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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第七章
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第七章 15 国王と女王2


15 国王と女王2


 しばし、部屋を沈黙が包んだ。国王と女王、そして、ユージナ、リユル、ヴァルルシャの五人がいるだけの小部屋。三人は国王と女王が語るこの世界の話を、黙って聞くだけで精一杯だった。

 そして、国王がまた口を開いた。

「イクーサという遊戯を知っているだろう。チェスや将棋のような、盤上でコマを動かすゲームだ。イクーサの名前の由来はもちろん『いくさ』だ。チェスや将棋と同じく、盤の上で戦争をするからだ。

 この世界において、国家間の戦争はもはや卓上の遊戯として存在するだけのものとなったのだ」

 女王もそれに付け加える。

「あなたたち、ここに来るときに、この町やこの城の構造を見たでしょう。

 街道がそのまま町の大通りになり、大通りがそのまま城への道につながっている。

 城の柵と門は装飾的で、日が沈むまで門は開いている。

 門の外からでも、その先にこの場所、いかにも中世ヨーロッパ風な城があるのが見える。

 門の近くに兵士の詰め所や庭園はあるけど、門から城まで、舗装された道が一直線に続いている。

 国家間で戦争をしていたら、こんな無防備な構造にはできないわ。

 そもそも城とは、本来は戦争のための軍事拠点よ。日本のお城だってそうでしょう、頑丈な石垣を作ったり、お堀を作ったりして、攻め込まれないように防御している。王と女王の居住区まで門から一直線なんて、本来ならありえないわ。

 でも、この世界ではもう、これで十分なの。

 この世界のお城は、装飾を重視した豪華で綺麗な建物。王族が住み、政治を行うための場所。だから『お城』と呼ぶよりは、『宮殿』、『王宮』と呼ぶ方がふさわしいわ。

 ただ、作者が『中世ヨーロッパ風のお城』というものに憧れる気持ちがあるから、建物の外見は、RPGに出てくるような『お城』そのものなのよ」

 女王はそこで一息ついた。そして国王が続ける。

「契世暦元年は、現実の暦に換算しても今から七千年近く前だ。

 現代日本の場合、七千年も遡ると縄文時代になるだろう。日本人の生活はその間、幾通りにも変化した。

 だがこのリーメイクンの風景は、七千年前からずっと、『中世ヨーロッパ風ファンタジー』のままだ。

 リーメイクンだけではない。このコオンテニウの世界においては、すべての国が、ずっと中世なのだ。

 作者が『中世風のファンタジー異世界』に憧れているからだ。

 決して産業革命は起こらない。近代化はしないのだ。

 だが、無理に人間の向上心を抑え込んでいるわけではない。細かい変化は起こっている。例えばトイレの清潔さを保つために、廃水浄化剤が噴霧されるトイレが新たに作られたりしている。衛生や清潔の面ではコオンテニウが現実を追い抜いても問題ない。

 だが、例えばガソリンで走る車が開発されたら、人や物の移動が格段に早くなる。それは便利だが、一人がそれを手にしたら、自分も遅れまいと同じ物を手に入れたがる人間が増える。そして世界中が、もっと早く、もっと便利に、と進化は加速し、坂道を転げ落ちるように劇的に変化していくだろう。

 そして現代の、日本を含む世界中が抱える、環境破壊の問題につながっていくだろう。

 それでも文明が一度発展してしまったら、もう後戻りはできない。

 現実世界はこういう問題を抱えているから、作者は異世界に憧れ続けているのかもしれないな。

 文明は中世ぐらいでとどまっているのが理想的だ、でもトイレなどの衛生面は現代以上に綺麗な方がいい。作者のそんな願望が、作者の中にこのコオンテニウを作りあげたのだ。

 この世界では、旅には時間がかかる。ルフエ島から王宮に来るまで、十日ほどかかっただろう。牛肉も、頻繁には食べられない。

 コオンテニウは中世風の異世界だから、現代日本と比べれば不便だ。だがその不便さは、環境を破壊してまで便利にならなくてもいい、ほどほどのところでとどまって欲しいという、作者の願望の表れだ。

 だからこの世界は、ずっと中世なのだ」

 国王はそこで言葉を切った。沈黙が部屋を包む。

「……一方的に話してしまったが、どうかな?」

 やがて、国王が三人にそう尋ねた。

「……ええと……」

「……いきなりのことで……」

「……びっくりしました……よね……」

 ユージナ、リユル、ヴァルルシャの三人は顔を見合わせながら答えた。

「でも……確かに……言われたことは、どれもこれも、もっともかも」

 ユージナの言葉に、リユルもヴァルルシャもうなずく。

「あいたち、豪華な接待やご褒美にびっくりしてたけど……」

「今のお話は、それとは根本的に違う驚きでしたよね……」

 そんな三人の様子を見ながら、女王が笑いながら言った。

「ああ、ご褒美ね。だって、あれだけ毎年お触れを出している指輪ですもの、発見者には十分なお礼をしないとね。上に立つ者は気前が良くないといけないわ。あなたたちが王宮に来るまでに使った馬車や宿屋で、きっと噂になっているわよ。『指輪の発見者がこんなにいい待遇だった』って」

 国王も続けて話す。

「国王からのお触れを達成した者にはそれだけの報酬が与えられるということを、人々に示すいい機会だからな。

 それに、『思い出の指輪を探す』という、解決しなくてもそこまで問題の発生しない事柄に対して存分にお金を使えるということは、この国が豊かであることの証明だ。それが、この国に住む人々の満足感につながっていくはずだ」

「……なるほど……」

 三人はまたしても国王夫妻の言葉に納得する。

「国を治める人って、そういうとこまで考えてるんだ……」

「うちらも自分らが創作物だって知っとるけど、国を治めるとか絶対やれる気がしんわ」

「世界が平和で安定しているのは、作者の願望がそうさせているとはいえ、実際に王様たちがきちんと国を治めていらっしゃるから、国民から不満が出ないのでしょうね」

 三人はお互いにうなずき合う。

「世界中の王様や女王様がこうなら、そりゃあ争いは起こらないよね」

 リユルのつぶやきに、国王が補足する。

「世界にはいろんな国があるから、国家元首がみんな私たちに似ているとは限らないけど、国同士の戦争を決断しないことだけは確実だよ。みんなこの世界が、そして自分が創作物であると知っているからね」

「そうですよね。争ったら、結局は自分自身を負かすことになるわけですし。さっき王様がおっしゃったように、食料と破壊衝動の問題は解決しとるわけですし」

 ユージナの言葉を聞いて、ふと、ヴァルルシャがあることに気づいた。

「そうだ、それに、宗教戦争も起こりませんよね。この世界には超常現象を起こす存在、『精霊』がいたるところにいるんですから。例えば人間が水の入手に困らなくなったことで、神に願って雨乞いをする必要もなくなったわけですよね。

 だから現実世界のように神をたたえる宗教が複数あって、どちらの神が正しいとか、そんな主張のぶつかり合いもしないでしょうし……。そもそも『精霊』がいるんだから、この世界には宗教も神も必要ない、存在しないんじゃないですか?」

 その発言に対し、静かに、しかしきっぱりと、国王は言った。

「いや、神はいる」

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