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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第五章
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第五章 05 国立コーウェン公園


05 国立コーウェン公園


 四月二十四日、ルフエ島は今日もいい天気だった。

 目覚ましが鳴る朝の六刻の前、現代で言う七時過ぎに三人は起き出し、身支度を調えて宿を出た。今日からしばらくこの宿に泊まるので、大荷物は部屋に置いておき、手荷物だけを持って出かける。

 朝からやっている店で貝と野菜のスープパスタを食べ、昼食用のはさみパンや瓶詰めの果汁を買う。

 それから大通りに出て北に向かい、国立コーウェン公園を目指す。

「そういえば、あいたち昨日は『国立コーウェン公園』って響きばっかり気にしてたけど、中世に公園ってあったのかな」

 リユルがそのことにふと気づいた。

「そういえば……。割と近世にできた場所のような気がしますね」

「江戸時代でも公園なんて単語、聞かんもんね。いつごろからできたんだろ」

 三人は作者の記憶を探ってみるが、詳しい情報は得られなかった。

「時代考証とかろくに調べん作者だから何も出てこんね……」

 ユージナが自分の着ている嘘っぱち着物をつまみながらつぶやいた。

「この世界はあくまでも『中世風の異世界』ですから、現実の中世とは違っててもいいんですけどね。この世界の中で矛盾が無ければ。

『国立コーウェン公園』の場合、『国立』という単語が付いているので、国が作った場所なんでしょうね」

「『公園』って単語も、日本語だと『公共の園』って意味の漢字になっとるよね。この世界の言語でもそうなんかな? てことは、国が、庶民の憩いの場として公共の庭園みたいなところを作った、って考えられるよね」

「誰でも学校で読み書きと計算を教えてもらえる仕組みを作ってる国だし、公共的なことに力を入れてるのかもね。だったら『公園』があってもおかしくないかも」

 三人は納得し、その公園に向かって歩き続けた。

 やがて道の向こうに、それらしき物が見えてくる。

 木製の柵が東西に広がっており、一カ所に門がある。門の上にはアーチ状の看板があり、大きく『国立コーウェン公園』と書かれた文字が見える。

 門の横には小屋のようなスペースがあり、長息人の女性が座っていた。テーマパークの入り口にもぎりの係がいるような感じだった。

 近づいていくと、小屋のところに書かれた文字が読めるようになってくる。

 『入園料 一名50テニエル』

「あ、有料なんだ」

 日本語訳されたその文字を見て、ユージナが言った。

「植物園みたいになってるってスフィアくん言ってたし、維持費とか管理費とかが要るんだろうね」

「初級学校の基礎コースも、通う人に怠けさせないようにわずかな対価は取っているそうですし、国立で公共の場所でも、無料で開放するのがいいとは限りませんからね」

「一日じゃ回りきれんって貸馬屋に書いたったし、それで50テニエルなら安い方だよね」

 そう話し、三人は次の注意書きを読む。

 『休園日 2と7の日』という表記が入園料の下にあった。

「やっぱり、この世界は五日ごとに日を区切っているみたいですね」

 ヴァルルシャが自分の買った手帳を取り出して確認する。この世界の一ヶ月はどの月もきっかり三十日で、手帳の日付は左から右に五マス進んで改行する形になっている。それを縦になぞると1、6、11、16や、2、7、12、17といった数字の並びになる。

「現実世界でいう曜日が無いで、何曜が休み、って言い方はできんもんね。五日ごとに休みの日が来るで、現実より頻度が高いね」

「せっかく来たけど休みでした、ってことにならなくてよかった~。次の休園日は二十七日だね。明日とあさってまで大丈夫だ」

 注意書きは他にもあった。

 『開園時間 朝の七刻から夕の四刻まで』という文章が三人の目に映った。現代で言う朝の九時から夕方の四時半だ。

「朝の七刻からか~。あいたちちょっと早かったかな?」

「でもお弁当とか選ぶのに時間かからんかった? 受付の人もおるしそろそろじゃない?」

「閉園時間は少し早いんですね。確か現実世界の植物園も日暮れより前に閉まりますよね。園内が広いと、入園者が全員外に出るまでに時間がかかるからでしょうね」

 そばに他の人がいてはできない話をしつつ、三人は入り口を目指した。三人が入り口に着くころ、町の中から時計塔の鳴る音が聞こえてきた。時計塔はルフエ島でも朝の七刻と夕の五刻に鳴るようだ。園の中にいた長息人の男性が門を開けて固定する。開園だ。

「いらっーしゃいーませー。お一人様ー、50ーテニエルですー」

 長息人の女性が笑顔でゆっくりと言った。女性は首に緑のスカーフを巻いていた。先ほど門を開けた男性も、腕に同じ緑色のスカーフを巻いていた。船員が青いスカーフで乗客との区別をつけていたように、公園のスタッフは緑のスカーフを身につけているようだ。

 三人がそれぞれ50テニエルを払うと、三枚のチケットが手渡された。旅行の記念になりそうな装飾的なデザインで『国立コーウェン公園』と書かれており、装飾的なデザインの『4』と『2と4』のスタンプが押されていた。四月二十四日、今日の日付だ。

「どうぞーごゆっくりー」

 受付の女性が三人を門の中へ促す。

 三人は国立コーウェン公園の門をくぐった。

 園内は確かに広々としており、門の前は広場になっていた。目立つところに案内板があったので、三人はそれを読んでみる。

『この国立コーウェン公園は、樹齢数千年と推測される双心樹の大木の保護を目的として作られました。

 双心樹はルフエ島でしか育つことができません。湖の外に種や苗木を持ち帰っても根付かないのです。ルフエ島独特の気候が影響していると考えられます。

 双心樹以外にも、ルフエ島でしか育たない植物は多くあります。

 この公園は、双心樹の大木を中心として、この地に昔から生えていた木々をそのまま生かし、観察、研究できるように整えてあります。

 また、島の外からもたらされた植物も栽培しています。もちろんすべては栽培しきれませんが、双方の植物を見比べることによって、新たな発見があるかもしれません。

 この公園を散策することで、この世界にはとてもたくさんの植物があること、植物が私たちの生活の支えになっていることを改めて感じてみてください。

 この国立コーウェン公園が皆様の憩いの場になれば幸いです。

              国立コーウェン公園 運営管理舎』

「公園っていっても、遊び場って感じじゃなく、植物の展示がメインなんだね」

 挨拶文を読み上げて、リユルが言った。

「研究もやっとるんだね。植物は薬の原料になるもんね。薬局で薬がいっぱい売られとるのは、こういうところでたくさん研究した成果かもしれんね」

「それにこの公園は一般に開放されてますから、一部の研究者だけが植物への造詣を深める場所ではなく、国民全体が植物の知識を得られる場所として作られていますよね。こういった公共施設を作ることで、国民の知的レベルが高まるようにしてあるんですね」

 それから、三人は案内板の隣に目を向ける。そこには園内の地図があった。

 まず、現在位置と書かれた場所がある。この広場だ。近くには門があり、事務所らしき建物がいくつかあるのも、周りの風景と同じだ。

 現在位置は地図の下部に書かれていた。一番下が門で、門からは左右に柵が延び、柵は地図の両端に近くなったところで上に向かって曲がっていた。柵は地図の上部まで来るとまた曲がり、横長の長方形に近い形で公園を形作っていた。

 地図の左上に、柵に沿って流れている川があった。いや、川に沿って柵を立てたのだろう。

 そこには『ニテール川』という表記があった。

「川があるんだ。結構大きいね」

 リユルが言うように、ニテール川はこの広場と同じぐらいの幅に描かれていた。ならは川幅は十メートル、いや十エストぐらいだろうか。それが地図の北から西へ斜めに流れている。川は地図からはみ出しているが、柵はその手前で曲がり、公園を公園として切り取っている。

「『ニテール』?『似ている』ということでしょうか。何に似てるんでしょうね」

 ヴァルルシャが声を潜めて二人に話しかける。開園したばかりなのでまだ客は他にいなかった。

「『2テール』、『ツインテール』ってことかもしれんよ。川がふたまたになっとるとか……」

 ユージナも声を潜めて返す。だが客はいなくてもスタッフは事務所を出入りしており、案内板に近いところを通ったりもしていたので、その話題をそれ以上続けることはやめた。

「こうして地図見とっても、この公園、確かに広いね。でも休憩所やトイレもいっぱいあるで、のんびり過ごすのに良さそう」

 ユージナが話題を切り替えた。

「双心樹の大木は北の方にあるんだね。結構遠いけど……。直行する? それともこの辺から順番に見てく?」

 リユルが地図の上部を見る。そこには簡略化された木の絵と共に『双心樹の大木』という文字が書かれていた。

「急いでるわけじゃないですし、ゆっくり回っていきましょうよ。私、この辺りの植物も気になりますし」

 ヴァルルシャが広場の近くに目を向けた。

 現在位置である入り口の周辺には、島の外からもたらされた植物が植えてあると、地図には書いてあった。確かに今、周りを見回してみても、花壇や畑のように整備された形で植物が育てられている。

 公園は三つの大きな区画にわけられていた。

 南が、島の外からもたらされた植物。中央が、島の内外で共通して生える植物。北が、島にしか生えない植物。

 北の区画は、この地に元々生えていた植物をそのまま残してあると地図には書かれていた。

「南から中央にかけては整備された植物園、北側は自然公園、って感じなんかな? この辺も面白そうだし、指輪が転がってきとるかもしれんで、ここからぐるっと見てこうよ」

「じゃ、そうしよっか」

 三人はうなずき、案内板を離れて植物の植えられている場所に向かった。

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