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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第一章
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第一章 05 銀行的な施設


05


 西ファスタンの、川沿いにある宿屋。食事無しで一泊400テニエル。三階建てで、一階にはフロントと宿直室、そして風呂。二階と三階は客室で、各階には手洗い場とトイレがある。客室はベッドが一つ収まるだけの正方形で、窓はない。

 リユルは301、ユージナは302、ヴァルルシャは303の部屋に泊まっている。エレベーターは無いので階段で三階まで昇っていく。

「銀行の通帳みたいなものと、うちは刀の手入れ道具を探さないといかんね」

「まずユージナの部屋で一緒に見てていい? 通帳は三人が同じような形じゃないと困るし、きみが荷物からそれを見つけ出したら、あいたちもカバンの中から同じものを探せばいいんだしさ」

「いいよ。でも三人も入ると狭いかなあ」

 そう言いながらユージナは鍵を取り出し、302の部屋を開けた。ベッドの横に荷物置き場があり、ユージナの荷物、大きな風呂敷包みが置いてあった。ユージナは荷物の前にしゃがみ、リユルとヴァルルシャはベッドに腰かける。

 風呂敷の中身は、大小何種類もの袋で小分けされている。大きめの袋の中は、また小さい袋で小分けされている。その中の一つに、『刀』と書かれた袋が見つかった。

「これだ……」

 ユージナは確信をもってつぶやき、その中身を取り出す。紙の束と、小瓶に入った油が出てきた。

「……さっきまではわからんかったけど、この紙で汚れをぬぐって、この油を薄く塗るんだね。使い方がわかるよ。……昔テレビで見た記憶かな」

 そう言うユージナに、ヴァルルシャが笑顔で声をかけた。

「いいえ、この世界で、ユージナさんが剣士として戦ってきた記憶ですよ」

 微笑み返すユージナに、リユルも続ける。

「そうだね。あいたちは、魔物狩り屋としてずっと旅をしてきたんだもの。ユージナの荷物の中にそれがあったんだから、ユージナはその道具でずっと刀の手入れをしてきたんだよ」

 三人は誇らしい気持ちで笑い合う。

 作者に書き途中で放置された自分たち。闇の中から自分自身で動き出し、己の設定を少しずつ増やしてきた。それはとても心が満たされることだった。

「専門的なことはお店に任しとるけどね。今度魔物と戦ったら、自分でちゃんとお手入れしよう」

 ユージナはそう言いながら紙と油を丁寧に片付けた。

「で、あとは、通帳的な物だけど……。それはテレビで見たことがあるとかじゃなく、この世界独自のものだで、思い出すってわけにはいかんよね」

「うん。ええと、どこまで決まってたんだっけ。蓄光石の設定を考えた時に、ヴァルルシャがいろいろ思いついてくれたんだよね」

 リユルがその時のことを思い出す。

 精霊のストレスが魔物になり、魔物を倒すと税金から報酬が貰える。ならば魔物をどれだけ倒したかわかるアイテムが必要だと、三人で蓄光石というアイテムを考えた。

 蓄光石は、その人が親指と人差し指で作った輪の大きさで、一人に一つ制作される。鑑定屋で精霊が作ることになっており、三人はすでに所持していた。黒いドーナツ状の石で真ん中にひもを通せるようになっており、三人とも首から下げている。落とさないように服の下に垂らしているので、外からは見えない状態になっている。

 魔物を倒すと蓄光石に光が溜まる。蓄積が500テニエル未満なら銅色。500テニエル以上5,000テニエル未満なら銀色。それ以上の金額は金色。この世界の、金貨、銀貨、銅貨の色分けと同じだ。そして鑑定屋で精霊が正確な金額を鑑定し、光を吸い取り、その分の金額が蓄光石を持ってきた人に支払われる。本人確認はしない。

 また、5,000テニエル、日本円で言う五万円以上はすべて同じ金色になる。

 そのため、こまめに鑑定屋で換金したほうが、紛失や盗難に遭ったときの損害が少ない。

 退治された魔物の数を国が正確に把握するためにも、蓄光石にはあまり光を溜めず、頻繁に鑑定屋で換金することが望ましいようだ。

「……で、蓄光石にあんまり光を溜めない代わりに、全財産を入れる通帳的な物、そっちを本人確認しっかりするアイテムにしよう、って話になったんだよね」

 リユルが決まっている設定をもう一度まとめ直し、ヴァルルシャも続ける。

「ええ。書類でなく本来の意味の手形、そういったアイテムで本人確認をして、本人でないと貯蓄を引き出せないシステムになっていた方がいいと思うんです。私は以前、そのアイテムも蓄光石のように貯蓄額に応じた反応をするのはどうか、と言ったと思いますが、色が変わったりすると、大金が入っているとわかる手形は盗まれる可能性がありますから、貯蓄額がいくらでも見た目は変化が無い方がいいですね」

「精霊は、蓄光石にいくら入っとるか細かい金額までわかるもんね。精霊が中身を読み取れるならいいんと違う?」

 この世界には、鑑定屋、魔法屋、工場、道具屋など、様々な施設に精霊がいる。

 それは、半透明で、宙に浮いていて、人間に協力的、という共通事項はあるが、その姿は様々だった。

 その施設の人間が、任意の形の精霊を国に申請するからだ。

 精霊の名前と外見、そして持たせたい能力を、人間が国に申請する。すると、世界のエネルギーがその形で具現化する……そういう仕組みになっているらしい。

 そして、精霊を国に申請するにはお金がかかり、毎月税金もかかるのだという。

 人間が水の魔法を使うと、その人間の精神力と引き換えに水が現れるため精霊のストレスにはならないが、水はすぐ消える。その水をその場に出現させ続けるためには、精霊の使う『残水の魔法』が必要となる。残水の魔法がかかった塗料を内側に塗られた水筒は道具屋で売られており、塗料の塗りなおしも行われている。その際に残水の魔法を使う精霊が必要となる。

 三人が以前行った道具屋には、三十センチ、いや三十フィンクぐらいの大きさで、上半身が人間の少女、下半身が魚、という姿の精霊がいた。人魚の姿なのは、水関係の魔法だからその姿がいいと、道具屋の主人がそのように国に申請したのだという。その精霊は残水の魔法一つだけが使えればよいので、そこまで税金はかからないと店主は言っていた。

 精霊を施設に置き続け、人間の利益のために用いるということは、その反動で、人間に敵対する魔物が世界のどこかで生まれるということだ。そのため、精霊の申請にも精霊の維持にも税金がかかる。その税金が魔物を退治した者への報酬となる。

 魔法を売っている魔法屋では、精霊は複数の魔法に対応している。

 魔法屋では、客が覚えたい魔法を店に伝え、店に通って訓練する。まずは精霊の力を借りて人間の体に魔法の発動のやり方を覚えさせ、徐々に精霊の手助けを減らし、本人の精神力で魔法を発動させられるようにする。

 魔法屋の精霊は、客の希望する魔法が炎でも水でも風でも、どんな魔法にも対応できるようになっている。そのため、残水の魔法一つが使えればよい道具屋の精霊よりも税金が高く、それが価格にも上乗せされるので、魔法を一つ覚えるのにかかる値段も相当高かった。

 それは三人が考えて決めたことではない。

 三人が考えたのは、精霊の力のこもったアイテムが必要だ、ならば町の各施設にはそれぞれ精霊がいるかもしれない、ぐらいのざっくりした想定だった。

 しかし、そんなあいまいな設定では町が町として機能することはできない。だから、三人が求める『町の施設が機能している』という結果のために、世界の方で、精霊の設定を矛盾が無いように整理したのかもしれない。

「てことは、銀行にも精霊がいるのは確実だよね。どんな精霊なんだろ? ってか、そもそも、『銀行』って呼び方でいいの? お『金』を預けるのに、なんで『銀』なんだっけ? しかも『行』って何?」

 リユルが疑問を発する。

 世界の方で設定が決まる部分もあるとはいえ、自分たちで何も決めず、行動もしなければ、世界はまた書き途中のまま放置されたのと同じ状態になるだろう。

 何もかも受け身のままではいられない。だから考えられる部分は自分たちで設定を考えるのだ。

「確かいくつか説があるんでしたよね。『金行』より『銀行』の方が語呂がいいとか……」

「『行』は中国語でお店の意味とか聞いたことがあった気がするけど……異世界の言語を日本語訳しとるって建前だで、『銀行』のままでもいいと思うけど、異世界感は無くなるよね。なんか違う名前考える?」

 ユージナは扉にもたれ、リユルとヴァルルシャはベッドに座ったまま会話を続ける。

「長息人、みたいにあいたちが考えなくても勝手に決まるものもあるけど、町で看板を見て探すのも、施設の名称がわからないと探しづらいよね。あいたちで決めちゃう?」

「そうですね。となると、『金行』だとまだ銀行っぽいですから、もう少し違う名前がいいですかね。……預け入れ……預入屋とか?」

「あっでもさ、その施設って、お金を預かってくれるだけなん? うちらのお金を預かったら盗難対策とかやらないかんだろうし、精霊だって置いとるんだで、税金とか保管のコストとかかかるよね? 無償でそんなことやってくれんでしょ? だったら現実の銀行みたいに、お金を貸してその利益で収入を得とるってことにした方がいいことない? それなら預けたお金に利子も付くだろうしさ」

 ユージナがそれに気づき、二人もうなずく。

「ロッカーみたいにただお金を預けて保管の利用料金がかかるより、あいたちが預けたお金を有効利用して、その分を利子に回してくれた方がいいもんね」

「そうですね。名称は銀行でなくても、仕組みは銀行と同じ方がありがたいですね」

 そしてヴァルルシャは続けた。

「……思えば、最初は『全財産を持ち歩くのは物騒なので預かってくれる施設が欲しい』という私たちの需要があっただけですが、そのためには『その施設はこういうことで利益を上げている』という設定まで必要になってくるんですね。でも、それを考えることで、『異世界で人々が暮らしている』というリアリティが生まれるんですものね」

「そうだね。作者が学生の頃なんてそんなリアリティなんか考えもせず、主人公に都合のいい設定ばっかり作ってた気がするもん。それが中二病臭さの原因って言うか。あいだって『ものすごい才能があってどんな魔法も使える』みたいな恥ずかしい設定だったし。そんなチートな設定を盛りすぎると世界観崩壊するっての」

 そういう恥ずかしい設定はもう嫌だと、この世界では自分の能力を普通に設定し直したリユルが言った。ユージナもヴァルルシャもそれは同じだ。

「今だって定規とか、うちらに使いやすい設定は考えとるけどね。でも、異世界における、普通の人の日常生活ってものをきちんと想定するようになったのは、作者が大人になって成長したからだよね」

「ええ。子供の頃は世界が自分を中心に回っているというか、自分の住んでいる町がどのような仕組みで成り立っているか、あまり深く考えていませんでしたからね。そして平凡な社会の歯車はつまらないと、特殊な使命に生まれついた勇者などにあこがれたんですよね。でも平凡な歯車こそが社会を支えているんだと、作者の考えが変わってきたのでしょうね」

「うんうん。だから、この世界の銀行の設定、あいたちでしっかり考えてみようね。ええと、お金を預かるだけじゃなく貸してもいるなら、金貸し屋とか? それじゃまんますぎるか。鑑定屋だってまんまだけど」

「それに、『金貸し』だと、銀行とは別にそういう職業があるんと違う? 借金のカタに娘を連れていく、とか時代劇でもよくあるし」

「確かシェイクスピアの作品にも非道な金貸しがいましたよね。金融業者がすべてあくどいとは限りませんが、借りるのはともかく、お金を預けるのは信頼できる施設でないと困りますよね。それに、どこの町でもお金を引き出せないと困りますし……。となると、国営と考えた方がいいでしょうか?」

「確かに、今の日本みたいに、全国に支店がたくさんあってどこのコンビニにもATMがあります、ってレベルの銀行が何社もあったら、便利すぎてファンタジー感が薄れそうだよね。中程度の規模の町に一つある、ぐらいがちょうどいいかもね。ってことは国がやってるって考えた方がいいのかも」

「となると、お金を貸す場合は踏み倒されたら困るで、確実に回収が見込める安定収入のある人にしか貸さんかもしれんね。ってこれ現実の銀行も同じか。だで、審査が甘い代わりに利息の高い高利貸しなんかが民間に現れることになるのかも」

「銀行を考えることで他の金融業者の設定も固まってきましたね。しかし、私たちのような魔物狩り屋は安定した収入があるわけではないので、銀行からお金は借りられないかもしれませんね」

「ああ、だからあいたち、『昔は魔物狩り屋だった』っていう宿屋やお店のご主人に何度も出会ったのかもね。あれって、年齢的に魔物と戦うのがつらくなったってだけじゃなく、安定した収入が見込める仕事に転職したってことなのかもしれないね。強い魔物を倒せば大金は手に入るけど、怪我する危険性もあるし、強い魔物が常に見つかるとは限らないもんね」

「なるほど……。うちら、銀行のことを考えとるだけなのに、他の部分もどんどん固まってくね」

「人間のやることって、つながっていますからね。だから人の間と書いて人間と読むんですよ。中二病の間はそれが理解できず、自分は人間社会から逸脱した特殊な存在だと思いたいためにキャラクターにチートな設定を盛りすぎるんでしょうね」

 ヴァルルシャの言葉に二人もうなずいた。

「で、さんざん回り道してるけど、銀行の名前はどうしよう? お金を貸すだけの民間企業はこの世界でも『金貸し』ってことでいいと思うんだけど、この世界の銀行の名称は、もっとこの世界独自な感じがあるといいよね」

 リユルが気を取り直して話を続けた。

「そうだね。この世界の銀行は、うちらが預けたお金をよそに貸して利益を得て、それをうちらに還元するっていう、基本的な仕組みは日本の銀行と同じだけど、違うところもあるもんね。精霊を使っとるとこがまず違うし」

「お金を預ける施設はそこだけ、しかも国営で、各町に一つあるだけ、という状態なのも現実の銀行とは異なる部分ですよね」

「てことは、預ける方に名称を近づけた方がいい? 預金屋とか、貯金屋とか? ……でも、貸し出しもしてるんだもんねえ。別の方から考えてみようか。通帳的な物は、精霊の力で、手の形みたいな物を作るって話だったよね」

「ええ、現代日本で言う書類の手形ではなく、文字通り手をかたどった物で貯蓄額がわかるようになっていると、異世界のアイテムという感じがするかと……」

 ヴァルルシャがそこまで言ったところで、三人は顔を見合わせ、一瞬黙ったのちに声をそろえた。

「『手形屋』!!」

 三人は人差し指を立てて同じことを思いついた。

「手の形のアイテムでお金を預けるわけだし、でも日本語で銀行関係の言葉だし、この世界の銀行だってことがわかりやすい名前だよね!」

「日本語で手形って言うとお金の貸し借りに使う物も指すし、預かるのと貸し出すのと両方やっとる施設だって意味もちゃんと含まれとるよね!」

「銀行に関係がありそうな言葉で、でも異世界にしか無い独自の施設っぽい名称が見つかりましたね!」

 三人は顔をほころばせ、リユルが言う。

「良かった~。いい名前が見つかったね! じゃあ、その手の形のアイテムのこと、考えてみないとね」

「そうですね。旅をする魔物狩り屋も持ち歩くはずですし、何より財産が入っているわけですから、強度が必要ですよね」

「てことは、紙じゃない方がいいよね。だったら……金属の板とか? 持ち運んでも重すぎないけど破損しない程度の厚みの金属板。そこにうちらの手を置いて手形を写し取る、そんな感じ?」

「となると厚みは五ミリから一センチぐらい、長さは……二十センチぐらい? でも手の大きさって人それぞれだよねえ。お相撲さんの手形とかすっごく大きいし。板は大中小のサイズから選べるとか?」

「力士の手形色紙並みに大きいと持ち運ぶのにはちょっとかさばりますかね。指を広げずに閉じていれば横幅は狭まるでしょうけど、縦の長さは縮まりませんものね。となるとそのサイズが大で、手の小さい人、例えば子供が手形を作る用のサイズが小、でしょうか?」

「あっでもさ、子供がそうやって通帳の手形を作った場合、成長して手が大きくなったらお金を引き出せんくなった、だと困るよね。指紋は一生変わらんかもしれんけど、手の状態って変わるでしょ。お金をおろす時に、その板に本人の手を合わせて指紋照合、とかでなく、精霊の力でなんかを読み取っとる、ってことになっとったほうがいいんじゃない?」

「確かに。それに手を怪我することもあり得ますからね。板に手を置くと本人のDNA的な情報とか、一生変化のない何かの情報が記憶され、それを精霊が読み取ると考えた方がいいかもしれませんね」

「だったら、板に必ず手が全部入る必要は無くて、ちょっとぐらいはみ出しとってもいいんじゃない? 通帳に本人の名前が書いたるようなもんで、精霊がおらんとき、たとえば落ちとる手形が誰のかわからん、って時に、これは自分のです、って誰が見てもわかるように、八割ぐらい板に手形が写っとればいいんじゃない?」

「そっか。だったら金属板の大きさは一定でも大丈夫だね。金属板に手の形を付けるのは人間の目で他の人の手形と区別するためで、本格的に照合するのは精霊にやってもらうんだ」

「うんうん。だで子供の頃の手形でも通帳として使えるけど、大人になったら通帳繰り越しみたいに、新しい手形に作り直す人もいるかもしれんね」

 三人はそれぞれの手のひらを見比べながら話を進める。

「では金属板の大きさは一定ということで、具体的にはどのぐらいがいいでしょうね。手の大きな人でも八割方は収まるとなると、やはり長さは二十センチ、いや二十フィンクぐらい必要でしょうか」

「横幅は十フィンク……じゃ狭そうだし、十五フィンクまでいくと広すぎそうだし、十二、三フィンクぐらい? 確かそのぐらいの比率って長方形の黄金比なんだよね」

「日本で使っとる通帳がちょうど一回り大きくなったぐらいだよね。そのぐらいがちょうどいいんと違う? 厚みは一フィンクか五ミリくらいか……。この世界のセンチとメートルは呼び方が分かったけど、ミリは何て言うんだろ?」

「ミリの設定まで考えます? 日常生活にそこまで必要な単位ではないですし、どうしても必要なら、五ミリを半フィンク、一ミリを十分の一フィンク、などと説明すればいいんじゃないでしょうか」

「そうだね。じゃあ厚みは一フィンクか半フィンク……あんまり分厚いのも邪魔だで半フィンクぐらいがいいかな? 丈夫な金属ならそれで折れんよね」

「形が決まってきたね。色は……お金関係だし、やっぱり金色? でも金属光沢でピカピカしてるとまぶしいし、いぶし銀みたいな感じ? いぶし金ってあったっけ?」

「あんまり聞いたこと無いですね。でも実際の金の板でなく、金色をした金属を使うわけですよね。だったら光沢のない加工もできると思いますが」

「つや消ししたる金色の板で、長さ二十フィンク、幅十二~三フィンク、厚さ半フィンク、そこに人間の手形が写っとる、そんな感じ? 手形は、粘土版みたいにくぼんどると汚れが溜まるだろうで、色が変わっとるだけのがいいよね」

「そうですね。手形の色は、やはり黒が見やすいでしょうね」

「銀行で初めてその手形を作るときは、精霊の立会いの下に無地の板に手を置くと、DNA的な何かを精霊が認識して、板に黒い手形が写る、ってことでいいかな? いくら預けるか、引き出したか、ってことも金属板に記録されて、精霊が読み取ってくれる……そういうアイテム、それがこの世界における通帳、そういうことでいい?」

 リユルが言い、ユージナもヴァルルシャもうなずいた。三人は安堵の息を吐く。

「ようやく銀行の設定が決まりましたね!」

「長かった~! じゃあ、あいたちはそれをすでに持ってるはずだよね」

「うん。探してみるわ」

 ユージナはもう一度荷物の前にしゃがみ込み、それらしき物を探す。

 むき出しでは持ち歩かないだろうから、今決めた大きさの金属板が入っていそうな袋を探す。やがて、一つの包みが見つかった。

 紫色の、ふくさのような布に包まれた、硬い板。その布を外すと、中から金の板が現れた。

 それはつや消しとは言え金色に輝いて、金銭にかかわるものという感じがする。

 中央に黒い手形があり、ユージナの手は小さいので板の中にすべて収まっている。

「あったね……」

 リユルが声を上げる。

「うん。でもこれ、左手でやったるね」

 ユージナが手形と自分の手を見比べる。形や手相は確かにユージナの物だが、左手の手形だった。

「ユージナさんって左利きでしたっけ?」

「いや右利きだけど……。どっちの手でもいいんかな? 右は武器を持つ手だから差し出さんかったんかもしれんね」

「本人確認のためだから、好きな方の手を出せばいいのかもね。じゃあ、あいたちの荷物にも同じのがあるはずだよね。探してくるね」

 リユルはそう言って立ち上がり、ヴァルルシャも後に続いた。それぞれの部屋に戻り、荷物から手形を発見する。二人の手形はどちらも右手だった。

「私たちは魔法使いで武器は使いませんから、利き手を差し出すのに抵抗が無かったのかもしれませんね」

 二人はユージナの部屋に戻り、お互いの手形を見せ合った。

「確かに、あいたちは効き手を怪我しても魔法が使えなくなるってことは無いもんね。何にしても、これでお金を預けることができるね」

「うん。それにさ、こうして手形があるってことは、うちら、いくらか貯金したるってことだよね。いくら入っとるんだろ」

 ユージナが言い、三人は顔を見合わせた。

「そこはまだ決まっていませんから、我々を億万長者に設定することもできなくはないでしょうが……それをやるとまた、中学生が考えるような万能キャラに近づいてしまいますよね」

 ヴァルルシャが苦笑しながら言う。

「うん。そういうのは恥ずかしいから、あえて何も決めないでおこうよ。そうすれば、あいたちぐらいの年齢の魔物狩り屋として、不自然じゃない程度の額が入ってることになる……んじゃないかな?」

「自分らで設定を考えるのも楽しいけど、ちょっとぐらい予想外の部分があった方が面白いもんね。ここにいくら入っとるか、手形屋に行ってからのお楽しみだね」

 三人はそう話して笑い合った。

「じゃ、早く手形屋を見つけなきゃ! 結構設定に時間かかっちゃったよね。鑑定屋にもいかなきゃだし、支度してくるね!」

 リユルが言い、三人はそれぞれの部屋で支度をする。手形を手荷物にしまい、部屋を施錠して出かける準備をする。

「鑑定屋までの道で手形屋が見つかれば入る、見つからんかったら鑑定屋で場所を聞く、と。そんぐらいでもう夕方になるかな」

「ですね。今日はたくさんの施設に行きましたから」

「魔物と戦わなくっても、やることはいろいろあるね」

 三人はそう話しながら、もう一度宿の外に出た。

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