第六章 04 戦いの後で
04 戦いの後で
「うちが剣士で良かったんかなあ」
弁当のはさみパンを食べながらユージナがつぶやいた。
「どういうこと?」
ジオレンの果汁を飲みながらリユルが尋ねる。
「三人パーティで、物理攻撃担当がうちだけでしょ? でもさっきのオーガ相手に、雷の魔法剣ですらあんま効かんかったし。あれ、オーガが硬いって言うよりは、うちが弱いで効かんかったんじゃないかと思ってさ」
「でもオーガは防御力の高い魔物ですし……岩の魔法剣は効いたじゃないですか」
ヴァルルシャがはさみパンの具のマトマを飲み込んでから言う。
「うん……でも、オーガだけじゃなくてさ、船でナックラヴィーと戦ったときもうちは跳ね飛ばされてまったし、クラーケンと戦ったときは、全体重を掛けて切りつけても、全然切れんかったんだよねえ。うちが軽いでかなあと思って。例えば公園のジーリョさんなら……あの人は刀じゃなくて棍棒だし、戦っとるとこは見たことないけど、ジーリョさんだったら魔法剣を使わんでもオーガにダメージを与えられると思うんだよね」
公園でシェリーコートと遭遇したとき、キャスバンの笛で駆けつけたジーリョ。彼は長息人の中でも大柄で、先ほどのオーガにも引けを取らないぐらいの体格だった。
「確かにあの人は力が強そうだけど……」
「うちもあのぐらいでかかったら、いや、せめて短息人の普通の男並の体格なら、硬い魔物とももう少し互角に戦えるだろうに……。長息人どころか短息人の中でも小さい方だもんでさ……。
作者は女剣士かっこいいって考えてうちをデザインしたんだよね。アニメやゲームじゃ女キャラの剣士とか戦士っていっぱいおるし。でも、実際のところ腕力でも体格でも女は男より弱いでしょ? スポーツでも男女別で勝負するし。女戦士が男の戦士と同じだけ活躍するのってフィクションの中だけと違うかなあ。そもそも『女戦士』ってわざわざ言うこと自体、『戦士』って言ったら男、って事実の裏返しだと思わん?
現実には……この世界も作者の創作物だで現実ではないけど、武器を持って敵と戦うなら、男がやった方が強いよね。
魔法使いは腕力も体格も関係ないけど、物理攻撃は本人の体格に左右されるでさあ。
うち、いっそ男だったら良かったのに……」
ユージナはそこまで言ってため息をついた。
「それは考えすぎですよ。私も男ですけど、刀を持ったからといってゴブリンと互角に戦えるとは思えませんもの。男だからって腕力があるとは限りませんよ。私が言うのも何ですけど……」
「そうそう、あいだってヴァルルシャとそんなに身長変わんないけど、武器持って戦おうと思ったら、これからすっごく訓練しても何年かかるかわかんないよ。身長があったって筋肉は一日二日じゃ付かないんだから。ユージナは剣士として立派な体をしてるよ」
二人に言われるが、ユージナはまだ落ち込んだような顔をしていた。
「こういうとき、『きみの太刀筋は立派だ、それはきみが一生懸命練習してきたからだ』って言えるといいけど、あいたちはそうじゃないもんね。作者に、剣士とか魔法使いとか設定されて、そうなったわけだから。だから、剣でも魔法でも、苦労して習得した覚えって無い。そうでしょ?
でも、何もしなければ能力って衰えていくよ。あいたちのこの世界での明確な記憶って、ほんの二ヶ月ぐらい前からしか無いけど、でもそれぞれ、剣士や魔法使いとして行動してきたでしょ? それをやめてたら、今ここにこうしていないよ。あいたちに過去の記憶が無くたって、今の設定を継続してるんだから、あいたちは立派に、剣士や魔法使いなんだよ」
リユルの言葉を聞いて、ヴァルルシャも少し考えてから話した。
「私たち、この二ヶ月ぐらいの間に、何度も魔物と戦って経験を積みましたよね。それはゲームのような明確なレベルアップではないけれど、確実に私たちの力になっています。それだけの場数を踏みましたから。魔法剣だって、戦っていくうちに考えついたんですものね。私たちが魔物におびえて魔物と戦うことをやめていたら、いくら設定として剣士や魔法使いだったとしても、その肩書きを失いますよ。それは書き途中で物語を放置したのと同じことです。
私たちは、魔物と戦うことをやめませんでした。そして、ユージナさんは、何度も怪我をしているのに恐れずに魔物に立ち向かっているでしょう。それは設定ではなく、ユージナさんの意志の力じゃないですか。だからユージナさんは、立派な戦士ですよ」
二人の言葉を聞いて、ユージナは笑顔を見せた。
「……ありがとう。そうだね。それに、現実の人間だって、自分の望む体つきや能力に恵まれるとは限らんもんね。自分に与えられたもんでがんばるしかないんだわ。うちらは作られたキャラクターだけど、初期設定ですべてのステータスがマックスみたいなチートキャラなんて恥ずかしいで嫌だし。能力に足りんところがあるぐらいでちょうどいいんかもしれんね」
「そうそう、あいたち三人でパーティ組んでるんだから、補い合えばいいんだって」
「それに今のオーガは大きかったですけど、その分素早さが低かったので、ユージナさんが後ろに回り込みやすかったでしょう。大きければいいというわけでもないと思いますよ」
食事をしながらそんな会話をすることで、沈んでいたユージナの気持ちは回復した。食べ物を口に入れたので体力も三人とも回復したようだ。三人は休憩を取った後、また辺りを探索したが、もう魔物は出てこなかった。
やがて空が曇ってきたので、夕方より前に三人は町に戻った。宿に着くころには雨が降り出し、次第に強くなっていった。夕飯はレインコートを使って近くの店に食べに行ったが、食事を終えても雨は降り続いていた。
この雨は今夜中にやむだろうか、やまなければ明日は出かけられないね、そんな話をしながら三人は宿で休んだ。




