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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第七章
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第七章 05 晩餐2

05 晩餐2


 しばらく待つと、まずサラダが運ばれてくる。チョビアンのソースのかかったおいしいサラダだった。

 次に運ばれてきたのはスープとパンだった。スープは口当たりはさらっとしているが、深い味わいをしている。パンは焼きたてでいい匂いがしている。

 普段食べている食事もおいしいが、やはり高級料理は高級なだけある、と三人は思った。

 食事をしながら、ユマリはリユルたちに言った。

「そうだ、リユルくんたちはトイレの構造に興味を持ってくれていたよね。機会があれば、『トイレ製造会社ユマリ』を尋ねてきてくれ。工場を案内してあげる。きみたちならいつでも歓迎するよ。

 会社は首都シュトゥーンからシューフェンの町に向かう街道の近くにあるよ。その辺りは工場が集まってるんだ」

「わあ、ありがとうございます。お伺いしたいです」

 首都の周辺だからシューフェンなのだろうと思いつつ、リユルは礼を言った。

「リユルさん、うちに来てくれるの? 嬉しいなあ」

「お前は学校の寮にいるはずだろう。まあ、リユルくんたちが来たら手紙で学校に知らせてもいいけど、都合良く学校が休みの時期に重なるとは限らないぞ。あまり彼女たちを引き留めるのも悪いしな」

 喜ぶスフィアに、ユマリが釘を刺す。

「旦那にも君たちのことは話しておくから、私が仕事で出かけていたら旦那に案内してもらってくれ。

 旦那の名前は、ハニー・オマール。スフィアとよく似ているから、会えばわかると思うよ」

 この国は夫婦別姓なんだ、オマール海老という食材があるが、名前の由来はおそらく、おまるだろう、日本語の……。三人はそう思いながらうなずいた。

 そうしているうちに、牛肉のステーキが運ばれてきた。

 皆は厚みと重みのある牛肉を、ナイフとフォークで切り分けて口に運ぶ。

「おいしい!」

 口の中に広がる牛肉のうまみに、三人は感動の声を上げる。この世界で牛肉を食べるのは初めてだ。だが作者が現代日本で牛肉を食べていた記憶には三人ともシンクロできる。三人は、初めてだが懐かしいその味を堪能した。

 もちろんユマリとスフィアも満足そうにステーキを味わった。

「そういえば、君たちはお酒は飲まないのかい?」

 ユマリは料理以外にも、ワインを頼んでいた。ユマリの席にはワインのボトルが置かれており、ワイングラスには青い液体が入っていた。ルフエ島でしか発酵しないという、ルーハワイブで作られた青ワインだ。

「あ、はい、あいたちお酒飲まないんです。ていうか、飲んだことないんです」

 自分たちは作者が十代のころに作られたキャラだ。作者が酒を飲んだことのないときに作られたから、酒に対する設定がないのだ。以前、食事時にそんな話をしたことを思い出しながら、リユルがユマリに答えた。

 それに料理を頼むときにメニューのワインのページもちらっと見たが、ワイン一本が何百や何千テニエルもしていた。ステーキだけでも恐縮なのに、飲めるかどうかわからないワインまで頼む気にはなれなかった。

「そうか。ちょっと飲んでみるかい? ルーハワイブのワインはルフエ島でしか作れないからね。本場で飲める機会はなかなかないよ」

 ユマリは自分のボトルを示した。

「飲んだことないけど……苦手かどうかもわかんないもんね」

「うん……今までなんとなく飲まんかっただけだもんね」

「試しに少し、飲んでみたい気はしますよね」

 飲酒に年齢制限があるとしても、双牙舎でのスフィアの言葉によれば二十歳が成人のようだ。一年が三百日のこの世界の暦で換算すると、リユルは二十三歳、ユージナは二十一歳、ヴァルルシャは二十五歳になる。年齢的にも問題ないはずだ。

「じゃあ、ちょっとだけ、いただきます」

 三人はユマリのワインを少しもらうことにした。店員が三人にワイングラスを運び、ボトルから少量のワインが注がれる。

 三人はワインを口に含んでみる。ジュースとは異なる、独特のアルコールの風味。

「へえ~、お酒ってこういう味なんだ~」

「お酒ってもっときついと思っとったけど、これは飲みやすいね」

「果実酒だからかもしれませんが、爽やかでおいしいですね」

 三人は初めてのアルコールを味わう。作者は成人してもあまり酒を飲まないのか、三人は作者の飲酒の記憶にはシンクロできなかった。だが今、目の前にあるワインはおいしいと三人は思った。

「ルーハワイブのワインは、爽やかで飲みやすいと評判だね。だからといって、スフィアには飲ませられないけどな」

 ユマリはスフィアに「成人するまで待ちな」と言って笑った。スフィアも残念そうな顔はせず、普通にうなずいた。

 食事は順調に進み、食後のデザートと紅茶も運ばれてきた。

 紅茶もこの世界で飲むのは初めてだが、作者が飲んでいた記憶はある。その記憶と照らし合わせても、薫り高い高級な味わいの紅茶だった。

 デザートはスーリベリーを使ったケーキだった。ほどよい甘さで、紅茶によく合う。

 皆はこの店の料理を堪能した。

 テーブルの上の皿はほとんど空になったが、スフィアだけは、ケーキの最後の一口に手を付けないままでいた。

「……これを食べ終わったら、リユルさんたちともお別れか……」

 スフィアはそのために、ケーキを食べ終えるのをためらっていた。

「スフィア、わがまま言うもんじゃないぞ。いつまでもそうしてると、満腹と判断されてお皿を下げられてしまうぞ」

 ユマリは料理だけでなく、ワインも、三人に少し分けたとは言え一人で一瓶を空にしていた。だが表情や口調はいつも通りだった。

 ユマリに言われても、なかなかスフィアはケーキの残りに手が出せなかった。

「……ねえ、スフィアくん。あいに渡そうとしてくれた指輪、今ここに持ってる?」

 リユルがスフィアに向き直る。

 飲んだワインはグラスにほんのわずかだった。酒を飲むと酔うと言うが、あまり気分が変化したようには思えない。でも、少しだけ、気分が高揚しているかもしれない。そう感じながら、リユルは言った。

「あいはまだ結婚とか考えられないし、だからプロポーズは受けられないんだけど、よければ、指輪だけ、受け取ってもいいかなって。何というか……記念に?

 あいは魔物狩り屋だから、指輪は落とすか壊すかしそうだから、普段ははめないけど、荷物の中に大事に持ってて、きみのこと、きみがプロポーズしてくれたこと、いつでも思い出せるようにしてもいいかなって。

 今はそういう形で……、続きはきみがもっと大きくなってから、ってことで。まずは、きみにまた会えるように、きみの持ってた品を受け取ってもいいかなって、そう思うんだけど、どうかな?」

 リユルは正直な気持ちをスフィアに伝えた。

「……はい! もちろんです!」

 スフィアは顔を輝かせ、ポケットから指輪の入ったケースを取り出した。椅子から立ち上がり、リユルの前に進み出て、ケースを開いて指輪を差し出した。

「ありがとう。ちょっとだけはめてみるね」

 リユルは指輪を受け取り、人差し指にはめた。

「うん、さすがフリーサイズ。ちょうどいいよ」

 リユルはスフィアに微笑み、指輪をケースに戻して自分の手の中に収めた。

「気を遣わせちゃったかな。すまないね、リユルくん」

「いえ、あいもこれですっきりしました」

 そう言うユマリにリユルは笑顔で答えた。

 スフィアは席に戻ってケーキの最後の一口を食べ終わり、五人の晩餐はこれでお開きになった。

 ユマリが全員分の支払いを済ませ、皆は店を出る。

「ご馳走になりました。とってもおいしかったです」

 三人はユマリに頭を下げる。

「こちらこそ、君たちにはいろいろ世話になったね」

「リユルさん、皆さん、ここで、お別れですね」

 ユマリとスフィアの泊まる宿は、三人の泊まる宿とは別方向だった。二人と三人は店の前で別れることになる。

「あい、ユマリさんの工場、行ってみたいから、必ず行くよ。また会えたらよろしくね」

「うちら、王様のおるシュトゥーンに行くわけだで、そこでの用事が済んだらユマリさんの工場に行けるよね」

「きっとまた、会う機会がありますよ」

 リユル、ユージナ、ヴァルルシャはスフィアに声を掛ける。

 それじゃあ、本当にありがとう、またね、そんな言葉を掛け合い、二人と三人は料理屋の前で別れた。

 空はすっかり暗くなり、町は夜の顔になっていた。食事を終えた人と、これから食事に向かう人がそれぞれ町を歩き、飲食店から料理を作る音が響いてくる。

 三人はしばらく無言で宿に向かって歩いた。軽く酔いが回っているせいかもしれないし、別れの余韻に浸りたいからかもしれない。三人はなんとなく話を切り出せずにしばらく歩いていた。

 やがて、ユージナがリユルに言った。

「結局、受け取ったんだねえ」

「うん……なんか、その方がいいなって思えたから」

 道を歩きながらリユルが答えた。

「記念の品があると、絆が強くなった気がしますものね」

 ヴァルルシャもうなずく。

 三人はまたしばらく黙って歩いた。

「……それにしても、いろんなことがあったな~。クラーケンは倒せたし、王様の指輪は見つかったし」

 リユルが話題を変える。

「そうだね。配られとるチラシを受け取って、ルフエ島に行こうって決めて良かったわ」

「あとは王様に会うだけですが、シュトゥーンや王宮はどんなところでしょうね。楽しみですね」

 もちろん褒美をもらえることも楽しみだが、首都や王宮の様子も楽しみだ。それらは自分たちで設定したわけではない。世界がどんな光景を設定したのか、この目で見てみたかった。

「王宮からの使者って何日ぐらいで来るんだろう。ていうか、明日、伝書トーハを飛ばすって言ってたけど、それって一日で王宮に着くのかな?」

 リユルがふと気づいたことを口にした。

「鳥って結構速く飛ぶよね。それに鳩じゃなくてトーハだで、うちらの知っとる鳥とは違うかもしれんし」

「明日になってから飛ばすということは、夜には飛ばない鳥かもしれませんよね。となると、日が出ている間に到着すると考えられますが、そもそもルフエ島と王宮ってどのぐらいの距離なんでしょうね」

「そういえばそれ聞きそびれてたね~。明日、双牙舎で確認しようか」

「うん。とりあえず、今日は疲れたで早く寝よう」

 三人は宿に帰り、十分に休んだ。


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