第七章 02 発見
02 発見
まだ育ち始めて何年も経っていないような、若いツーヴァの木。
木の幹も人間の指ほどの太さで、更に細い枝がいくつも生え、緑色の葉をつけている。
その枝の一つに、指輪がはまっている。
自分たちがルフエ島に来るきっかけになった、指輪探しのチラシ。国王が三十年前に指輪を無くしたこと。その場所はルフエ島で、長息人という人々が住んでいること。それらの情報を確認するたびに、何度も繰り返し広げたチラシ。
そこには、国王が無くした指輪の絵が描かれていた。
今ユージナの目の前にあるのは、年数が経ち、土もこびりついているが、チラシに書かれた絵と同じ形の指輪だった。
指輪は幹から伸びる一本の枝の根元に収まっていた。枝は指ほどは太くないため、枝と幹がつながるところに引っかかる形になっている。
だが、まだ若い木とはいえ、枝の先はさらに細い枝が何本も生えているし、それぞれの小枝に葉が何枚もついている。指輪を枝の先端からねじ込んだわけではないだろう。
「この木が生えるときに、ちょうど指輪がここにあった、ってこと? そんで芽が伸びていくにつれてこの木が指輪を持ち上げて、今こうしてここに引っかかっとる、ってこと?」
ユージナは推測する。双心樹の大木で王様が落とした指輪は、風か鳥に運ばれて、ニテール川に流されて、この島にたどり着いたのだ。そしてツーヴァの木が指輪の位置で発芽し、木が生長して、今、自分の視界に入ったのだ。
ものすごい偶然の連鎖に思えるが、それ以外に理由が思いつかなかった。
「指輪があったってーー!?」
岸の方からリユルたちの声がする。ユージナは皆に向き直り、指輪の状況を大声で説明した。
「まさかあんなところに指輪があるなんて……」
「しかも木にはまっているとは……」
島のユージナから話を聞いた皆は顔を見合わせる。何にしても島に行く手段がなければどうしようもない。皆は公園からボートが運ばれてくるのを待った。
やがてジーリョと、男性のスタッフ数人が手こぎボートをかついでニテール池までやってきた。
「ええっー!? ついにー、指輪がー!?」
リユルたちから話を聞き、彼らは驚く。何にしても島に渡る必要があるので、彼らは小舟を池に浮かべる。小舟は長息人サイズの二人乗りの大きさで、まずジーリョが一人で船をこいでいき、ユージナを乗せて帰ることにした。
「これ! これですよ、ここに指輪が!」
島にやってきたジーリョに、ユージナがツーヴァの木を指さす。
「確かにー。まさかーこんなところにあるとはー」
ジーリョもそれを確認する。
ユージナとジーリョはひとまず、小舟で岸まで戻ってきた。
「指輪が見つかったらー、どうするんだったかなー」
ジーリョが他のスタッフに相談する。
「確かー、双牙舎に連絡するんじゃーなかったかなー」
国立コーウェン公園のスタッフは皆、スタッフの仕事として指輪が見つかったときの対処法も教えられたことは覚えている。だが三十年間見つかっていないので、皆、何をするのか忘れてしまっていた。
スタッフたちは記憶をたどり、双牙舎に連絡すること、そうすれば双牙舎から王宮に連絡が行くことを思い出した。指輪は国立コーウェン公園、もしくは指輪を見つけた人が、双牙兵に手渡すまで厳重に保管することも思い出した。
「保管って言っても、木にはまっとるんですよ」
ユージナが言う。皆は相談し、公園から植木鉢とスコップを持ってきて、日が暮れる前にそのツーヴァの木を掘り起こし、まずは公園に持ち帰ろうということになった。
スタッフが再度公園に戻り、木を掘り起こす道具を持ってくる。そして小舟で島に渡り、指輪のはまったツーヴァの木を植木鉢に移し替えて戻ってきた。植物を扱う公園のスタッフだけあって、手際よく作業は進み、日が暮れる前に島から指輪のはまった木を持ち帰ることができた。
「ほんとだー。こんなとこに指輪がはまってる……」
「ユージナさん、よく気づきましたね」
ずっと岸にいたリユルとヴァルルシャがその植木鉢をのぞき込む。ユマリとスフィアも驚きの目でそれを確認する。
輪に切れ目のあるフリーサイズの指輪ではなく、どこにも切れ目のない、一つながりの金属の輪。それが木の枝の根元に収まっている。誰も指輪がそんなところにあるとは思わない。実際にその様子を目にして、ようやく受け入れられるような光景だった。
「昔ー、あの島を調べたときにはー、指輪があったなんて話はー、聞かなかったがなー」
「この木が生えてきたからー、土の中からー、持ち上がってきたんだろうなー」
「前に島に渡ったやつはー、気づかなかっただけかもーしれないぞー」
公園のスタッフが話し合う。
「今回、ユージナくんが島に渡ったから見つけられたんだね。こう言うと失礼かもしれないが、ユージナくんの目線が低いから視界に入りやすかったのかもしれない。もちろん、ユージナくんがずっと指輪のことを気に掛けていたからというのが大きいだろうけど。
身長が低いということは、背の高い人とは違う目線を持てるということでもあると思うよ」
身長がヴァルルシャと同じく百七十五フィンクほどあるユマリが、先ほど小柄なことを気にする発言をしていたユージナを気遣った。
「他の人間だったらこの指輪を見過ごしていたかもしれないし、そもそも島に渡る作戦も、ユージナくんたちだから成功したと言える。
指輪の発見者はユージナくんと、ユージナくんを島に渡るのをサポートした、リユルくんとヴァルルシャくんということでいいかな?」
ユマリが言い、スフィアと公園のスタッフもうなずいた。
「確か、指輪を見つけた人は王様からご褒美がもらえるんですよね。よかったですね!」
スフィアが笑顔でリユルたちを見上げる。
「え、でも、あいたちだけが発見者でいいの? クラーケンだって、みんなで追い詰めたのに、ご褒美とかあいたちだけがもらっちゃったら……」
ためらうリユルに、公園のスタッフが言った。
「かまいませんよー。我々ー、公園にいてもー三十年間ー見つけられなかったーわけですしー」
「確かー、王様が直接ーご褒美をくださるからー、発見者はー王宮に行くんだよなー。そんな遠出もー大変だしー」
「クラーケンにー壊された柵もー直さにゃならんしー、俺らー公園でーやることーいっぱいあるからなー」
スタッフはうなずきあった。
確かに公園のスタッフなら、本気で指輪を探したいなら今までにもその機会はあっただろう。それに彼らは長息人なので、島から出たくないという気持ちもあるのかもしれない。ユージナ、リユル、ヴァルルシャの三人は、皆の厚意に甘えることにした。
「じゃあー、双牙舎までー、この鉢植えをー持って行かないとーいけないなー」
「公園で見つかったーわけだからー、誰か一人はー、一緒に行った方がーいいかなー」
スタッフは話し合い、ジーリョが状況説明のために共に双牙舎に行くことになった。
「私とスフィアも一緒に行っていいかな。ルフエ島行きの船で息子を助けてもらったお礼を、まだリユルくんたちにしていないからね。今夜は一緒に食事をと思っていたんだ。双牙舎での用事が済んだら、一緒に夕食に行かないかい。疲れたからおなかも空いたろう」
ユマリは三人に言った。
「あっはい、ありがとうございます。じゃあ、一緒にご飯食べようか」
リユルがユマリに答え、スフィアに微笑む。スフィアも嬉しそうに微笑み返した。
三人とユマリ親子、ジーリョは鉢植えを持って双牙舎に向かうことにした。




