第七章 12 王宮
12 王宮
馬車は街道からそのまま町の大通りを進み、町の中央を目指した。
その先に、王宮があるのだ。
三人は馬車の中からその姿を眺める。
まっすぐに伸びる広い大通りの先に、金属でできた柵と門がある。柵は装飾的な形をしており、頑丈そうではあるが、その先の視界を遮りはしなかった。
柵の中は木や花が植えられ、美しい庭園が広がっていた。門から続く舗装された道の先に、白い壁ととがった屋根を持つ、いかにも中世ヨーロッパのお城という姿の建物がある。その手前にも、城よりやや小さい建物がいくつかあった。
「手前にあるのは兵士の詰め所や来客用の建物です。皆さんはあちらに滞在していただきます」
「私たちは国王陛下に報告に向かいます。皆さんの陛下との謁見の日時は後ほど連絡が行くと思います」
デムーとカーウェはそう説明した。
馬車は門の前で止まった。まだ日は落ちておらず、門は開いていた。門の前には、デムーとカーウェと同じ、鉛色の生地の制服を着た門番が立っていた。
馬車での移動はここまでです、とデムーとカーウェが言い、鉢植えを持って馬車を降りた。ユージナ、リユル、ヴァルルシャも後に続く。デムーとカーウェが門番に話をし、五人は門の中に入る。
三人は門から少し歩いたところにある来客用の建物に案内された。奥にある王宮と同じく、白を基調とした上品な建物だった。
そこには鉛色のロングスカートの上にエプロンを着けた、いわゆるメイド服を着た女性たちがいた。彼女たちは高級旅館で仲居が客を出迎えるように、建物の入り口で三人に向けてお辞儀をした。
デムーとカーウェは報告のために王宮に向かい、三人は客室に通された。
客室は今まで泊まったどの宿より広かった。ベッドやテーブル、椅子やソファーがあるのはもちろんのこと、各部屋にトイレと、浴槽付きの風呂場があった。それが、一人に一部屋与えられた。
「ふわー……」
部屋の入り口で立ち尽くす三人に、メイドが言った。
「お召し物は、お預けいただければお洗濯いたします。着替えの服はそちらの棚に用意してございます」
三人がそれぞれの部屋に入り、示された棚を開くと、品のいい寝間着や室内着が何着もそろっていた。
三人はひとまず荷物を解き、部屋を見て回った。
やがてメイドが呼びに来て、食事の支度ができたと言った。三人は建物内の食堂に向かう。ユマリと共に食べたような豪華な牛肉料理が出され、三人はありがたくいただいた。
食事を終え、三人は部屋に戻る。だが落ち着かないので、自然と三人は一つの部屋に集まった。部屋は大きく、椅子もソファーもあるので三人が入っても十分な余裕がある。
「ふあ~。王宮ってすごいところだねえ」
リユルが声を上げる。
「うん。豪華だねえ」
「さすが王宮ですね」
ユージナとヴァルルシャもあまり言葉が出てこない。
「うちら、こんなに接待してもらっていいんかな? 指輪見つけたとはいえさ」
部屋を見回しながら、ようやくユージナが言った。
「……ちょっと恐縮しちゃうよね。でも向こうからどうぞって言ってくれてるわけだし、断ったら逆に失礼になるかもしんないよね」
「それだけ大切な指輪だったのでしょうね。毎年チラシを配布して探していたわけですから」
リユルとヴァルルシャも落ち着きを取り戻し、普段の調子で話し始めた。
「せっかくだし、この服、洗濯してもらおうかな。王様に会う前に綺麗にしてもらった方がいいし」
リユルが自分の服をつまむ。コーウェンの町で洗濯したとはいえ、あれからまた日が経っている。
「そうだね。それに今日の夕方着いたんだで、王様のお呼びがかかるのが明日の早朝ってことはなさそうだし」
「自分で洗うのと、専門家に頼むのとではどう違うか気になりますよね」
こんな体験をする機会はもうないだろうし、それにしても王宮までの旅は豪華だった、そんな話をしながら三人はくつろいだ。
そしてそれぞれの部屋に戻り、風呂に入って服をメイドに預け、眠りについた。
翌日も豪華な食事を振る舞われ、三人は同じ建物でくつろいだ。
やがて「陛下との謁見は明日の昼の三刻から行われる」という連絡があり、三人は了承した。
そして洗濯に出した服も戻ってきた。縫い目の隙間など、細かい部分まで汚れが綺麗に落とされており、いい香りが漂っていた。
明日はこれを着て国王に会うのだ。三人はそう思いながら、昨日と同じように休んだ。




