第五章 12 夕食のメニュー
12 夕食のメニュー
まだ夕の四刻、夕方の四時半の手前の時間だった。とはいえ公園内を歩き、魔物とも戦ったので疲れている。早めの夕飯を食べようという話になり、三人は店を探した。
おいしそうな匂いの漂ってくる店を見つけ、奥の席に向かった。そしていつも他の店でやっているようにメニューを開くが、そこにはいつもと違う光景があった。
『キャツベのサラダ 30テニエル
マトマとレスタのサラダ 30テニエル
ドーエン豆のスープ 30テニエル
プンパキンのポタージュ 35テニエル
ジャンガ芋とチョビアンの炒め物 50テニエル
ナッシュとカプリパとソーセージの炒め物 70テニエル
魚のオリーブオイル焼き、リーガック風味 90テニエル
鶏肉のステーキ、ロキャットのソテー付き 100テニエル』
「!!」
三人は顔を見合わせる。お互いに、お互いの目に同じ物が映った事を確認する。
「やっぱみんな見えとるよね? これって……」
「うん。おととい、スフィアくんに『チョビアン』を教えてもらったら、あいたちの目に『チョビアンのパスタ』が映るようになったのとおんなじだ」
「私たちがこの世界の固有名詞を知ると、それが日本語訳に反映される……ということですね」
まだ夕飯には早い時間なので、店内は空いている。三人は存分に驚くことができた。また、ドリンクのページにはこういう表記があった。
『ジオレンジュース 20テニエル
モンレジュース 20テニエル
ロキャットジュース 20テニエル
カウォル茶 10テニエル
はちみつ入りカウォル茶 20テニエル
香茶 20テニエル
紅茶 100テニエル』
「紅茶たっか!!」
「ステーキとおんなじ値段しとる。そりゃうちら飲んだことないわ」
「多分、高級な嗜好品なので、置いていない店も多いんでしょうね。だからメニューで見かけることすらなかったのかもしれません」
メニューには他にも、『サチュンマ芋の焼き菓子』や『ルーハワイブワイン』などの表記もあった。今まで『野菜の炒め物』などとしか読めなかったメニューが具体的になり、注文しやすくなった。
三人はそれぞれ食べたいものを注文し、料理が出てくるのを待つ。
「そういやさ、ファンタジー作品のエルフって割と、魔法は得意だけど非力で体力がない、みたいな設定だったりしん? でも長息人はそんな感じじゃないんだね」
待つ間、ユージナが小声でそういう話題を出す。
「うん。魔法系か物理系かっていうのはその人が好きに選ぶ感じだから、あいたち短息人と変わらないよね。物理系だった場合は、体格が大きくて素早さが低いから、重量級の戦士って感じだよね。エルフとは全然違う」
「エルフは長命種族ですから、人間より知識が蓄積するので魔法が強いと設定されるんでしょうね。ただそれで体力まで高いとゲーム等のバランスが崩れますから、腕力は弱いということになってるんでしょうね」
「長息人は長生きだけど、その分ゆっくりだもんね。それで体が大きめだから、ゲームのパラメータで言ったら、すばやさが低い代わりに体力がある感じ? 魔力のパラメータはあいたちと同じで、個人差の範囲で強弱があるってとこかな」
「島や湖の名前はエルフっぽいけど、やっぱり長息人はエルフとは違っとるね。そういや、ニテール池にはいつ行く?」
ユージナが、島や湖という単語から、それに似ているというニテール池のことを思い出した。
「まだ公園内をすべて回ってはいませんよね。王様が指輪を無くしたのはあの公園なわけですから、とりあえず全部見て回りたいとは思いますが」
「公園、広かったもんね。閉園時間のアナウンスを早くからやるのも、そうしないと、お客さん全員が外に出る前に日が暮れちゃうからなんだろうね」
「次の休園日は二十七日だっけ。今日が二十四日だで、あと二日は公園に入れるね」
「じゃあ、池には二十七日に行ってみることにしましょうか。明日とあさっては公園をまわるということでどうですか?」
ヴァルルシャが言い、二人も異存はなかった。
今後の予定が決まったころに、料理が運ばれてきた。マトマとレスタのサラダやドーエン豆のスープ、プンパキンのポタージュや、ジャンガ芋とチョビアンの炒め物などが大盛りでテーブルに並ぶ。
「これが『プンパキン』……」
「これが『ドーエン豆』なんですね……」
「今までも食べとったけど、名前がわかるとおいしさが増す感じがするよね……」
三人は、名前を知った食べ物たちを、しっかりと噛みしめた。
料理を食べ終わった後は、食後の紅茶、ならぬ香茶を頼んで味わった。名前がわかると味も格別に感じられる。
食事を堪能し、三人は宿に帰った。
明日も今日と同じ時間に起きて公園に行くことを確認し合い、三人は宿で休みを取った。




