第七章 11 首都へ
11 首都へ
五月二十日。ユージナ、リユル、ヴァルルシャの三人は、デムーとカーウェと共にフェネイリの港に向かった。風係たちはすでに船に乗り込んで支度をしていると、デムーとカーウェが言った。
フェネイリの港は、大小様々な大きさの船が並び、賑わっていた。積み荷の上げ下ろしも盛んで、三人は、こうして各地の食料や名産品がさまざまな町に流通していくのだと感じた。
人や物を運ぶのに特化した機能的な船の中に、装飾の施された船が見える。とはいえ派手ではなく、上品で風格のあるたたずまいだった。それほど大きくはないが、少しの衝撃には揺らがないような頑丈さを感じる。
「あれが国王陛下の船です」
デムーが示し、五人は船に乗り込む。タラップはすでに準備され、風係も船の上に待機していた。
「皆さんはこちらでおくつろぎください」
カーウェが船内に入り、船室に案内する。
「うわーっ! 一人一部屋なんだ!」
ユージナが声を上げる。フーヌアデからフェネイリへの船旅では、四人部屋を三人で利用した。そのときの部屋は四畳半ぐらいの大きさで、二段ベッドが二つとロッカーが四つあるだけの、まさに寝台車のような部屋だった。それでも一部屋一日8,000テニエルで、二泊三日だと合計2,4000テニエルかかった。
「ユマリさんの部屋よりも大きいんじゃない?」
リユルも案内された部屋の中に入って声を弾ませる。トイレの構造を説明してもらったときに入った彼女の船室は、八畳ほどの広さにベッド一つで、ソファーやテーブル、椅子や棚もあった。目の前の部屋はそれらの設備はもちろんあり、部屋の広さも上回っていた。
「トイレと……シャワー室もありますね。船でシャワーが使えるとは、さすが王様の船ですね」
ヴァルルシャも部屋を見回して感嘆する。今まで乗った船にもトイレはあったが、共同の物だった。風呂設備は共同の物すら無かった。船に設置できる上水タンクと下水タンクに限度があるからだろう。だがこの船は積み荷や一般客を運ぶための船ではないので、船室で快適に過ごすことを一番の目的にできる。
今後、船旅をするにしても、これほどいい部屋に乗ることはもうないだろう。三人はそれぞれの部屋を堪能することにした。
やがて船は、フェネイリの港から東に向けて動き出した。
空は晴れており、自然の風はあまり吹いていなかった。だが風係が魔法の風で船の帆を膨らませ、船は順調にシューゴの港町に向けて海を進んでいった。
食事の時間になると、三人は食堂に呼ばれた。この船には料理係も乗っており、シューゴに着くまでの食事を作ってくれることになっていた。
食堂も以前乗った船のような大衆食堂ではなく、上客のみを相手にする高級レストランがそのまま船に設置されたような空間だった。
食材は、料理係がフェネイリで待機している間に保存の利く物を調達したという。そして昨日から今朝にかけて、新鮮な野菜なども買い込んだそうだ。三人は野菜のサラダや魚料理、パンに果物などをおいしくいただいた。
夜には部屋でシャワーを浴び、三人はそれぞれの部屋で眠りについた。
翌日の五月二十一日も船は順調に進んでいった。人魚にもナックラヴィーにも遭遇せず、三人は食事と広い部屋を堪能した。
そして五月二十二日、空が夕焼けで赤くなるころに、シューゴの港町が見えてきた。
シューゴはフェネイリよりも更に大きかった。港に泊まっている船の数も、町の建物の数も、フェネイリを上回っていた。
さすがいろんな物が『集合』する町だ、と三人は口には出さず思った。
宿はまたデムーとカーウェが手配した。王様の船はシューゴの港に置いておくそうで、船員たちとは港で別れた。
シューゴの町で一晩過ごし、五月二十三日、三人はデムーとカーウェと共にまた馬車に乗り、シューゴの町から首都シュトゥーンへと向かった。
街道沿いの宿に宿泊しつつ、五人は馬車に揺られながら首都を目指した。
そうして五月二十六日の夕方、五人は首都シュトゥーンへ到着した。




