第七章 01 収束
第七章
01 収束
「やったー!!」
池を渡ったユージナを見守っていたリユルとヴァルルシャが声を上げる。ユマリとスフィアも親子で手を取り合い、キャスバンやジーリョたち公園のスタッフも手をたたき合う。
「やったよー!!」
島から岸へ、ユージナが手を振る。
「どこも、怪我してなーい?」
「大丈夫ー!」
リユルとユージナが声を掛け合う。
「作戦成功ですね! あとは、ユージナさんを戻さないと」
「そうですねー。公園に手こぎボートを探しに行きましょうー! クラーケンはいなくなったからー、落ち着いて探せますよねー」
ヴァルルシャの言葉に、キャスバンが他のスタッフを振り返る。
「ああー、日が沈む前にはー、なんとか見つけてー運んでこようー」
「町にもー連絡ーしないとなー」
スタッフは話し合った。
「皆さんー、ありがとうーございましたー」
「もう少しー、ここでお待ちくださいー」
スタッフたちは急ぎ足で公園に向かった。リユルとヴァルルシャ、ユマリとスフィアがニテール池の周りに残った。
「今、ボート持ってきてもらってるからー。そっち、変わった様子なーい?」
「ないよー。魔物もおらんしー」
「もうちょっと待っててくださいねー」
島に一人残されたユージナに、リユルとヴァルルシャが声を掛ける。
日は少し傾いてきていたが、クラーケンはもういないし、魔物の気配もしない。今はボートを待つだけだ。皆はその場所でしばし休憩を取った。
しばらく座って休み、疲れが取れたユージナは、立ち上がって島の中を見て回ることにした。ボートが運ばれてくるにはまだかかりそうだし、せっかく普段来られない場所に来たのだから、辺りが暗くなる前に島の中を見ておこうと思ったのだ。
島は十五エストほどの大きさで、普通サイズのコンビニぐらいの面積があるだろうか。狭いというほどでもないが、観光地にするには確かに少し物足りない。
ここしばらく人の出入りが無かったためだろう、草木が自由に生えている。
「これは……双心樹……これは……ファミガの木かな……?」
公園で見た植物の名前をつぶやきながら、ユージナは島に生えている木を見て回る。
「これは……カリファの木かな?」
そこには、黄色くて大きな実をつけた木が生えていた。これも公園で見た覚えがある。実が一つ一キロになり、この木の実を基準に重さの単位が決められたという木だ。
「この木の実が熟して落ちると一キロ、じゃない一カリファになるんだよね。実は固いで食用にならんって書いたったけど、じゃあこの木はどうやって増えるんだろう」
ユージナは足を止めて考え込む。植物が実を付けるのは、動物に実を食べさせ、種を運んでもらうためのはずだ。
「人間にとって食えんだけで、他の動物にはおいしいとか? でも実が固くて重さ一カリファもあるんだで、でっかい動物じゃないと食べれんくない? この島にはそんな動物おらんし……。鳥がつっつくんかなあ。それとも虫?」
話し相手もいないまま、ユージナは一人でつぶやいて考えをまとめる。
「でも公園に、『持ってみてください!』ってかごに熟した実が入れられとったよねえ。鳥か虫がこの実を食べるんなら、あんなとこ置いといたら食べられちゃうかもしれんのに……」
そこまでつぶやいて、ユージナは、このカリファの木が水際に生えていることに気づいた。
「あそっか、川に流されるんかもしれん。木の実が川に流されて別の水際に着いて、そこでまた木が生えて木の実が川に落ちて……とか。それか実が水に落ちると腐ってドロドロになって、食べやすくなったとこに鳥や虫が寄ってくるとか、そういう増え方をしとるんかもしれん」
一人で納得し、ユージナはまた足を進めた。
その先には、まだ成長途中の苗木のような木があった。
「これは……ツーヴァの木だったかな?」
木の背丈はユージナより低く、枝も細いが、濃い緑色でつやのある葉には見覚えがある。種から油が取れる、椿のような木だ。
「これはルフエ島でも島の外でも生える植物だったよね……」
ユージナはつぶやいて視線を先に進めようとする。
しかし、視界の隅に何か引っかかる物を感じ、動きを止める。
立ち止まり、その違和感の元を探すべく、もう一度辺りをよく見てみる。
夕方になり、少し赤くなり始めた日の光に照らされて、土や草木の茶色や緑の中で、一つだけ、異質な輝きを放つもの……。
「あーーーーーーっ!!!!」
ユージナは声を上げた。
「どうしたの!?」
その声は岸で待っている皆にも届いた。ざわつく皆に、ユージナは叫んだ。
「指輪だーーーーっ!!」




