど、プロポーズした日っていつなのかしら? 五月十五日の直前? 婚約指輪って、もっと前に渡すものじゃないかしら?」

「あっ……確かに! 婚約指輪って婚約するときに渡すやつだ! 王様と女王様だから、婚約の段取りとかは決まってて、旅行の最中に劇的な演出で指輪を渡すことが決まってたとしても、それが結婚式の直前ってことはないですよね!? それともプロポーズなさったのはちょうど一年前なんですか?」

 リユルがそれに気づく。

「そう、それだ。五月十五日は結婚記念日であって、プロポーズした日ではないのだ。それに五月の双心樹はまだ実が白い状態でな、実が赤く、ハート型になるのは秋、七月ごろなんだよ」

 王も笑いながら答える。

「だがな、リーメイクンの五月十五日は真夏の真っ盛りだ。日本ほど暑くないとはいえ、この国に住んでいる者にとっては暑いのだ。

 だからその時期、ルフエ島に行くと良いぞ、ということを宣伝したい。

 それと、真夏に結婚式を挙げるカップルは少ない。季候のいい時期に結婚したいと思う人の方が多いからな。

 だが、日本では梅雨である六月も、ジューンブライドというジンクスを宣伝することにより、それなりに人気の月になっただろう。

 だからブライダル業界を活気づけるために、五月に結婚するのも良いぞ、ということを宣伝したい。

 そのために、指輪探しのチラシでは、プロポーズの時期でなく、五月十五日の結婚記念日を強調しているのだ」

 三人は目を丸くしてその話を聞いていた。

「……言われてみれば……プロポーズしたのが五月とは、どこにも書いてないわ……」

「……でも、うちら……、五月に王様たちが、ルフエ島で結婚した、みたいなイメージを持っとったよね……」

「……それで、王様たちの思惑通りに、五月ごろにルフエ島に向かいましたものね……」

 そんな三人の様子を、国王も女王も満足そうに見つめていた。

「君たちがそう思ったのなら、我々の作戦は成功だな。とはいえ、三十年間ずっとこのようなチラシを配っていたから、ルフエ島への集客効果はかなり減ってしまったようだ」

「みんな見飽きてしまったのよね。五月に結婚するのは、この国である程度定着したから話題にならなくなったということで、そちらは成功なんだけど」

「だが、ついに婚約指輪が見つかったからな。来年から、いや、今からでもこれが宣伝に使える。

『三十回目の結婚記念日の直前に指輪が発見された』、これほど集客効果のあるエピソードはない」

「コーウェン公園からも連絡が来ているわ。指輪発見のエピソードを宣伝してもっと人を呼びたい、公園からニテール池までの道も整備したいって。

 ニテール池にある島は小さいから今まではただ『島』と呼んでいたのだけれど、これを機に名前を付けたいということで、『指輪島』なんてどうかしら、と返事をしたのよ」

「指輪がはまっていたのはツーヴァの木だから、ルフエ島でも王宮でも育てられる。君たちに持ってきてもらった鉢植えの方は王宮に植えるとして、枝を切って挿し木にした方は、うまく根付いたら、またコーウェン公園に送り返してもいいな。ツーヴァの木は長生きだし、公園で根付けばそれが大木になり、指輪発見のエピソードと共に、双心樹の大木に継ぐ新たな観光名所になるだろう」

 国王と女王は、嬉しそうにそう話した。

「……国のトップに立つって、すごいんですね。記念の指輪が見つかって嬉しいってだけじゃなく、それを観光客を増やす宣伝に使うことをすぐ考えられるっていうのは、いつも国のことを考えていらっしゃるんだなって、さすがだなって思います」

 リユルが言い、ユージナもヴァルルシャもうなずいた。

 そのとき、女王が、すっと真剣な目をした。

「指輪探しのチラシは、毎年四月一日に配布しているの。五月十五日が私たちの結婚記念日だから、その前の月の一日から配り始めるのよ。

 現実世界では、四月一日って、『エイプリルフール』よね。

 この国にはエイプリルフールの風習はないけど、私たちは自分が創作物であると知っていて、作者の記憶から、現実世界の知識も得ている。

 ねえ、私たちは本当に指輪を無くしたと思う?

 大事な指輪を、風ぐらいで落として、しかも見つからないなんて、そんな出来すぎたことが起こると思う?

 観光客を増やすために、指輪を無くしたエピソードごと創作したとは考えられない?」

「えっ……」

 女王がそう言い、国王も共に真顔になって三人を見つめた。

 三人は言葉に詰まる。それもまた、言われてみればもっともな話に思えてきた。

 沈黙が部屋を包んだ。


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