表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第六章
60/92

第六章 01 指輪探し


第六章


01 指輪探し


 四月二十五日の朝、ユージナ、リユル、ヴァルルシャは、昨日と同じようにコーウェンの町の宿屋で目覚めた。身支度を調えて宿を出たのは朝の六刻過ぎ、現代で言う朝の八時頃だった。

 それから近くの店に行き、朝食を食べる。パン、貝とキャツベのスープ、カウォル茶のセットで50テニエル。

 そして弁当も買いに行く。昨日までは、売り場に置いてあった札は『柑橘の果汁』という日本語訳で目に映っていた。だが今日は、『モンレの果汁』と読めるようになっていた。はさみパンも、ベーコンやソーセージとともにはさまれている野菜が、レスタやマトマという名前だと、今は知っている。店に並んでいる弁当は昨日とあまり変わらないが、三人は新鮮な気持ちでそれを手に取った。

 そして昨日と同じように国立コーウェン公園に向かい、開園時間を待って中に入る。昨日は行っていない場所を中心に公園を回り、キャスバンやジーリョと出会ったら軽く挨拶をした。閉園時間まで公園にいたが、指輪らしき物は見つからなかった。

 町に戻り、食堂で昨日のように具体的になったメニューを読んで夕食を頼み、宿に戻って休んだ。

 翌日の四月二十六日も同じように過ごし、同じように指輪は見つからなかった。

 四月二十七日。連日と同じように身支度をし、弁当を持って町を歩くのは同じだが、今日の行き先は違う。今日は公園の休園日なので、ニテール池に向かうのだ。

「指輪、池にはあるかねえ」

 町の中を歩きながら、ユージナが言う。

「わかんないけど、魔物ぐらいは出てくるかもね」

 リユルが答える。公園内で魔物に遭遇したのは最初の日だけで、昨日もその前も平穏だった。

「出てくるとしたら、また、ちょっと大きめのシェリーコートですかね」

 ヴァルルシャが返し、三人は町の北西に向かって歩く。

 公園は町の北に隣接しており、公園の北西をニテール川が流れている。その先にニテール池があるという話だから、まず町の北西に行き、公園の柵沿いに北へ行き、川が見えてきたら川の流れに沿って進めばニテール池にたどり着くはずだ。

 三人が町の北西の外れに着くころ、町の中から時計塔の鐘の音が聞こえた。朝の七刻、現代で言う朝の九時になったのだ。

 町の北西でも、並んでいた建物が途切れ、石畳だった足元が土に変わるところが町と外の境界線なのは変わらない。

 公園の柵は、町の北側の輪郭に沿って東西に延びていた。そして町の北西の端からは、町の輪郭から離れ、柵が北に向かって延びている。

 三人は町を出て、公園の柵を北に沿って歩き始めた。

 町でも公園でもない、町の外からニテール川にかけての一帯は、短い草と硬い土の広がる平地だった。農地として開墾されているわけでもなく、住宅も、コーウェンの町からここまでは広がってこないようだ。地面は平坦なのでそれなりに見晴らしはいいが、ところどころに木が茂って視界を遮っている。

「一気にひと気が無くなったね。この辺は植物園にしようとは思わなかったのかな?」

 リユルが右側にある柵の隙間から植物園をのぞき、それから左側を向いて草地を眺める。自然のまま放置されている草木の中には、花も咲いているようだ。

「植物園じゃないにしても、畑とかになっとってもいいのにねえ」

「土が硬いとか、石が多いとかで農作に向かない土地なんでしょうか。双心樹の大木から北の辺りは山というか丘になっていて、あの辺りは元から木がたくさん生えてたんですよね。そこを中心に植物園を作ることになって、大木から南の辺りはなんとか開墾して植物園として形を整えたとか……」

「てことは、この辺りまで整備するのが精一杯だったのかもしんないね。確かに、この辺りの地面、硬そうな気がするし」

「公園とニテール池をセットで観光地にしようって話も無くなったってキャスバンさんが言っとったし、この辺はほったらかしにされとるんだろうね」

 そんな話をしながら歩いていくと、やがて川の音が聞こえてきた。園内を散策するのではなく、柵沿いにまっすぐ歩いているだけなので、もう公園の北西の辺りに着いたようだ。柵は右に向かって曲がっていくが、川は左の方向に流れている。

 三人は柵から離れ、川の流れに沿って歩くことにした。

 ニテール川は二十四日に公園の中から見たときと同じように、川幅は十五エストぐらいだった。川岸にはところどころ草や木が生えているが、歩くのに邪魔になるほどではない。

 上流を振り返ると、川の高さはそのままで左右の地面だけが少しずつ高くなり、崖のようになっていく。とはいえその上り坂は緩やかで、木々も川の直前までは生えていない。木々が広がり始めるのは川岸から五エストほど離れたところからなのも、先日、滝の辺りから見た地形と同じだ。木々の生えていないところは硬そうな土で、上り坂だが凹凸は少ないので歩きやすそうだ。そこに公園の柵が設置されているが、柵から川岸までは長息人が数人並んでも余裕があるほどの距離があるので、柵の外側は歩道として使えるだろう。

 確かに、滝の辺りに公園の北口を作れば、滝を見てニテール池まで歩く観光ルートを作るのは難しくなさそうだった。だが、最近は滝すら見に来る人が少ないのだから、池まで行きたがる人も少なく、需要がないので道が作られていないのだろう。

 三人は公園の柵に背を向け、川の流れる方向に進む。川から魔物が出てきてもいいように注意を払いつつ歩いたが、魔物は現れなかった。

 しばらく歩くと、池が見えてきた。民家などは全く無いので、点在する木々の茂みが視界の邪魔にならない位置まで来れば、やや離れたところからでも見える。

 ニテール池の広さは、川幅の三倍ほどだった。池の周りは川沿いよりも草木が茂っていたが、鬱蒼とした感じではなかった。木の茂みはあるが池の周りすべてを囲っているわけではないので、視界の開けたところから池の中央にある島が見えた。島にも草木が茂っているのが見えた。

「あれがフルーエ湖とルフエ島に『似てる』っていうニテール池と島かあ。そういえば、あの島には名前は付いてるのかな?」

 リユルが池を眺めてそのことに気づく。

「川も池も『ニテール』で統一ですし、滝も滝でしたからね。島もあまり大きくなさそうですし、固有名詞は無いかもしれませんね」

 ヴァルルシャが言うように、島の大きさは池の三分の一ほど、つまり川幅の十五エストと同じぐらいだった。

「あの島、植物は生えとるけど、動物は、鳥ぐらいしかおらなそう。人間も、渡るんだったら船を使わんと行けんだろうね。観光地の池だと、手こぎ船なんかを貸すところがあったりするけど……」

 ユージナが辺りを見回すが、もちろん貸しボート屋などは見当たらなかった。

「観光客もいませんし、観光客相手のお店なども全くありませんね」

 池の辺りには人の気配は全く無かった。川の流れる音と、風が草木を揺らす音が静かに流れているだけだった。

 三人は池までたどり着き、今度は池の円周に沿って歩いてみる。だが少し南に行ったところで、池から流れ出した川に歩みを阻まれてしまった。

 ニテール川は、「く」の字の形に曲がっている。そして、曲がった部分に水が溜まり、池になっているのだ。だから池に沿って歩いても、すぐに池から湖へ向かう川の流れに出くわしてしまうのだ。

 それほど広い川ではないが、歩いて渡れるほど浅くはない。橋や船などの移動手段も見当たらなかった。

「歩きだとここまでが限界かあ。確かに、池も島も観光名所として宣伝できるかっていうと微妙なとこだし、観光地化するなら橋とか船とか作らなきゃなんないだろうし、ここが放置されるのは無理ないかもね」

「あ、でも、あそこにトイレが設置されとらん?」

 ユージナが池から少し離れたところを指さす。そこにはハイキングコースにあるような小型の公衆トイレらしき物があった。遠くからは木々の茂みに隠れて見えなかったようだ。

 近づいてみると、使用料金20テニエルで個室が一つの物が二基あったので、三人はそれぞれ使用してみた。汚いというほどではないが、頻繁に掃除はされていないだろう、という状態のトイレだった。

「魔物の出る森にあるトイレでももうちょっと綺麗だけどねえ。まあ、トイレがあるだけありがたいけど」

 ハンカチで手を拭きながらリユルが言った。

「そういう森は魔物狩り屋が頻繁に訪れますからね。となるとトイレの需要も多くなるので、トイレの所有者がメンテナンスに来る回数も増えるんでしょうけど……。ここは魔物狩りスポットというわけでもなさそうですね」

「昔は指輪探しの人がこの辺にも来とっただろうで、そんときに作られたトイレかもしれんね。それか、池も観光地にしようって話が出たときにまずトイレを作ったとか。でも今はさびれとるで、たまにしか掃除に来んのだろうね」

「確かに今は全然ひと気が無いけど、でも人の気配が無いってことは、魔物が出やすい場所ってことじゃないの?」

「この辺は寂しいですけど、コーウェンの町は観光地ですし、港のあるイリーグの町とも近いですよね。街道の休憩所も遠くなかったですし。この辺りよりも、効率よく魔物狩りのできる場所があるんじゃないですか? もっと大きな森のある場所とか」

「そういや、この島に来てから、魔物狩り屋らしき格好の人ってあんまり見かけとらん気がする。武器持って旅しとる感じの人っていうか。短息人でも長息人でも。魔物狩り屋は、大きな森の近くにある町とかを拠点にしとるんかもしれんね」

「そっか。でも、キャスバンさんが蓄光石を持ってたし、この町にも鑑定屋はあるはずだよね。あいたちの蓄光石にも少しは光が溜まってるし、そのうち鑑定しに行こうね」

「クラーケンには逃げられましたけど、ローレライと、先日のシェリーコートの分がありますからね」

「シェリーコート、この島だとでかかったけど、値段もその分高くなるんかな?」

「そうだとありがたいよね……」

 リユルがそこまで言ったとき、草が不自然な音を立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ